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60話 魔石の使い方


 お城にやってきて、聖女としてのお披露目を待っている。

 私が治療した王族は順調に回復しているようだ。

 退屈しているところに、変な男の訪問を受けたりしたが撃退した。

 子どものフリをして女性に近づくなんて、性悪過ぎる。


 やることもなくまったりとしていると――お城の周りに沢山飛んでいた白い鳥が減っているという話をメイドから聞いた。

 これも聖女パワーのせいかも?

 ――そんな馬鹿なと、窓から空を見上げると大きな白い翼が見える。

 それが急降下してくると、窓枠に止まった。


「ノバラ!」

 空からやって来たのは、ハーピーのモモちゃんだった。


「モモちゃん!」

 彼を抱っこすると、白い大きな羽根が私の肌をくすぐっていく。


「ノバラがどこにいるか、解らなかった」

「ずっと、この近所にいたの?」

「建物の後ろにある崖の上にいた」

 あんな崖を登る人はいないだろうから、安全地帯よね。


「そうなんだ」

「鳥も沢山いたので、食い物には困らなかった」

 彼が、首に下げた魔法の袋を見た。

 多分、袋の中には沢山の白い鳥が入っているのに違いない。 


「それじゃ鳥がいなくなったのは、モモちゃんが来たからなのね」

「多分、そう」

「ななな、聖女様! なんですか、それ?!」

 アリスがお茶のポットを持ったまま固まっている。


「彼はハーピーよ」

「は、ハーピーですか?! 初めて見ました」

 騒ぎに隠し扉が開いて、クロミも出てきた。


「わ、なんかいる……」

「ハーピーだって」

「これはびっくり」

 メイドの2人は初めてハーピーを見たらしい。


「彼をおもてなししたいんだけど、お菓子はある?」

「はい、ご用意いたします」

 アリスが部屋に戻って準備してくれるようだ。

 私がモモちゃんを抱っこしたまま椅子に座ると、クロミがジッとこちらを見ている。


「危険はないから大丈夫だけど、基本私にしか懐いていないから」

「すごい……さすが聖女様」

 別に聖女だから、ハーピーと仲良しってわけじゃないんだけどね。

 まぁ、彼らと知り合った原因は、魔女プラス聖女の複合パワーってことになるのか。

 だって魔女の魔法がないとワイバーンを倒せなかったし。


 モモちゃんをなでていると、アリスがケーキを用意してくれた。

 さすがに、これを脚で食べるのはちょっと無理があるだろう。

 脚で握ったら、グチャグチャに潰れてしまう。

 私がスプーンでケーキを掬って、彼の口に運んであげる。


「はい、あ~ん」

「あ~ん。んぐんぐ……」

「どう?」

「……す、すごい! これは口の中が幸せでいっぱいになる!」

「つまり、美味しいってことね」

「美味しいじゃすまない! やっぱりノバラはすごい!」

 別に私がすごいわけじゃないんだけどね。


「これは、王様や貴族様が食べるものだから、お城でしか食べられないのよ」

「む~、それは残念……」

 ククナの話では、街のレストランでクレープを食べたそうなので、ケーキもあるのかもしれない。

 もちろん目が飛び出るような値段だろうが。


 話をしながら、パクパクとあっという間にモモちゃんは、ケーキを平らげてしまった。


「ふふ、口にクリームがついているわよ」

 彼の口を拭ってあげると、目を細めている――可愛い。


「可愛いですけど……」「ふんすふんす!」

 アリスもハーピーを可愛いと思うようだが、顔を赤くして目を逸している。

 モモちゃんが裸なので、抵抗があるのだろう。

 その隣のクロミは両手を握りしめて、ガン見している。


「あの、中身オッサンのインチキ男子よりはね」

「にゃー」

 ベッドの上で横になっているヤミが、なにか言っている。

 彼にしてみれば両方同じらしいのだが、違うと思う。

 そこに悪意があるか、ないか――これはかなり違う。


「なんてこと言うの、こんなに可愛いのに」

「にゃ」

 ヤミがふてくされている。

 なでまわすと嫌がるくせに。

 それはいいのだが、モモちゃんは王都に仲間がいるわけでなし、1人で大丈夫なのかな?

