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58話 告げ口みたいで嫌だが……


 お城にやって来た私は、そこで王族を治療して、やっと癒やしの奇跡を持つ聖女だと認められた格好だ。

 国王には認められたが、まだお披露目はされておらず、国内外には知らされていない。

 発表するのにも色々と準備があるのだろう。


 滞在している部屋でゴロゴロしていると、国王陛下から呼び出しがあった。

 そこで今回のことについての謝罪を受けたあと、一緒に昼食を摂ることになった。

 私たちの前に運ばれてきたのは、懐かしい日本料理。

 いや、懐かしいといっても、この世界にやって来てまだ数ヶ月しかたってないけど。


「これは、おにぎり?」

 メイドによって運ばれてきたのは、皿に載ったおにぎり。

 丁寧に、海苔らしきものも巻かれている。

 これも作られているのだろうか?

 王都は海の近くなので、海藻類も豊富だとは思うが、わざわざ再現するとは……。

 これも聖女案件なのは間違いない。


「やはり、聖女様はこれをご存知か」

「ええ、もちろんです」

 朝にご飯を食べたので、おにぎりが出てきてもおかしくないが、米は長粒米だったはず。

 パラパラしていて、おにぎりには向かないような気がするのだが……。

 私が見る限りには、海苔が巻かれた三角形のおにぎりだ。


「こういうものは、聖女様をなだめるために作られたものなのですか?」

「そういうこともあったようだし、単に故郷の味を食べたいから――というのもあったようですよ」

 気持ちは解る。

 横からメイドがカップにお茶らしきものを入れてくれた。


「どうぞ、聖女様」

「はい、それではいただきます」

 まず、気になったお茶を飲む。

 紅茶ではなくて、麦茶のような味。

 麦はこの世界にもあるので、これも聖女によって作られたものだろうか?

