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65話 人のつながり


 お城で聖女としてのお仕事が始まった。

 まずは、侯爵夫人という方の治療だ。

 産後の肥立ちが悪いというのだが、聖女の力を使うと顔色は改善した。

 あとは回復薬ポーションで大丈夫ではなかろうか。

 夫人に私が作った薬を持たして、治療は終了になった。

 やはり薬は必要な気がする。

 病院などに行っても、薬を出してくれないと不安になったりするものだ。


 ティアーズで作った在庫もそろそろなくなりそう。

 早めに追加の回復薬を作らなくては。


 ちょうど今日の午後に、御用商人ならぬ御用薬問屋が訪ねてくる予定になっている。

 どんな人が来るか少々不安なのだが、国王の紹介なので大丈夫だろう。

 初めての治療も順調に終わり、聖女の力を使ったときの気を失った時間も数分だった。

 やはり広範囲を一気に――みたいなことをすると、長時間倒れてしまうようだ。


 お昼近くになり昼食の準備をしていると、ファシネート様がやってきた。

 一緒にお昼を食べたいらしい。

 私としても楽しく食事をしたいので、一緒に食べることにした。

 メイドたちによって食事の準備がされる。

 昼食はいつも軽めらしいので、豪華な食事がズラリと並ぶこともない。

 天気がいいので、窓を開けると爽やかな風が入ってくる。

 お城に巣食っていた白い鳥たちがいなくなったため、窓を開けることもできるようになった。


「にゃー」

 椅子に座っているお姫様の膝の上にはヤミが丸くなっていて、黒い毛並みをなでられている。


「これも聖女様のお力のおかげでございます」

 ファシネート様といつも一緒にいるメイドがそう言うのだが、白い鳥がいなくなったのはモモちゃんが住み着いたせいだ。

 まぁ、ハーピーがここにいるのも私が来たせいだから、聖女のおかげ――ということになるのだろうか。


「それはちょっと違うのです。私のお友だちがここらへんに住み着いたせいなんですけど……」

 モモちゃんのことを話そうとすると、窓から声がする。


「ノバラ!」

 声をしたほうを向くと、ハーピーが窓枠に止まっていた。


「モモちゃん、ご飯食べる?」

「食べる!」

 窓に行くと彼が私に抱きついてきたのだが、その動きが止まった。


「どうしたの?」

「……!」

 見れば、ファシネート様がいつの間にか近づいてきていて、キラキラした目で白い翼を見つめていた。

 突然知らない人に近寄られたので、モモちゃんが驚いて私の背中に隠れようとしている。


「モモちゃん、知らない人だけど、この方は大丈夫よ?」

「じ~っ……」

 彼が、お姫様を見つめていたのだが、すぐに目を逸した。

 やっぱり初めて見た人物に近くに来られると、警戒をするようだ。


「ファシネート様、お菓子はありませんか? 彼はお菓子が大好きなのです」

「!」

 彼女がメイドを呼ぶと、なにかひそひそ話をしている。

 それが終わると、メイドがダッシュをした。

 なにかお菓子を取りに行かせたのだろう。

 王族ならさぞかし珍しいお菓子もあるに違いない。


 ファシネート様から指令を受けたメイドが、素早く部屋から出ていった。

 走っているわけではないのだが速い。

 只者には見えないのだが、王族のお付きということは護衛の任務も兼ねているのだろうか?

 もしそうならば、彼女は武術の達人――なのかもしれない。


 私がメイドさんのことを考えていると、彼女はすぐに戻ってきた。

 殿下の所にやってくると、彼女になにか手渡す。

 ちょっと赤くて四角いもの――私はそれに見覚えがあった。

 森の中の家にククナが持ってきて、一緒に食べたそれだ。


「ファシネート様、それはチョコですか?」

「コクコク!」

 彼女がすごい勢いでうなずいている。


「モモちゃん、お姫様が珍しいお菓子をくれるって。すごく甘くて美味しいのよ?」

「お菓子?!」

「ええ」

 ファシネート様が、指で摘んだ四角いチョコをそっとハーピーの口元に近づけた。


「クンカクンカ……パク!」

 少しにおいを嗅いで、モモちゃんがチョコを一口。


「どう?」

「甘い! 美味い! これは、エルフのチェチェだな!」

「チェチェ?」

 そういえば、チョコの原料はエルフから輸入しているとかなんとか。

 お城にエルフの大使がいるのも、そのせいなのかな?


