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57話 元世界の残り香


 お城にやって来た私は、色々と揉めごともあったが王族に会うことができた。

 魔女のことを目の敵にしてくる偉い魔導師がいるのだが、そんなのはどうでもいい。

 必殺のキックで黙らせた。

 暴力はすべてを解決する。


 面会した病気の王族は、やせ細り意識不明の状態。

 明日をもしれない命だったが、彼女は自分の命よりティアーズ領の民の命を優先してくれたという。


 これはもう助けるしかないでしょ。

 もともとそのつもりで来たわけだし、この国に義理はないが、お世話になったティアーズ領には義理はある。

 私は王族の手を握って祈った。


 ――目を覚ますと、低い天井が見える。

 すぐ近くに細い柱が見えるので、天蓋があるベッドに寝かされているのだと解った。

 部屋は薄っすらと明るく、カーテンがある窓の部分がぽっかりと浮かんでいる。

 奇跡を使ったときは暗かったが、気を失っている間に夜が明けてしまったのだろう。

 お城に入ってきたときには薄暗くて不安で一杯だったが、今は心の中まで明るい。

 首がつながっているということは、治療は上手くいったらしい。

 失敗していたら、生きていても牢屋の中に違いない。


 身体を起こすと、一人には大きすぎるベッドの上にヤミが丸くなっていた。

 どうやら約束は守ってくれたようだ。

 ベッドの隣に小さなチェストがあったのだが、その上に私の魔法の袋が置いてあった。

 私が本当の聖女だと確認されたので、返してもらえたのだろうか。

 私の格好もスケスケな寝間着に着替えさせられている。

 すごくすべすべでものすごく高そうな生地。

 こんな贅沢なものを使ってもいいものだろうか?

 どうにも貧乏性なので、部屋が広いと掃除が大変そう――とか、そんなことばかり考えてしまう。


 寝間着だけではない。

 部屋の中を見れば、豪華絢爛。

 すべて石造りで、いたる所に金が使われている。

 あるところにはあるもの――さすが王族が住んでいるお城だ。


 ベッドから降りると、絨毯にはサンダルのような室内履きが置いてある。

 それを履いて壁を見れば、細長い姿見鏡。

 そこに自分の姿を映す――。


「うわ」

 ちょっと自分の姿にびっくりした。

 寝巻きが透けて、身体のラインがハッキリと見える。

 これはエロ過ぎるかもしれないが、他に服が見当たらない。

 そのまま、そっと部屋の扉を開けた。

 特に鍵などはかかっていないようである。


 首だけ出して左右を見れば、甲冑を着た兵士が立っていた。

 私の護衛だろうか?


「あの~」

「お目覚めになられましたか。すぐにメイドを呼びます。部屋でお待ちを」

「はい」

 取り付く島もない。

 多分、子爵邸とは比べものにならないぐらいに縦割り組織なんだろうなぁ。

 まぁ、メイドがやってくるなら、その子から聞けばいいか。


「にゃー」

 ヤミが目覚めて、ベッドの上で4脚を伸ばしている。


「治療は上手くいったみたい?」

「にゃー」

 あの時点では目覚めなかったようだが、顔色がよくなって血行も戻ったらしい。


「それはよかった。とりあえず首を刎ねられる心配はしなくてもいいってことね」

「にゃ」

 私をここまで運んでくれたのは、あのライオンみたいな近衛騎士のようだ。

 彼は聖女を信じていたようだったので、問題はないか……。


 ヤミがドアを開けてほしいようなので、少しだけ開けてやるとスルリと出ていった。

 兵士の声は聞こえなかったので、気づかなかったのか、見て見ぬ振りをしてくれたのか。


 部屋の中にある椅子に腰掛けていると、夜が明けたのか徐々に明るくなってきた。

 カーテン越しに鈍角の日差しが入り込んできて、赤い絨毯を照らす。

 窓の外を見てみる。

 下に緑の庭園が見え、地面から窓を数えると、ここは3階らしい。

 治療した王族の部屋の近くなのだろうか?