 私がお茶を飲んだのを見て、国王もおにぎりを掴んだ。


「国王陛下が手づかみで食事をしてよいのですか?」

「もちろん、ここだけの食事で外で食べることはない。それに、こいつは仕事をしながらでも食事が摂れるので便利だ」

 そういう理由で、おにぎりを食べる人も珍しい――くもないか。

 私も会社にいたときには、コンビニおにぎりとカップ麺だったし。

 あ、カップ麺といえば――。


「小麦粉を細長く加工した料理というのも作られていますか?」

「ああ、ソバ、うどん、ラーメンというやつだな。それらも聖女様が所望されることが多くて、献立が引き継がれている」

「やっぱり……」

 話してばかりじゃなんなので、私もおにぎりを食べてみることにした。

 形はおにぎりなのだが、味はどうだろうか。

 一口食べてみる。

 なんだかもっちりしていて、赤飯のおにぎりみたいな……。

 食べ口を見てみると、長粒米が固まっている。

 おそらく、デンプンのようなものを混ぜて強引に固めているような感じだ。

 ものが限られているので、その中でなんとか再現しようと四苦八苦したのだろう。

 味は悪くないし、こういうのもありだと思う。

 お茶を飲んでから、もう一口食べると中からなにかのピクルスが出てきた。

 これは、梅干しの代わりに違いない。


「美味しいです」

「聖女様のお口にあってよかった。我が国の伝統は引き継がれていると証明された」

 国王が、私の言葉に嬉しそうだ。


「聖女由来の料理を食べているのは、王族の方だけなのですか?」

「ほぼ、そのとおりだ。あとは、ごく一部の貴族が、王族から購入しているにすぎない」

 やはり直営の農場でごく少数が生産されて、一部の王侯貴族の間で食べられているだけのようだ。


「他にも聖女由来の料理が食べられるのですね」

「そのとおりだ」

「楽しみです」

 国王は、左手でおにぎりを食べながら、書類に目を通して右手でサインをしている。

 本当に食事をしながら仕事をしているようだ。


「聖女様の前で無作法で申し訳ない。仕事が立て込んでおりましてな」

「国王陛下ともなれば、お仕事も沢山あって大変そうですね」

「まぁ、人にまかせてもいいのだが――すぐに腐敗をするのでな、ははは」

 仕事を任されているのをいいことに、賄賂などを要求したりするのだろう。


「仕事を失敗したら、握り潰してしまい陛下に報告をしなくなってしまうとか」

 調子のいいことしか国王に報告をしなくなってしまうから、国の実態が現実と乖離してしまう。

 そんな感じで崩壊した国や組織はごまんとある。


「そうなのだ。私の父は人任せにしていたのだが、それで国が疲弊してしまった」

「私が暮らしていたティアーズ領も、道中に立ち寄った街も活気がありましたが……」

「やっとここまで立て直したのだ!」

 彼の言葉からも、かなりの時間と労力を要したのに違いない。


「も、申し訳ございません」

「あ、いや――声を荒げて申し訳ない。……そうだな、王都に至る道中で、聖女様から見てなにか気になることはなかっただろうか?」

「気になる点――ああ、あります」

「「それは?!」」

 陛下の隣で、サポートをしている男性も声を上げた。


「どこの街でも魔導師が酷すぎます!」

 王は、困った顔を浮かべた。


「……それは各地の笛吹き隊からの報告も受けている」

「ラレータという街では、アンデッド騒ぎも起きたのですよ! 私も巻き込まれました」

「そうだったのか……それは申し訳ないことをした。その報告を受けて、すでに処分を男爵領に伝えてある」

 男爵は降爵して騎士爵に。

 騎士爵は一代限りなので、なにか手柄を上げなければ、子孫は爵位を継ぐことができない。

 そのまま他の領に併合されるか、陞爵した貴族に拝領される。

 大変だ。


「昨日も、私は街道沿いの街を走ってきたのですが、そこでも魔導師の横暴は続いておりました」

「承知した――再度確認して魔導師協会の長を呼び出すことにしよう」

「お願いいたします」

 私と話しながらも、国王は書類に目を通している。


「それにしても――」

 彼がこちらを見ている。


「はい?」

「伝承のとおり、異世界から召喚された聖女様というのは優れた知識や教養を身につけておるのだな」

「確かに普通の町娘では、このように陛下と対等に語ることすらできないでしょう」

 王に書類を渡している男がつぶやいた。


「いえ、あの――この世界の礼儀作法をまったく知らないので、色々とご無礼を働くかもしれません。あらかじめ謝罪申し上げます」

 私の言葉に、2人が笑っている。


「あの……私が治療した殿下のご容態はいかがでしょうか?」

「さきほど、起き上がって薄いスープを飲んだという報告を受けた」

 それを聞いた私は、ホッとした。


「よろしければ、私の作った回復薬ポーションをお譲りいたしましょうか?」

「聖女様が作った回復薬とな? それは是非、賜りたいものだ」

 あいにく魔法の袋を置いてきてしまったので、後でメイドに届けてもらおう。


「ティアーズ領にて沢山使いましたので、効果は保証いたします」

「そうか、ありがたい」

 そのあと、しばらく沈黙が流れたのだが――私がお城にやって来た目的を切り出してみた。


「恐れ多くも、お願いがあるのですが……」

「願いとな?」

「はい――ティアーズ領主様の命令違反にお目溢しをお願いいたします。領主様は自らの命を差し出す覚悟で苦渋の決断をなされました」

「待たれよ聖女様」

「はい」

「そもそもが、私の部下の報告が虚偽だったのが問題だ。ティアーズ子爵を責めるわけにはいかぬ。それに、ティアーズ領の事案を優先させるというのは、我が妹――ファシネートの願いだったからな」

「それでは……」

「ティアーズ領の処分はない」

「ありがとうございます」

 これで私の肩の荷が下りた。

 領主様に早く教えてあげたいが――飛脚を使えるだろうか?


「――とは言うものの、愛する妹の命と引き換えにするのだから、私も苦渋の決断だった」

「お察しいたします」

 そりゃ、自分の妹の命と天秤にかけたのだ。

 悩んだ末の答えだっただろう。


「妹に嫌われる覚悟で、一縷の望みをかけて手紙を出してよかった」

「王族の方が病気だと最初に説明をしていただければ、もうすこしやり方を考えたのですけど……」

「まさか獣人に担いでもらいここまでやってくるとは思わなかった」

「試しに彼らに話したら、『できる』ということでしたので」

「王侯貴族では、絶対に思いつかない方法だ」

「まったくですね」

 王の仕事をサポートしている男性も、一緒にうなずいた。


 初の仕事は上手くいったのだが、このあとはどうすればいいのだろう。


「あ!」

 そういえば、私は思い出した。


「どうした?」

「あの……大変申し上げにくいのですが……獣人たちに運んでもらって、経費が金貨15枚ほどかかってしまいまして……」

 実際には15枚もかかってないのだが、迷惑料としてちょっと多めに言ってみた。

 まぁ、回復薬ポーションもなん本か使ったし。

 そのぐらいもらってもいいよね?