 そのことを彼に聞いてみた。


「大丈夫だぞ。ハーピーは1人で旅に出ることもある」

「そうなのね」

「それじゃ、ノバラに偉大なるポポの話をしてやる」

「ポポさん?」

「そう、ポポは世界をずっと西に飛び続けて、東から戻ってきた!」

「それって、この世界を1周して、世界は丸いってことを証明したってこと?」

「そう!」

 彼の話が本当なら、元世界のマゼラン並の偉人だ。

 ハーピーたちは、この世界が丸いと知っていたのだが、すでに証明もしていたことになる。


「すごいね」

「すごいだろ! 他のハーピーは、ポポの名前をつけてはいけない」

 スポーツの永久欠番みたいな感じだろうか。

 誰もできないことをした英雄として祀られているのだろう。


「世界を1周って、どのぐらいの日数で飛んだの?」

「1ヶ月半かかったと言われてる」

 それでも、1ヶ月半で世界1周しちゃうのはすごいと思うけどな。

 途中に海とか、未開の大陸とかもあるわけでしょ?


「ポポの時代に、ノバラからもらった袋があったら、沢山のものを持って帰ってこれたと思う」

「そうだよねぇ。見たことがない食べ物とか沢山あったかも」

 ポポの伝えた話では、他の大陸や島にも人や魔物がいたらしい。

 未知の世界の話が聞けるなんてすごいよね。

 王都の人間でも、こんな話を知っている人はいないかもしれない。


 こんな話を本にしたら受けたりして……。

 いや、過去の聖女が地球が丸いって話をしただけで大混乱になるぐらいだ。

 ハーピーの話なんて、最初から与太話だとして受け付けないだろう。

 宗教関係もヤバそうだし。


「聖女様が、まるで天使を抱えているみたいです」

「翼が生えているしねぇ」

「天使ってなんだ?」

「神様の使いかしら……」

「俺たちはそんなのじゃないぞ?」

「まぁ、そうよねぇ」

 モモちゃんの頭をなでていると、彼が鏡に気がついたようだ。


「ノバラ、あれは?」

「ああ、これは鏡だけど……」

 彼を抱いたまま、姿見の前にいく。


「すごい! 全身が映る!」

「こんな大きな鏡は、すごく高価なものよねぇ」

 彼が、翼を動かしたりして鏡の中の自分と遊んでいる。

 鏡の前で彼と遊んでいると、ドアがノックされた。


「誰か来たみたい」

「そうか、それじゃ俺は行く」

「またね、モモちゃん」

「おう!」

 彼を窓の所に連れていくと、そこから躊躇なく飛び降りた。

 突然なので驚くが、彼らに取って普通のこと。

 あっという間に風に乗ると、お城の背後にある崖の上まで舞い上がった。


「すご~い――じゃなかった。はい、どうぞ~」

 ドアを開けて入ってきたのは近衛の団長さんと、あのインチキ男子。


「ゲ!」

「聖女様が、そういう言葉遣いなのは、マズいんじゃねぇか?」

 そういう団長は、なにやら金ピカな箱を両手で抱えている。

 重たそうだ。別に持たなくても、魔法の袋に入れればいいのに……。


「あら、ごめんあそばせ、おほほ……」

 団長が、私の愛想笑いに苦笑いしつつ大きな箱をテーブルの上に置いた。

 下は四角で、上が半円形――まるで絵に書いたようなお宝BOX。


「それは?」

「聖女様が請求した経費と、ファシネート様を治療したお礼だ」

「陛下からですか?」

「それ以外ないだろう?」

 本当は、彼も私に敬語を使わねばならない立場なのだが、あまり人がいない所では、こんな感じで話している。

 マズいのかもしれないが、私も気楽でいい。

 金ピカの箱を、ぐるぐると見回してみる。


「これってどうやって開けるの?」

「ほれ」

 団長が、金色の鍵を差し出してきたので、それを受け取った。

 箱には鍵穴があるので、それに差し込めということなのだろう。

 そのとおりに、鍵を差し込んで時計回りに回す。

 開いたような音がしたので、重たい蓋を開けてみた。


 その中にあったのは沢山の金貨と、腕輪や指輪の数々。

 金貨の数も、私が請求したのは15枚だが、どう見ても数百枚以上が輝く。

 一緒に入っている装飾品も宝石などが埋め込まれており、美しく凝った細工が施されている。

 こんなの元世界でも、写真やらニュースやらでしか見たことがない代物ばかりだ。

