66話 エルフ
国民への聖女のお披露目はまだだが、王侯貴族たちへのお披露目が済んだことで、お城でも聖女の仕事が始まった。
とりあえずの仕事は、王侯貴族たちの病気や怪我を治すこと。
聖女なら聖女らしく、貧しい人たちやら身寄りのない子どもたちを助けたりとか、そういうことをしたほうがいいのかもしれないが、とりあえず言われたことをこなすだけだ。
国王陛下から、そういう仕事をやれと言われればやりますけどね。
この国から雇われていることになるので、勝手なこともできないだろうし。
近日の大きなイベントとしては、近衛騎士同士の試合があるのだが、それにはまだ日数がある。
お城の人たちは、その準備をしている真っ最中。
なにせ大きな闘技場に街の住民たちを可能な限り収容して、模擬戦を行う予定だ。
準備も突貫作業だろう。
全部国王が言い出したことだが、それに振り回される人たちが大変だ。
まぁ私としては、やることをやって金を稼ぎ、力がなくなったらティアーズの森に凱旋する。
そこで、もふもふの獣人たちと仲良く暮らして過ごす――というのが私のライフプランだ。
聖女の奇跡を使った治療の合間、空いている時間を使って回復薬を作ることにした。
治療のアフターサービスとして、薬が必要だと思ったからだ。
国王の紹介で王都の薬問屋を呼び、材料を手に入れた。
送られてきた箱の中には、薬草やら薬を容れる小瓶もある。
部屋で薬を作るとなると、大きなテーブルが欲しいので、お城で使っていないものを持ってきてもらった。
製作のための道具は、ティアーズ領の子爵邸で用意してもらったものを、そのまま持ってきたので、それを使う。
鍋や魔導コンロなどをテーブルの上に載せる。
人手はメイドたちがいるし。
テーブルの上に、薬を入れるための小瓶を並べた。
「ねぇ、こういうガラスってどこで作っているの?」
この世界には沢山のガラスがある。
薬を容れる容器もそうだが、街の建物にも沢山のガラスが使われている。
透明度も高くて、元世界のガラスにも引けを取らない。
「ガラスはガラス工房で作られていますが……」
私の質問に答えてくれたアリスも、不思議そうな顔をしている。
「それじゃ、その原料はどこで採掘しているの?」
「王都の南に、ガラス鉱山がありますけど……」
「ガラスの原料ってどんなものが使われていたっけ? 石英とか?」
「え? 石英ってなんですか?!」
「えっ?!」
「えっ?!」
「「……」」
2人の間に沈黙が流れる。
どうも話が噛み合っていないような気がする。
「石英という白い石の粉を溶かして、それをガラスにするんじゃなかった?」
「いいえ――鉱山からガラスが出てくるので、それを溶かして色々な製品を作っているはずですが……」
「えっ?!」
「えっ?!」
どうにも話が合わないので、詳しく聞いてみると――。
ガラス鉱山というのは、その名のとおり透明なガラスの塊が出てくるらしい。
それを溶かしてガラス製品を作っているようだ。
私が知っていたような石英からガラスを作るみたいなことは、この世界では行われていないみたい。
「へぇ~」
所変われば品変わるってやつね。
「聖女様のお国では違ったのでしょうか?」
「ええ。でもそれじゃ、鉱山が枯渇したらガラス不足になりそうねぇ」
「もう100年以上掘っているらしいですけど……」
ここに王都ができたのも、鉱山で掘ったガラスの取引が盛んだったためらしい。
ガラスが貴重品なので、元世界と違いリサイクルも盛んに行われているみたいだが。
「水に沈めるために木を石化する魔法があるぐらいだから、木をガラス化する魔法もあるんじゃない?
