7話 金髪美少年騎士
家にあった日記を最後まで読んだら、隠し扉を見つけた。
扉から地下に降りて見つけたのは、魔女の仕事場。
私の生活を一変させる魔法の袋というアイテムも手に入れ、その中には魔法の本も隠されていた。
本のとおりにすると――私にも魔法が使えるではないか。
これで、この世界でもなんとか生活していくことが可能になるかもしれない。
庭で魔法を試しまくり、浮かれてくるくると回っていると不意に呼びかけられた。
いつの間にか、金髪の美少年が顔を赤くして立っていたのだ。
なぜ赤いか?
私の足と尻を見たからに違いない。
でも、この家って人から見えないような、なにか細工をされているんじゃ……。
「きゃぁぁぁ!」
「も、申し訳ありません! まさか、庭でそんな恰好をしている人がいるとは思わなかったので……」
そんな恰好で悪かったわね。
それよりも、よりにもよってこんな金髪の美少年に見られてしまうなんて。
歳は17歳ぐらいであろうか?
革と銀色の鎧を着て、肩から鞄を下げており、腰には長い剣を差している。
拳銃などは――ない世界みたい。
柔らかそうなキラキラの金髪が美しく、整った顔立ちをしている。
深く青い目に吸い込まれそう……。
元世界にいたら、女の子? とか間違われそうなぐらいの美少年だ。
私の周りには絶対にいなかったタイプ。
会社にはクソうぜぇオッサンの上司しかいなかったし。
まぁ、私もそれなりの歳だしぃ、ちょっと見られたぐらいはいいんだけどさぁ……。
こんな美少年と知り合いになっていたら、私のつまらない人生も多少は変わっていたのだろうか?
「見られてしまったものは仕方ありません。なにか御用でしょうか?」
この世界には王侯貴族などの身分制度があるのが解った。
剣を差しているということは、騎士か剣士なのだろうし、魔女というのはそれより身分が低い可能性がある。
日記には、街で迫害されたなどという記述もあったことだし。
「あ、あの――そ、その前に、その恰好をなんとかしてもらわないと……」
美少年は、顔を真っ赤にして横を向いたままだ。
「この恰好のどこが悪いのでしょうか? 黒い服ですか?」
「いいえ――その、脚が……」
「……ああ! お見苦しいものをお見せいたしました」
どうやら脚を出してはいけない文化らしい。
そりゃ、女性の脚を見たことがない世界なら、この恰好はマズいかもね。
露出狂のように見えたのかもしれない。
あはは。
笑っている場合ではない。
「あの、その……とても綺麗だとは思うのですが……」
「ありがとうございます。すぐに着替えて参りますから」
「あ、あの!」
「なにか?」
「ここには、魔女のお婆さんが住んでいたはずですが……」
「その方が亡くなり、私が跡を継いでおります」
――ということにしちゃっていいよね?
「そ、そうなのですか……」
「あの――魔女にご用事ということでしたら、見習いの私は、そちら様のお役に立てないかもしれません」
「そこを、無理を承知でお願いしたいのですが……」
「う~ん、それでは――お役に立てるか解りませんが、ご用件はお聞きいたしましょう」
「助かります」
すごく礼儀正しいし、こちらを下に見ている節もない。
間違いなく高校生ぐらいだと思うのだが、すごく大人びているようにも見える。
おそらく、この少年のご両親も立派な方なのだろう。
つまりは、いいお客様だ。
大事にしなければならないが、果たして今の私にそれができるのか。
とりあえず家に招き入れて、テーブルにつかせた。
少年とはいえ、知らない男性を家に入れてよいものなのだろうか?
