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67話 トラブルメーカー


 お城にて聖女の力を使って治療を始めたが、今のところ王侯貴族に限っており、私の下を訪れる人は少ない。

 空いた時間を使って回復薬ポーションを作り始めた。

 治療に訪れた患者には、薬を持たせてあげたいと思ったからだ。

 それに軽い症状なら回復薬だけでなんとかなりそうだし。


 薬を作っている途中でやってきたファシネート様からアイスをもらう。

 この世界にも、歴代の聖女が持ち込んだアイスクリームがあるらしい。

 製造に使う冷却の魔法が便利そうなので覚えようとしたら、部屋にエルフがやってきた。


 初めた見たエルフは、およそ人とは思えないような美しい生きものだった。

 そりゃ人じゃないみたいだし。

 獣人たちは人なのだが、エルフはエルフという生きものらしい。

 根本的に我々とは違うのだ。


 エルフは全員魔法が使えるみたいだし。

 ――ということは魔法の専門家なわけで、私の知りたいことも知っている。

 彼から冷却の魔法を習うことになったのだが、さすが専門家だ。

 アドバイスを受けた私は、魔石の力を補助にして冷却の魔法を成功させることができた。

 テーブルの上に白い霜が降りる。

 空気中の水分が凍ったものだ。


「!」

 ファシネート様が、手を叩いて喜んでいる。


「すごい」

 ウチのメイドたちも驚いている。

 私が高位の魔法まで使えるとは思わなかったのだろう。

 今回は冷却の魔法だったが、これが使えるということは――ルクスから教えてもらった爆裂魔法(エクスプロージョン)の魔法も使えるかもしれないってことだ。

 機会があれば試してみなければ。

 魔法の起動に使った魔石は、明かりが2/3ぐらいになった感じ。

 この魔石1個で高位の魔法が3回ほど使えるのだろう。


「サルーラ様、色々とありがとうございます」

「ははは、聖女様のためなら構わんよ」

 エルフってのは、聖女に好意的な生物なのかもしれない。


「王侯貴族の中には聖女に否定的な方もいらっしゃったので、安心いたしました」

「それでは、対価をいただこうか?」

「はい?」

 彼は無表情なのだが、その言葉を聞いて「しまった」と思った。


「私は知識を与えたのだから、それ相応のものが対価として必要だ」

「……お金ですか?」

「ふふ――エルフにとって只人の使う貨幣などなんの意味もない」

「――!」

 ファシネート様が間に入ろうとしたのだが、それを制するように彼が立ち上がった。


「なにを――?」

 私が考える間もなく、エルフの長い耳が迫ってくる。

 近づくにつれ、濃くなる草の香り。

 突然、突拍子もないことをされると、マジで反応ができなくなる。


 私が固まっていると、彼の唇が私の唇に重なった。


「!!!」

 バタバタと振りほどこうとしたのだが、華奢に見えても相手は男だ。

 がっちりとホールドされていて、離れることができない。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 私は声を上げると、エルフの顔面に頭突きを入れた。

 女の力で叩いたりしても効果は薄く、こいつが一番手っ取り早い。


「あつっ!」

 さすがに、顔面に頭突きはエルフでも堪えたようだ。

 私から離れると鼻血を出している。


光よ!(ライト)

 このふざけた男に、私の必殺技をぶち込んでやろうとしたのだが――。


解呪ディスペル

 光を放つ前に、光球がかき消された。

 魔法を無効化したらしい。

 そんなこともできるんだ。

 それなら――。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 今度はさすがに解呪はできなかったらしく、魔法が起動した。

 彼の魔法より、私の唱えたもののほうが早かったのだろう。


「おっと! 聖なる盾(プロテクション)

 10本ほどの光の矢が私の周りに顕現すると、一斉にエルフに向かって撃ち出された。

 連続して魔法が衝突すると結構大きな音がする。

 魔法の早さを優先したので、威力は大したことがないが、大きな音がしたのでドアを開けて近衛騎士たちが突入してきた。

 その中にはヴェスタもいる。

 彼らは、私の護衛をしているのだから当然だろう。

 入ってきたはいいが――聖女とエルフが対峙しているという状況を把握できずにいる。


 私の魔法を簡単に防ぎきったことで、エルフは薄笑いを浮かべていた。

 その顔を見た私は、次の魔法を唱えた。


光よ!(ライト)

