62話 聖女お披露目
お城でさほどやることもなく、ダラダラと過ごしていた私に朗報だ。
私と別れたあと、こちらに向かってきていたティアーズの面々が王都に到着したのだ。
彼らの到着を待って、聖女のお披露目を執り行うと国王から言われていた。
朝から湯浴みをして身体を清め、新しく作られた白いドレスを身にまとう。
化粧が終わり、メイドに連れられてやって来たのは、小さな小部屋。
ここは、お披露目が行われる謁見の間の横にある控え室。
通常は王族しか入れない場所らしい。
ここで、私の肩に乗っていたヤミを降ろした。
「ここで待っててね」
「にゃー」
私のことを心配しているのか、彼がドレスをスリスリしてくる。
「大丈夫よ」
――とはいうものの、リハーサルなどもなくてぶっつけ本番である。
お披露目といっても、堅苦しい決まった形式などはないらしいので、地で行けということなのかも。
国王の挨拶が始まったと思ったら、すぐに聖女が呼ばれた。
「え!? もう?!」
「はい、聖女様」
心の準備ができていないのに、両開きのドアが開けられた。
私が出たのは、謁見の間の奥にある玉座の後ろ。
ここは陰になっているのだが、部屋の中心には左側から陽の光が斜めに入ってきており明るい。
天井には、魔法で光るシャンデリアもあるので、部屋の中心に敷かれている赤い絨毯がくっきりと浮かび上がる。
その上には、見るからに上等な服装を着込んだ沢山の貴族たち。
ドレス姿は見当たらないので、ほとんどが男性のようだ。
赤い祭服に首から白い帯のようなものをかけた宗教関係者らしき老人もいる。
こちらを睨んでいるので、あまりよい印象を持っていないように思える。
部屋の脇には、赤と青の騎士団が並び、左側は赤で右側が青。
チラ見すると、あのドラ息子騎士が筆頭になっている。
ドラ息子だけではない。ワイバーンに襲われたときにいた近衛たちが全員そろっている。
あんなことがあったのに聖女のお披露目に出てくるなんて、心臓に毛が生えているのか。
病欠でもすればよかったのに。
まさか自分たちは身分が高いから、糾弾などされないだろう――などとたかを括っているのだろうか。
私は貴族の面々の中に、ティアーズ領主の姿を見つけて、少し緊張の糸がほぐれた。
領主の後ろにはジュン様とヴェスタが見える。
彼らは私の晴れ姿を見てどう思うだろうか。
ここは玉座の影になっているので、向こうからはまだよく見えないだろう。
「ふう……」
1度、深呼吸してから、私は明るく輝く舞台へと脚を踏み出した。
王様の近くに宰相閣下がいて、立ち位置を教えてくれる。
ありがたい。
私が姿を現すと、集まった人たちからのざわざわが一段と大きくなった。
「あれが、今上の聖女……」「陛下が極秘で召喚なされたというのは本当でしょうか?」「エルフではないのか?」「いや、エルフにしては耳が……」
幸い、これだけ着飾っていれば、男じゃないかという声は聞こえてこない。
志が低いが、私としてはそれだけで嬉しい。
もういっそ男装でもしたほうがいいのでは? ――とすら思う。
私は、国王が座っている玉座の前に立った。
彼の横には、ファシネート様が立ってこちらを見守っている。
ちょっと前まで、ガリガリで死の淵をさまよっていたとは思えないぐらい回復している。
「皆の者、静まれ~い! 聖女様からお言葉をたまわる」
「皆様、忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。私が聖女のノバラと申します」
私はスカートの裾をつかんで、頭を下げた。
なんだか結婚式のスピーチみたいになってしまった。
だって仕方ないじゃない。
こんなのやったことないし、リハーサルもないんだし。
「「「おおお~っ!」」」
集まった人たちから歓声と拍手が湧き上がるが、その中でも拍手をしていない人たちもいる。
彼らが、聖女に反対する人たちだろう。