」
「あるかもしれませんが……そんな魔法を使えるのは、レオス様ぐらいじゃないでしょうか?」
つまり、魔法でガラスを作るのは可能かもしれないが、かなり高位の魔導師じゃないと無理。
魔法でガラスを作るのは現実的じゃないってことになるわけね。
メイドと話しながら、魔法の袋から水と鍋を取り出して、材料の薬草を量る。
水は、以前浄化したものが残っていた。
袋に入れておけば、腐ったり劣化することもないので便利この上ない。
水と薬草を鍋に入れて魔導コンロで煮るので、部屋の中ににおいがこもる。
窓を開けるか。
以前は窓を開けたら白い鳥がやってきたが、モモちゃんが住み着いてくれたおかげで厄介者がいなくなった。
窓を開けるのに躊躇する必要がなくなったのはありがたい。
材料を鍋で煮て、冷ましたら魔力を注ぎ込む。
色が赤くなったら完成。
手順はいつもと同じ――もう慣れたものだ。
赤い実がないので効能は少々落ちるが、聖女パワーで他の回復薬よりは性能がいいみたいだし、これで問題ないでしょ。
薬を作っていると、ファシネート様が遊びにきた。
作業を中断するわけにはいかないので、しばらく待ってもらうことに。
彼女は、私が薬を作る様子を興味深そうに見ている。
殿下の視線に見守られながら、メイドたちに手伝ってもらい、30本の回復薬を製作した。
このあとも患者は沢山訪れるはずなので、続けて作る必要があるだろう。
「ふう~やっと完成」
テーブルの上に瓶に入った赤い瓶が並んだ。
それを見た殿下が喜んでいる。
「ファシネート様は、回復薬を作る所を見たのは初めてだと申しておられます」
彼女の後ろにいるメイドが代わりに答えてくれる。
「そうですねぇ。普通は見る機会は少ないのかもしれませんね」
「コクコク!」
ファシネート様がうなずいている。
「う~ん、どうしようか……」
試したいことがあるのだが、殿下がいらしているのに、このまま作業を続けるわけにもいくまい。
迷っていると、メイドが口を開いた。
「ファシネート様は、自分に構わず作業を続けてよいと申しておられます」
「よろしいのですか?」
「コクコク!」
「それでは、あと1種類だけ薬を作らせていただきます」
「にゃー」
ヤミが、ファシネート様の膝の上にポンと飛び乗った。
彼女が黒い毛皮をナデナデしている。
お姫様の相手は、彼に任せて大丈夫だろうか。
この機会に試してみたいことがあるのだ。
私は魔法の袋から、試してみたい肝になるものを取り出した。
モモちゃんからもらった、ドラゴンの鱗である。
「!」
殿下が立ち上がり、テーブルの上に身を乗り出している。
「そ、それは?」
「これは、ドラゴンの鱗です」
「ドラゴンですか?!」
ファシネート様の後ろにいるメイドまで身を乗り出している。
「み、見たい!」
部屋の隅に控えていたクロミも見たいらしい。
「はい、どうぞご覧ください、殿下」
「!」
手に取った団扇のような鱗を見て、ファシネート様はすごく喜んでいる。
後ろにメイドたちも集まり始めた。
「聖女様、これをどうなさるのですか?」
「回復薬にこれを使ってみようかと」
「ドラゴンの鱗をですか?」
「ええ、どんな効能があるか興味があるので」
そうは言ってみたものの、どうやって薬の中に入れよう。
そのまま鍋に入れたって溶けるわけないしね。
鱗をちょっと返してもらうと、削ろうとしてみるが――固くて削れない。
「う~ん――温め」
鱗をちょっと温めて見た。
温めすぎると、タンパク質が変質するのではないだろうか?
慎重に加熱すると少し柔らかくなった気がする。
ナイフで鉛筆のように端から削ってみると、鰹節みたいな長くて薄いものができた。
「さて、こいつをどうするか……」
タンパク質を溶かすとなると――胃液とか?
胃液って酸だっけ?
この世界に、塩酸とか硫酸はあるのだろうか?
もしあったとしても、それで溶かしたものは薬には使えないだろう。
とりあえず、ワインビネガーはあったはずだ。
袋の中から酢を取り出してカップに少し注ぐと、そこに鱗の削り節を入れてみた。
少し魔法を使って加熱する。
反応の速度を上げるためだ。
「う~ん、やっぱりだめか~」
カップを持ち上げて揺すってみるが、溶けているようには見えない。
「聖女様は、薬学にも精通しておられるんですね?」
「コクコク!」
メイドが、殿下の言葉を私に伝えてくれる。
「私の国では、ほとんどの人が学校に入り、広く浅くなんでも知識を叩き込まれるからねぇ」
「国民のほとんどが教育を受けているということですか?」
「そのとおりです」
こういう話は、過去の聖女たちから伝わっていないのだろうか?