「そう! でも、エルフのチェチェは、不味かった!」

「それは、エルフの食べ物を歴代の聖女様が、改良してくださったものです」

 殿下にお付きのメイドが説明をしてくれる。

 やっぱりそうなんだ。

 あ、でも……ハーピーがエルフたちを知っているということは、交流があるのだろうか?


「モモちゃん、エルフたちに会ったことがあるの?」

「あるぞ! やつらは森の奥に住んでいる」

 普通の人間たちには前人未到って話だったから、危険な森の中で暮らせるエルフ独自の文化があるのだろう。


「そうなんだ。もしかして、ハーピーってエルフたちとも取引しているの?」

「してないぞ?」

「え? そうなの? でも、チェチェってのを食べたことがあるんでしょ?」

「やつらの村にあったのを飲んだ」

「飲む?」

 どうやら、エルフたちはチョコの元を飲み物として飲んでいるらしい。


「そう! 黙って飲んだら、すごく怒って俺たちを魔法で撃ち落とそうとした!」

「駄目よ、黙って飲んだりしたら」

「大丈夫、ノバラのは黙って飲んだり食べたりしない」

「ありがとう」

 他の人たちのも、飲んだり食べたりしちゃ駄目なんだけどなぁ。

 そこらへんは文化の違いってやつかぁ。

 これじゃ、共存共栄ってのは難しいのかもしれない。


 彼と話していると、殿下がモモちゃんのある一点を凝視している。

 それに気づいたメイドが、後ろから掌を使って彼女の目を塞いだ。


「いけませんよ、王族の方がそのようなものを凝視しては」

「~!」

 目を塞がれたファシネート様が、手をパタパタさせながらハーピーから引き離された。

 王族の方に直接触っても問題ないぐらいに、信頼関係が構築されているように見える。


 昼食の途中だったので、モモちゃんを抱っこしたまま食事にする。

 食事のメニューは、小さな焼いた生地の上に肉や野菜などが載っている食べ物。

 色々とカラフルな組み合わせが沢山あるので、見ているだけで楽しい。

 王都が海の近くということで、魚の切り身や魚の卵らしきものも見える。

 こういうのなんて言うんだっけ? カナッペ?


 美味しそうではある。

 食べるときには大口開けないと駄目なのだが、高貴な方々的にはいかがなものか。

 私のそんな心配をよそに、ファシネート様が口を開けてカナッペを一口で食べた。


 さて、モモちゃんにはどれがいいだろう。

 一番無難そうな、肉と野菜とチーズらしきものが載っているのを選択した。

 選んだものを摘むと、モモちゃんに食べさせてあげる。

 この食べものはハーピーの脚で食べるのは難しそう。

 私が食べさせてあげると、美味しそうにカナッペを味わっている。


「美味しい?」

「おう! これは美味い!」

「よかった。それじゃ私も食べるわ」

 私は魚の卵らしきものが載っているものを選択した。

 それを口に入れると、プチプチした感触と、とろりとした旨味が口の中に広がる。


「これは聖女様がもたらされた料理なのですよ」

「ああ、やっぱり……」

 そんな感じだと思った。

 この世界で魚の卵とかどういう扱いになっているのだろうか。

 今度は、魚の切り身らしきものが乗っているものを食べてみた。

 生身の魚ではなく、酢で漬けてあるらしい。

 そこに赤くて甘辛いソースがかかっている。

 これも美味しい。


「にゃー」

 モモちゃんと一緒にカナッペを味わっていると、足下にヤミがやってきた。


「なぁに? ファシネート様からもらえばいいでしょ?」

 私の少々嫌味っぽい言葉にも構わず、彼がテーブルの上に飛び乗ってきて、料理をクンカクンカしている。

 いつも紳士的な彼であるが、普通にネコっぽいこともある。

 本当にネコなのか怪しいところもあるのだが、こういう行動を見ていると普通のネコだ。

 私は並んでいる料理から、肉の部分を外してヤミにあげた。


「これなら食べられるんじゃない?」

 肉を咥えた彼は、テーブルの下に飛び降りるとそのまま食べ始めた。


 スープもあるのだが、ハーピーは皿では飲めないので柄付きのカップに入れてもらう。

 それなら脚でつかんで器用に飲むことができる。

 モモちゃんの食事をにこやかに見ていると――それをファシネート様が、興味深そうにじ~っと見ているのに気がついた。

 ずっとお城にいると退屈なのかもしれない。

 面白いことに飢えているように感じる。


 楽しい昼食が終わり、お腹いっぱいになったモモちゃんが、窓から飛び出した。

 あまり食べ過ぎると、身体が重くなって飛び方が鈍くなりそうなのだが、大丈夫なのだろうか?

 鳥のイメージからすると、こまめな食事を取り続けている――みたいな感じなのだけど。


 食事を終え、珍しいハーピーも見ることができて、殿下は喜んで自分の部屋に戻っていった。


「さて!」

 午後の予定は、薬問屋がやってくる。

 どういう人が来るのだろうか?

 御用聞きなのだから、身元はしっかりしているのだろうけど。

 テーブルでお茶を飲みながら、ティアーズ領にいたバディーラを思い出していると、ドアがノックされた。


「はい、どうぞ~」

 ドアを開けたのはメイドさん。


「薬問屋のカデナをお連れいたしました」

「こちらに通してください」

「かしこまりました」

 メイドが脇に寄り頭を下げると、入ってきたのは黒いドレスを着た女性。

 歳は40代だろうか。

 大きな胸を自慢するかのごとく、胸元が開いたデザインの格好だ。

 太い眉毛で、気が強そう――そんな第一印象。

 絶世の美女ってわけじゃないが、男の人ってこういう女性が好きそう。


「にゃ」

 驚いたのは、彼女の肩の上には白いネコが乗っていた。

 この姿とネコ、この女性は魔女であろうか。

 そんなことを考えていると、女性が深々と礼をした。


「薬をご所望ということで、まかりこしました薬問屋のカデナでございます」

 私は椅子から立ってお辞儀をした。


「初めまして、ノバラです。私の正体は聞かされているのかな?」

「……聖女様だと」

「ああ、知っているのね。それではよろしくお願いいたします。私が欲しいのは薬草なの」

「薬草ですか?」

 聖女からの意外な言葉に、相手が困惑している様子が伝わってくる。


「突然聖女ってことになっちゃったけど、元々は魔女だったのよね」

「魔女? 本当ですか?」

「ええ」

「にゃー」

 ヤミが足下にやってきたので、しゃがんでやると彼が肩に乗ってきた。


「ほら」

「それはもしかして、『ネコの下僕になる魔法』……?」

「そうよ」

「にゃー」

 ヤミが白いネコに挨拶したが、無視されてしまったようだ。

 そっぽを向かれてしまった。


「まさか、聖女様が魔女だなんて……」

「魔法が使える聖女ってのは初めてらしく、信じてくれない人も沢山いてね」

「それはそうだと思います」

 立ち話をしていても仕方ない。

 座ってもらうと、メイドにお茶を頼む。


「なにかお菓子とお茶をお願い」

「かしこまりました」

「それで薬草というのは……」

回復薬ポーションを作りたいので、その原料が欲しいの」

「回復薬もお作りになるのですか?」

「ええ」

 魔法の袋から、数少なくなったサンプルを出した。

 それをカデナという魔女が手にとり、窓から入ってくる光に掲げた。

 机の下では、ヤミが白いネコのお尻をクンカクンカして、嫌がられている。

 脈はなさそうだから諦めたほうがいいんじゃない?


「こんな鮮やかな色の回復薬は見たことがありません」

「効き目は大丈夫よ。なんべんも試したから」

 袋の中から薬の本を出して、製作に必要な原料を書き出す。


「白いネコちゃんの名前はなんて言うの?」

「ユキです」

 白いからユキだと思うのだが、この国の言葉でもそう言うのだろうか?