 場所によっては、国宝扱いになってしまうのではないだろうか。


「ええ~? 私が欲しかったのは、王都に来るまでの経費だけだったんですけど」

 私も女なので、こういう貴金属に興味がないわけでない。

 おしゃれをしようとしたときもあった――が、似合わないのよねぇ……。

 そんな時間がなかったというのもあるけど。


「聖女様は王族の命を救ったんだぜ? そのぐらい貰ってもバチは当たらんよ」

「そうだね、普通じゃ絶対に助からない方を、奇跡で救ったのだから」

 黙って話を聞いていたインチキ男子が口を開いた。

 見た目はおかっぱヘアーの可愛い男子だが、中身は多分アラサー。


「あなたは、なにをしにやって来たの? また子どものフリをして私に抱きつきに来たの?」

「それについては謝罪をする。申し訳なかった」

 あっさりと謝られて拍子抜けしてしまった。


「まぁ、なにがあったか一応聞いたが、この方も王宮魔導師の1人だしな」

 私の邪魔をした弟の魔導師が謹慎中なので、その代理をしているらしい。

 デカいほうが弟なんて頭がこんがらがるが、さすが魔法みたいなものがある世界だ。

 魔道具で子どもになることもあるなんて。

 でも、ある意味不老みたいなものだし、欲しがる人もいるんじゃないだろうか。


「あら、そうですか」

 私はそっけない返事をすると、宝箱の蓋を閉じて魔法の袋の中に入れた。

 こんな重たいものを持ち運ぶなんて普通はできないが、この袋があればそれができるわけだ。

 モモちゃんの袋の中に入れれば、空を飛んで運ぶことだってできる。


 それよりも、これだけで結構な財産だ。

 ティアーズ領に帰って、森の中に家を建てるぐらいはできるかもしれない。

 私の目標はほぼ達成されたと言っても過言じゃない。

 これで聖女の力がなくなり、いつクビになっても心配いらないわけね。


 それに王侯貴族の中には、まだ病人や怪我人がいるだろうし、それらを治して小遣い稼ぎもできるかも。

 こちらから料金を請求しなくても、お礼という形でもらえるだろう――多分。

 現時点では、取らぬ狸の皮算用だが。

 まぁねぇ――こんなことを考えている時点で、私は聖女なんてものから程遠い存在だと思うのだが……。

 聖なる者に幻想を持っている人も多いでしょうから、それをわざわざぶち壊すようなマネは、もちろんしませんけどね。


「それじゃ――用は終わったし、俺たちは帰るか」

「あの……お披露目の件は、まだ予定が決まらないのでしょうか?」

「もっか調整中だ」

「王侯貴族の方々には忙しい方も多いでしょうし」

「それもあるが――」

「その他にもあるのですか?」

「そうだな……」

 そう言った団長さんだが、口ごもる。

 説明が難しいようなので、インチキ男子が答えてくれるようだ。


「現在、聖女派、聖女否定派、聖女様によって利権を得る者、利権を失う者――それらが血みどろのせめぎあいをしている最中さ」

「うわぁ、相手にしたくな~い……」

「相手にする必要などないさ。聖女様は民のことだけ考えていればいい」

「あら? 魔導師様は、王侯貴族至上主義者じゃありませんの?」

 口にしてから、随分に嫌味な台詞だと自分で思った。


「違う」

 ファーストコンタクトは最低だったが、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。

 もしかして自分の早とちりだった可能性も――そう考えた私は、彼に質問をしてみることにした。


「ミルス様、王宮魔導師ということは、魔法に詳しいのですよね?」

「もちろん」

 私の予想外の反応に彼も困惑しているように見える。


「私は、魔力は沢山あるようなのですが、大きな魔法が使えないのです」

「……それは、魔力経路が詰まりを起こしているのだろう」

「樽は大きいのだが、注ぎ口が小さい――知り合いの魔導師にそう言われました」

「おそらくそのとおりだ」

「初歩の光の魔法も魔力を沢山入れると輝きが増しますが、そんな感じで大きな魔法も使えないのですか?」

「大きな術を使うには、展開するのに瞬間的に大きな突入魔力が必要になるんだ」

 突入魔力――知らない単語が出てきた。

 ここらへんは、正式に魔法を習うと教わるものなのだろうか?