教育に関することは、この国の制度と違うのでマズいのかもしれない。
聖女さまの国では、皆が教育を受けられるというじゃないか、俺たちにも教育を受けさせろ! ――なんて言われたら為政者たちは困ってしまうかも。
国民の教育レベルが上がったら、国民が政治に口出しをするようになるかもしれないし。
そういう事態は王侯貴族たちは避けたいだろう。
実際に、隣の帝国では議院内閣制になっているみたいだし。
政治のことはさておき、今はドラゴンの鱗だ。
酢では溶けないとなると、あとはアルコールとか?
でも、ビールとかワインとか低濃度のアルコールじゃそんなに違わないだろうし……。
あと手元にあるとすれば――砂糖と塩ぐらい?
私は砂糖水と塩水を作って、その中に鱗の削り節を入れてみた。
さっきと同じように魔法で温める。
「聖女様、今はなにをなさっておられるのですか?」
「ドラゴンの鱗をなんとかして溶かそうとしているの。強力な酸などなら溶けるのはわかっているけど、そういうのを人が口にするものに使えないし」
「そうですよね……」
話をしながら、削り節が入っているカップを降っていると、変化が現れた。
「あ、溶けてる」
溶け始めたのは塩水のほうだ。
溶けるのが解ったので、塩の濃度を上げてみることにした。
試してみると――ある程度塩分濃度が高いほうがいいみたい。
砂糖に浸かっていた削り節も塩のほうに移し、追加で削ったものも投入する。
溶けるのは解ったのだが、時間がかかりそうなのでこのまま放置。
残りの作業は明日にすることにした。
時間がたてば、もっと溶けているに違いない。
私の様子を見ていた殿下が、メイドとひそひそ話をしている。
「聖女様、お茶にしようと思いますが、いかがでしょうか?」
「いいですねぇ」
「!」
また殿下とメイドがなにやら話すと、メイドだけが部屋から出ていった。
「聖女様」
私のメイドがどうしていいのか迷っている。
「ファシネート様が、なにかご用意してくださるようなので、待ちましょう」
「コクコク!」
彼女がうなずいている。
「かしこまりました」
皆で待っていると、メイドが両手で木の箱を持ってきた。
30cmぐらいか。
それをテーブルに置くと、なにやら白いものが入ったガラスのカップを出した。
蓋を開けた木の箱からはひんやりとした空気が流れてくる。
メイドが金色のスプーンを自分の袋から取り出した。
「これはもしかして――アイスクリーム?」
「やはり聖女様はご存知なのですね」
「それはもちろん」
生クリームがあるなら、アイスクリームがあってもおかしくない。
それにしても、どうやって冷やしているのだろう。
木の箱になにか仕掛けがあるようには見えないということは、事前に冷やしたものを魔法の袋で保存していたのだろう。
袋の中に入れておけば、熱いものは熱いままだ。
その反対に、冷やしたものも冷えたままなのだろう。
「これはどうやって冷やしているのですか?」
「魔法です」
メイドが説明してくれる。
温める魔法があるということは、冷やす魔法もあるってことか。
「聖女様、温める魔法より冷やす魔法のほうがかなり難しいのです」
アリスもそのことを知っているようだ。
「ということは、かなり高位の魔導師じゃないと冷やす魔法は使えないってこと?」
「はい」
私には魔力があるんだから、使えないかな?