「承知した、それはこちらで払わせていただく。なにしろ妹の命の恩人なのだから」

 さすがお金持ち。

 あっさりと了承されて、よかった。


「ありがとうございます。恥ずかしながら、手持ちがあまりなかったものですから」

 一応、そう言っておく。

 なにせ聖女の力がなくなってクビになったときに、金貨はいくらあっても困らない。

 森の中に家を建て直さないと駄目だし。

 もう本当に、魔導師協会ってやつらに損害賠償請求をしたいのだけど。

 そんな制度は、ないだろうな。


「それで――このあと、私はどうしたらよろしいのでしょう?」

「とりあえずだな、お披露目まで待機していてほしい」

 沢山の貴族を呼ぶので、調整に時間がかかるらしい。

 そりゃ、貴族たちにも予定があるでしょうし、いきなり催しがあるから集まってくれと言われても困ってしまうだろう。


「かしこまりました」

「それはそうと――」

「なんでしょう?」

「城から、近衛騎士たちが張り切ってそちらに向かったのだがどうなった?」

「え~と……」

 話していいのだろうか?

 困る私を見て、王様が助け船を出してくれた。


「構わぬ、話してくれ」

「やって来た近衛騎士――え~と公爵の息子という方が、私を散々罵倒されまして――」

「あの公爵のドラ息子がか!」

 やっぱり、ドラ息子という認識なんだ。


「なんとか隊列を組んで出発したのですが、魔物の襲撃の際にも放置されまして……」

「なんだと! 魔物に襲われたのか?!」

「はい、ワイバーンでした」

「なんと! ワイバーン!?」

 国王に、ことの顛末を話す。

 ちょっと告げ口みたいだが……事実だし。

 王様が頭を抱えている。


「あの者は大口を叩いた挙げ句になにをやっておるのか……」

「近衛騎士たちはワイバーンにボコボコにされまして、唯一まともに戦ったのは、ルナホークという方だけでした」

「ルナホーク――ソアリング伯爵家の息子だな」

「その伯爵家には、過去の聖女が嫁いでいると聞きました」

「そのとおりだ。近衛騎士の中でも、聖女に対する思いが違うのだろう」

「ティアーズ騎士団との間のいざこざもまとめて橋渡しをしていただき、大変お世話になりました」

「いや、まことに申し訳ない。国王として謝罪をいたす」

「怪我人は出ましたが、死者が出なかったのが幸いでした」

 奇跡を使って彼らを癒やしたことも伝える。


「護衛に向かった者たちが守られてどうする……本末転倒ではないか」

「仕留めたワイバーンの素材などは、陛下に献上されると思いますので、楽しみになさっていてください」

「承知したが……今回のこと、お披露目の際に糾弾いたすので、それまで他言無用でお願いしたい」

「かしこまりました」

 王様の横に立っている男性が難しい顔をしている。


「陛下、近衛騎士の赤は、見てくれだけのお飾りなどと巷では揶揄されておりますが、今回の件でその存在意義が再度問われます」

「貴族の子息のお遊びに使う国の予算はないぞ」

「はい」

「まったく……なんという失態……」

 近衛騎士が2つあるということは金食い虫なのかもしれない。

 今回の不祥事を盾にして、近衛騎士の赤を潰すつもりだろうか?


「う~ん」

 ついでにトイレには1人で入れるようにしてもらう。


「聖女様には馴染みがないと思うのだが、身分の高い者というのは、そういうものなのだがなぁ」

 確かに! 確かにぃ! 江戸時代の将軍様にも、袴を下ろす人とか、お尻を綺麗にする人がいたと聞いたことがあるけど。

 それで出したものを医者が分解して、健康状態をチェックしたとか聞いたことがあるけど。

 でも勘弁して。


「そこをなんとかお願いいたします。私は魔法が使えますし、護衛も必要ありませんし」

「なるほど、そう言われればそうだ。承知した」

 よかった。


 あとは、なにか聞くことがあっただろうか?