 窓から海が見えないので、海と反対側にある部屋らしい。

 高い塔の上に、海からの風で回る大きな風車があり、なにかの動力に使われていると思われる。

 その奥には切り立った崖。

 正面は海、裏は崖――難攻不落の要塞ってことになるのだろうか。

 そのまま庭を見ていると、ドアがノックされた。


「どうぞ~」

 ドアを開けて入ってきたのは、私の面倒を見てくれたあのメイドさんだ。


「おはようございます」

 お互いに挨拶を交わす。


「あの、聖女様。私たちに敬語は必要ありませんから」

「私が聖女というのは国王陛下から認められたのですか?」

「はい」

「よかった」

 これで第一関門クリアってところね。

 普通にお城に召喚されていれば、こんなに苦労することもなかったのに……。

 いや、いきなり呼び出されて、聖女様だから活躍してくださいと言われても困るだろうなぁ。

 それで揉めた聖女もいるんじゃなかろうか。

 過去の聖女のことを考えていると、メイドが困っている。


「あの……」

「ああ、お腹が空いたので、食事をお願いしたいの。奇跡を使うとお腹が空くのね」

「は、はい」

「朝早くだから、昨日の残り物でもいいけど」

「あの、聖女様に残り物をお出しするわけには……」

 私の申し出に彼女が困惑しているが、とりあえず腹が減ったのである。


「ええ、まだ朝食の準備とか始まってないでしょ?」

「もう厨房は動いてはいますが、これから作るとなるとそれなりのお時間をいただかないと……」

「そんなわけで、とりあえずお腹になにか入れたいの。料理が無理なら果物とかでもいいけど」

「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

「お願いします」

「私は、アリス・スプリング――アリスとお呼びください」

「よろしくね。私もノバラでいいのだけど」

「そうはまいりません」

 聖女を崇拝している一方で、目の敵にしている人もいるから困ったものね。


「私が治療した王族の方の容態はどうなのかしら?」

「とっても顔色もよくなられまして、ファシネート様のあのような穏やかな寝顔は……」

 アリスというメイドが、両手で顔を覆い涙ぐんでいる。

 メイドにも慕われているということは、よく物語に登場する横柄な王族ではないのだろう。

 自分の命より民を優先したという話からも、それがうかがい知れる。


「メイドたちにも慕われているのね」

「……はい」

 それはいいとして、食べ物を持ってきてもらうことにした。

 腹減りで、フラフラして倒れそう。

 魔法の袋が戻ってきたので、中にある食べ物を食べてもいいのだが。


 袋といえば、戻ってきたが中身が気になるのでチェックしてみた。

 さすがに、ものをボッシュートされたりとかはしてないみたいで一安心。

 そういえば、お城に来るまでに金貨を相当使ってしまったのだが、補填されるのだろうか。

 あとで請求しよう。


 ぼんやりしているとメイドが戻ってきた。

 カートの上に皿が載っており、その上に果物が積まれている。

 果実の横には皿と果物ナイフらしきもの。


 それを見て、病院のお見舞いに持っていく果物の詰め合わせを思い出した。

 かごに入っているやつ。

 昔は、病院近くのコンビニなんかにも、そのセットが売っていたような気がする。

 今って、そういうのも売ってたっけ?

 レジの上のほうに、お菓子の詰め合わせなんかはあるけど。

 ああいうのも需要があるのかな?