 辺りが閃光に包まれる。


「あああっ!」「きゃぁぁ!」「なんと!」

 皆の悲鳴が聞こえるが、それに混じってエルフの声も聞こえてきた。

 私の攻撃を防いだので油断したのだろう。


「くぉぉっ!」

 聖なる盾という魔法は、防御のために透明な板のようなものを作り出す。

 透明ということは、可視光線は通るということだ。

 エルフが防御魔法を展開していても、私の作り出した閃光を防ぐことはできなかったようだ。

 ピンク色の破片が散らばり、防御魔法が飛散したことを私に教えてくれた。

 こうなれば私の必殺技が炸裂する。

 私は自慢の長い脚を跳ね上げた。


「おりゃぁぁぁ! キ○タマグッバイ!」

「&*^%$***!」

 なにやら、聞いたことがない言語でエルフが叫んでいる。

 これがエルフ語なのであろうか?

 人じゃないエルフという生きものに、キ○タマがあるのか不安だったのだが、人間と同じように弱点らしい。

 これは発見である。

 玉がなん個なのかは不明だが。


「くっ! せ、聖女様、いったいなにが?」

 ヴェスタと他の近衛騎士も、私の目潰しから復帰したようだ。

 殿下やメイドたちは、まだ目が見えないのかフラフラしている。

 その間にも、エルフは股間を押さえて悶絶したまま。


「こ、このエルフが、私の唇を――」

 私が、そんな台詞を騎士に言った途端、ヴェスタが剣を抜いてエルフに切りかかった。


「うぉぉぉっ!」

「おい! よせ! ヴェスタ! 相手はエルフの大使だぞ! 宮中だぞ! 止めろ!」

 剣を振りかざしたヴェスタを、もう1人の騎士が必死に止めている。

 この大騒ぎに、他の近衛騎士たちも集まってきて大騒ぎになった。


「ぬぉぉ!」

 沢山の騎士に囲まれて、ジタバタしていたヴェスタは部屋の外に出された。


「ふう……」

「うぐぐ……まさか、こんな攻撃とは……」

 エルフが床に転がったまま、股間を押さえている。

 彼も、謁見の間で閃光を見ただろうが、その光の中でなにが行われたかまでは把握していなかったようだ。


「聖女の純潔を奪おうとするような方には、それ相応の報いでしょ?!」

 私は右手で唇を拭った。


「ノバラ! どうした!?」

 急に後ろから呼びかけられて、私はそちらを振り向いた。


「モモちゃん!」

「ノバラの叫び声が聞こえた!」

「ありがとう――あいつが……」

 私がエルフを指さそうとしたら、その長い耳が叫んだ。


「なんで、ここにクソ鳥がいるんだ!」

 彼がフラフラと立ち上がる。


「なんでここにエルフがいる!?」

 そういえば、ハーピーたちはエルフたちから狙われていると言っていた。


「モモちゃんは、私の友だちよ」

「そのクソ鳥は、エルフの村になにをしたのか知っているのか?!」

 なんかすごい顔でこちらを睨んでいるけど――そんなの知らんがな。


「え? 知らない……」

 エルフたちが、魔法を使ってハーピーたちを撃ち落とそうとしたとか聞いたけど……。


「そのクソ鳥どもは、エルフの村を糞だらけにして住めなくしたんだぞ! それで我々は数百年暮らした村を捨てる羽目になったのだ!」

「それは、エルフが魔法を使って彼らを撃ち落とそうとしたからでしょ?」

「クソ鳥どもが、食料やチェチェを盗むからだ!」

「あ~それも聞いたけど……」

 元々は、ハーピーたちが食料を黙って取ったのが問題だとは思う。

 それで魔法で撃ち落とそうとするのはどうなの?

