49話 露天風呂でキャッキャウフフ
マッドアイとアティードという街の中間で、王都から派遣されてきた近衛騎士団と合流した。
そういう連絡はすでに受けていたのでそれはいいのだが、やって来たのは聖女を聖女とも思っていない貴族至上主義の騎士たち。
いきなりの罵詈雑言にこちらはブチ切れそうになったのだが、なんとか丸く収めた。
近衛騎士団が先行する形で、街道を王都に向けて進み始める。
次に訪れるのは、アティードという街。
ククナによれば結構大きな街のようだが、私たちはいつものように街の外で野営をする。
あの貴族のドラ息子騎士団はどうするのだろうか?
大きな街ならば立派なホテルなどがあるというから、そこに宿泊するのかもしれない。
それだとまったく聖女の護衛になっていない気がするのだが――まぁ、顔も合わせたくないし勝手にして――としか、言いようがない。
近衛騎士団と合流して街道を南下していたが、そろそろ日が傾いてきた。
街道脇に野営ができる場所があったので、そこで停止する。
街道にはある程度の距離を空けて、野営地が整備されている。
私たちが通ってきた森の中の野営地のように、大規模なキャンプ地には小さな村ができている所もある。
人が沢山キャンプをすればそれを目当てに商売を営む者がいるのはいつもの通り。
馬車から降りて、あのボンボン騎士団はどうするのだろうと見ていると――道路を挟んで反対側で野営をするようだ。
そこには小さな馬車の旅行者が先客としていたのだが、金を払って追い出したらしい。
私は、野営地から出発しようとしている馬車に声をかけた。
「あの! こちらで野営しませんか?!」
「い、いいえ! 滅相もありません! 見れば、そちらも貴族様じゃありませんか! 私どもはもう少し進んで、野営いたしますので」
馬車に乗っているのは、若い男女の夫婦と小さな女の子。
身なりはいいので商人だろうか。
「そう、気をつけてくださいね」
「ありがとうございます!」
馬車は急いでその場を離れた。
彼らも貴族と一緒じゃ気が休まる暇がないかもしれないし、致し方ないか……。
私たちも野営の準備を始める。
いつものように騎士たちがテントの設営を、メイドさんたちは食事の準備を始める。
私はやることもないので、向こうの様子を眺めていたのだが、こちらとは様子が違う。
テントの設営をメイドたちがやっているのだ。
近衛騎士たちは、くつろいでいるだけ。
おそらく馬車の御者らしき男が2人、それを手伝っている。
「ひーふーみー……」
さっき話に出たとおり、メイドの数は10人だが、建てられているテントは4つ。
こっちより大変そうだ。
少しぐらい手伝ってあげたら――と思うのだが、ずっとここまで同じことをして旅してきたのだろうから、いまさらか。
向こうが口を出さないのだから、こちらも出さないほうがいいだろう。
暇なので、椅子に座って魔力循環の訓練でもするか。
光の輪を回しているとククナも椅子を持ってきて、一緒に魔力循環をし始める。
2人の下にルクスがやって来た。
「見事な循環ですね」
「そうなの? 自分だとよく解らないのだけど……」
「そこまではっきりと光輪が見えるというのは、相当な魔力量が循環している証拠です」
「へぇ」
「そうよ! お姉さまは、すごいんだから!」
光の輪を見ながら私はあることを思いついた。
魔力が沢山あるのなら、もっとすごい魔法は使えないのだろうか?
ルクスは、国王直属の笛吹き隊に所属する高位の魔導師だ。
強力な魔法を知っているに違いない。
「私に魔法を教えてくれない?」
「魔法ですか?」
「魔力が潤沢なら、もっとすごい魔法を使えるんじゃないかと思って」
「確かにそれもそうですね」
初歩の魔法も、魔力をつぎ込めばワイバーンを倒せるぐらいに強力になるのは解っているが、それじゃ効率が悪い。
使えるなら最初から強力な魔法を撃ったほうがいいだろう。
「それでは、爆裂魔法の魔法を――」
「爆裂魔法?!」
ククナもその魔法は知っているらしい。
「すごい魔法なの?」
「当たり一面を吹き飛ばす魔法なの!」
爆弾みたいな感じの魔法だろうか?
それは強力だ。
「にゃー」
ヤミもやって来た。
汎用性も高く、よく使われる魔法だということなので、それを教えてもらうことにした。
危険なので、皆からちょっと離れた場所に陣取ると、一緒にククナとヤミが見学している。
「まずは、見本を示します――虚ろな異空へと通じる深淵の縁よ――」
彼の魔法が顕現すると思われる場所に青い光が集まり始めた。
それがオレンジ色に変わり、赤い爆炎が生まれる。
「爆裂魔法(小)」
地面の一部分が小さく弾けて、土砂を噴き飛ばした。
「おお~すごい!」
「魔力をつぎ込めば、広範囲を丸ごと爆炎に巻き込むことが可能です」
「すごい! 私にもできるかな?」
「どうでしょうか? やってみないことにはなんとも言えません」
「お姉さまならできるわ!」
やり方を教えてもらうが、他の魔法とさほど変わらない。
ただ、最初に突っ込む魔力の多さが違う点みたいだが、魔力は潤沢のようなので、そこは問題ではない。
「虚ろな異空へと通じる深淵の縁よ――」
詠唱も教えてもらう。
そんなに難しくはない――と思っていたら、突然私の身体に異変が起こった。
「うえぇ」
景色がぐるぐると回り始め、立っていられなくなった。
同時に激しい吐き気が襲ってくる。
私は、その場に座り込んだ。
「お姉さま!」
とてもじゃないが動ける状態ではない。
慌ててククナが、ヴェスタを呼んできてくれた。
お姫様抱っこされて、張られたばかりのテントの中に寝かされる。
「回る回る~」
寝ていても、テントがぐるぐると回っているのが解る。
自分に治癒を使うと、数分の沈黙とともにすぐにめまいは収まった。
「聖女様!」
ヴェスタが心配した顔をしているが、もう大丈夫だ。
「ご心配おかけいたしました」
「お姉さま大丈夫?」
「大丈夫です」
テントの中にルクスが入ってきた。
「この激しいめまいはなに?」
「魔力……「にゃー」」
ルクスとヤミが一緒に答えた。
「魔力酔い?」
「そうです。自分の魔力による自家中毒みたいなものですね」
「にゃー」
ヤミによると、魔力の通り道が細いのではないか? ――ということだった。
デカいタンクに細いホースがついているような状態か。
魔力は潤沢なので初歩の魔法はいくらでも使えるが、大きな魔法を使おうとすると詰まりを起こして制御ができなくなるらしい。
「そんなこともあるのね……」
「にゃー」
いずれは大きな魔法も使えるようになるかもしれないということだが、無理は禁物のようだ。
無理をしなくても、魔力をつぎ込んだ魔法の矢だけでワイバーンを倒すことはできた。
チャージに時間はかかるが、魔力は沢山ある。
使い方を工夫すればいいことだ。
「つまりは、ちょっと効率の悪いことをしなければならないということね」
「そういうことになりますね……」
めまいも治ったし食欲も問題ない。
癒やしの奇跡のせいだろう。
自分の身体も治せるのはありがたい。
そういえば、魔物に襲われたときに怪我をしたけど、いつの間にか治っていたことがあった。
あれも奇跡のせいだったのかもしれない。
ヴェスタも騎士たちの下に戻り、メイドたちに食事を持ってきてもらうと、テントの中でククナと一緒に食べる。
ハーピーがいないと私と2人きりなので、彼女も楽しそうだ。
食事を運んできてくれたメイドさんに外の様子を聞く。
「お向かいさんの様子はどう?」
「あの騎士様たちは、本当になにもなさらないんですね……」
「そりゃ、みんな大貴族のご子息様たちみたいだしね」
「むこうのメイドたちは、仕事が大変そうです」
「貴族のご令嬢がやっているみたいだけど、食事とか作れるのかな?」
「さすがに、そういう人選をなさっているとは思いますけど……」
「そうよねぇ……」
貴族連中は、メイドだけではなくて専属の料理人を同行させる場合もあるという。
そういえば、御者らしき男が2人いたので、彼らが料理ができる人なのかも。
まぁ余計な心配よね。
ここまで半月かけてやってきたのだから。
「う~ん……」
それにしても、大魔法が使えないのはちと残念。
ドカーンと強力な魔法があれば、皆の役に立てそうなのに。
魔法は残念であるが、相手が魔物なら癒やしの奇跡が使えるのは、森の中で襲われたