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52話 旅は道連れ


 ティアーズ領から王都へと続く街道は、アティードを過ぎたことで工程の半分を消化したことになるようだ。

 途中で合流した近衛騎士団と少々揉めているところに、ワイバーンに襲われたりしたが、なんとか退けた。

 これからのことを領主と話し合っていると、王都から手紙がやってきた。

 王族の1人が病気だったらしいが、病状が悪化したという。

 私は、諸々の事情を考慮して、急遽王都に向かうことにした。

 普通の移動では1週間以上かかる距離だが、そこで裏技を使う。


 この世界には、高速で都市間の手紙を運ぶ獣人たちによる飛脚網が整備されているのだ。

 私の思いついた計画は、その彼らに背負ってもらい、今日中に王都に到着する――というもの。

 皆は当然反対したのだが、私はそれを振り切り強引に出発した。


 アティードという街に到着すると、新しい飛脚を雇う。

 相棒として虎柄の男の背中に乗って次の街に出発した。

 私たちの隣には、王都からの手紙を運んできてくれた黒白の獣人。

 青い空には、ハーピーのモモちゃんがついてきてくれる。


 街道をずっと旅してきたが、かなり南にやってきた。

 ティアーズ領では朝晩には冷え込むことが多かったのだが、ここまで来ると毛布がなくても平気なぐらいに暖かい。

 ティアーズ領が北海道だとしたら、王都は九州鹿児島。

 ティアーズ領がジャガイモなら、王都はサツマイモとヤシの木ぐらいの感じだろうか。

 そりゃかなり違うでしょ。


 王国の気候についての考察をしつつ、隣に飛んでついてきてるモモちゃんと遊びながら、虎柄の背中に揺られること1時間半。

 男は停止した。


「にゃ」

「一旦休止?」

「おう――ハァハァ……やっぱり、人を背負うとなると結構キツイな」

 同行していた黒白の獣人も付き合ってくれるようだ。

 虎柄の背中から降りて、魔法の袋から出した毛布を敷くと座る。

 そこにモモちゃんが降りてきて、私の膝の上に乗った。

 肩から降りたヤミは、周辺のパトロールをしている。


 獣人たちは、袋から出したらしい水を飲み始めた。


「魔法の袋は自前? それとも店のもの?」

「店のものだ。こんなの自分で買えっこねぇ」

「遊ばないで、地道に貯金すれば買えないこともないと思うけど……」

「うひひ、俺はせっかく稼いだ金を使わないのは嫌だね」

 そう答えたのは虎柄だが、黒白も同意見のようだ。

 どうも貯金というのが根本的に駄目な種族らしい。


「袋を持って逃げたりする人はいないの?」

「そんなことをしたら一発で奴隷落ちよ。アホのやることだぜ」

 彼らの話しっぷりだと、そういう連中はいないらしい。

 それに勤めてしばらくしないと貸してくれないようだし。

 そもそも、それなりに真面目な人じゃないと、こんな仕事は勤まらないか……。


「飛脚に女性はいないの?」

「ああ、たまにいるぜぇ」

「少ないのはなにか理由があるの?」

「依頼主から嫌がらせを受けることが多いって聞くなぁ」

 ああ、セクハラね。

 まったく、この世界でも似たようなものなのか。

 私は少々嫌な気分になりながら、袋から出した回復薬ポーションを虎柄に手渡した。


「はい。飲んでいいわよ」

「こんなに高けぇものをいいのかよ」

 虎柄が、空に赤い薬をかざしている。


「私が作ったものだし」

「そういえば、魔女だっていってたな。それじゃ、ありがたくいただくぜ」

 彼は一気に飲み干す。


「あ、ちょっと……」

「なんだ、どうした?」

「重傷とかじゃないから、一本は多すぎじゃないかと思って……」

「はは、大丈夫だろ?」

 彼は笑いながら袋から出したバー状のものを食べ始めた。

 茶色で四角柱の食べ物なので、なにかを加工した食品だろうと思われる。


「それはなぁに?」

「こいつか? え~と、原料なんだっけ? 兄弟」

「確か、小麦粉と豆と木の実を蜂蜜で煮て固めたものだって聞いたぞ」

 元世界でいうところの、高カロリー栄養補助食品ね。