 私は元世界のことを考えながら果物に手を伸ばした。

 今まで見たことがないものもある。

 王都は暖かいので、ティアーズ領と植生が違うのかもしれない。

 そりゃ、沖縄ぐらい暖かいと、マンゴーとかパイナップルとかヤシとかあってもおかしくないし。


 私が手に取ったのは桃のような果実。

 形は似ているのだが、細かい毛が生えておらず皮はつるつる。


「それですか?」

「え? はい」

「では……」

 メイドが私の手から果実を取ると、ナイフを使って皮を剥き始めた。

 するするとよどみなく皮が剥かれていく、手際がいい。


「あの、皮ぐらい自分で剥くので……」

「これが私たちの仕事ですから、取らないでください」

 そう言われると、なにも言えない。

 私が皮を剥いているところを見られたりすると、メイドたちが怒られたりするのかもしれないし。


 メイドの手並みを見ていると、皮を剥かれて白い皿の上に果実が綺麗に並べられた。

 銀らしい金属でできた串が置いてあるので、食べるときはそれを使うらしい。

 果実を突き刺して口に運ぶ。

 芳しい香りと甘酸っぱい味――桃に似ているけど、桃じゃない。


「美味しい!」

 私が次々と口に放り込むのを見て、メイドが同じ果物を手にとった。


「もう一つ召し上がりますか?」

「お願い」

 果実を2つ平らげて、やっと一息ついたって感じ。

 ――それはいいのだが、食べたらそのあとは……。


「あ、あの……お花摘みをしたいのだけど」

「その前に、着替えをいたしましょう」

「え、あ、はい」

 そういえば、今はスケスケの寝間着だった。

 これで外に出るのはかなり勇気がいる。


 メイドが壁をいじると隠し扉が開き、そこから白いドレスを持って出てきた。


「そこに部屋があるんだ」

「はい、聖女様の許可があれば、クロミと一緒にそこに待機したいのですが」

 クロミというのは、彼女と一緒にいた金髪のメイドの娘らしい。


「待機って――」

 私も、その部屋を覗いてみる。

 小さい部屋ながらも、二段ベッドやら机が置いてあり生活できるスペースが確保されている。

 その奥には、普段使わないものをしまう物置や、ワードローブが備わっているみたい。

 つまり、女の子2人が私の専属のメイドになるということだ。


「ここだけでも、森にいたときの家より大きいのだけど……」

「聖女様、よろしいですか?」

「う~ん――それはいいのだけど、聖女の力って使うと倒れてしまうのは見たわよね?」

「はい」

「今日は、ちょうど朝に目が覚めたけど、真夜中に目覚めたりとかバラバラなのよね」

「承知いたしました」

「いえ、だから――昼に起きたり夜に起きたり、付き合うのは大変よ?」

「お仕えいたします」

「陛下からのお許しは?」

「もちろんいただいております」

 着替えながら説得しようとしたのだが、諦めた。

 ――それはいいとして、私は花摘みに行きたいのだ。

 こうやって人前でいつも裸になっていると、慣れてしまうものね。

 とはいえ、男の人の前で裸にはなれないけど。


「それでは、ご案内いたします」

 着替えた私は、メイドのあとをついて廊下に出ると、護衛の兵士に軽く会釈をした。

 彼女のあとをついて長い廊下を歩く。


「そういえば、果物を台車に載せて持ってきたけど、調理場ってどこにあるの?」

「1階です」

 倉庫は地下にあるらしい。


「1階からあの台車をどうやって持ってきたの?」

「昇降機があります。人が乗るのは禁止されていますが」

「そうなんだ」

 とりあえず3階まであるのは間違いないこの城で、荷物を上げ下げするのは大変だろう。


 そのまま話しながら、突き当りの部屋に入った。

 8畳ほどの広さで石造り。

 金細工が施されているのだが、なにもなく真ん中に台座らしきものがある。

 これがトイレらしい。


 蓋を開ける――黒い穴が下まで続いているが、においなどはない。

 この世界には魔法があるので、それで綺麗にしているのだろうか。

 手をかざすと風の流れがある。

 中が負圧になっているので、においが上がってこない仕組みだ。

 すごいと感心していると、私の後ろにアリスというメイドが立っている。


「あ、あの……ここを使いたいんだけど……」

「はい、どうぞ」

 彼女は動く気配がない。


「1人にしてほしいのだけど……」

「いいえ、お世話いたします」

 アリスの言葉に1片の淀みもない。


「いやぁぁぁぁ!」


 私はトイレで隅々までお世話されて、自分の部屋に戻ってくるとベッドの上で悶絶していた。

 やんごとなき人は、これが普通らしい。

 ちょっと勘弁してもらいたい。

 王様に交渉して、トイレは1人で使えるようにしなくては……。


 そのあと、しばらくして朝食の時間になった。

 運ばれてきた料理を見て驚く。

 皿に盛られたご飯があり、一緒に箸がついてきたことだ。

 サラダなんかもついていて、その横に黄色のクリーム状のものが乗っている。


「この棒――箸っていうんだけど……」

「はい、歴代の聖女様が使用することが多かったので、聖女様がお城を訪れると用意されます」

 召喚された聖女ってのは日本人ばかりだったのかしら?