「この者が本当に聖女だという証拠はあるのですかな?!」
前にいた、立派な髭を生やした貴族が声を上げた。
「助からないと言われていた我が最愛の妹を、病魔から救ってくれたのだぞ? 国王である私が証人である」
「うぅ……」
今度は別の貴族が声を上げた。
こちらは、頭の禿げた太った親父だ。
いかにも貴族って感じ。
「恐れながら陛下、その者は魔女だというではありませんか!」
男が発した魔女という単語に周りがざわつく。
その雰囲気を察した貴族が、さらに追い打ちをかけた。
「古今、聖女は魔法を使えない方々でした。つまり、魔女であるこの女は、聖女だと言い難いのでは?」
聖女のことはもちろん、私が魔女ってことも秘密にしていたのに、どこからか漏れていたということになる。
そのことを知っているのは、私の世話をしていたメイドか――。
それとも、国王直属の笛吹き隊の中に貴族側へ情報をリークしている者がいるのか。
「なにごとにも例外というものがある! ノバラは、この世界で初めての魔法を使える聖女なのだ」
「し、しかし……」
食い下がる貴族に、国王が不機嫌そうな声を上げた。
「召喚した本人が間違いないと申しておるのだ! こんな確実な証拠はあるまい! もっとも、召喚に失敗して、王都からちょっと離れたティアーズ領の森に召喚されてしまったがな、ははは!」
「「「ざわざわ……」」」
貴族同士が、あれやこれやと話している。
まぁ、正式に聖女召喚の儀式をやるとお触れを出してから召喚すれば、間違いないでしょうけど。
今回は、そうじゃないし。
この国王は、隣の帝国が召喚したと思われる聖女をネコババしようとしているのだ。
まさか本当のことを言うわけにもいくまい。
「それに我が妹を見るがよい。病に侵され死の淵をさまよっていたのに、短期間でこのように完治している」
国王が、隣に座っているファシネート殿下を指した。
王様と貴族たちが揉めていると、私は壁側――青い近衛がいるほうに人影があるのに気がついた。
背が高く、白いチャイナドレスのような服を着て、壁に寄りかかっている。
白っぽい長い髪の毛なのだが、ここからでは男性か女性か解らないが、ポーズからすると男性だろうか。
ただ、耳が長いように見え、明らかに人とは違う種族に見える。
そういえば、ヤミがエルフを見たと言っていた。
あれが噂のエルフという種族だろうか。
「それでは、聖女様を保護して王都までお連れした、ティアーズ子爵に話を聞いてみようではないか」
陛下の言葉に、領主様が前に歩み出て膝をついた。
元気そうであるが、このような場に引っ張り出されて緊張しているように見える。
そりゃそうだ。
私だって緊張しているし。
「国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく……」
「行方不明になっていた聖女様を、よくぞ保護して私の前まで連れてきてくれた。礼を言う」
「過分なお褒めの言葉をいただき、恐悦至極に存じます」
「ティアーズ領は、聖女様のお力によって救われたそうだが?」
「はい、そのとおりでございます。我が領には芋の疫病が蔓延しておりまして、聖女様は奇跡をもってこれを駆逐されました」
領主様の口から、疫病で芋が全滅した場合、大飢饉で数十万の犠牲者が出ただろう――ということが、ここにいる皆に伝えられた。
「「「ざわざわ……」」」
「このように、すでにティアーズ領は、聖女様の奇跡によって救われたわけだ。これでもまだ信じぬ者がいるのか?」
「「「……」」」
私は話を聞いていて、小さく手を挙げた。
「あの、恐れながら陛下」
「聖女様からなにか」
「はい――今、聖女の奇跡に疑問を差し挟んだ貴族様たちは、なにかあっても私の力は必要ないとおもって構いませんよね?」
「はは、そのとおりだな」
「うっ……」
太った貴族が私の言葉にたじろいだ。
これは貴族の中でも意見が分かれるだろう。
聖女の力が本当なら、使いたい者もいるはずだ。
「恐れながら陛下――」
赤い祭服を着た老人が前にでた。
「なんだ、ブッチーニ枢機卿」
「聖女は悪しき思想を撒き散らす原因にもなりますゆえ、召喚されるなら教団にも相談していただきませんと」
「相談などすれば、そなたたちは反対するだろうが」
「もちろんでございます。過去の聖女と教団との確執を知らぬ陛下でありますまい」
「知ってはいるが――今回の召喚は間違いではなかったと自画自賛しておるぞ?」
「……」
枢機卿という男は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
面子を潰されたと思っているのだろう。
「教団について、聖女様からなにか申すことはあるか?」
「はい、私は異世界の思想を広めるつもりはありませんし、政にも興味はありません。聖女としての仕事をこなして、いずれはティアーズ領に帰るつもりですから」
「……」
私の目の前にいる老人は、そんなの信じられるか――みたいな顔をしている。
「世界は平坦で、端っこまで行ったら真っ逆さまって言えばいいんでしょ? 人間は猿から進化したものじゃないし」
「神を恐れぬ不届き者が!」
老人が私を睨んだ。
揉めごとを避けようとしているのに、なにが気に入らないのか。
「私の力は、その神様からいただいたものですけど……」
「ぐぬぬ……」
「ははは、聖女様の申されるとおりだな。枢機卿、控えるがよい」
「……」
老人は黙って引き下がった。
「それよりも――ティアーズ子爵、私になにか献上するものがあると聞いたが……」
「はは~っ! これでございます」
領主様が後ろを向くと、ティアーズの騎士2人が、大きな飾りのついた箱を持ってきた。
その中に色々と献上するものが詰まっているようだ。
魔法の袋から出せばいいと思うのだが――私も事前に、こういう席で袋からものを出すのはあまりしないほうがいいと聞かされた。
元世界のパーティの席で、ポケットに手を突っ込むようなものなのだろう。
外国だとポケットに手を入れただけで、銃で撃たれるような話も聞いたことがあるし。
それに、国王陛下に献上するということで、事前にどのようなものなのか調べられたのだろう。
変なものを持ち込まれても困るだけだし。
「おおっ、これが例のあれだな!」
「ワイバーンの肉と、その鱗でございます」
領主様の言葉に、会場にいた人たちが驚きの声をあげた。
「なに?! ワイバーン?!」「竜種を討伐したのか?!」「本当か?!」
竜種の討伐は非常に危険であり、成功すれば大変な名誉となるみたい。
私たちは襲われたので、やむを得ずの戦闘なのだけど。
「もちろん本物でありますし、ワイバーン討伐の際には、聖女様の多大なお力添えがありました」
「「「聖女様の!?」」」
過去の聖女が討伐や戦闘に参加したことがなかったという話だったし、前代未聞のできごとだったのだろう。
「戦闘のあとの奇跡による癒やしもそうですが、今上の聖女様は魔法もお使いになられます。その魔法により、巨大な魔物を仕留められたのです」
「聖女が魔法とは……」「信じられん」「いや、魔女だというのだから、魔法は使えて当然」
「そうだ、魔女なのに聖女というのが前代未聞なのだ」
貴族連中は、次々ともたらされた情報に騒然としている。
私が魔法を使えることを信用していない貴族も多いようなので、陛下に許可を取ってから実際に魔法を使ってみせた。
「「「おおお~っ!」」」
一番簡単な明かりの魔法に、会場がどよめく。
これは本当に初歩の魔法らしいのだが。
「そうすると聖女様は、ワイバーンを倒すことができるような大魔法を使える――ということになりますが」
「いいえ、私が使えるのは光弾の魔法や、火の玉の魔法だけです」
「光弾の魔法など、牽制に使うぐらいしか手段がないのでは……?」
普通の魔導師が使うとそのぐらいの威力しかないのだろうか?