 基本的に反りが合わないのかもしれないが。


「お前がノバラをいじめたのか!?」

 ハーピーも怒っているらしく、羽毛が逆だっている。


「そうだけど、モモちゃんも落ち着いてね……」

 彼が窓枠から飛び上がり部屋の中に白い翼を広げると、エルフの頭上になにか白いものが降り注いだ。


「ちょ!」

 これは――白いけど、あれだろう。


「こ、このクソ鳥がぁぁっ!」

 白いゴニョゴニョ塗れになった男が激昂した。

 彼の前に青い光が集まる。


「だめだっての!」

 私は再び、エルフの股間を蹴り上げた。


「%&*(%$$!」

 長耳がその場にへたり込む。


「モモちゃん、逃げて!」

「でも、ノバラ!」

「私は大丈夫だから」

「解った!」

 ハーピーは窓枠に脚をかけると、そのまま外に飛び出した。


「うぐぐ……わ、私に対する愛を忘れたのかぁ?」

 エルフが股間を押さえながら、妙なことを言い出した。


「ええ? そんなの最初からありませんけど?」

「いったいなにごとだ!」

 開けっ放しになっていたドアから、国王が入ってきた。

 私のいる3階には、陛下の執務室もある。


「陛下! すべての元凶は、このエルフです!」

「大使!」

 国王が頭を抱えている。

 どうやら、このエルフは問題児らしいが、ゴニョゴニョ塗れなのは可哀想だ。


洗浄クリーン!」

 汚れがするするとこぼれ落ちて、絨毯の上で玉になる。


「アリスとクロミ、それを片付けて」

「かしこまりました」「了解!」

 クロミが敬礼をした。


「それで、なにがあった?」

 国王が殿下の隣に椅子を持ってきて、それに腰掛けた。


「大使が、無理やり私の唇を奪ったのです」

 私の言葉に、国王の顔色が変わった。


「大使! 聖女に手を出すとは、これは外交問題ですぞ!」

「口づけぐらいで、純潔がなくなるわけではなかろう」

「そういう問題じゃないんですよ! 強姦と一緒なんですけど!」

「やれやれ……」

 エルフにはまったく反省の色が見られない。

 もう1回キ○タマグッバイしてやろうかしら。


「いくら文化や風習が違うといえ、やっていいことと悪いことがありますぞ?」

「そんなことよりもだ! その聖女が、クソ鳥どもとつながっていたことが問題だ!」

「クソ鳥?」

 エルフの言葉を聞いた国王が、首を傾げている。


「ハーピーのことです。彼らとエルフの間には、確執があったみたいで……」

「我らにとっては、これこそが外交問題になる!」

 力説するエルフだが――本当に?

 なんだか、論点ずらしで私へのセクハラをウヤムヤにしようとしてない?


「私だって、こんなことで友だちの縁を切れなんて言われても、断固拒否します」

 縁という言葉が通じなかったので、交友だと説明をした。


「なんだと! 我らエルフより、あんなクソ鳥のほうを選ぶと言うのか?!」

「クソ鳥とか言うな! もう一発喰らいたいの?!」

 私の喝に、エルフが股間を押さえた。


「わ、私に対する愛を忘れたのかぁ!」

 そんなものないに決まっているでしょ?


 こんな話は堂々巡りで結論が出るはずがない。

 国王が間に入って、一旦お開きになった。


「このことは、エルフの里に連絡を入れるゆえ」

「ご随意に」

 唯我独尊の男に国王も困り果てているようだ。

 エルフって皆がこんな感じなのだろうか?


 長耳が部屋から出て行くと、途端に静かになった。

 ファシネート様などは、あっけにとられている。


「申し訳ございません。ファシネート様」

「!」

 ブンブンと手を振っているから、問題ないということなのだろう。


「エルフって皆があんな感じなのですか?」

「お城に大使として赴任しているのは、ずっとあの方だけなのですが――話に聞くと、エルフというのはおおよそあんな感じだと……」

「なん百年も生きているから、多分暇してる!」

 これはクロミの感想だが、私もそんな感じに見えた。

 トラブルを起こして楽しんでいるのではないだろうか?


 とにかく、せっかく知り合ったハーピーたちと縁切りなんてできない。

 少しの間お城にいただけで十分にお金も稼いだから、ここでティアーズ領に帰ってもいいわけだし。

 王族のファシネート様を助けただけで、十分に働きを示したでしょ?


「そもそも、あのエルフが私にあんなことをしなければ、騒ぎにならなかったわけだし」

「「「コクコク」」」

 皆がうなずいている。

 それよりも――暴れてしまったヴェスタはどうしただろうか?