「この米は?」

「それも聖女様がお求めになったので、国中から探し、そのときからずっと栽培されております」

「市場には出回っているの?」

「いいえ、普段は王族の方しか召し上がりません」

 子爵領と同じように、王家直営の農場がありそこで栽培されているらしい。

 王都はかなり温暖なので、米の栽培も可能だろう。

 その米を箸で摘んでみるが元世界の米と少々違い、長粒米である。

 口に運ぶとパサパサした感じなのだが、うっすらと塩が振ってあるようだ。

 これはこれで美味しい。


「まさか、ご飯が食べられるとは」

 サラダについている黄色のクリームを少し箸で舐めてみる。

 これはマヨネーズだ。

 マヨネーズも作られていたのね。


「この調味料も、市場にはないわね?」

「はい、製造法は秘伝になっており、一部の人間しかそれを知りません」

 王家が独占しているので、希望者には製造して貴族や大店の商人に卸しているらしい。


「ありゃ、生クリームの作り方とか教えちゃったけど、大丈夫かしら?」

「……多分、大丈夫ではないと思いますが、ここで聞かなかったことにいたします」

「そうしてくれるとありがたいわ」

 元世界の知識関係は王家の利権になっているので、勝手に漏らしちゃだめなのね。


「そういう知識って、王家が独占しているの?」

「いいえ、貴族様に嫁いだ聖女様もいらっしゃるので、その場合は王家以外が利権を持っているところもございます」

 メイドの言葉に私は驚いた。


「え?! 聖女が王侯貴族に嫁いだの?」

「はい、そういう方もいらっしゃいます」

 ええ~? この異世界に日本人のDNAが紛れ込んでいるなんてちょっと驚きだが、それっぽい人はいなかったような……


「え~と、なんていったかな? 赤い髪で、赤い眼帯をした近衛騎士の人……」

「ルナホーク様ですね。ルナホーク・ソアリング様」

「ああ、その人。眼帯に聖女からもらった文字を刻んでいたけど」

「あの方の家には、数代前に聖女様が嫁いでいます」

「え!? 本当?!」

「はい」

 日本人要素がどこにあるんだろう。

 眼帯の漢字以外、まったく感じなかったのだけれど。


 意外な驚きの食事のあとは、またしばらく部屋に待機になってしまう。

 ベッドの上でまったりしていると、アリスがヤミを連れて戻ってきてくれた。


「どこに行ってたの?」

「にゃー」

 お城の中を探検していたらしい。


「エルフがいたの?」

「にゃ」

 エルフってのは細身で背が高くて、男だか女だかよくわからない種族らしい。

 私はエルフに似ているらしいが、彼らは皆が金髪で美男美女揃いだという。

 あの公爵のドラ息子も、私を十人並みと言っていたから、明らかに違うのではなかろうか。


「そのエルフの方は、大使のサルーラ様だと思います」

「大使?」

「はい」

 彼らの住処は、帰らずの大森林と呼ばれている場所。

 ハーピーたちが住んでいる所と同じだ。

 只人と言われている普通の人間たちが、決して足を踏み入れることがない危険な場所。

 エルフたちは、隣の帝国から迫害を受けているらしいので、この王国と同盟を結んでいるらしい。

 協力して侵略者に対抗しているわけだ。


 山脈を隔てた大きな国が、小さな国々を併合して帝国になったというが、大規模な侵略を始めたのは帝政が倒れてからのようだ。

 帝国議会と癒着した軍部の暴走らしい。

 国内政治が上手くいかないと、戦争をして国民の文句を外に向けるのだろう。

 歴史の授業でそんな国が色々とあった気がするけど古今東西異世界でも似たようなことをしている。


 アリスにお茶を淹れてもらう。


「私は、やることもなくブラブラしていていいのかな?」

「陛下はお忙しい方なので、準備に色々と時間がかかりますから」

 私が国王が認めた本物の聖女ということを王侯貴族にお披露目をしないと、表立って活動できない。

 そのために準備が必要なのだろう。


「そういえば、私の治療の邪魔をした魔導師の方はどうなりました?」

 私はお茶を飲みながら尋ねた。

 淹れてもらった紅茶はとても美味しく、最上級のものに思える。


「レオス様ですか? 今は自室で謹慎中です」

 少々罰が軽いような気もするが、私が本物の聖女か解らない状態だから、魔導師の言い分も認められた――ということだろう。


「カイル様に笑われてましたよ」

 カイルというのはライオンみたいな近衛騎士だ。


「魔導師様が?」

「はい――王宮魔導師筆頭が、手も足も出ずにあっさりやられたって」

 私のあれは初見殺しみたいなものだから、すぐに対策されそうだけど。

 二度は通用しないだろう。


「魔法で目潰ししたから、私がなにをやったか解らなかったでしょう?」

「はい」