私たちと一緒に旅をしていた笛吹き隊の2人が放った魔法は、ゴブリンを次々と倒していたが。
疑問を口にしている貴族たちに、領主様がフォローを入れてくれた。
「嘘ではありません。聖女様の光弾はワイバーンの身体に大穴を開けて、一撃で魔物を屠ったのでございます」
「そ、それでは、大魔導師と同じ威力というわけか?」
「はい」
領主の言葉に、また貴族たちがざわついている。
「聖女様が仕留めたワイバーンは2匹。1匹は、我がティアーズ領で、もう1匹はモントライゼ伯爵領でした。今日は姿がお見えになりませんが、伯爵様にもワイバーンを半分お譲りしたので、証人になってくださると思います」
「なんと、2匹も?!」「ワイバーンを半分とは……」「モントライゼのやつめ、上手いことをやりおって」
貴族たちの羨望の声が聞こえてくる。
「ティアーズ子爵――それでは、伯爵が半分で、私にはこれだけなのか?」
「も、申し訳ございません陛下! なにぶん、他領での討伐になってしまい、伯爵様の力をお借りするしか選択肢がなく……」
「ははは、冗談だ。街道でワイバーンに遭遇するなど、命がけの戦闘だったであろう。無粋なことは申さぬ」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
笑っていた国王だったが、急に険しい表情になった。
「さて、その場にはここから出立した、近衛騎士団もいたはずであるが?」
「近衛騎士?」「聖女様の保護と護衛に出向いていたのか?」「街で見かけたという噂が立っていたが、真であったか」
国王は貴族たちを静めると、赤の近衛騎士を呼び出した。
「メイ・フォン・サウザンアワー、ルナホーク・フォン・ソアリング、前に出るがよい!」
2人の近衛騎士が、前に出てきて膝をついている。
公爵のドラ息子が私を睨んでいるのだが、自業自得じゃない。
「聖女様がワイバーンに襲撃されたおり、そなたたちはなにをしていた?」
「うう……そ、それは……」
ドラ息子が口ごもるが、ルナホークという騎士は黙って頭を下げている。
「近衛騎士団は、聖女の護衛をすると大見得を切って出立したはずだが?」
「あ、あの女が飼っていたハーピーが、ワイバーンを我らの所に引き込んだのです!」
「ハーピー? 聖女様、真か?」
「ハーピーは友人であり、私が飼っていたわけではありません。友人が助けを求めてきたのですから、保護するのは当然でしょう」
「我ら近衛に恥をかかせるために、あの女が仕組んだに違いありません」
「私は、そんな暇じゃありませんよ。それに公爵のドラ息子なんて興味ありませんし」
「な、なんだと! わ、私を誰だと思っている!」
「え? 公爵の無能なドラ息子でしょ? ワイバーンに襲われて、無様に逃げ回っていましたよね?」
「き、貴様ぁ!」
ドラ息子が、顔を真っ赤にした。
公爵の息子なんて地位の人間が、真正面から悪口を言われたことなどなかったのだろう。
顔を赤くするだけならよかったが、あろうことか彼は剣に手をかけて――それを抜いた。
輝く刃が私の前に現れる。
それに反応した青い騎士たちが一斉に剣を抜いて前に出てきたのだが、それより早く私の魔法が炸裂した。
「光よ!」
会場を閃光が包む。
「「「うわっ!」」」「なにごとだ!」
私の必殺技を知らないドラ息子も、当然だがまともに閃光を食らっている。
「く、くそっ!」
「おりゃぁぁ! キ○タマグッバイ(小声)」
さすがに聖女とか言われている女が、下品な掛け声はマズいだろう。
一応、空気は読む。
股間に私のキックが炸裂した公爵のドラ息子は、剣を落としてその場でひっくり返った。
「&*%%$^&*!」
うめきながら、赤い絨毯の上を転がっている。
「はぁ~スッキリした」
こいつと出会ってから、ずっと我慢していたのだが、やっと一矢報いることができた。
剣を向けられたんだから正当防衛だろう。
「くっ!」「この魔法は?!」「目が……」
私の初見殺しを知らない青い近衛騎士団も、目潰しを食らってしまっている。
それでもなんとか、陛下と聖女を守ろうとして私の前に集まってきた。
さすがである。
赤いほうの近衛騎士団は、なにもできずに右往左往。
これが敵だったら、国王も聖女も守れないことになる。
この騒ぎで平気な顔をしている人が、4人ほど。
ティアーズ領から来ている3人と、青い近衛騎士の団長である。
彼は、王宮魔導師がこの手で倒されたのを知っているので、躱すことができたのだろう。
「「「おおっ」」」
目眩ましの効果が薄れると、目の前にはひっくり返った公爵のボンボン。
ホールに集まっていた貴族たちが一斉にたじろぐ。
「静まれ~い!」
国王の声で、会場が静まり返った。
騎士団に気圧されてひるんだ貴族たちの中から、派手な格好をした男が飛び出た。
赤い上下にキンキラの飾りが眩しい、40歳ぐらいの男。
金髪で、これまた金髪の立派な口ひげと顎髭を生やしている。
見るからに身分が高そう。
その男は、床の上で潰されたカエルのようになっている男に駆け寄った。
「陛下! 私の息子に、この仕打は酷いのではありませぬか?!」
駆け寄ってきた男は、ドラ息子の父親だったようだ。
――ということは、この方が国王の次に偉い公爵閣下ということになる。
私の印象では、あまり似ていない親子である。
このドラ息子は、母親似なのだろうか?