 今までわけのわからない状態で行動していたが、たいぶスッキリした感がある。

 他には……。


「まだなにか?」

 そういえば、根本的な疑問が解決していない。

 私がどうやってこの世界にやって来たか――だ。


「そもそも、私――聖女を召喚したのはどなたなのでしょうか? ティアーズ領では、帝国が聖女召喚の儀式を行ったが失敗したという噂が流れていたのですが、やはり……」

 私の疑問に、国王は間髪入れず答えた。


「それは、我が国が行ったのに決まっておる!」

「そうなのですか?」

「うむ、私の私財を投入して極秘裏に聖女召喚の儀式を執り行っていたのだ」

「陛下、そのような話は初めてお聞きいたしましたが」

 国王がニヤニヤしている。


「極秘中の極秘だからな、本当に限られた者しか知らぬ」

「本当なのですか?」

「本当だ!」

「はぁ……それをファシネート様の前で誓えるのですか?」

 男が諦めたように、ため息をついた。


「な、なぜそこでファシネートが出てくる!」

 多分、私を召喚したのは隣の帝国という国なのだろう。

 すくなくとも、この国ではないらしい。

 つまり聖女をネコババするつもりだ。


「帝国が聖女を返せと言ってきたら、いかがなさるおつもりですか?」

「我がサイード王国が召喚した聖女を、なぜ帝国に渡す必要がある」

「国際問題になると思いますけど……?」

「つまらぬことでケチをつけてくるのは、帝国の常套手段だろう。いちいち構っていられるか!」

 万が一そういうことになっても、私を引き渡すつもりはないみたいだ。

 私としても、今度は隣の国に行けと言われても困ってしまう。

 聖女でなくなったら、ティアーズ領に戻って魔女の仕事をするのだ。


 聞きたいことはすべて聞けたので、自分の部屋に戻ってくると、ベッドに飛び込んだ。

 大きなベッドなので、飛び込み甲斐がある。


「にゃー」

 ヤミが私の所にやって来た。


「大丈夫、心配ごとは全部片付いたから」

 彼に国王と話したことを説明してあげる。


「にゃ」

 領主様もお咎めなしだし、使ったお金も補填してくれるようなので、心配ごとがなくなってホッとした。


「よかったですね。聖女様、お茶を淹れましょうか?」

「お願い」

「はい」

「ああそれから、ここから手紙って出せる? 今、街道をこちらに向かっているティアーズ子爵様宛なのだけど……」

 領主様やククナも、私がどうなったか心配していることだろう。

 私も、こちらに向かっている馬車列がどうなったか心配だ。

 騎士団は喧嘩をしていないだろうか。


「ええ、もちろん大丈夫です」

 トイレのことも話しておく。


「陛下からお許しを得て、トイレは1人で入ることになりましたから」

「……しかし……」

「陛下からのご命令よ」

「かしこまりました」

 ふう――これで、心の安寧あんねいは保たれた。

 メイドに、紙とペンを用意してもらう。

 さすがお城だ。

 巷で購入したら高いものだとは思うが、普通に使えるとは。


 部屋にある小さな机で手紙を書く。

 どういう仕組かは知らないが、まったく知らないこの世界の文字の読み書きができるのはありがたい。

 この世界には神様が本当にいるらしいので、加護というやつだろうか。

 言葉が通じない世界にいきなり放り込まれたら、それだけで詰みそうだ。

 そう考えるとラッキーといえるだろう。


 手紙には、私は無事に到着して王族の治療に成功したことと、領主様にはなんのお咎めがないことを国王陛下から確約してもらったことなどを書いた。


「手紙って、検閲されるのかな?」

「いいえ、そのようなことはないと思いますけど」

「よかった――それでは、この手紙を街道に居るティアーズ子爵様宛にお願いします」

「かしこまりました」

 上手く届けばいいけど。

 国王陛下からの手紙も普通に届いたんだから、大丈夫だよね?


 アリスは、手紙を持って部屋の外に出ていった。

 残っているのは金髪のメイドの――クロミという女の子。

 彼女に、陛下の執務室で一緒に書類と格闘していた男性のことを聞いてみる。


「その方は多分、サイモン・フォン・ルグラン様だと思う」

 事務総官という聞き慣れない職業。

 おそらく事務方の一番偉い方だと思われる。


「う~ん」

 私は椅子の上で伸びをした。

 とりあえず、不安だったことはすべて片付いた。

 あとは領主様の到着を待つだけだが、聖女のお披露目というのはいつやるのだろう。

 領主様が到着したときに行うのだろうか?


 ――そのあとは特にやることもなく、3日ほどが経過したある日。

 私は治療した王妹殿下に面会が許された。

 治療したあとは順調だと聞かされていたし、なにかあったらすぐに呼び出されるはず。

 ――そう思いつつも、どうなっていたのか気になっていたのだ。


 部屋に入ると豪華絢爛の天蓋つきベッドに上――白いフリルが沢山ついた寝間着を着た少女が上半身を起こしていた。

 まだガリガリに痩せていたが、肌の血色もよく、綺麗な青い目には生気が戻っている。

 初めてベッドの上で見たときとは大違い。

 あの様子ではいつ死んでもおかしくなく、死神の影の気配すら感じたのだが、それもどこかに吹き飛んでしまったようだ。


 ベッドの横には世話をしているメイドたちがいる。

 私の部屋にいる女の子たちは聖女を信仰しているらしいが、この子たちはどうなのだろうか?

 いや、そんなことよりは、まず挨拶だ。

 なんと切り出したものかと、しばし悩んだ。


「王妹殿下におかれましては、聖女の奇跡により快癒への一歩を踏み出されましたようで、お慶び申しあげます。ティアーズ領からまいりました、聖女のノバラと申します」

「……」

 私の言葉に彼女がニコリと微笑んだ。

 ウェーブした金髪はボサボサでツヤもなく、肌もカサカサだが、これでふっくらとしたらすごい美少女なのでは?

 そんなオーラに溢れている。


「ファシネート様は、大変お喜びになっておられます」

 メイドの言葉に彼女がコクコクとうなずいた。

 黒い髪を後ろで束ねた、少々タレ目のメイドが女の子の代弁をしているみたい。


 やんごとなき方だから、直接話さないとか?

 いや――国王陛下は、私と話してくれていたし……。

 極度の恥ずかしがりやか、無口な方なのだろう。


「殿下は、ティアーズ領のことをお気になされていたようですが、すべて解決しておりますのでご安心ください」

 彼女がメイドを呼び、耳元でなにか囁いている。

 もしかして、すごい人見知りなのだろうか?


「芋の病気だと聞きましたが、どのようなものなのでしょうか?」

 メイドが殿下の代わりに質問してきた。


「畑の芋があっという間に真っ黒になって枯れていく疫病でございます」

 私の言葉に、少女がビクビクしてすごい怖がっている。

 小動物みたいで、すごく可愛い。


「それを処理したのでしょうか?」

「はい、聖女の奇跡と回復薬ポーションを使って、綺麗に駆除いたしました」

 彼女が私の言葉に驚いて、メイドをよんでこちょこちょ話している。


「植物に回復薬を使ったのでしょうか?」

「はい、薬問屋と協力して専用の薬を作りました」

 私の話に、少女もすごく喜んでいる。

 とても優しい女の子なのだろう。


「ファシネート様は、すでに普通の食事を摂られていらっしゃるのですよ」

「奇跡で病気が完治しているはずですから、今は痩せていらっしゃるだけですし」

「信じられません……専属の治療師も驚いておられました」

 治療師――この世界の医者であろうか。

 医者だったらいいが、もしかしてまじないや祈祷をする人かもしれない。


「それゆえ奇跡なのですよ」

 なんだかインチキ教祖様みたいな言葉で自分でも笑ってしまう。

 私自身も、どうやって病気が治っているのかさっぱりと解らないので――不思議な力で治っているとしか言いようがない。


 目の前の少女も、この分なら食事を普通に摂っているだけで、すぐに元気になりそうだ。

 あとは――領主様を待って、お披露目とやらを迎えるだけね。


 あ~、沢山の王侯貴族がいる場所で、聖女のありがたいお言葉とか言わなくちゃならないのだろうか?

 そういうの苦手なんだけどなぁ。

 元世界じゃブラック勤めのアラサー女子が、なんでこんなことになったのやら……。



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