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70話 困ったトラブル


 エルフたちと揉めたが――私がなにもしないうちに片付いた。

 彼らがハーピーたちを力ずくで排除しようとしたので、完全に敵として認識されてしまったのだ。

 森の深くにあるエルフの里を見つけられてしまい、ハーピーによる攻撃を受けた。

 さすがに空高くから落ちてくる、大きな岩による攻撃を防げずエルフたちは降参した。


 ハーピーは、私がプレゼントした魔法の袋を持っている。

 それに岩を沢山入れて絶え間ない爆撃を加えられたら、まともに住めなくなってしまう。

 攻撃は岩だけではない。

 ハーピーたちは火も使えるので、放火という選択肢もあるのだ。

 エルフ、ハーピー双方で不可侵協定が結ばれて、お互いに干渉しない――ということになったらしい。


 エルフのことは片付いて、あとの大きなイベントは、近衛騎士団の模擬戦のみ。

 2つある近衛騎士団の間には明確な落差があり、まともに戦ったら万に1つの勝ち目もない。

 素人の私にも解るぐらい。

 その強い騎士団の団長であるカイル様の様子がおかしい。

 なにか悩みがあるようだ。

 私は彼の話を聞くために、お城の庭にある一角にやって来た。


 垣根に囲まれた白い屋根がついた小さなスペースがあって、白いテーブルと椅子が置いてある。

 そこにあった椅子に2人で腰かけた。

 こういう場所だけど見通しはよいし、襲われたりするのに配慮されていると解る。

 私からは見えないけど、近衛騎士やヴェスタ、アルルもどこかで見ていて、私になにかあれば飛んでくるに違いない。


「あの――それでご心配ごととは?」

「仕事でしばらく家に帰っておらず、久しぶりに帰ったらもぬけの殻で……」

「誰もいないってことですか? カイル様はご結婚は……?」

「妻と娘がいます」

「そ、それじゃ奥様が実家に帰ってしまわれたとか……?」

「……」

 彼が黙って首を振る。

 いつもは豪快に話をする彼だが、しょんぼりしているときは凄く言葉遣いもソフトだ。


「ええ? それでは?」

「家に置き手紙がありまして……」

 それってよくある、「あなたってば仕事のことばかり! もう嫌! こんな生活! 私は実家に帰らせていただきます!」

 ――というパターンが思い浮かぶのだが、そんな簡単な話ではないらしい。


「手紙の主は奥様ではないのですよね?」

「はい――近日中に行われる、近衛騎士同士の模擬戦で手を抜けという内容でした」

「ええ? それこそ陛下にご相談をしたほうが……」

「騒ぎを起こすと、家族の命の保証はないと」

 う~ん? 真剣に悩んでいるカイル様には悪いのだけど――随分と頭が悪くない?