自分の息子が可愛いと思うのは親なら致し方ないとは思うが、いくら親バカでも限界がある。
仕事でヘマをしたのなら責任を取らねばならない。
私の護衛の件もそうだが、ここで剣を抜いたのはかなりマズい。
普通の騎士なら厳罰間違いなしだろう。
「黙れ、公爵! この場で剣を抜くなど言語道断!」
「うっ!」
国王の喝に公爵が黙った。
「聖女様や私の命を狙ったと、この場で処刑されても文句は言えぬぞ?」
「……」
「&^*(**」
ドラ息子がなにかつぶやいているが、言葉になっていない。
「ルナホーク! そなたは答えられるな?! 意気揚々と城から出立した近衛騎士団が、聖女様の前でどんな醜態を晒したか、皆に聞かせてやるがよい!」
「はい、国王陛下――」
騎士が、淡々と近衛騎士団がやらかしたことを暴露していく。
彼は近衛の中でも聖女派でもあるし、へなちょこ揃いの中でも1人頑張ってくれた。
ルナホークの話をしている間、集まった貴族の中から、ときに笑いが起きる。
いつも偉そうにしていた近衛騎士団が、魔物から逃げ惑う姿を想像したのだろう。
ドラ息子のこの性格だ。
身分を常に鼻にかけ、貴族連中からも嫌われていたに違いない。
モモちゃんがワイバーンを引っ張ってきてしまったとはいえ、聖女様を投げ出して自分たちを最優先したあげく、ボコボコにやられてしまったのだから、弁解の余地はない。
ティアーズの騎士団は、しっかりと緊急事態に対応して己の義務を果たしたのだし。
「聖女様、ルナホークの証言に間違いはありませぬか?」
「はい、そのとおりでございますが――そちらのルナホーク様だけは、ワイバーンの襲撃にも果敢に立ち向かってくださいました」
「「「おお……」」」
貴族たちから、感嘆の声が漏れた。
「無様な醜態を晒した我らに、聖女様のありがたいお言葉。心からの感謝の意を」
ルナホークの言葉を聞いていた国王が、なにかに気がついたようだ。
「……む?! ルナホーク、そなた目をどうした?! 隻眼だったはず!」
「はい、ワイバーン戦で負傷したおり、聖女様の奇跡で癒やしていただいたのですが、その際に私の目まで治していただきました」
「そなたの目は、子どもの頃の古傷だったはず」
「はい、もうこの目から光をいただくことはないと思っておりましたが、すべて聖女様のお陰でございます」
「なんと……そんな古傷まで治してしまわれるのか……まさに奇跡」
「はい……」
集まっていた貴族の中から、バタバタと1人の男性が前に出てきてひざまずいた。
ルナホークと同じ、長い赤い髪をした40台の男性だ。
左右に伸びた赤い口髭を生やし、緑色の上着に白いズボンを穿いている。
顔がルナホークに似ているので、おそらくお父さんかな?
近衛に息子がいるということは、王都でも有力な貴族の1人なのだろう。