冷やす魔法があれば色々と便利だし、アイスも作り放題。
「アルルは無理かなぁ。ルクスは知っているだろうか?」
「レオス様なら確実に知ってる」
クロミがそう言うのだが――そりゃ、この国で一番偉い魔導師なら確実だろう。
「う~ん、大きい弟や小さいお兄さんも、ボコボコにしちゃったしなぁ」
だって、ファシネート様の治療の邪魔したし……。
お兄さんのほうは、子どものフリをして触ってくるとかいう悪質な変態行為だったし。
「聖女様、冷却の魔法を習得したいのですか?」
「ええ。色々と役に立ちそうですし。でも、使えるか解らないんですけど……」
「……! ゴニョゴニョ……」
ファシネート様が、メイドになにか耳打ちをしている。
「聖女様、お城の書庫に魔法の書があると思いますが……」
「え?! それを見せていただけるのですか?」
「はい、別に特別なものではなくて、ありふれた魔法ですし」
一子相伝とか、そういう類ではないらしい。
本を読んで理解できればいいのだけど――まぁ、爆裂の魔法だって起動できるところまではいったし。
なんとかなるんじゃない?
私の話を聞いて、メイドが部屋の外に出て行った。
早速持ってきてくれるのだろう。
ありがたい。
私は、アイスを食べて待つことにした。
アイスを口に含む。
すごい濃厚で、生クリーム100%って感じだが、甘さはちょっと控えめかもしれない。
これは殿下の好みなのだろうか。
原料もそうだが、作るのに高位の魔導師の力が必要とか、恐ろしく高そうなアイスだ。
こんなのを食べられるのは王都でもほんの一握りだろう。
ほとんどの人が、こんな冷たいお菓子がこの世に存在しているのも知らないはず。
アイスを食べる私と殿下を、メイドたちが羨ましそうにみている。
メイドがそういう顔をしたら失格なのではないだろうか?
メイド長みたいな人がいたら、どやされるかもしれない。
私が魔法を覚えれば、彼女たちにもアイスを作ってあげられる。
覚えられる魔法ならいいのだが。
待っているとドアの外が騒がしいのだが、メイドが戻ってきたのだろうか?
私は席から立つと、ドアを開けてみた。
するとそこには、大きな人影。
「聖女様」
対応していたのは、ヴェスタのようだ。
彼の前には背の高い――エルフ?
多分、エルフだろう――だって、耳が長いし。
私より背の高い細身の身体に、白いチャイナドレスのような服を着ている。
白っぽく腰まである長い金髪に、つり上がった青い目。
およそ人に見えない美しい生きものに見えるのだが……性別が解らない。
「どうしたのですか?」
ヴェスタに揉めている原因を聞いた。
「この者が部屋に入れろと……」
「聖女様――私が書庫に魔法の本を探しに行こうとすると、大使が聖女様に魔法を教えてあげるからと……」
偉い人にそう言われてメイドが断り切れなかったのだろう。
「エルフの大使、サルーラだ」
美しい顔から出た綺麗な声だが――やっぱり男だ。
この世界、美男子多すぎ問題。
「なぜ、わざわざエルフの大使様が」
「なぜって、聖女様に興味があったからさ。魔法が使える聖女なんて初めて見たわけだし」
「それだけですか?」
「ああ、珍しいからね。それに魔法なら私が教えてあげられる」
自分でそう言うからには、魔法が得意なのだろう。
他の人をチラ見しても、そのことについて異論はないみたい。
「私が知りたい魔法は、冷却の魔法なのですが……」
「ああ、冷却だろ? 知っているから心配するな」
エルフが、私の顔を見てニヤニヤしている。
なんだろう? 見たことがない珍獣を見物している感じなのだろうか。
まぁ、人間じゃないし文化も違うだろう。
獣人というのは人らしいが、彼らはまったく別の生きもののように見える。
それはさておき、魔法を教えてくれるというなら、私としても好都合だ。
お城の中で、それも沢山の人がいれば、大使とかいう立場の人がセクハラみたいなことはしないだろうし。
人じゃないけど。
「それでは、お入りください」
「失礼する」
エルフが部屋の中に入ると、椅子に座っている殿下に気づいて深く礼をした。
ファシネート様も、突然のエルフの訪問に驚いたようだ。
「ふぎゃ!」
殿下だけではなくてヤミも驚いて、床に飛び降りるとベッドの下に潜り込んだ。
「ファシネート様、申し訳ございません」
メイドの謝罪を聞いて、彼女が手を上げた。
身分の低い者では、大使の行動を制限できないと解っているのだろう。
「さて、魔法のことなら、どんどん聞くがいい」
顔が近い! 言葉どおりにどんどん迫ってくる。
なんか基本的に人間と距離感が違うような感じがする。
それとも、この人だけだろうか?
