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51話 3段重ね


 またワイバーンに襲われた。

 ハーピーのモモちゃんが引っ張ってきちゃったのよね。

 彼らの天敵がワイバーンらしい。

 ハーピーたちには対抗手段がなかったのだが、私をはじめとしたティアーズ騎士団が巨大な魔物を倒してしまった。

 それを知っているから、モモちゃんは私の所に逃げてきたというわけなのだが……。


 多数の怪我人は出たが、死者がゼロなのは不幸中の幸い。

 聖女の奇跡を使って皆を癒やしてあげた。

 勢い余って隻眼の騎士の目まで治してしまったが。

 倒したワイバーンは地元の領主と交渉をして、山分けするということで話がついた。


 朝になりモモちゃんを抱っこしたまま領主様と話していると、国王陛下から手紙がもたらされた。

 手紙の内容からすると、聖女にすぐにでも王都にやって来てほしいようなのだが……。

 現在位置は、ティアーズ領と王都のほぼ中間地点。

 馬車では10日以上はかかる距離だ。


 急いで来てほしいという理由を、ルクスが知っているようなのだが……。


「ルクス、なにか知ってるの?」

「おそらく――王妹殿下の容態が悪化したのかと」

 彼の言葉から、王族の1人が病気らしい。


「王妹って陛下の妹君ってこと?」

「はい……」

「それって……もしかして、あなたが強引に私を連れていこうとしたことに関係している?」

「すべてではありませんが、関係しております」

 彼が、ティアーズ領の被害を過小に報告していたという話は聞いていたが……。

 王族の治療のために強引に聖女である私を連れていこうとしたのだろうか?


