59話 超必殺電気ナントカ
私が治療をした王族の予後は順調のようだ。
普通の病気と違い、いきなり治ってしまうのだから、今は単に痩せている状態。
食欲もあり普通の食事も摂っているらしいので、すぐに元通りになるものと思われる。
もしかしてあの殿下は、元気になったらものすごい美少女なのではないだろうか。
そんな思いを抱かせるぐらいに、彼女からはセレブオーラがあふれ出ている。
私が殿下に面会した日から、毎日彼女の部屋に呼び出しがあった。
少女も私に会うのを楽しみにしているようだ。
彼女の部屋を訪れる度に、回復しているのが解る。
ガリガリで真っ白な屍蝋のようだった肌は、赤みを増して張りを取り戻した。
パサパサになってしまった髪も黄金のように輝き始めている。
傷んでしまった髪は中々元には戻らないのだが、私の癒やしの奇跡は髪もツヤツヤにするのだろうか?
そう思い、自分の髪の先を見てみた。
ブラックに勤めている頃には枝毛に悩まされていたのだが、それが綺麗になっている。
髪の艶もいまだかつてないぐらいに黒く輝く。
こんな美しい髪はいつ以来だろうか。
自分の身体にも常に癒やしがかかっている状態ってことなのだろう。
そういえば、この世界に来てからあまり疲れたと思ったことがない。
ただし、なにごとにも弱点はある。
身体が疲れないのは間違いないが、精神的疲れには奇跡は効き目がないようだ。
お姫様の回復は順調だが、彼女の下を訪れて話をする以外にさして仕事もなし。
自分の周りのことはすべてメイドたちがやってくれて、いたれりつくせり。
私のやることはなにもない。
ベッドの上にあぐらをかいていた私は、あくびをしたあと大の字になった。
「にゃー」
ヤミがベッドの上に乗ってきた。
「君もやることがなくて退屈じゃない?」
「にゃ」
ネコの彼は、色々と冒険するスペースがあるようだ。
ネコだから許されるってわけだが、彼が話せると知られたらマズいような気がする……。
お城の知られたくない秘密がバレてしまったりするかも。
でも、結構話したりしているし……。
「ふう……」
ベッドから降りた私は窓際にいくと、閉じられていたガラスを持ち上げて、外の空気を部屋の中に引き込んだ。
入ってくる風から漂う潮の香りで、ここが海の近くだと改めて気づく。
外を見てみるが、塔の上に据え付けられた大きな風車がぐるぐると回っているのが見える。
この部屋は山側なので、あまりいい景色ではないのだが、なぜか風車の動きを見続けてしまう。
「聖女様! 窓を開けっ放しにするのは止めたほうがよろしいですよ」
後ろから聞こえてきたのは、メイドのアリスの声だ。
「え? なんで」
変なことを言うものだと思ったら、彼女が言った意味をすぐに理解する羽目になった。
突然、窓枠に大きな鳥が止まったのだ。
「あ!」
「なに?!」
大きな白い翼を見ると、ハーピーのモモちゃんを思い出してしまうが、この翼の主は違う。
お城の上に沢山飛んでいた白い鳥だ。
「ギャー! ギャー!」
見た目は白いくて美しいのだが、鳴き声はけたたましくて酷い。
風流の欠片もない声色に、私はがっかりした。
それだけならいいのだが、だみ声に惹かれたのか仲間が集ってくる。
バサバサと白い翼を広げると細かい羽毛が舞う。
「フシャー!」
ヤミが怒っているのだが、もう遅い。
「ギャー! ギャー!」
「窓を開けると、こうなるんです!」
アリスが、自分の部屋からホウキを持ってきた。
「ごめんなさい、知らなかったもので!」
「仕方ありません! えい! やぁ!」
「おらぁぁ! どっかに行け!」
怒鳴ったり、メイドがホウキを振り回したりしているのだが、まったく逃げる気配がない。
人馴れしているのか小馬鹿にしているのか、あるいは両方か。
「ギャー!」
けたたましいだみ声に、私はブチ切れた。
「このぉ! 人間様を舐めるなよ! 光弾よ! 我が敵を撃て!」
閃光と破裂音が部屋に響き、沢山の白い羽根が舞う。
1羽がひっくり返り、もう1羽は床の上でバタバタと暴れている。
ムカついて魔法を使ってしまったのだが、ちょっとかわいそうなことをしたかな?
一瞬、そんな考えが脳裏をよぎったのだが、この世界では狩りをして肉を食べるのが普通だ。
目の前の惨事も、それの一貫だろう――などと思っていると、白い獲物めがけて黒い影が走った。
野生本能が爆発したのか、目の前の獲物にヤミが飛びかかったのだ。
「ウウ~」
鳥のクビに噛み付いていたヤミが、不気味な声を上げた。
目がギラギラと光り、尻尾がフワフワに太くなって興奮状態だ。
いつもの紳士的な彼ではなく、完全に野生がむき出しになっている。
「ちょっとヤミ、落ち着いて」
「……」
私の声に徐々に落ち着いたのか、彼は口に咥えていた鳥の首を離した。
その場に座り込み、尻尾で絨毯をペシペシ叩いている。
まだ、ちょっと興奮しているようだ。
そのとき、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「聖女様! なにかありましたか?!」
ドアの所で警備をしている兵士の声だ。
ごまかさないと――いや、ごまかす必要はないのだが。
「ちょっと魔法を使っただけです。問題ありません!」
「し、しかし!」
「問題ありません!」
ちょっと声を荒げてしまった。
「承知いたしました……」
私の強い口調にたじろいだのか、引き下がってくれたようだ。
慌てて窓に駆け寄って下を覗くと――地面にも1羽落ちていた。
魔法1発で3羽仕留めたことになる。
それを確認すると、私は窓を閉めた。
「ふう……まさか、こんなことになるとは。これって食べられないの?」
早速ちりとりを持って、掃除を始めたアリスに尋ねてみた。
「はい? 食べられますけど」
「え? 食べられるの?」
「はい」
まぁ、そりゃ食えるか食えないかといえば、大抵の肉は食えるだろう。
元世界にいたカラスだって食べようと思えば食べられるし。
「味は?」
「美味しいと聞きますけど……」
「それなら、沢山いるのだから狩ればいいのに」
「それができる方が、ここにはいませんから」
まさか王侯貴族が窓にやってきた鳥を獲るとも思えないし。
「それじゃ、狩りをする専門の人を入れるのは?」
「そういう話は聞きません」
この鳥は普段は高い場所にいるために、狩るのが難しいらしい。
この世界には鉄砲もないしね。
まさか狩人をお城にいれるわけにもいかないだろう。
鳥たちも、ここが安全地帯だと解っているから住み着いているに違いない。
せっかくの立派なお城も、鳥の糞だらけなのだから、狩人を入れてもいいと思うのだが。
アリスと後片付けをしているとドアがノックされた。
入ってきたのは、もうひとりのメイド、クロミだ。
「わ! いったい、どうした?」
「窓を開けたら鳥がやってきたから、私が魔法で落としてしまったのね」
「それはびっくり」
彼女のしゃべり方は、いつもこんな感じ。
敬語も使わず、相手が偉い方だとあまり話さない。
面倒くさいのだろう。私は気にしないからいいのだが。
「クロミ、この鳥を調理場に持っていって、料理に使ってもらうようにいってきて」
「むむむ――拒否したい……」
仕事を拒否するのも中々にロックだ。
「それじゃ、アリスが行ってクロミは掃除でいい?」
「了解!」
彼女が敬礼をした。
「アリスもそれでいい?」
「かしこまりました」
「ヤミ――持っていっていい?」
「……」
黙っているが、尻尾で返事をしたからいいようだ。
だいぶ落ち着いたらしい。
彼女が2羽の鳥を自分の袋に突っ込んだ。
貴族の娘なので、自前の魔法の袋を持っているようだ。
「ああ、外に落ちてしまった鳥さんも回収してね」
「はい、それでは行ってまいります」
「よろしく~。あ! 駄目だと言われたら、そのまま帰ってきて。私の袋に入れておいて、鳥が好きな誰かにあげるから」
「承知いたしました」
こちらは掃除をしなくては。
それはいいのだが、羽毛が絨毯にこびりついて掃除が大変だ。
「魔法で取れないかな? 洗浄!」
青い光が絨毯に染み込むと、絡まった羽毛が浮かび上がる。
それをホウキで掃けば、すぐにチリトリの中に片付いた。
「むむむ、これは便利……」
クロミがしゃがみこんで、絨毯をなでている。
「私がいる間は魔法で手伝ってあげるわよ」
「聖女様すごい! 一生ついていく」
「あはは、大げさね」
メイドと一緒に掃除をしていると、アリスが戻ってきた。
「聖女様、調理してくれるそうです」
「よかった、無駄にならなかったね」
「料理長が、よいものが手に入ったと喜んでました」
「そうなんだ」
それなら、積極的に獲ったほうがいいと思うのだが。
元世界の貴族は狩猟を嗜んでいたと思ったのだが、ここではやらないのだろうか?
「王侯貴族は狩りなどをすることはないの?」
「王都の周りで狩りをするような動物はいないですし、かといって深い森は魔物がいるので……」
そうか。この世界には魔物という厄介な動物がいるので、命がけになってしまうのね。
――ということは、私が森で獲っていた黒狼などの肉は貴重品ということになるのかもしれない。
鳥が入ってきたことで、ちょっとした騒ぎになってしまったが、無事に片付いた。
3時にはおやつが出た。
クリームが乗ったケーキである。
すごい! 王都までくれば、こういうものも食べられるんだ。
感心しながらメイドの話を聞くと、ケーキなどを食べられるのは王侯貴族のみらしい。
商人でも貴族の社交界に出入りできるような大店なら、食べられるかも――ということだった。
ケーキを食べて満足していると、ドアがノックされた。
メイドは自分たちの部屋に戻っているし、誰だろうか?
「はい、どうぞ~?」
ドアが少し開いて、顔を覗かせたのは――小学校高学年ぐらいの男の子である。
黒い髪をおかっぱにして、藍色の上着とハーフパンツを穿いている。
細い脚には黒いソックスと靴。
お城にいるということは、貴族の子息であろうか?
その顔を見て、誰かに似ているような……。
ちょっと気になるが、ここに私がいるということは、一部の人しか知らないはず。
それに、外には護衛の兵士がいるわけだし。
彼らもスルーできるということは、結構な大物であろうか?
「こんにちは」
声変わりしていない綺麗な声が、部屋の中に響く。
「こんにちは、どなた? それなりに地位のある方ですよね?」
「はは、さすが聖女様だね。入っていい?」
「どうぞ」
「やった」
男の子はドアの隙間からするりと、いたずらっ子っぽく入ってきた。
「私はノバラ、あなたは?」
「僕は、ミルス・パンキーよろしくね」
ボクっ子である。
いや、そうではない。
パンキーといえば……。
「王宮魔導師にパンキーって方がいらっしゃるけど、身内の方なの?」
「そうだよ」
やっぱり。
「弟? それとも、甥っ子さん? お偉い魔導師様は謹慎中って聞いたけど」
「ああ、部屋でずっと泣いているよ」
「泣く? 私に負けたから悔しくて?」
不意打ちとはいえ、王国一という魔導師の鼻っ柱を折ってしまったのだろうか?
「え?! なにがあったか知らないけど、レオスが負けたの? 魔法で?」
「詳しくは言えないけど、私が王妹殿下の治療をするのを邪魔したからね」
「へぇ~それは知らなかったけど、泣いているのは多分違う理由だよ」
「違う?」
「話すと長くなるけど、聞く?」
「ええ……」
魔導師の母親が病気で、最近亡くなったのだそうだ。
古今東西から母親の治療法を探し、ついには魔女の作っていた薬にも手を出したという。
基本、今までの経験からして魔導師たちは魔女を下に見ている。
母親を助けるためにプライドも捨てて、本当に藁にもすがる思いだったのだろう。
そりゃ、私の先輩も回復薬を作っていたから、そういう薬を作る人もいるものと思われる。
すがる思いで手入れた薬も結局は効かず、母親は亡くなってしまったという。
「あ~、それで私が魔女だと知って、目の敵にしていたわけね」
別に魔女が悪いわけではないと思うのだが、やり場のない怒りを街にいる黒いドレスにぶつけたのかもしれない。
大切な人が、また魔女によって奪われるとでも思ったのだろうか?