いや、彼はここに住んでいるお婆さんに会いにきたはずだ。
そういう目的をもった少年が、邪なことを考えているとは思えない。
私は寝室に戻ると、ロングスカートの黒いワンピースに着替えた。
あぶないあぶない。
脚を出しちゃだめだなんて。
元世界の感覚のまま、ミニスカートで街に行ったりしたら、大変なことになっていたかも。
さて、お客様が来たというのに、おもてなしするものがなにもない。
お菓子はないとしても、お茶ぐらいは出したほうがいいだろう。
魔法の袋を漁ってみたのだが、お茶らしきものは入っていなかった。
「う~ん」
――そうなると、ここは薬草茶だな。
図鑑をパラパラとめくり、薬草を調べる。
たとえば胃腸にいいとか滋養に効くとかなら、普通に飲んでも問題ないだろう。
毒だったりしたら大変だが、そういうものは普通の薬草とは一緒には置かないはずだ。
滋養に効くという薬草に決めて、天井からぶら下がっている乾燥した束の中から、それを探す。
そういえば、ここにある薬草も私が探して足さないと駄目なのね。
わぁ――やることが沢山だ。
該当する茶色の葉っぱを見つけたので、3枚ほどちぎると、台所に戻った。
「少々お待ち下さい」
鍋に水を入れて薬草を入れる。
本当はフライパンで炒りたいのだが、時間がない。
「ん~、温め」
すぐにお湯が沸く。
今更ながら、これは便利だ――と思っていたら少年が声を上げた。
「え?!」
青い光が舞う様子を、男の子がジッと見ている。
珍しいのだろうか?
「なにかまずいことでも?」
「い、いいえ――お茶を淹れるのに、魔法を使う人を初めて見たもので……」
え~? そうなんだ?
私は、どこかおかしいのだろうか?
だって、こんな便利なものを使わない手はないよね?
お湯が茶色になったので、カップに注いで味見をしてみる――普通にお茶っぽい。
問題ないので、それを少年に出した。
「たいしたおもてなしもできませんが」
「ありがとうございます」
私も席について、彼の話を聞くことにする。
「私は、ヴェスタ・フォン・ヴァルト――騎士です」
「私は、ノバラです」
「ノバラさん……」
それはいいのだが、美少年がお茶をする姿は実に様になる。
まさに眼福である。
私の脚とかお尻とか見られてしまったが、彼なら許せる。
ただしイケメンに限るの法則だ。
これが、相手が汚いオッサンならブチ切れるところ。
私が勤めていたブラック企業のクソ上司みたいなやつだったらどうしただろうか?
馬乗りになって、魔法を――。
そういえば、人間の身体に温めの魔法を使ったらどうなるのだろうか?
水が沸騰するぐらいの威力があるのだ。
ひどい火傷をするのではないだろうか?
それが頭なら即死することも考えられる。
「う~ん」
ちょっと魔法を使えるようになった自分が恐ろしくなる。
いやいや、そんなことより私に用事とはいったいなんなのか。
それを聞かねばならない。
「それで――ご用件とは?」
「はい……以前、ここに住んでいた魔女のお婆さんに薬を作ってもらっていたのですが……」
患者は彼の母親だ。
咳が酷く、咳止めの薬をもらっていたらしい。
薬を手に入れるために度々ここを訪れていたらしいが、ずっと留守だったようだ。
喘息かなにかだろうか?
「回復薬というものでは治らないのですか?」
「それでも治ると思いますが、回復薬は高価ですので……」
彼の話だと、1本銀貨1枚らしい。
それがどのぐらいの価値なのか解らないが、彼が高価だというから間違いないのだろう。
話を聞いていると、銀貨4枚で金貨1枚。
金貨1枚で、贅沢なしに一家4人が一ヶ月暮らせるぐらいの金額らしい。
元世界に換算すると、20~30万円ぐらいか。
――そうすると、回復薬は1本5~7万円ということになる。
なるほど高価だ。
こういう世界には健康保険もないだろうし。
面倒なので、金貨1枚は20万ってことにしておこう。
それにしたって飲み薬が1本5万円以上か――超高い。
たしかに普通の家庭では手が出ないだろう。
よほどの重病が治るなら、その価値はあるとは思うが……。
つまりは、私に薬を作って欲しいという依頼らしい。
う~ん、私にできるだろうか?