迫ってくる顔を手で押しのけた。
「エルフという種族は魔法が得意なのですか?」
「その通り、エルフは全員が魔法を使えるし、只人が使えない精霊を使うこともできるぞ」
「精霊?」
「ああ」
私たちには見えないが、そういう生きものがいるらしい。
私は袋から紙とペンを出して、エルフの言う呪文を写し取った。
「へぇ~」
私が紙に書いているのは、日本語だ。
それをエルフが興味深げに覗き込んでいる。
その距離も近いのだが、近づくとなにか草のようなにおいがする。
「――!」
私との距離が近いことに、ファシネート様も手をパタパタさせて憤慨しているのだが、まったく気にしている節がない。
人間の王族なんて歯牙にもかけていないみたい。
「ふ~む、そうだな――聖女様は温めの魔法は使えるのか?」
「ええ、もちろん」
「そのときには、どういう像を頭の中で描いている?」
「ええ? なにも考えてないけど……」
「それなら、なにかが凝縮する像を描いて魔法を唱えればもっと効率があがる」
「そうなんだ」
さすが魔法の専門家だ。
早速、実践してみる。
「ん~なにかが集まってくる感じね――温め!」
なにか物体を温めたわけではない。
強いて言うなら、目の前の空気を温めた感じだったのだが……。
魔法を止めた瞬間、なにかが弾けるような音がして衝撃波が襲った。
「ぎゃ!」
「「「きゃぁ!」」」「おう!」
変な声を出したのはクロミだが、魔法を使った本人が一番驚いた。
「び、びっくりした」
「空気の温度が急激に上がったので、膨張したんだ」
なにが起きたかエルフが説明をしてくれた。
なるほど、空気を温めると膨張するって学校で習ったけど、それか。
つまり、エルフの言ったとおりにイメージしたら、いつもより温度が上がったということになる。
これだけ大きな音が出るなら、脅かしたり追い払ったりするのにも使えそうだ。
「はぁ」
「冷却の魔法はその反対の像を描けばいい」
「なるほど!」
さすが本職だ。
やはり解らないことがあったら、すぐに詳しい人にアドバイスをもらえるのは大きい。
私は、早速教えてもらった冷却の魔法を試してみることにした。
「……」
私の魔法をファシネート様が心配そうに見ている。
「む~」
精神統一して魔法を展開し始めると、突然目の前がぐるぐると回り始める。
「どうした?」
「あわわ……目が回る」
立っていられなくなって、その場にへたり込む。
「それは、魔力酔いだろう」
「解ってます」
爆裂魔法を使おうとしたときと同じ状態なので、冷却の魔法は同じぐらい高位の魔法なのだろう。
高度な魔法を使うときには、瞬間的に大きな魔力が必要になるとルクスが言っていたとおりだ。
それを打破するために、私には秘密兵器がある。
私は袋から大きな魔石を取り出した。
「なるほど魔石か」
「ええ」
「しかし、大きいな――もしかしてドラゴンの魔石か?」
「解りません。知り合いからもらったもので」
「ほう……」
魔石が魔力の電池になると聞いたので、毎日少しづつ充填をしていたのだ。
真っ黒だった魔石の中には、青い光が灯っている。
私は魔石をテーブルの上に置くと、その上に手を乗せた。
次に呪文を唱えて魔法を展開する――今回はめまいを起こすこともなく、青い光が舞い始めた。
魔法の展開に成功した証だ。
魔法が展開すれば、あとは魔力の投入で規模を調節できる。
私は魔力の通り道が狭いようなので時間がかかるが、タンクがやたらとデカいらしいので、時間さえかければいくらでも威力を上げられる。
「冷却!」
魔法によって空気中の水分が凍り、テーブルの上にパラパラと雪が降り始めた。
水を凍らせれば、かき氷もできそうだし、飲み物をキンキンに冷やしたりもできる。
これは色々と、はかどりそうな魔法になりそう。