 彼の説明を聞くと――たとえば、光弾の魔法が太くなって威力を増すのは、術が展開したあとに魔力を注ぎ込んでいるからだと言う。

 逆に大魔法だと、術が展開する前に大きな魔力が必要になるらしい。

 そういう話を聞くと、魔法も学問なんだと思う。


「なにかいい方法はありませんか?」

「その状態で、大きな魔法を使いたいということか?」

「はい、もしくは注ぎ口を広げる方法とか」

 彼は、腕を組んで少し考えていたのだが、口を開いた。


「経路を広げるには時間がかかるし、それに成功した者も少ない」

「そうですか……」

「だが、大魔法を使うには簡単な方法がある」

「それは?」

「大きな魔石に、あらかじめ魔力を蓄えておいて、それを使う方法だ」

 おお、なんだか専門家っぽい答えがきた。

 そういえば、ランプに使う魔石も魔力を溜めて点灯している。

 つまり魔力の電池だ。


「にゃー」

 ヤミもそれは知っていると言うのだが……。


「それを知っているなら、君も教えてくれてもいいじゃない」

「にゃー」

 彼が言うには、確かに使えることは使えるが、あまり実用的じゃないらしい。


「そうだ、魔力経路が狭いということは、魔石に魔力を注入するのにも時間がかかるからね」

「ああ、そういうことね」

 ランプに使うような小さなものに充電するなら、すぐに終わるが、相手が大きな魔石になると話が違う。

 巨大なタンクに灯油ポンプでポコポコしても、いつ溜まるか解らないと言いたいのだろう。

 話を聞くと難しそうなのだが、それは普通の人の話。

 私の場合は、なん時間でも魔力を注ぎ込むことができる。

 大きな魔石でも、朝から晩までやっていたら満タンにできるかもしれない。


 そういえば、ヤミが魔法を使うときに、彼の身体を触って魔力の肩代わりをしたことがあった。

 その手が使えないのだろうか?


「簡単な魔法ならいいが、大魔法となると身体への負担が大きくなる」

 魔導の専門家は否定的だ。

 それに耐えられる魔導師なら、最初から大魔法を使えるわけだし。

 中々上手くはいかないものね。


 それにしても大きな魔石ねぇ――そういえば、モモちゃんから魔石をもらったはず。

 騎士団や領主様も驚いていたので、この世界の基準からすればかなり大きなものらしい。

 私は、自分の袋から黒くて大きな石を取り出した。

 以前、少し魔力を注入したので、中心にうっすらと青く光っている。

 これはこれで綺麗だ。


「この魔石は使えそうですか?」

「なんだ?! なんの魔石だ、こりゃ?!」

 私が取り出した石に、団長が驚いている。


「ある子からもらったものなのですが、ティアーズの領主様はドラゴン級の魔石だとおっしゃってました」

「こ、これはすごい……」

 インチキ男子も、魔石を覗き込んでいる。


「こいつに魔力を溜め込んだら、間違いなく大魔法は使えると思うぜ」

「僕もそう思う」

「へぇ~これで魔法が使えるんだぁ」

 窓に石をかざしてみる。

 黒い海の中にキラキラと、金色のなにかが漂っているように見える。

 いざというときのために、チマチマと魔力を溜め込んでおくか~。


 団長と男子も大きな魔石に興味津々だったが、これはモモちゃんにもらった貴重なものなので、誰かに譲るつもりも売るつもりもない。


 2人が帰ったので、大きな魔石に魔力を注入し始めた。

 やっぱりじんわりとしか入っていかないが、数日やっていれば満杯になるのではなかろうか。


「魔石って魔法を使うときにも使えるのね」

「はい、普通は最後の手段として取っておく人が多いですけど」

 アリスの言葉に、なるほど――と思う。

 非常用の電池みたいな感じか。


 それは解ったのだが、本当に魔石で魔法が使えるのだろうか?