 そっちのほうが心配だ。


 ------◇◇◇------


 ――エルフが騒ぎを起こした次の日。

 あのエルフは、本当に本国に連絡をしたらしい。

 国といっても、エルフの正式な国があるわけでなくて、大きな集落程度の人口しかいないらしいのだが。


 エルフの住処は、帰らずの森という前人未到の森の奥らしい。

 そんな所とどうやって連絡をしているのだろうか?

 元世界のように通信機みたいな機械があるわけでもないし。


「精霊通信?」

 私が自分の部屋でお茶を飲んでいると、アリスがエルフの通信方法について答えてくれた。


「はい、そのようなもので、エルフ同士は連絡を取り合っていると聞きました」

 エルフたちによれば、この世界は精霊という生きもので満たされているらしい。

 それは森に多く都会では少ないらしいのだが、得体の知れない生物を使って様々なことができるという。

 エルフだけに使える魔法のようなものだろう。


 イメージ的には精霊を使った伝言ゲームみたいなものらしいが、私の頭に元世界であるイメージが浮かぶ。

 伝言ゲームをすると、情報が正確に伝わらないのではないか。

 伝言する度に情報が劣化改ざんされていくような……。

 実際には、そんなことはないらしいのだが。


「それじゃ、お城とエルフの里との連絡はどうするの? やっぱり、エルフに頼るの?」

 それだと相手にどう伝わっているか解らないから、不便だと思う。


「そのためにホットラインがあります」

「ホットライン?」

 なぜ突然横文字と思ったのだが、これも歴代の聖女絡みらしい。

 それに相当する言葉がなかったので、聖女が知っていたホットラインという単語が定着してしまったようだ。


「ホットラインは、魔道具による通信装置です」

「エルフの里だけではなくて帝国との間にもある!」

 クロミが物知り顔でドヤァとしている。

 それじゃ、王国に聖女がいるとバレたら、そのホットラインで抗議がくるわけね。

 そんな機械がなかったら、抗議がくるだけで数ヶ月。

 その返事を出して、また数ヶ月――そんな呑気な感じになるはずだ。


「魔法ってすごい」

 進歩しているのか、してないのかよく解らない世界ね。

 たとえば魔法の袋みたいなものが元世界であったら革命的だし。

 世界が根底から覆るのだが、この世界よりすぐれた技術があってもそんなものは作れない。


「すごいですが、そんな魔法を使える方は限られていますし」

 その魔導通信機の操作も、あのレオスという王宮魔導師がやっているらしい。

 そんな人材じゃ、多少のヘマをしてもクビというわけにはいかないでしょうね。


 クビといえば――私絡みとはいえ、宮中で騒ぎを起こしてしまったヴェスタのことだ。

 今は、自室で謹慎しているらしい。

 あのエルフが悪いとはいえ、問答無用で斬りかかるのはやっぱりマズかったようだ。

 元世界と同じように、大使には不逮捕特権みたいなものがあるみたいだし。


 そういうのがあるのを、当然知ってて私にちょっかいを出してきたのね、あのエルフは。


「あの……」

 アリスが小さく手を挙げた。


「なぁに?」

「大使様は、聖女様に興味がおありなのでは……」

「え?! そうなの?!」

 普通にセクハラの嫌がらせかと思っていた。


「でもそれだと、ハーピーの存在が邪魔になるので、あんなことを言い出したのかと……」

「ええ~?」

 お披露目の会場ですぐにいなくなったので、私のことなんかに興味がないと思っていた。

 それにしても、私のどこに気に入るところがあったのだろうか。

 普通なら嬉しいとか思ってしまうところであろうが、あのエルフはぶっちゃけありえない。

 だってモモちゃんを敵視していたし。

 エルフとハーピーなら、私はハーピーを取るし。


 ――その日の午後、国王から呼び出しを受けた。

 場所はお城の地下。


 午後から、昨日仕込んだドラゴンの素材入り回復薬ポーションを作ろうと思っていたのに。

 自分であらかじめ予定を立てて、それに従って行動するタイプなので、突然の割り込みイベントは苦手。

 慌てたりすることはないのだが、楽しみにしていたことに水を差されるのはいい気分じゃない。


 メイドの案内で、光の入ってこない地下への階段と通路を歩く。

 残念ながら、ヤミはお留守番だ。

 真っ暗で湿っぽい通路には、青白い魔法の光が灯っている。

 その光を見ながら歩いていると、いったいなにをするんだろうと、不安な気持ちが湧き上がる。

 まさか、牢屋に入れられるとか幽閉されるとか?