魔法の袋の中にはカルテが入っていたが……。
この世界には医者の免許などはないようだが、魔導師になるには国家試験のようなものを受ける必要があると、ニャルラトが言っていたなぁ。
私は寝室に戻ると、魔法の袋からカルテを引っ張り出した。
それを持ってテーブルにつく。
「そちら様の、ご母堂のお名前は?」
「ネフェルです」
私は、ペラペラと分厚いカルテをめくった。
「ネフェル、ネフェル……」
幸い、患者名は音順になっている。
見たことも聞いたこともない言語なのだが、普通に理解できるのはありがたい。
「ありました」
咳止めの薬を調合したと書いてあり、その成分もちゃんと記されている。
先輩、ありがとうございます。
「それでは、できますか?」
「材料の在庫があれば、できると思いますが……ちょっとお待ちいただけますか?」
「解りました」
寝室に戻ると、図鑑を片手にカルテに書いてある薬草を探す。
幸い、ものはすぐに見つかったので、記された分量をちぎると、地下の部屋にあった乳鉢を取ってきた。
それに薬草を入れるとゴリゴリと粉にする。
このまま飲むのか、それともお湯で煮出すのかは不明だ。
効き目は一緒だと思うが。
そんなことより、薬が間違っていないか心配なので、なん回も確認した。
私がバタバタしているのに、猫が自分のベッドであくびをしている。
昼寝をしている最中なのに、うるせぇなぁ――とか思っているに違いない。
猫の手も借りたいのに、貸してくれるつもりはないようだ。
薬を擦り終わると、乳鉢を持って少年の待つ台所に戻った。
「材料がありましたので、以前お渡ししたものと同じものができたと思います」
「ありがとうございます!」
「さて、薬の容れ物はどうしましょう……」
「これにお願いいたします」
彼が、小さなガラス瓶を鞄から取り出した。
それはいいのだが、ガラス瓶にどうやって入れよう……。
「あ、そうだ」
地下に潜ると、小さな漏斗を手に取って戻ってきた。
これを使えばいい。
小さな瓶に漏斗を差し、そこに乳鉢で擦ったものを入れる。
「ありがとうございます」
彼が、瓶に木の蓋を差し込んで閉じた。
「材料があって、よかったです」
「あの……それで、お代のほうは……」
「ん~あ~、実は――その薬を作るのは初めてなので、今回は無料ってことで」
「しかし、それでは……」
「飲んでみて、前と違うと感じたら服用をすぐに止めてください」
「解りました」
「効き目に問題がなければ、次のご利用のときにはお代をいただきますので」
「私としては、なにかお礼をしたいところなのですが」
「いやいや――そんな……あ、それじゃ、街について色々と教えていただけると助かります」
「街ですか? 最近、別に変わったことなどは……」
この世界の文化について情報収集しなくてはならない。
スカートは、やはりロングスカートが基本のようだ。
脚を見せるのはタブーだが、胸元はいいらしい。
それゆえ、胸元を見せるのが女性のおしゃれの基本という話。
髪型などについても聞く。
結婚している女性は、髪をUPにするのも普通だという。
それじゃ、私の場合は髪をまとめないほうがいいってことね。
髪の毛の色は、黒い人もそれなりにいるらしいので、他の世界からやってきた私が浮くってこともないだろう。
話を聞いてホッとしてみたのだが、目の前にいる美少年みたいな人が一杯いる街で、私みたいな十人並みが浮かないだろうか?
それが少々心配である。
「まぁ、あまり面白い話は、それほどありませんよ」
「それじゃ他の国について教えてください」
「他の国ですか?」
今いる国は王国だが、隣にデカい国があるという。
帝政が崩れて、憲法を元にした議院内閣制を行なっている国のようだ。
皇帝は廃止されていないが、政治には関わっていない。
「それって立憲君主制では……」
「魔女殿は博識のようです。そういえば、そのようなことを聞いたような……」
彼の反応を見る限り、民主主義に興味はなさそう。
そりゃ貴族や騎士は特権階級のほうだし。
「ノバラでいいです……」
「ノバラ……」
彼の顔が赤くなる。
高校生ぐらいの少年と話すことなんてなかったから、こっちもちょっと恥ずかしい。
「あの――戦争とかは?」
「今のところは、ないですね」
彼の言葉に安堵を覚える。
いきなり異世界にやってきて、戦争を知っている世代にはなりたくないし。
「世界平和万歳」
彼が思い出したようにつぶやいた。
「あ、そういえば――隣国が聖女の召喚に失敗したという噂が流れていますが……」
それって、ニャルラトが話してくれた……。
どうやら、政治が腐敗して人民の心が離れつつあり、人気取りのためにそれを行なったようだ。
実に泥縄的だ。
「聖女? 聖女って癒やしの奇跡が使えるって方ですよね?」
「はい、聖女の召喚に成功した国には、奇跡と富がもたらされると言われています」
彼の話では、回復薬でも治らないような重病人でも、治癒させることができるらしい。
それって凄いじゃん。
「この王国にも聖女様っているのですか?」
「いいえ、残念ながら」
聖女召喚には、多大な予算を必要とするようだ。
そんな金など出せないので、召喚の儀式などはしないというのが、今の国王の方針らしい。
暴君などではないようなので安心した。
「ありがとうございます。大変参考になりました」
彼に頭を下げた。
「あの――本当にお代のほうは?」
「はい、今回はサービ――じゃなくて、え~とご奉仕価格ということで……」
「ありがとうございます」
すごく礼儀正しい。
街の人が全部こんな感じなら、とても平和な国なんだろうなぁ――なんて、脳みそお花畑なそんなことがあるはずがない。
平和な元世界だって、いけ好かない人間が山程いたのだから。
「あ、そうだ! この家って普通の人には見えないような細工がしてあると思ったのですが」
「私は以前来たときに、これをもらってますから」
彼が黒くて小さな石を見せてくれた。
それを持っていれば、見えなくなる魔法をキャンセルできるらしい。
じゃあ、私もその魔法を覚えたほうがいいかもね……。
お客様には、それを渡さないと駄目だし。
ついでに、街での魔女の評判を聞く。
「酷い差別を受けたとかは聞いたことはありませんが、魔女と聞くと眉をひそめる方はいますね」
「ああ、なるほど」
石を投げられたりとか、そういうことはないけど、陰口を叩かれたり悪口や嫌味を言われることはあるってことね。
まぁ、そのぐらいはブラック企業で慣れっこだし。
慣れちゃ駄目なのかもしれないけど。
薬を持った少年を、門の所まで送った。
「さきほども申し上げましたが、薬を服用して効果がないようならすぐに止めてください」
「解りました。ありがとう」
「あ、あの! 街ってどちらの方角にあるのですか?」
「は? ああ――あちらの方角です」
彼が指し示した方向には高い山がある。
「ありがとうございます~」
変なことを聞いてしまったな。
でも仕方ない。
本当に知らないのだから。
少年は手を振ると、森の中に消えて行った。
指し示した方向とは違うのだが、多分近くまで道があるのだろうと思う。
それでないと不便すぎると思うし。
「さて! これで忙しくなったぞ~!」
彼の口コミで、さらに薬の注文がくるかもしれないし、回復薬というものも作れるなら作っておかないと。
魔女の跡を継いだのだから、仕事はしないとね。
ニャルラトが帰った村からも注文があるかもしれないし。
ここでのすべての努力は自分が生きていくためのものだ。
誰のためでもない。
失敗しても非難されても、すべて自己責任。
「よし! やるぞ~!」
とりあえず、やる気を出す。