 魔法の袋の中からピンポン玉ぐらいの魔石を取り出した。

 これは確か――森の中で熊を仕留めたときのものだったはず。

 その中に魔力を込めてみる。

 ランプやコンロに使っている小さな魔石のようにはいかないが、10分ほどで明るさが変わらなくなった。

 黒い魔石の中には青い光が輝いており、それだけで美しい。


「ふんふん!」

 クロミが鼻息を荒くしている、どうやら見たいらしい。


「はい」

「やった! 聖女様好き!」

 彼女が黒い石を掲げたまま、クルクル回っている。

 変わった喜び方だ。


「聖女様、これも結構大きな魔石ですが、なんの魔石ですか?」

 アリスが踊るクロミを見ている。


「これは、森にいた熊の魔石ね」

「あの――もしかして聖女様が?」

「ええ、他にも騎士の方がいらしたけど……」

「すごい!」

 喜ぶクロミから魔石を返してもらうと、魔法の実験をしてみることにした。

 本当にそんなことができるのなら、色々と使えそうな気がしたからだ。


「ヤミ、魔石を使って魔法を使うのはどうやるの?」

「にゃー」

 手に持って使うらしい。

 いつもは身体の中から魔力を出す感じだが、それを魔石の中から引っ張り出す感じでやると言う。

 言うのは簡単だが……案ずるより産むが易しか。

 黒い石を右手に握って叫ぶ。


光よ!(ライト)

 私の声に従って、部屋の中に光の玉が浮んだ。

 いつものとおりに魔法が発動したが――確かに身体の中から魔力が出る感じはしなかった。

 続いて、もうちょっと大きな魔法を使ってみよう。


 外に向かって魔法を撃つために窓を開ける。

 近くにモモちゃんがいないか確認するが、大丈夫のようだ。

 窓の近くに立つと、魔法を唱えた。


「光弾よ 我が敵を撃て(マジックミサイル)

 窓の外に向かって、光の矢が撃ち出された。

 いままで、なにもない所に魔法を撃って観察したことがなかったのだが、100mほどは飛ぶようだ。

 まぁ、それ以上飛んでも目視できないから、当たる気がしないし。


 魔法の射程距離はいいとして、光弾の魔法を使ったのに身体の中から魔力が流れた感じはしない。

 手に持った魔石を見ると、その光はだいぶ暗くなっていた。

 この感じからすると、ピンポン玉ぐらいの魔石で、光の矢は2回ほど撃てるようだ。

 それは確認できたが、魔物を倒すぐらいに魔力を込めるとなると、これでは全然足りない。

 当然、ワイバーンの身体に穴を開けたりはできないだろう。

 おそらく魔力を大量に保持している私にとっては、この大きな魔石はあまり使いみちがないように思える。


 モモちゃんからもらった巨大な魔石に、注力したほうがいいだろう。


「あの大きな魔石で、本当に大魔法が使えるのか、どこかで試してみないとね……」

 なにがあるか解らないし、打てる手は打っておきたい。

 とりあえず、この国の国王は聖女に好意的だが、反対派の勢力もいるみたいだし。

 聖女が来たせいで利権を失う――みたいな連中がいれば、襲ってくるかもしれない。

 最悪、暗殺される――なんてことも。


 そんなことが本当にあるのか?

 ――と問われれば、私はあると思う。

 聖女という者が本当にいたら?

 それを元世界に置き換えてみればいい。


 ある日突然、聖女という超常の力を持った存在が現れたら?

 歓迎する人たちがいる一方で、その存在をどうしても認めたくない輩も出てくるだろう。

 世の中というのはそういうものだ。


「はぁ~」

 私が、これから起きるかもしれないトラブルにため息をついていると、ドアがノックされた。


「はぁい、どうぞ~」

 今日はお客様が多い。

 扉が開いて入ってきたのは、フリルがたくさんついた白いドレスを着たお姫様。

 私が奇跡を使って治療をした、国王の妹君だ。

 毎日、お姫様の部屋を訪れて様子をみるのが私の日課だったのだが、今日は彼女からやって来たらしい。


 おもてなしをしなくては。



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