 心配する私だが、案内してくれるメイドの様子は普段どおり。

 そんな様子はしない。


 たどりついたのは、大きな木製のドアの前。

 警備であろう、青い近衛騎士が2人立っている。

 2人に軽く会釈すると応えてくれた。

 いい人ばかりである。

 そりゃ王族の命を護るという仕事をしているのだから、中途半端な人材が地方から集められているわけじゃないだろう。

 近衛の仕事が満期になれば、地方に戻って団長になるような人ばかりなのだ。

 人格的にもそれなりの人でなければ、大きな組織はまとめられない。


 それはいいのだが――こういう所で、赤い騎士が仕事をしている場面を見たことがないのだが、彼らはいったいなにをしているのだろうか?

 面倒な仕事は、青い人たちに全部放り投げ?

 そりゃ国王じゃなくても予算の無駄だと考えるし、解体したくなっても仕方ない。


 ドアには鉄製の輪っかが取り付けられている。

 メイドがそれを握ると、打ちつけて大きな音を立てた。


「聖女様をお連れいたしました」

「入れ」

 中から声が聞こえる。

 ドアが開くと、そこは魔法の明かりが灯った薄暗い部屋。

 中心には、細長い台に載ったサッカーボール大の丸くて透明なものがある。


 中には陛下が待っていたのだが、他にも人の姿が。

 白いマントの王宮魔導師レオスと赤いマントの宰相閣下。

 レオスは謹慎中のはずだが、ここにいるということは、彼が必要――ということなのだろう。

 部屋の隅には、ローブを着た数人の魔導師の姿も見える。

 ひときわ小さい姿は、レオスのお兄さんだろう。

 あの人も高位の魔導師だと言っていたし。

 レオスは、私と顔を合わせてちょっと気まずそう。

 まぁ、悪い人ではないみたいね。


 暗くて解らなかったが、部屋の端っこにはあのエルフがいたようだ。

 それはいいとして――いったいここでなにをするのだろう。


「揃ったな、始めるぞ」

「「「はい」」」

 皆はなにが行われるのか、解っているようだ。

 知らないのは私だけ。


「あ、あの、恐れながら陛下……」

 私が心配していることを察してくれたのか、国王が答えてくれた。


「聖女様、これはエルフの里との通信の儀式だ」

「通信ですか?」

 いったい、どんな通信なのだろうか。


「うむ――エルフ里長が正式に抗議をしてきた」

「抗議……」

 私がエルフにキックをかましたことだろうか?

 でもあれは、セクハラしたあの男が悪いんじゃない。

 なにもせずに、あのままなすがままにされろと?

 冗談じゃない。


 魔法の明かりが絞られて辺りが暗くなる。

 レオスがなにやら唱え始めると、部屋の中心にあった丸いものが光り始めた。

 暗闇の中に像が浮かび上がる。

 ええ? すごい? 本当にTV電話みたいな通信装置?

 この魔法の機械の制御は、レオスじゃないとできないらしい。

 これじゃ、少々ヘマをしたからといって、大魔導師様をクビにはできないか。


 気がつくと、エルフの大使が私の近くにいた。

 もう、この人の相手はしたくないのだけど。

 ゆらゆらと揺れる像が、徐々にはっきりしてきてエルフの姿になった。

 背が高くつり上がった目をした異世界の住民がこちらを見ている。

 お城にいるエルフのように白いチャイナドレスのような服装に、白っぽい金髪。

 金糸の刺繍が入った上着を羽織っているので、多分偉い人なのだろう。

 その両脇には、背の低いエルフがいる。

 多分女性に見えるので、真ん中にいるのは男性なのか。

 相変わらず、性別がよく解らない。

 人のことはいえないが胸もペッタンコだし。


 シルエットだけ見れば、私がエルフとか言われるのも仕方ないと思えるが、顔が段違いじゃない。

 どうみても同じ生物と思えないし。


 そんなことを考えていると、国王とエルフの通信が始まった。


 

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