「ははは、いい加減食い飽きてるんだが、こいつがないと走れねぇし」

 彼らがものを食べていると、こちらも食べたくなる。

 袋の中を漁ると、以前に買ったライチに似た木の実が出てきた。

 こんなに時間がたっても腐らないのは本当にありがたい。

 いつぞや手に入れた狼の肉もまだ残っているし。


 トゲトゲの赤っぽい皮を剥くと白色の果実が現れる。

 モモちゃんが食べたそうなので、食べさせてあげた。


「はい、モモちゃん」

「いいのか?」

「どうぞ」

「はむ!」

 私が差し出した木の実を、彼が丸かじりした。


「美味い!」

「ハーピーだと皮を剥くのが難しそうね」

「そう!」

 器用に脚を使って食事などをしている彼らだが、この小さな木の実の皮を剥くのは大変だろう。

 次は私が食べて、お互い3つずつ食べた。

 虎柄と黒白は、情報交換をしている。


「さて、行くかい!」

「はい、ヤミ行くわよ」

「にゃー」

「俺も行くぞ!」

 モモちゃんが私の膝の上から降りると、道を走り始めて上空に舞い上がった。

 私も立ち上がると、毛布などを払って片付けた。


「おお~、すげーな。ハーピーと仲がいいなんて――ねぇさん、いったいなに者なんだい?」

 虎柄が、上空をくるくる回っているモモちゃんを眺めている。


「私は、ただの魔女よ」

「にゃー」

 ヤミは否定的なのだが、自分では普通のつもりなんだけど。

 それにしても、モモちゃんはどこまでついてくるのだろうか。

 あまり人目に触れるのもよろしくないような気もするけど……。


 再び虎柄の背中に乗ると、街道を走り始めた。

 あと1時間半ほどで、次の街に到着するらしい。

 次の街のことを考えていると、スピードがどんどん上がり始めた。


「ちょ、ちょっと速いんじゃない?!」

「す、すげー! 身体が軽いぜぇ!」

「それって回復薬ポーションの効果が出てるだけだから!」

「おお!! すげぇぇぇ!!……神様!!……」

 虎さんが、怪しい言葉を吐き始めた。


「待って待ってぇ!」

「おお!! 神様!!……俺をもっと速く走らせてくれ!!……」

 当然こんなペースにはついていけず、並走していた黒白が遅れ始めた。


「おい! 待ってくれぇ! 兄弟、飛ばしすぎだぜ?!」

「ちょっと黒白さ~ん!」

 後ろを見ていると、私たちのあとをモモちゃんが飛んでついてきた。


「ノバラ、どうした? 随分、速いぞ?」

「ちょっと、虎さんが止まらなくなってしまって」

「あはは!」

 モモちゃんが笑っているが、笑いごとではない。


「にゃー!」

 私の肩に乗っているヤミも怖いらしい。

 私を背負っている彼は止まってくれず、それから1時間ほど走り続けて、次の街に到着してしまった。

 街に入る前にモモちゃんは空に戻っている。


「ここがホープレスだっけ?」

「にゃー」

 望みがない、あるいは絶望なんて、ちょっと怪しげな名前とは裏腹に普通の街だった。

 これといった特色はないが、ティアーズ領にあったメランジュと同じぐらいの規模だろうか。

 たまたま読みが同じというだけなのだろうと思う。


 街の大きさはそれほどではないが、人が多くて活気がある。

 これはやはり王都が近いせいだろうか。

 それにだいぶ暖かいしね。


 私を背負った獣人は、そのまま飛脚の店の前までいくと倒れこんだ。


「ちょっと、大丈夫?」

「ははは……」

 虎さんがゴロリと仰向けになった。

 異変に気がついたのか、店の中から様々な毛色の獣人たちができた。


「お?! なんだなんだ? どうした?」「いったいなんの騒ぎでぇ?」「どうしたん?」

 獣人が10人ほど出てきたのだが、その中に1人だけ三毛の女性がいた。

 背が高く、Tシャツのような上と、下は黒いミニスカを穿いている。

 獣人の女性はミニスカ穿いてもいいのよねぇ。


「アティードから、ここまで私を運んでもらったんだけど、頑張りすぎて倒れてしまったのよ」

「え?! ねぇさんを背負ってここまで来たってことか?」

「ええ、疲れてたみたいなので、回復薬ポーションを飲ませてあげたんだけど、張り切りすぎたみたい」