 いや、カイル様じゃなくて相手の犯人のことね。


「あ、あの――カイル様が1人手を抜いたとしても、青の騎士1人で、赤い人たちを蹂躙できますよね?」

「はい」

 彼は躊躇なく答えた。

 まぁ、そのぐらい実力の差があるというのは、解っているのだろう。

 そりゃ、青いほうは地方からの選抜で構成されている。

 皆がジュン様やヴェスタクラスとなると、一対一で赤い人たちに勝ち目があるとは思えない。

 赤で同等の勝負になるのはルナホークという騎士だけだろう。


「それじゃ、青い騎士団全員に手抜きしろって話になると、当然騒ぎになりますよね?」

「そうなると思います。そして陛下の耳に入るかと」

「……これって、誰が絵を書いたんですかね? あまりに適当すぎるというか……あの公爵のドラ息子ですか?」

「いいえ、あの方は貴族の面子を第一に考えるお方なので、こういう小細工はされないと思います」

 なんかああいう人って、ヘタレなのに変なプライドがあるのよねぇ。

 ワイバーンにボコボコにされたけど、最後まで私の治療を拒んでいたし。

 それにしても、ドラ息子ってのは否定しないのね。

 彼も、そう思っているのだろう。


「それじゃ――ドラ息子の取り巻きの誰かか、それとも近衛騎士団がなくなることで困る、それにぶら下がっている誰かでしょうか?」

「そんなところでしょう。相手が玄人なら予測も立てやすいのですが、まったく素人のようなのでいったいどうしたらいいのか、ほとほと困っておりまして……」

 あまりにガバガバなので、どうしたらいいのか困っているのね。

 カイル様の予想は、相手は商人ではないか? ――とのことなのだが。


「青い騎士団のほうも、そういう商人とのつながりがあるのですか?」

「いいえ、話を持ちかけられたりしたことはありましたが、すべて断りました」

 ああ、そういうこともあったので、多少の恨みが積もっていたのかも。

 巷では、まだ聖女が現れたとは公表されていない。

 私絡みの騒ぎで、赤い騎士団が存亡の危機になったわけだが、それをカイル様がやったと勘違いされたのかもしれない。


「これは、あのドラ息子に話をしても駄目でしょうね?」

「おそらくは……というか、まったくどうなるのか予測もつきません」

「要求を飲んで試合をしたとしても、ご家族が無事に解放される保証もありませんしね」

「そのとおりです」

「う~ん? う~ん?」

 腕を組んでしばらく考える。

 なにかいい方法はないものか?

 模擬戦までに、カイル様のご家族が見つかればいいのよね?

 騎士団がワイワイと動いてしまったら大騒ぎになるから、誰かの力を借りて――。

 とりあえず、ルクスの情報網に引っかかっていないかな?


 あとは――そういえば、ティアーズの森にいたニャルラトは、においで私を見つけたり、自分の帰る道を把握していた。

 かなり高性能の鼻の持ち主じゃない?

 彼らに頼むというのはどうかな?

 におい追うだけで聞き込みをするわけじゃないから、敵側にバレにくいと思うし。

 まさか貴族が獣人たちを使うなんて思わないかもしれない。


「あの、カイル様――2~3日鍛錬を休んだからといって、模擬戦で負けたりなんてことはないですよね?」

「それはもちろん」

「それでは、上手くことが運ぶかは解りませんが、しばらく私につき合っていただけませんか?」

「いったい、なにをなさるおつもりですか?」

「もちろん、カイル様のご家族の捜索ですけど」

 騎士的に、獣人たちに協力を請うっていうのはどうだろう。

 ティアーズの騎士たちは、獣人たちに偏見はあまりなかったんだけどなぁ。


「いったいどうやって……」

「上手くいくか解りませんが、その方法を思いつきました」

 獣人たちの高性能な鼻を利用する方法を説明したのだが、私の言葉にも彼は申し訳なさそうな顔をしている。


「聖女様にそのようなことをしていただくわけには……」

「私としても、赤い騎士団を気持ちよくぶっ潰してもらうためなので、お気になさらずに。オホホ……」

「しかし、陛下になんと申せば……それに聖女様になにかあれば、陛下に顔向けができない」

「そこらへんは、家族の命がかかっていたのでやむを得ず――とかでいいと思いますよ。陛下も『なぜ?』とはおっしゃらないはず」

「……承知いたしました」

 まぁ、私に頼るとは、相当切羽詰まっていたと思われる。

 歴戦の騎士なのだから、真正面からの力技じゃ負けはしないのでしょうけど。


「それでは、早速準備にかかります!」

 私は椅子から立ち上がった。


「どうなされるおつもりで?」

「お城の外に出なくてはならないので、変装をいたしましょう。カイル様も鎧を脱いでくださいませ」

「かしこまりました」

 双方自分たちの部屋に戻って準備をすることになった。

 見えない所に隠れていたヴェスタを呼ぶ。


 お城の中での仕事はすべてが近衛が担当していて、ヴェスタの仕事はない。

 聖女騎士とはいっているが、勝手に名乗っているだけだし。

 こんな仕事で彼は満足なのであろうか?

 ちょっと心配なのだが、強制しているわけじゃないし……。


「お城の外に行きますから、鎧を脱いで私服で来てください」

「聖女様、私の主になられたのですから、敬語は必要ございません」

「解った。剣は持ってきてもいいから」

「かしこまりました」


 部屋に戻ってくると準備を始めたのだが、果たして上手くいくだろうか?

 私の思いつきに、カイル様を巻き込んでしまっていいのだろうか?

 悩むところだが、まずはやってみるしかない。


 まずは、メイドたちに指示を出す。


「アリス、クロミ――聖女は急用のため、2~3日お休みします。治療の予定が入っている貴族様には、お断りの手紙を出して」

 定番は仮病なのだが、私は癒やしの奇跡を使える聖女――その手は使えないだろう。

 こういうときは不便だ。


「かしこまりました、あの……」

 突然、私がわけのわからないことを言い出したので、2人とも困惑している。


「私は、お城の外に出るけど、ちょっと内緒にしておいてね」

「え? よろしいのですか?」

「カイル様がご一緒だから大丈夫よ」

「承知いたしました」

「それから、私に合いそうな男ものの服を用意できない? 古着や間に合わせでいいわ」

「お、男ものですか?」

 アリスが困っているのだが、突然無理を言い出して申し訳ない。


「ええ、お願い」

「かしこまりました」

「にゃー」

 ベッドの上でお留守番をしていたヤミが起きた。


「君も外に出る?」

「にゃ」

 一緒に行くらしい。


「あ、あと、模造の剣なんてないかな?」

「探してまいります」

「突然、無理を言ってごめんね――お願いします」

 2人が、礼をして部屋の外に出ていった。


「ふう、着られるものは見つかるかな?」

 お城の騎士などはごつい人が多いからなぁ。

 背の高さは合いそうだけど……。


「にゃー」

 メイドもいないので、ヤミに状況説明をしてあげる。


「――というわけなの」

「にゃ」

 彼も呆れているが、敵もこんなガバガバな脅しが上手くいくと思っているのだろうか。

 そうはいっても、上手く解決できなければ、ギリギリの段階で皆に事情を話して手抜きをしてもらうしか……。

 当然、陛下にも話さないと駄目だし。

 まぁ、怒られるかなぁ~。

 仕方ないよね。


 ヤミと話していると、メイドたちが戻ってきた。


「服はありそう?」

「はい」

 アリスが、自分の袋から集めてきた服を出してくれた。

 意外と数がある。

 その中からよさげなのを選んだ。


「まず、ズボンの丈よねぇ」

 自分の股まで、なん着か合わせてみると、黒いズボンが合いそうだ。

 窓の外にズボンを出して魔法を使う。


温め(ウォーム)! 次に洗浄(クリーン)!」

 温めたのは消毒のためだ。

 まぁ、なにかの病気になっても癒やしでなんとかなりそうだけど、わざわざもらう必要もない。

 メイドに手伝ってもらいドレスを脱ぐと、素っ裸でズボンを穿いてみる。

 ちょっと太いが大丈夫だ。

 革のベルトもあるので、きつく締めた。


 合わせ目に飾りの着いたシルクっぽいシャツを着て、暗い赤い色の上着を羽織る。


「中々いいじゃない。でも、ちょっと肩が余るわね」

 やはり男女での肩幅の違いは如何ともし難い。


「それじゃ、詰め物をいたしましょう」

「いいわね」

 アリスに、上着の肩の部分に詰め物をしてもらう。

 私の母親の時代に流行った、肩パッドみたいなものか。

 あんな母親でも、肩パッドの上着を羽織って、ミニスカを穿いていたのだから笑ってしまう。

 まぁ、流行りは巡るっていうし、あまり笑えないけどね。


 詰め物をしてもらったので、再度上着を羽織ってみた――いい感じだ。

 クロミがブーツを見つけてきてくれたので、こいつも念入りに加熱する。

 水虫とかになったら大変だし。

 そういえば、水虫といえば――私が祝福を与えた反聖女派の人たちはどうなっただろう。

 今のところ治療には訪れていないようだが……。

 特にあの枢機卿ってやつは、水虫の治療にやって来たら笑ってやるのに。

 それとも、意地でも聖女の力には頼らないつもりであろうか。


 ブーツを履いて、姿見を使ってポーズを決めてみる。

 髪は後ろで縛った。


「ふ~ん、いいじゃない」

「にゃー」

「ありがとう――って言いたいところだけど、男に見えるって言われて、嬉しくはないのよねぇ」

 剣もあるので持ってみた。

 軽い。


「それは初心者用の模擬剣です」

「真剣があっても使えないからこれで十分ね」

 剣用のベルトを腰に巻くと、差す場所があるので、そこに剣を入れる。


「おお、それっぽい」

 なんだか、コスプレみたいで楽しい。

 遊びではないのだが、ワクワクが抑えきれない。


「お似合いです」

「ありがとう。う~ん、もうちょっと眉をはっきり書いたほうがいいかも」

 化粧道具を出してもらい、眉を少し書き足す。

 ちょっと太くなると、ぐっと男らしさが増す。


「「……」」

 私の格好を見ているメイド2人の顔が赤い。


「あ~あ、声もちょっと低めのほうがいいかな?」

「格好いい」

 私のことをジッと見ているクロミの所に行くと、顔をなでてあげる。


「かわいい子猫ちゃんを発見。食べてみてもいいかな?」

「どうぞ」

 彼女がスカートをたくし上げた。


「ちょっと! 本気にしないでね、あはは」

「聖女様が女性で残念……」

 クロミがしょんぼりしているのだが、なんちゅうことを言うのだろうか。

 だいたい、私が男だったら聖女にならんでしょうが。


 準備ができたので、カイル様と合流しなくては。

 ヤミを肩に乗せて部屋から出ると、護衛の近衛が驚く。


「なに者だ!」

「私です、聖女です」

「せ、聖女さま?」

「ちょっと、カイル様とお忍びをしてくるので、陛下などにはご内密にお願いいたします」

「……」

「よろしいですか?」

「か、かしこまりました」

 それでも彼らの雇い主は陛下なのだから、答えろと言われたら答えるしかないだろうなぁ。


 外では金髪のライオン様が待っていた。

 いつもの鎧ではなくて、暗い色のズボンとダークグリーンのTシャツ。

 まるで軍人のよう――いや、騎士だから軍人なのか。

 いつもは鎧の下に隠されていたムキムキ具合がよく分かる。

 こういうのが好きな女子にはたまらないかもしれない。

 ああでも、奥様とお嬢さんがいるって言ってたっけ。


「お待たせいたしました」

 声をかけると、外にいた護衛の近衛が剣に手をかけた。


「誰だ貴様!」

 ここでもか……。

 それだけ上手く変装できているってことなんだろうけど。

 男たちの顔を見ても、冗談でやっているようには見えない。


「はい? 私ですけど……」

「も、もしかして聖女様か?」

「はい」

 カイル様も、目の前にいるのが誰か解らなかったようだ。

 そんなに見事な変装だとは自分でも思ってなかったのだが、普通の男に見えるってことだろうし、それはそれでちょっとショック。


「そこにいるのはどなたですか?」

 女性の声で振り向くと、そこにいたのはファシネート殿下とおつきのメイド。

 質問されるってことは、殿下とメイドも私の正体に気づいていないみたい。

 上手く化けられているってことだけど、ちょっと複雑だなぁ。


 私は殿下の前で膝をついた。


「パンダリオン卿の友人でカシューと申します」

 彼女がどういう行動をするのか、そのまま下を向いていると、私の前に白い手が差し出された。


「許します」

 小さな声だが、すごく綺麗な透き通った声。

 ファシネート様の声をちゃんと聞いたのは初めてかも。

 それはいいのだが、このポーズは多分アレだろう。

 私は白い手を取って、彼女の手の甲に口づけをした。


 立ち上がると、殿下は胸に手を当てて顔を赤くしている。

 これは、早めに正体を明かしたほうがいいだろう。

 後々だと問題がこじれる可能性がある。

 私は小さく礼をして、胸に手を当てて答えた。


「殿下、私が誰だかおわかりになってない?」

 キョトンとした彼女が私の顔をジッと見つめていたのだが――その正体に気づいたようだ。


「……聖女様?」

「ご明察でございます、殿下」

「むー!」

 彼女が私の身体をポカポカと叩き始めた。

 これは怒っているのだろうか?