「なぜ、それを言わなかったの?」

「言ってどうなさいます?」

 彼が少々呆れたような顔をした。


「どうって……」

「ティアーズ領を捨てて、王都に向かいましたか?」

「それはないわね」

「そうでしょう。異世界からやって来た聖女様は、王侯貴族より民を重視する傾向がございます」

「だって、王族1人とティアーズ領15万人よ? どちらを取るのかは、当然至極でしょ?」

「それでいつも争いになるのですが、王国の人間は違うのですよ」

 なん回か話に出てきた、王侯貴族至上主義ってやつだろう。

 大事なのは王侯貴族で、国民の代わりなどいくらでもいるというやつだ。

 いままでの聖女でもそういうことがあったのなら、王侯貴族に評判が悪くて民からの人気が高いのもうなずける。


「それじゃ、王族1人のために沢山の民を不幸にしてもいいと言うの?」

「すべての方がそう考えているわけではありませんが、そう考える諸侯は多いのです」

「……」

「ティアーズ領を治める子爵様も、苦渋の決断をされたと思いますよ」

 ルクスの言葉に領主が反応した。


「私はいいのだ! たとえ反逆者の烙印を押され、処刑をされたとしても民が助かれば、それでいい!」

 こんな立派な領主が自らの義務を果たしたというのに、それが反逆だなんて。

 私の考えはどうであれ、国王の命令に逆らったのだから、それを不忠だとそしられてもおかしくない――と、ルクスは言いたいのだろう。


「もちろん、そんなことはさせませんけどね!」

「そうは言われましても、すべての王侯貴族や国軍相手にどう戦います?」

「うぐ……それは……」

 私だけ他国に亡命したとしても、領主様の処分は免れない。


「世の中には変えられないこともあるのです」

「あなた――私とヤミにやられたことを恨んでるの?」

「なぜ、そのような結論になるのか不明ですが、それについては私の身から出た錆でもありますし。この度のことはよい経験になりました」

「……」

 私はしばし考えたのだが、さっき手紙を運んできた黒白の獣人が目に入った。


「聖女様?」

 心配そうにしている領主が私を見ているのだが、1つの考えが浮かんだ。


「解った! 私がすぐに王都に行けばいいんでしょ?!」

 行ったら、そこで交渉だ。

 王族の治療をすればいい。

 人の命を交渉の材料にするのは嫌だが、それも向こうの出方次第だ。


「そのようなことは不可能です。馬を飛ばしたとしても、かなりの日数がかかるでしょうし」

 私の言葉に、ルクスも否定的だ。


「彼らがいるじゃない」

 私は、獣人を指した。


「「獣人……?」」

 領主とルクスが固まる前で、お目当ての彼の所に行く。


「あなた」

「あっしですかい?」

「そう! 私を背中に乗せて走れる?」

「そりゃ走れますが……」

「本当? どのぐらいの距離? 大都市と大都市の間ぐらい?」

「やったことがありやせんが、おそらくは……まぁ」

「疲れても大丈夫よ?」

 私は自分の袋から回復薬ポーションを出した。


「こりゃなんですかい? 回復薬?」

「多少疲れたとしても、薬があれば大丈夫でしょ?」

「まぁ、おそらくは……」

「それじゃまず! 私を背中に乗せて、アティードの街にある飛脚の店に連れていって」

「そりゃ、仕事というなら受けさせてもらいやすが……」

「街までで金貨1枚!」

 私の言葉に獣人が飛び上がった。


「金貨?! マジですかい?!」

「本当よ! 行く? 行かないの? これは正規の仕事じゃないから、中抜きされないわよ?」

「行きやす! 任せてくだせぇ!」

 飛脚の商売形式はよく解らないが、察しはつく。

 至急とか機密の手紙は金貨が代金となるが、全部を彼らがもらえるわけじゃないだろう。

 当然、そこから店に抜かれて渡されるはず。

 そこは元世界と変わらないと思われる。


「あの――それよりも」

「なぁに?」

「姉さんが抱いているそれは……もしかしてハーピーですかい?!」

「そうよ」

 モモちゃんは私に抱きついたままで、獣人のほうを見たりはしない。

 人見知りの子どもみたいな行動だ。

 ちょっと可愛い。


「お待ちください、聖女様! 獣人の背中に乗って、王都まで行こうとおっしゃるのですか?」

 私の計画を聞いた領主が飛んできた。


「はい、それしかありませんでしょ? とりあえず王宮に乗り込んで交渉いたします」

「聖女様にそんなことをさせるわけにはまいりません!」

「国王陛下が来いとおっしゃるなら、向かわないといけませんでしょ?」

「うう……」

「それに、王族を助けて恩を売れば色々と有利に交渉できますし、ここはチャンス――じゃなくて絶好の機会です」

「し、しかし……」

「聖女様! 危険です。お止めください!」「聖女様!」

 ヴェスタと団長も飛んできた。


「いいえ、これは子爵領のためでもありますし」

「にゃー」

 私の足下にヤミもやってきた。


「え? 彼はどうするの?」

 彼とは、ヤミが魔法で縛っているルクスのことだ。


「にゃ」

 どうやら魔法を解くらしい。


「魔法を解いて大丈夫なの? 裏切って邪魔したりしないでしょうね?」

 私の言葉にルクスが反論した。


「少々遅れはいたしましたが、聖女様をお連れするという勅命は果たせそうですし、当事者として国王陛下にことの顛末を報告するという務めがありますから。それはありえません」

「本当?」

「はい」

「「聖女様!」」

 皆は止めるが、もう決めたのだ。

 女は度胸、やるしかない。


「お姉さま!」

 異変に気がついたのか、ククナがテントから出てきた。


「ククナ様、ちょっと先に行ってますから」

「え?! どういうことなの?! うそ?!」

 突然のできごとにお姫様は戸惑っているのだが、説明している暇がない。

 ククナのあとをついてきたアルルにも頼む。


「アルル、一緒に連れて行けないけど、後を頼んだわ」

「聖女様、どうなさるおつもりですか?」

 さすがに、こんなことに巻き込むわけにはいかない。


「詳しくは、ルクスから聞いて」

「「「……」」」

 皆が私の行動に言葉を失っている。

 そんなに奇抜なのだろうか?


「大丈夫でしょ? 地上なら獣人たちより速い生き物はいないんだから」

「そのとおりですぜ? でもあの、さっきから聖女様というのは……?」

「ああ、それは気にしないで。それよりも、背負って走れるってのは本当なんでしょうね?」

「嘘は言いませんぜ? 実際、そういう客を背負って走ることもありやすし」

 取引の時間などに間に合わないなどで、商人などがタクシー代わりに使うことがあるらしい。

 みてくれより実を取る商人らしい。

 貴族なら、獣人におぶられるとか、どんな危機的状況でも絶対にやらないだろう。


「それじゃお願い!」

 抱いていたモモちゃんを地面に降ろす。


「モモちゃん、ごめんね。私は、これから王都まで行かなくちゃならないから」

 彼の頭をナデナデしてあげる。


「解った……」

 私がいなくなったら、この馬車列に彼が訪れることはなくなるだろう。

 人々の間を抜けると、街道を翼を広げてすごい速さで走り始めた。

 そのままふわりと浮き上がると、あっという間に天高くまで舞い上がる。

 いつ見てもすごい。


 ハーピーの姿に見とれている場合ではない。

 とりあえず街まで行かなければ。


「背負うと尻を触ることになりやすが、怒らないでくださいよ」

「お尻ぐらい、いくらでも触っていいわよ」

「ほんじゃ、ほいさ!」

 彼がしゃがんだので背中に乗る。


「はい!」

「よいさ!」

 おんぶしてもらうなんて、小学校低学年ぶりじゃないだろうか。

 おぶられている私の姿を見て、ヴェスタが怖い顔をしている。

 だって仕方ないでしょ。


「にゃー」

 ルクスがヤミを持ち上げると、ネコの手が彼の額に当たる。

 魔法を解いているのだろう。

 本当に大丈夫なんだろうか。

 この世界の忠誠心なるものに少々理解が足りないので、ちょっと心配になる。


 作業が終わると――そのままルクスが、ヤミを私の肩に乗せてくれた。


「さぁ! 出発!」

「「聖女様~!」」

「王都で待ってますよ」

 私は、皆が引き止めるのを振り払い、強引に出発した。

 話し合っても結論は出そうにないし、病人がいるというなら時間が惜しい。

 獣人は私を背負ったまま、どんどん加速していく。

 すごい速さだ。

 時速60kmぐらいだろうか?

 これでも巡航速度で、トップスピードはもっと出るらしいし。

 速いのだが、乗り心地も馬よりいい。

 上下運動が少ないのだ。


「ノバラ!」

 感心していると、突然右側から話しかけられた。


「え?!」

 横を見れば、私たちと同じ速度で飛んでいるモモちゃんがいた。


「モモちゃん!」

「ネコのくせに、速いな」

「へ! 鳥野郎がなにを言いやがる!」

 私を背負っている男が、スピードアップした。

 ものすごい速さだ。

 時速80kmほど出ているのではないか?

 さすがに、これは怖い。


 街道には馬車や通行人たちもいるのだが、その間を縫って行われるデッドヒート。

 さすがに速すぎて、皆がどんな表情をしているのかも見えない。


「おお~っ! 速いな!」

 横を見れば、モモちゃんも飛んでついてきている。

 グライダーのように翼を広げて、速度が落ちると地面を蹴って私たちに追いついてくるのだ。

 さすがの獣人も全力疾走だと疲れるのか、徐々に速度が落ちてきたが、ハーピーは平気な顔をしている。

 これは明らかにハーピーの勝ちだろう。


 そんな戦いをしていると、30分ほどでアティードの街が見えてきた。


「それじゃモモちゃん! 元気でね!」

「ノバラ見つけたら、また来る!」

「解った」

 彼らは、猛禽類のように目がいいみたい。

 空からでも私を見分けられるに違いない。


 私は獣人におんぶされたまま、街に入った。

 大きな街だと聞いていたが本当に大きい。

 街だけで数十万人が住んでいるのではないだろうか?