「ははは、ダセー!」

 三毛の女性が腹を抱えて笑っている。


「ハァハァ……なんとでも言え。俺は走りながら神様を見たぜ……」

「ああ?」「なに言ってんだ、兄弟」「おかしくなったか?」

 獣人たちが訝しげな顔をしている。

 虎さんが変なのは、もしかしてランナーズ・ハイなのかもしれない。


「それはいいとして、はい! 金貨3枚」

 私が差し出した金貨3枚を彼が受け取った。


「え?!」「金貨3枚?!」「マジかい?!」

「私は王都まで今日中に行かないと駄目なの。次の目が飛び出すぜいって街まで運んでくれる人はいない」

「にゃー」

「ねぇさん、そりゃメデスレイやろ?」

「そう、その街よ。運んだら金貨3枚! この虎さんはなんでか無理しちゃったけど、普通に走っていれば問題ないと思うんだけど」

 獣人が倒れたままなので、回復薬ポーションを飲ませてやることにした。

 赤いのじゃなくて、植物用に作った不味いやつだ。

 あれでも効果があるのが確認されているし。


「はい、これは不味いけど、少し飲んで」

 彼が身体を起こして一口飲んだ。


「ぐぇぇぇ! なんじゃこりゃ!」

「不味い回復薬だけど、ちゃんと効くから心配いらないわよ」

「ねぇさん、あの薬はいくらで売っているんだ?」

 彼は私の作ったあれが気になるようだ。

 常習性はないと思うけどなぁ。

 けど、連続使用には危険が伴うと思う。


「1本銀貨1枚(5万円)よ。ティアーズ領まで来ることがあったら売ってあげるけど」

「確かに効き目はすげぇが――破産するな」

「その前に、あんな走りかたをしてたら身体を壊すわよ」

「だが……あのなんでもできるような無敵な感覚は忘れられねぇ……あ?! 身体が楽になった……」

「ちゃんと効くでしょ? 不味いけど」

 私たちの周りに獣人たちが集まってきた。


「ねぇさん、それよりさっきの話を」「そうだぜ」「金貨3枚」

 私がアティードでした説明と同じ話をした。


「ねぇさんの言っていることに間違いはねぇぜ。ほら、俺も金貨3枚もらったし。こいつで今夜は娼婦の尻をズラリと並べてやりまくりよ!」

「あ~、はいはい。女のいる所でそういう話はしないのよ」

「まったくな、男ってのは本当にバカだからな」

 1人だけいる女性の獣人も、私と同意見のようだ。

 獣人たちが円陣を組んで話していると、私たちに置いてけぼりを食らった黒白の獣人が追いついてきた。


「ハァハァ――ひでぇぜ。俺を置いていくなんてよぉ」

「別に無理して、追いかけてこなくてもよかったのに」

「そうは行かねぇ。道先案内をして金貨1枚って話だったろ?」

「あ、そういえばそうだったか」

 虎さんの怪しい行動のせいで、すっかりと忘れてた。

 私は黒白と話している間にも、店にいる獣人たちで話し合いをしている。

 私を背負ってきた虎さんにも話を聞いて、冗談じゃないと解ったようだ。


 つづいて、アティードの街と同様に、誰が仕事を受けるのかジャンケンが始まった。


「へへへ~、やったぜ!」

 仕事を受けるのは、三毛の女性のようだ。


「女の人だけど、私を背負って走るのは大丈夫?」

「任せておけって! 力も脚も男どもにゃ負けねぇ」

「それじゃ正式に受けてもらえるのね」

「おう!」

 仕事が決まったということで、店にも金貨を払う。

 ここの店は、ふんだくろうとせずに事情を察してくれたようだ。

 私の服装を見て、いいところの女性だと見立てたのかもしれない。

 すくなくとも、アティードの店で私の蹴りを食らった男より賢明といえる。


「疲れたら、回復薬ポーションもあるからね。遠慮なく使って」

「次の街のメデスレイまで行けばいいんだろ?」

「そうよ。よろしく」

「任せろ! 久々の大稼ぎだぜぇ!」

 私は、しゃがむ彼女の背中に乗った。

 肩幅が狭いので少々不安なのだが、私のそんな思いを物ともせずに、彼女は簡単に立ち上がった。

 本当に、男と同じぐらいの力があるみたい。


「にゃー」

 ヤミも私の肩に乗った。


「そのネコは、ねぇさんのネコかい」