「魔女の外法だから知らないほうがいいわ」

 懐かしい食事を楽しんでいると、ドアがノックされた。


「どうぞ」

 入ってきたのは金髪のメイド。

 昨日、アリスと一緒にいた子だ。

 この2人が聖女のお付きになるらしいが、聖女に抵抗がないのだろう。

 貴族の中にはどうしても聖女が嫌いな人たちがいるみたいだし。


「よろしく――お願いします」

「聖女と一緒に行動するのは大変だけど、いいの?」

「が、頑張る……」

 両手を握ってフンスと気合を入れているので、やる気はあるのだろう。

 まぁ、大変なら増員してもらって、二交代制にすればいいし。

 これで、私の隣の部屋に同居人が増えたわけだ。


 メイドの話は解ったが――別にやることもない。

 魔法の袋から本を出してお勉強である。

 お城には図書館もあるということなので、メイドたちの暇をみて魔法と植物の本を探してきてもらうことにした。

 さぞかし立派な本があることだろう。

 まぁ、難しい魔法の本を見ても理解できないだろうし、使えないだろうけど。

 植物図鑑などなら役に立つはず。


 昼になる頃、国王から呼び出された。

 謁見の間みたいなホールではなくて、国王の執務室に呼ばれたらしい。

 メイドに案内されて向かうと、その部屋は同じ3階の真ん中辺りにあった。


 黒塗りの立派な扉の前にメイドと一緒に立つ。

 やって来たのは私だけ。

 ヤミは部屋で金髪メイドとお留守番をしている。


「陛下、聖女様をお連れいたしました」

「入ってもらえ」

 アリスに扉を開けてもらい中に入ると、木製の立派な机に国王が座って書類にサインをしていた。

 机の前には小さなテーブルと青い革のソファー。

 部屋の床には複雑な模様が織られた赤い絨毯。

 国王の後ろの窓からは、陽の光が入ってきている。

 私が部屋に入ると、アリスは外に出た。

 ドアの所で待っているのかもしれない。


 王様の机の上には沢山の紙の束。

 それを読んでチェックしてサインをしているらしい。

 王様の横には、仕事をサポートするための人員なのか、黒服の背の高い男がいる。

 メガネをかけており、黒い髪の男性だ。

 歳はアラフォー辺りだろうか。

 仕事ができそうな事務職――といった雰囲気。

 タイミングよく、スパスパと書類を陛下に渡すので、淀みなく仕事が流れている。

 一見すごいチームプレイに見えるのだが、これじゃ息抜きやサボりもできないだろう。


「待て待て! サイモン、聖女様が来ている。一息入れよう」

「これを終わらせてからにしてください」

 国王なのに逆らうことができず、仕事に忙殺されている姿を見て、私は立ったまま思わず笑ってしまった。


「ほら、聖女様に笑われてしまったぞ」

「……仕方ありません。そろそろ昼ですし」

「昼食の用意をしてくれ。聖女様の分もだぞ」

「かしこまりました」

 女性の声を聞いて驚いて、そちらをみると背の高いメガネをかけたメイドが立っていた。

 金髪の長い髪を後ろで束ねているので、既婚者――ということなのだろうか。


 国王が椅子から立ち、こちらに向かってきて私の前に立ち止まると頭を下げた。


「この度の件で、聖女様には多大なご迷惑をおかけした。謝罪したい」

「あの――ティアーズ領にいた笛吹き隊の魔導師が、いい加減な報告をしたせいですから、陛下のせいではありません」

「笛吹き隊は私の直属だ。その責任は私にある。しかし――ルクスが、そのようなことをしでかすとは……」

 当然なのだろうが、あの男と面識があるみたい。


「彼の話では、王族の治療を最優先にするために虚偽の報告をしたと申しておりました」

「なんと――そのようなことをしても、ファシネートは喜ばぬ」

 王妹殿下は、自分の治療よりティアーズ領の民のことを優先したらしいし。


「強引に連れていく――みたいなことを言われたので、撃退いたしましたが」

「あの者をか? 王宮魔導師ほどではないが、ルクスもかなりの手練だがな……。聖女様は、レオスも一撃で倒したらしいではないか」

「魔女の外法ですから、詳しくはお聞きにならないでください」

「むう――そう言われると知りたくなるのだが」

 目潰しからの、キ○タマグッバイだとは王様に言えません~。


「申し訳ございません。どうしてもとおっしゃるのであれば、魔導師様から直接お聞きになればよろしいかと」

「ははは……おっと、立ったままだったな。どうぞ、おかけください」

「ありがとうございます」

 私と国王がソファーに座ると、ドアが開きカートに載った料理が運ばれてきた。


「これは……」


 これもまた、私には懐かしい料理だったのだ。


  

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