「ユキってどういう意味?」

「高い山の上にある白いものですが……」

「やっぱり、そのユキなの? もしかして過去の聖女様絡み?」

「そうだと言われてます」

 ここらへんは雪が降らないので、あまり馴染みのないものだったのだろう。

 多分、なにか白いものにユキという名前をつけて、それが広まったものなのかもしれない。


 話をしながらカデナという女性が、私が提示した薬草をチェックしている。


「ほとんどが手に入りますが、これは無理です」

 彼女が示したのは、あの赤い実。


「ああ、やっぱりそれは無理なのね」

「はい。もしもあるなら私が欲しいくらいでして」

「私も採るのに苦労したから……」

 まぁ、赤い実がなくても少々効能が落ちるだけで、回復薬ポーションは作ることができる。

 聖女の力を使えば劣化バージョンでも、普通の薬より効き目は上なのだし。


「なにか代わりになるような薬草は?」

「そうですねぇ。ちょっと思い当たりません」

 代替品があるなら、入手困難な赤い実をわざわざ使う必要がない。


「在庫があるなら欲しいのだけど……料金は?」

「はい」

 彼女から提示された金額は、金貨2枚――40万円。


「高っ!」

「申し訳ございません。王都周辺は薬草が採れず、すべて他の領から仕入れておりますので」

「ご、ごめんなさい。う~ん……でも、買うしかない」

「ありがとうございます」

 彼女から話を聞くと、回復薬は1本金貨1枚(20万円)らしい。

 原料が高くなれば、当然できあがる商品も高くなる。

 当たり前だが、これじゃ金持ちや王侯貴族しか薬を使えなくなる。

 回復薬だけではない。熱冷ましや回春薬などの普通の薬も、庶民にはちょっと手が出しづらい値段になるだろう。


 僻地は僻地の良さがあるのね。


「でも、それじゃ薬を扱う魔女は少なそう」

「ここの魔女たちはほとんどが創薬に手を出しておらず、もっぱら掃除洗濯や、魔石の充填を生業にしております」

「魔女にとっては王都と僻地、どちらがいいのか……」

「ここは、とにかく人が多いので、魔力があれば稼げますよ」

「なるほどねぇ」


 薬草は後日送ってくれるという。

 ありがたい。

 お城への荷物は、裏口にあった仕分けセンターみたいな所で分けられて、メイドが私の所まで運んできてくれるようだ。


「地方から買うのは中々大変そうね。ティアーズ領のメランジュにいるバディーラという薬問屋を知ってる?」

「彼をご存知なのですか?」

 やっぱり知り合いなんだ。


「すごくお世話になったし」

「そうですか。あの人は元気でしたか?」

「ええ、いい人ですよね。顔は怖いけど」

「ふふふ、その通りですが」

 彼女の顔を見ると、ただの仕入先とは思えない。

 ――となると、好奇心を押さえられない。


「失礼な質問だと思うのだけど、バディーラとの関係は? なにか特別な感じ?」

「はい……元夫ですが」

「ええ~?」

 あの人結婚してたんだ。

 まぁ、顔は悪人面だけどいい人だし。

 それを知っている女性なら、彼に惹かれてもおかしくない。


「ああ、元といっても、正式に夫婦になっていたわけではないのですが……」

「別れてどのぐらい?」

「かれこれ10年ですか」

 そう言うと、彼女は懐かしそうな顔をしている。

 彼女の話では、王都で仕事をするために別れたらしい。

 バディーラはティアーズ領で仕事をするのを選んだのだろう。

 薬草を作ったり研究するためなら、ティアーズ領のほうが絶対に有利だし。

 それに薬で沢山の人を救いたい――なんて考えていたら、薬が安いあの街のほうがいい。

 まぁ、儲かるのは王都のほうなんだろうけど。

 薬草の仕入れ先も、バディーラがほとんどらしい。


「それなら品質も問題なしね。彼の見立ては確かだったし」

「はい」

 原料が高くても、貴族に処方するもので売るわけじゃないし。

 おそらく何倍にもなって返ってくる――はず。

 それに資金ならあるし。


 お茶を飲みながらカデナと話していると、彼女の膝の上に白いネコがポンと乗った。

 そういえばヤミはどうしたのだろうと下を見れば――椅子の下でふてくされていた。

 どうやら振られたらしい。


「ふふ」

 思わず笑ってしまったのだが、彼の打率はどのぐらいだろうか。