1歩でも進まないと目的には到達できない。
1日1歩でも確実に目的地には近づいている。
この道理は、この世界でも通用するだろう。
家に戻ると袋の中を漁る。
全部調べて、自分でなにを持っているのか確認しなければならない。
袋の中からは魔石と言われる黒い石と、小さな像が出てきた。
大きさは5cmぐらい。
「なんだろう? なにかの道具かな? 誰かが訪ねてきたら聞いてみるか……」
その他には、女性らしく小さな手鏡とブラシ。
ブラシは硬い動物の毛でできている。
「やった!」
他に化粧品やら、そういう類のものはない。
街に売っていないか、王侯貴族などが使う高価なものに違いない。
それに、元世界の歴史にあったような鉛入りや水銀入りの化粧品だったら困るし。
あとは茶色の袋があった――ジャラジャラとすごく重い。
中を開けると、黄金色の物体。
金貨が20枚出てきた。
その他、銀貨や銅貨もある。
さっきの話から金貨が1枚20万円とすれば、これだけで400万円だ。
「先輩! あざーす!」
先人に感謝するが、これはいざというときのための貯蓄だ。
手をつけるわけにはいかない。
なるべくね、なるべく。
「さっきの代金をもらっておくべきだったかな……」
いや、本当に効くかどうかも解らないし……。
なにしろ見習い魔女で、右も左も分からないのだから仕方ない。
まぁ、ここにある材料で薬を作って、街で売るかすれば現金はゲットできるだろう。
「そして、回復薬!」
回復薬ってのは高価で金になると解った。
これを作らない手はないだろう。
カルテと図鑑から作りかたを探す。
「にゃー」
暇なのか、ヤミがやってきて私の脚にスリスリをしている。
「もう、最初のときと随分と違うじゃん」
彼の背中をなでなでしてやる。
そういえば、ニャルラトの村にも行ってみないとなぁ。
彼みたいなふわふわが沢山いるんでしょ?
ぜひ行ってみたい!
まぁ、それより薬の調合と回復薬だ。
カルテを見ると――解熱鎮痛薬、胃腸薬、下痢止め、滋養強壮薬、咳止め薬、回春薬ってのが多いみたい。
回春薬ってのは、バイ○グラみたいなものだろう。
どのぐらい効き目があるのか不明。
惚れ薬みたいなものかもしれないが、魔法があるぐらいだから、そういう薬があってもおかしくない。
あまりヤバい薬みたいなものは扱っていなかったようだ。
よかった。
回復薬も作ったと書いてあったので、先輩も作れたのだろう。
カルテにレシピが載っている。
魔力を沢山使うようで、本数は作れなかったようだが。
でもそれって、結局魔法で治しているのと一緒のような……。
少々疑問ではあるが、回復薬と治癒の奇跡は違うものらしい。
悩んでいても仕方ない。
レシピの通りに材料を集めて薬を作る。
薬の容れ物は――袋の中に正方形に切った布が沢山入っていた。
こいつに乗せて紐で縛る。
多分、先輩もこうしていたに違いない。
街に行ったときには、端切れも集めなくてはならないってことか。
色々とやることがあるし、大変だ。
できあがった薬は、大きな袋に入れて名札をつけておく。
名札は、魔法の袋の中に入っていた紙を包丁で切って使った。
インクは小瓶に入っており、ペンは羽根ペンだ。
羽根ペンなんて初めて使ったのだが、先っぽを斜めに切っただけなのに意外と使える。
よく見ると、先っぽには小さい割れ目がついているが、これが肝かもしれない。
構造をよく見て、覚えて作れるようにしなくては。
ペンの材料のために、鳥を獲ったら羽根を保存しておいたほうがいいだろう。
紙も茶色で、多分手漉きの手作り品だろうし貴重品だと思う。
元世界のように、使い捨てをしたりして無駄にできない。
私が薬を作っていると、ドアがノックされた。
突然なので、びっくりして飛び上がる。
「ど、どなた?」
台所に行くと、おそるおそるドアに向かって話しかけた。
「ノバラ! 俺だよ! ニャルラト!」
「ニャルラト!」
ドアを開けると、三角の耳をピコピコさせた黒白の彼が立っていた。
「へへ」
「こんにちは! ちゃんと村には帰れたのよね?」
「もちろんだよ! 今日は仕事を持ってきてやったぜ!」
彼が得意げに話す内容を聞くと、薬の注文らしい。
早速、仕事だ。
がんばらねば。