「逆ね。彼が私の保護者なのよ」

「にゃ」

「ははは、そうか。ほんじゃいくぜ!」

「はい」

 私とヤミを背負った三毛は、軽々と走り出した。

 女性だからと非力な印象もなく、男たちとまったく変わらないように思える。

 体型はともかく、男女で能力差があまりない種族なのかもしれない。


「おおい、待ってくれ~」

 私たちのあとを、黒白が慌ててついてきた。

 三毛の女性は、そのまま街を出て街道を走り始めた。

 次の街はメデスレイという街らしい。


 左側を見れば、広大な農地になん本か水路が走っているのが見える。

 その遥か向こうは山地が走っているのだが、モモちゃんたちが住んでいる森の彼方にある山脈に比べたら随分と穏やかだ。


「あの水路はどこから引っ張っているの?」

「んあ? ゴルトメーネ川だよ。ホープレスとメデスレイを通って、王都の近くで海に流れ込んでる」

 この国の街というのは川の近くにあるのが普通のようだ。

 まぁ水の確保が容易になるから、それも当然よね。

 元世界だって河口の近くには街があるのが普通だし。


「へぇ~」

「魚も沢山取れる豊かな川さ」

「にゃー」

 この国の川はほとんどが南にあるサンダルース湾に流れ込んでいるが、ティアーズ領を流れるクラム川だけが北の海に流れ込んでいる。

 そのため、ティアーズで取れる魚介類は、他の地方とかなり違うらしい。

 北に川が流れ込んでいるということは、鮭なんかも捕れたりして。


「へぇ~」

「ねぇさん、ネコと話しているみたいだけど」

「そのねぇさんは魔女らしいぜ。いつも、そのネコと話してるし」

 横を走っている黒白が話しかけてくるのだが、三毛は鬱陶しそうにしている。

 あまり男が好きではないようだ。


「それじゃ、さっきの回復薬ポーションも、ねぇさんが作ったのかい?」

「そうよ。疲れたら言ってね。薬をあげるから」

「ははは、そいつはありがてぇ!」

 三毛と話していると、白い翼がやってきた。


「ノバラ!」

「は~い、モモちゃん」

「え?! も、もしかしてハーピーかい?!」

「そう、私の友だちよ」

「ネコと話したり、ハーピーと仲がよかったり――そいつも魔法かい?」

「あはは、モモちゃんは違うんだけどなぁ」

 ハーピーは、私たちの周りを並走したり追い越したり、自在に飛び回っている。

 本当に楽しそうに飛ぶのよね。

 あまり羽ばたかないで、風に乗ってひたすら飛ぶという感じ。


 そのまま1時間半ほど走る。

 相手が女性なので話しやすいし、向こうもよく話してくれる。

 ちょうど半分ほどの距離を走ったらしいので、休憩を取ることにした。

 それに時間は昼頃だし、軽く食事も取る。

 私は背中に乗っているだけだったのだが、上下運動のせいか少々お腹が空いた。


 道端に毛布を敷いて座ると、モモちゃんが降りてきた。


「ノバラ!」

「は~い」

 彼が、ポンポンと軽いジャンプをしてくると、私の膝の上に乗った。


「私は軽く食事を摂るけど、モモちゃんはどうする?」

「俺も食べるぞ!」

 彼が足を使って、自分の魔法の袋からパンを取り出した。

 私のプレゼントしたパン種を使って、彼らが焼いたパンだ。


「自分のパンを持ってきたのね」

「これはノバラにやる!」

「いいの?」

「ノバラは俺の命の恩人! 2回も助けてくれた」

「いいのよ、気にしなくても」

「ノバラがいなかったら、俺は2回死んでいる」

 せっかくなので、彼からもらったパンを食べることにした。

 私の焼いたパンとまったく同じで、すぐにパン焼きをマスターしてしまったらしい。

 すごい順応性と、知能の高さがうかがえる。


「にゃー」

 ヤミには袋の中にあった肉を魔法で加熱してあげた。

 私も一緒に塩を振った肉を食べる。


 私の影に隠れているので、通行人からは見えないだろうが、大きな翼を開くとはみ出てしまう。

 道行く人々が、こちらをチラチラと窺っている。

 やはり気になるのだろう。

 それに構わずパンを食べて、ライチも少々ついばむ。

 モモちゃんも木の実を食べたそうだったので、皮を剥いてあげた。