 くだらないことを考えているとドアが開いた。


「酷いぞノバラ!」

 ノックもせずにはいってきたのは、国王陛下だ。

 女2人で立ち上がると礼をする。


「国王陛下にはご機嫌麗しく――」

 カデナの挨拶を彼が遮った。


「いかがなされましたか? 陛下」

「ハーピーが来たら教えてくれると申したではないか?!」

「え? は?! あ、あの、それはファシネート様のお話なのでは……?」

「……」

 彼がむくれている。

 いい歳をして、子どものようだ。

 一応、窓を開けて確認してみるが、それらしき白い影はない。

 モモちゃんはさっき色々と食べたので、近くにはいないと思われる。


「わかりました、次にハーピーが来たときには呼びますから」

「絶対だな」

「はい」

 国王がカデナのほうを向いた。


「薬問屋、聖女様の件はまだ口外するなよ」

「心得ております」

「よろしくたのむ」

 言うことだけ言って、国王は自分の部屋に戻っていった。


「ふう……」

「あの、ハーピーというのは……?」

「ここらへんに1人住み着いているのよねぇ。あ、それも他言無用にしてくれる?」

「もちろんです」

 ハーピーが街の噂になっても、一般人がお城に入れる可能性はゼロに等しいし。

 商売の話は上手くいき、薬草は手に入れられることになった。


 ------◇◇◇------


 ――薬問屋がやってきた次の日。

 午前は、貴族のお年寄りの治療だ。

 緑色のコートのような服を着た、白髪のお爺さんがやってきた。

 頭は禿げているが髭が立派だ。

 話を聞くと腰が痛いらしいが、話し方も丁寧で品がよいお年寄りだ。

 この方も聖女派という話。

 昔聖女に会ったことがあると、嬉しそうに話してくれた。


 杖をついてここまでやってくるのも大変だろう。

 この世界には、車いすもないだろうし。

 自力で動かすような車いすは無理でも、押してもらうものは作れないだろうか?

 普通の木の椅子に車輪をつければいいと思うし。

 色々な補助器具のことを考えながら、お爺さんをベッドにうつ伏せに寝かせて奇跡を使う。

 治療に使っている部屋には、ヴェスタも待機しているので、サポートを頼む。


 今日の奇跡も、1分も倒れていなかったらしい。

 お爺さんも、治療が終わったあとにはだいぶ楽になったらしく喜んでいた。

 本当は回復薬ポーションも渡したいのだが、在庫切れだ。

 やはり早急に薬がいるだろう。


 午前の治療が終わり、ヴェスタと別れて部屋に戻ると――私の部屋に荷物が届いた。

 40cmぐらいの木箱。


「聖女様、薬問屋からの荷物です」

「え? もう届けてくれたの?」

 まるで宅配便のような速さだ。

 同じ王都だからできるのかもしれない。

 いや、魔法の袋があるのだから、獣人たちの飛脚に頼めば宅配便も可能なのではあるまいか?

 手紙が届くのだから、荷物だって届くはず。

 今度、飛脚に出会ったら聞いてみよう。


 荷物を開けると、中に薬草が沢山入っており、それを入れるための小瓶も詰められていた。

 数にして40本ほど。

 やった、これで回復薬ポーションが作れる。


 それにしても――元世界の感覚そのままで不思議に思わなかったのだが――。

 薬を容れる瓶とか、建ち並ぶ建物には大量のガラスも使われている。

 これらは、どこで生産されているのだろうか?

 こういったものも魔法で生み出されているのだろうか?

 こんど誰かに聞いてみよう。


 薬草が入っていた木の箱は通箱といって、この世界の流通で使い回される共通財産みたいなものらしい。

 このままお城の1階に運ばれると、他の荷物が入れられてどこかに発送される。

 私物化したり、勝手に処分したりはできない。

 壊れたものは、国が管理している流通の拠点などに行くと取り換えてもらえるらしい。

 この世界独特の便利なものだ。


 これで回復薬ポーションが作れるようになったのだけど、試してみたいことがあるのよねぇ。

 モモちゃんからもらったドラゴンの鱗――あれを薬に使えないかな?

 鹿やサイのつのなんかも漢方薬になるってぐらいだし、要はタンパク質でしょ?

 なにか効能があるかもしれない。



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