「も、申し訳ございません」

「聖女様が、なぜそのような格好を?」

 聞いてきたのは、殿下の後ろにいたメイドさんだ。


「少々用がありまして、カイル様と一緒に街まで……」

「私も行きたい!」

 ハッキリとファシネート様が意思を示してくるのは珍しい。

 そんな殿下が私をポカポカしてくるのだが、そりゃまずい。

 なにかあったら大変だ。


「駄目ですよファシネート様」

 メイドも反対のようだ。

 そりゃそうだ。


「王族になにかあったら大変ですから」

「それを言ったら、ノバラだってそう」

 珍しく殿下が反論してくる。


「私は魔法が使えますから」

「まぁな。聖女様は、レオス様やメイ様も倒していらっしゃるし」

「本当?!」

「はい、大魔導師様はファシネート様の治療を邪魔しようとなさったので」

「……」

 そう言われても、やっぱり不満が残るようだ。


「今は大切な仕事があるのですが、それが終わったらおつき合いいたしますので」

「本当に?」

「はい」

「その格好で行くのよ?!」

「かしこまりました殿下」

 私は、手を胸に当てて礼をした。

 どうなるか解らないが、こうでも言わないと納得してくれなそうだ。

 それに、ここでバタバタしていたら、国王陛下にバレてしまう。


 いつも護衛をしてくれている、近衛騎士たちに告げる。


「カイル様と一緒に外に行きます。護衛は必要ありません」

「し、しかし」

「カイル様がいらっしゃるのですよ。私はワイバーンを二匹も仕留めましたし」

 それに、護衛にはヴェスタとアルルが控えている。


「承知いたしました」

「にゃー」


 私はヤミを肩に乗せて、家族思いのライオン様と一緒にお城の裏口に向かった。

 途中で、私服に着替えたヴェスタと合流する。

 彼は、黒いズボンと黒シャツ姿に剣を差している。

 あ~シルバーのアクセサリーとかしちゃって高校生が好きそうな格好。

 やっぱり、そういうお年頃なのは異世界でも変わらないのだろうか。

 お城では立場のない彼だが、お城の外では私の護衛という仕事がある。

 近衛騎士の団長と、ヴェスタがいれば百人力だろう。

 今は見えないけど、魔導師のアルルも控えているし。


「……」

 聖女騎士となった金髪の美男子は、私の男装姿を見て不満げである。

 女性には好評なのだが……男受けが悪いみたい。

 歩きながらカイル様と話す。


「聖女様、どこへ向かわれるのですか?」

「街にある飛脚の店です」

「飛脚ですか?」

「はい、カイル様には、ご家族のにおいを確認できるものを用意していただきたいのですが」

「は――なるほど、あそこにいる獣人たちの鼻を借りようというわけですか……」

 彼は私のやろうとしていることに気がついたようだ。


「そのとおりです」

「確かに、貴族たちではぜったいにやらない方法だ」

「飛脚たちなら、街を走り回っていても問題ないでしょう?」

「……」

 私の提案に、彼がちょっと不安げな表情を浮かべている。


「なにか? もしかして獣人たちを信頼できないという感じでしょうか?」

「いや、そうではございません。彼らは身分が低いので、入れる場所が限られていますので……」

「ああ、なるほど」

「にゃー」

「そう? 本当に?」

 その件については、ヤミに腹案があるらしい。

 なんとかなりそうだとカイル様に答えた。


「承知いたしました」

 話しながら、私たちはお城の裏門にある荷物の集積場に到着した。

 お城に運び込まれる荷物はここに集められて、部署ごとに配送される。

 沢山の人たちが働いていて、すごい賑やかだ。

 様々な物資や、食料なども見える。

 お城で働いている人も沢山いるので、それだけの物資を毎日消費する。

 食堂では毎日食事を出さなくてはならない。

 消費すれば、その分ゴミも出るので、お城から運び出されると処理業者に引き渡されて、肥料などに加工されるという。

 無駄がない。


 カイル様によれば、ここから街に行けるらしいのだが……。



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