「ハーピーなんてたまげたけど、本当に懐いているんだねぇ」

 三毛の女性がこちらを興味深そうに見ている。

 黒白が三毛にちょっかい出しているようなのだが、完全に無視だ。


「そうよ、仲良しだもんねぇ」

「うん!」

 獣人たちは、虎さんが食べていたのと同じ高カロリー補助食品を食べている。


「男たちは、お金を稼いだら飲む打つ買うって言ってたけど、女の人はどうなの?」

「あたいは貯めてるよ」

「そうなんだ」

 稼いで散財しない獣人もいるようだ。


「なんか商売をするために貯めているの?」

「いや、いい男を捕まえて暮らすためだよ」

「へぇ~」

「俺なんてどうだい?」

 懲りずに黒白がアピールをしているのだが、まったく相手にされていない。


「おととい来やがれ」

「……」

 はっきり言われて、男はしょんぼりして尻尾が下がってしまった。

 完全にテンションが下がっているのが解る。

 彼女は獣人の男が嫌いなのだろうか?


「う~ん、もしかして男が嫌いなの?」

「ああ、獣人の男どもはサイテーだからな」

「それじゃ、相手を探しているのは獣人以外の男ってこと?」

「まぁそうだね」

「獣人たちに理解がないと駄目だから、中々難しそうね」

「でも、解ってくれる只人の男なら最高だって話だし」

「けっ! そんなのは街の噂だろ?」

 へそを曲げた黒白が、嫌味らしい言葉をつぶやいてきた。


「うるせぇ! 話に入ってくるな!」

 でも、獣人の女性は可愛いしふわふわだし、好きそうな男もいるかもしれないなぁ。

 ニャルラトの村でも、只人がなん人かいたしね。


「知り合いの獣人の村にも只人がなん人かいたから、解ってくれる人はいるかもねぇ」

「ははは、そのときのために金を貯めているってわけよ」

「悪い男に引っかかって騙されないようにね」

「任せろ! へへへ」

「にゃー」

 ヤミが心配しているのだけど、この三毛さんはしっかりしてそうだから平気だとは思う。


 食事が終わったので出発することにした。


「それじゃね、モモちゃん」

「おう!」

 彼が道を走って天高く舞い上がった。

 突然現れたハーピーに通行人も驚いている。


「すげーな! 本当に簡単に空を飛ぶんだな」

「獣人より速いみたいよ」

「そりゃ、空を飛ぶんじゃ敵いっこねぇ、フヒヒ」

「獣人の男たちは、ムキになって彼に勝とうとしてたけど」

「だから、バカなんだよ!」

 辛辣だ。


 三毛さんにしゃがんでもらい、また彼女の背中に乗ることになる。

 背負ってもらったのだが、彼女のうなじの毛がフワフワで綺麗なので思わずなでてしまった。


「うにゃぁぁ! な、なんだよ!」

 すごく手触りがよい。


「あ、ごめんなさい。あ~、ニャルラト君に会いたいなぁ」

「なんだ、獣人の男と知り合いなのかい?」

「子どもだけどね。ふわふわで凄く可愛いの」

「こ、子どもが可愛いのは認めるけど、少しすりゃああいうバカになるし!」

 彼女が黒白を指した。


「なんだよ、俺がなにかしたかよ……」

 なにもしてないのに、すっかりと嫌われてしまった黒白は落ち込んでしまっている。

 とばっちりをくらって、ちょっと可哀想だ。


「飲む打つ買うをやらない、獣人の男っていないの?」

「まぁ、いないこともないけど、そういうやつは生活能力もねぇから」

 子どものときはすごく可愛いのに、あのまま大人になってくれないものだろうか。

 多分、二次性徴を迎えてしまうと、見慣れた獣人の男たちになってしまうのかもしれない。


 三毛さんの背中に乗ると、街道を走り始めた。

 しばらく走ると木が少し残っている場所があったのだが、馬車が急いでなん台も走ってくる。


「ねぇさん! こりゃなにかあったぜ?」

「ええ? 急ぐのに……」

 走ってくる馬車に、三毛が尋ねた。


「おい! どうした?!」

「野盗だ!」

 馬車の上で手綱を持っている男が、短く答えた。


 ちょっと!

 こっちは急ぎなのに!



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