可愛そうだが、私としては迷惑な話である。
「でも、聖女で魔女ってのは、僕も聞いたことがないけど……」
「まぁ、初めてらしいわね。光よ!」
私の魔法で、目の前に光の玉が浮かんだ。
部屋の中に浮かぶ光を見て、男の子が驚いている。
「本当に魔法が使えるんだ……これじゃ、聖女だと言っても信じない人がいるかもしれない」
過去の聖女たちは、皆魔法が使えなかったことから、聖女イコール魔法が使えない人というのが定着してしまったのかも。
逆説的に、魔女が聖女のはずがないと……。
「その亡くなった女性というのは、あなたのお母様でもあるの?」
「そうだよ」
やっぱり、あの魔導師と似てるし。
その割には、随分と淡々と話しているような気がする。
話からすると、男の子はあの魔導師の弟ということになるのだろうが。
「あなたは平気なの?」
「僕は割り切っているからね。いくら悲しんでも死人は蘇らないし。割り切らないと禁呪などに手を出すやつが出てくる」
「禁呪ってなに?」
「はは……」
私の質問に、男の子が困った顔をしている。
「にゃー」
私の所にヤミがやってきた。
「え? そんなこともできるの?」
彼によれば、死者の蘇生やら魂の転生やら、そんなこともできる可能性があるらしい。
この世界には、死者が蘇るアンデッドなんてものもいる。
あれに自我が残っていたら――などと考える人もいるわけだ。
ホラーみたいだが、魔法があるこの世界には冗談でもなんでもないみたい。
「レオスは、母の影に囚われすぎだ」
元世界でいうところの、マザコンというやつのだろうか。
それにしても――自分の兄を、そんな風に淡々と語るこの男の子はなんなのだろう。
大人びているとも違うようだし。
母親が亡くなったのなら、この子も悲しかったはずなのに。
私は椅子から立つと、彼の黒い頭をなでた。
「悲しいときは、悲しんでもいいのよ」
「……」
「ね? でも、君のお兄さんが泣いている意味が私には解らないわ」
「……それは、お姉さんが本当の聖女だったから……」
彼のその言葉で、私はやっと理解した。
私がここに来るのがもっと早かったら、兄弟の母親も助かったかもしれないのだ。
「ごめんね。あなたのお兄さんにもそう言ってあげて」
「……」
男の子が私に抱きついてきた。
強がってはいるけど、やはり悲しいのだろう。
彼を抱きしめると、1つ提案をした。
「ケーキでも食べない?」
「……」
男の子がうなずいたので、私は椅子に座ると彼を膝の上に乗せた。
「にゃー」
「え? なぁに? まさかヤキモチとか?」
ヤミがなんだかおかしいというのだが――私が口にしたヤキモチという単語は通じなかったかもしれない。
私は、テーブルの上にあるハンドベルを鳴らした。
振っても音は聞こえないのだが、隣の部屋では音が聞こえるらしい。
便利グッズだ。
壁にある隠し扉が開いて、アリスが出てきた。
「お呼びでございますか? 聖女様」
「ケーキってまだある? 彼に出してほしいのだけど」
「ございますが……」
彼女が私の膝の上にいる男の子を訝しげな顔で見ている。
なにかおかしいのだろうか?
「彼のことは知っているよね?」
「はい、もちろん。レオス様のお兄様であるミルス様です」
ああ、やっぱりあの魔導師と兄弟なんだ。
ん?
納得した私だが、理解した情報と耳に入ってきた言葉に齟齬を感じて固まった。
「え? 今、お兄様って言わなかった?」
「はい、レオス様のお兄様です」
「弟じゃなくて?」
「かなり前に、未知の魔道具によって、そのような姿になってしまったとお聞きしましたが……」
それじゃ、本当にこいつはあの魔導師の兄貴なの?
「ねぇ、ちょっと……」
私の言葉に男の子が笑いながら答えた。
「どうしたのお姉さん? 怖い顔して?」
「……おっしゃ、おらぁぁぁ!」
私は、膝の上からミルスという男を放り投げた。
「いってぇ! なにをする!」
「中身オッサンやんけ!」
なぜか似非関西弁。
「それがなにか?」
彼に悪びれる様子はない。
外見が可愛いくて中身が大人というのはハーピーたちもそうだが、こいつは私を騙すつもりだったところが違う。
「おらぁ!」
私は彼を蹴倒すと、黒いソックスの両足首を持って戦闘態勢に入った。
私の自慢の右脚が彼の股間を捉える。
「な、なにゃぁぁぁ&%**&^%!」
「おりゃぁぁぁ!」
強烈な連続キックが丸秘の場所に叩き込まれた。
「^%&*&&**!」
仁王立ちした私の前で、股間を押さえたミルスが床をゴロゴロと転がっている。
「弟との戦闘で100戦100勝のノバラ様を舐めるんじゃねぇ!」
「あの、聖女様。これはどうしましょう」
アリスが、床に転がっている男を指している。
「外に放り出してちょうだい。そのあとにお茶を淹れてね」
「かしこまりました」
なんだか精神的に疲れたので、椅子に座った。
「ふっ……また勝ってしまった……」
悶絶しているミルスは、メイドたちに両手両足を持たれて部屋の外に出された。
その格好は狩りで仕留められた4脚のよう。
ヤミが私の所にやって来て抗議をしている。
「にゃー」
「ごめん。君の言う通りだった」
そのあと数日たったが、なにか抗議でもあるのかと思ったら、なにもなかった。
抗議すれば、私も騙されたことを訴えるだけだし。
レオスという魔導師の兄貴ということは、アラサーとかでしょ?
子どもの振りをして、身体触ってくるとか――キモッ!
あの手で、巷の女たちも騙したりしているのだろうか。
もう変態は勘弁してほしい。
嫌なことやトラブルばかりではない。
こちらに向かっているティアーズ領主様に手紙を出したのだが、無事に届いたらしい。
すぐに返事が戻ってきた。
旅は順調でトラブルもなし。
国王の命令に従わなかった罰もないと解った領主は、安堵しているらしい。
私がいたときより旅が順調そうで、なんだかモヤモヤする。
私がいなかったほうが平和なんじゃない?
まぁ、ワイバーンの襲撃の原因になったモモちゃんも、私絡みだしねぇ。
領主様たちは、聖女のお披露目も控えているので予定通りに到着するようにと、国王から厳命されているみたい。
お城に沢山の王侯貴族を集めてお披露目をするので、それに間に合わせるようにと言われているのだろう。
領主様が今回のイベントの重要人物であるのは間違いないし。
こちらに向かっている馬車列からの手紙を読んでいると、メイドがお茶を淹れてくれた。
「聖女様、最近お城に巣食っていた白い鳥が減っていると話題になっているんですよ」
「あの白い鳥が?」
「はい」
なにか原因があるのだろうか?
まさか聖女の力ってわけでもないだろうし。
癒やす力はあっても、生き物を退ける力はないと思うのだが……そういう力もあるのだろうか?
本当に白い鳥が少なくなったのか気になったので、窓際に行くと木の枠に手をかけた。
上にスライドさせると、空を眺める。
確かに数が減った――というか、まったくいない?
空を見上げていると、白い大きな鳥が飛んでいるのが見える。
もしかして1羽だけ? そう思っていると、その白い翼がこちらに向けて突っ込んできた。
「ノバラ~!」
聞き覚えがある声が聞こえてきて、大きな翼が建物に衝突しそうになる。
慌てて退くと、窓枠に黄色の脚ががっちりと爪を立てた。
「ええ?! モモちゃん!?」
「ノバラ!」
大空から急降下してやって来たのは、ハーピーだったのだ。