 ここを治めているのも伯爵様ということだったので、ティアーズ領より大きいことは確かだろう。

 通りには沢山の人がいるから、さすがにスピードは出せない。

 獣人におんぶされている白いドレスの女。

 それだけでも道行く人たちにジロジロと見られているような気がする。


 街には背の高い建物が多く発展している。

 見たことがない大型のクレーンも動いていた。

 ハムスターの回し車のように、巨大なドラムの中に獣人たちが入ってぐるぐると回しているのだ。

 それでクレーンの動力を作っているのだろう。

 すべて人力だ。


「へぇ~すごいわね」

「ハァハァ、ぜぇ……くそ、あの鳥野郎め……」

 さすがに全力疾走は疲れたようだ。


「そんなに無理しなくてもいいのに」

「解っちゃいますが……もうすぐ飛脚の店ですぜ」

 脚自慢をしている彼らだ、勝負をしてみたくなったのだろう。


「解ったわ! 近くで降ろして」

「はいよ」

 降ろしてもらうと、金貨一枚を払う。


「うひょ~、本当に金貨だぜぇ!」

 私から金色のコインを貰った男が、小躍りをしている。

 到着した店は石造りの4階建ての建物で、その1階が店になっているようだ。

 中に入ると熱気と獣臭さが充満している。

 獣人たちの村ではそんな感じはなかったのだが、狭い所に沢山いるとやはりにおいがするかも。

 毛色も様々――虎柄、サビ柄、黒、白黒で手足に手袋とソックスを履いている男も。

 元世界と同じように、男の三毛はいないみたい。


「たのもう!」

 私は、入り口に仁王立ちになった。


「お? なんだなんだ?!」「なんだねぇさん、仕事か?!」

「そう、デカい仕事よ! 私を背負って王都まで行ってくれる人を探しているの!」

「ねぇさんを背負って王都までぇ?」「それは、ちとつらいかもなぁ」

「さすがに、それは無理だと解っているわよ。大きな都市の間だけならいけない?」

「まぁ、それならなんとか……」「大丈夫かな?」

 なんだか獣人たちは乗り気じゃないみたいだ。

 ここは、やる気が出るようなカンフル剤が必要だろう。


「ここから王都までって、大きな都市はいくつあるの?」

「え~と、ここがアティード、その次がホープレス」「そのつぎがメデスレイ」

「ほんで、最後が王都のグラフィアだ」

「ひーふーみー3箇所ね! その大都市の間を私を背負って走ってくれれば、金貨3枚を出すわ!」

「「「金貨3枚?!」」」

 私の言葉に目を輝かせた獣人たちが集まってきた。


「ねぇさん、そりゃマジかい?」

「もちろんよ! 本気と書いてマジと読む!」

「そのねぇさんが言っていることは本当だぜ」

 私の後ろから声がしたので、振り向くとさっき運んでくれた黒白の男だ。


「彼にもここまで運んでもらったので、金貨1枚を出したから」

「「「どよどよ……」」」

「おい、ちょっとまってくんな」

 店の奥から人が出てきた。

 その男は獣人ではなくて、普通の人だ。

 小綺麗な格好をして黒い髪の毛もセットされているので、ここの関係者なのだろう。

 ちょっとチンピラ風な男だ。


「なぁに?」

「店に断りもなしに、勝手に進められちゃ困るんだよなぁ」

 私は、袋から金貨を取り出した。


「はい! お金を払えば文句はないでしょ?!」

 男が手渡された金貨をジロジロと見て、いやらしい顔をしている。


「……今回は、特殊な例だからなぁ……もうちょっともらわねぇと」

 まったくもう、時間がないのよ、時間が!


光よ!(ライト)

 目の前に閃光が浮かぶ。


「うわ! なんだ?!」

「おりゃ! キ○タマグッバイ!」

「ぐわぁ&%$#***!」

 私のケリを食らった男がひっくり返った。

 今回は軽くした。


「もっと金がほしい?! いくらでもあげるけど?」

「&%$#&*……け、結構です……」

「にゃー」

 ヤミがドン引きしている。


「解ってるわよ!」

 自分でも酷いと思うけど、この世界は強気でいったほうがいいのよ。


「ま、魔導師?」「おい、魔導師かよ……」「やべぇ……」

 男たちが股間を押さえている。


「残念、私は魔女よ」

「え? 魔女なのか?」

「ええ、それで?! やるの? やらないの?! 金貨3枚! 疲れたときには、これもあるわよ!」

 私は、魔法の袋から、回復薬ポーションを取り出した。


「「「おお~っ!? 回復薬?! マジか?」」」

 ざわめく男たちの中から、虎柄の男が一歩前に出た。


「おもしれぇ、やってやろうじゃねぇの」

「いや、待てや! 脚なら俺のほうが速ぇ!」

「なにを! そいつは聞き捨てならねぇな?」

 やる気になってくれたのはいいが、今度は揉め始めた。


「誰でもいいから、早くして」

「ほんじゃ」「やるか?」「おう!」

「「「チケタ! チケタ! チケタ!」」」

 男たちが、円陣を組んでなにかをやり始めた。

 どうやらジャンケンらしい。


「わはは! これで、金貨3枚はいただきぃ」「くそぉ!」「なんでここで負ける?」

 私を運んでくれるのは大柄な虎柄の男に決まったようだ。


「それでは、早速行きましょうか?」

「ははは、こんな仕事は初めてだぜ」

 彼の広い背中に乗せてもらう。

 その私の肩にヤミが乗っている。

 三段重ねだ。


「大丈夫? ここに来るまでに彼に乗せてもらったけど、速かったわよ?」

「てやんでぇ! 大丈夫に決まってるだろ。よっとぉ!」

「さぁ! 早速、次の街へ出発よ! え~と、ホームレスだっけ?」

「ホープレスだっての」

 私の耳には、「望みがない」って聞こえるんだけど、そのままの意味じゃないわよね?

 多分、音は同じでも違う意味だと思うけど……。


 虎柄の男は私を背負ったまま、街の中を走り始めた。


「おっと、あっしもついていきやすぜ」

 私の隣に、黒白の彼がやって来た。


「一緒に行くの?」

「あっしは、お城にこの手紙の返事を届けなきゃならねぇし」

「それじゃ旅は道連れで、道案内を頼もうかしら?」

「任せてくだせぇ!」

「無事についたら、お礼をするからね」

「やったぜ!」

 私と黒白の会話を虎が聞いていたようだ。


「ねぇさん、随分と気前がいいねぇ」

「大急ぎで王都のお城に行かないと駄目なのよ」

「お城なんかに行ってどうするんでぇ?」

「当然、国王陛下に謁見するに決まってるでしょ?」

「陛下に?! ははは、そいつは豪気だな」

「嘘だと思ってるでしょ? 本当よ? そっちの黒白だって王様からの手紙を運んでいるわけだし。ねぇ?」

「ははは、本当だぜ兄弟!」

「マジかよ……そんなに偉い人には見えなかったがなぁ。ねぇさん、魔導師じゃなくて魔女なんだろ?」

「ええ、そうよ」

 しばらく考えていたようだが諦めたようだ。


「まぁ、難しいことは解らんから、いいか。俺はホープレスまで金貨3枚で、ねぇさんを運べばいいってことだからな」

「そうよ」

「ふひひ! 金貨3枚かよ! 久々に豪遊するぜぇ!」

「豪遊ってなにするの?」

「にゃー」

「本当に?」

 獣人たちが豪遊といえば、飲む打つ買うらしいのだが。


「ヒャッハー! 娼館でズラリと綺麗どころを並べて、やりまくりだぜぇ!」

 まぁ、いいけどね。

 稼いだお金をどう使おうが彼の勝手だし。


 沢山の人々と馬車が走る大きな街を抜けて、私たちは次の街へと向かう街道に出た。

 通行量は多いのだが、獣人たちはその間を縫うように走っていく。

 速さからいえば、元世界の車のほうが速いと思うのだが、この機敏性と柔軟さはないだろう。

 長い直線道路に出ると、右横から名前を呼ばれた。


「ノバラ!」

「モモちゃん、まだ待っててくれたの?」

 私たちの横にハーピーが飛んでいる。


「な、なんだぁ?! もしかしてハーピーかぁ?!」

「そう、私のお友だちよ」

「はぁ――こいつはぶったまげたぜ……ハーピーとはなぁ」

 横を見た虎柄の彼が、モモちゃんをマジマジと見ている。


「色々と珍しいことばかりで、酒の肴にちょうどいいでしょう?」

「いやぁ、こりゃ下手するとホラ吹き扱いだぜ?」

「ノバラ!」

 モモちゃんが、飛びながら私のギリギリ横までやってきた。

 手を伸ばせば触れる距離なので、彼の顎のあたりを触ってみる。


「ふふふ」

「あはは! ノバラ、くすぐったいぞ!」

 彼は、身体をよじると右旋回して、そのまま天高く上昇した。

 上空でくるくると回っていると、また急降下して戻ってきた。

 そうやって、大空を自在に飛び回り遊んでいるようである。

 可愛くてたまらない。


 彼はどこまでついてくるのだろうか。

 私としては退屈しないで済むのだが、珍しいハーピーという種族が狙われたりしないか心配である。


  

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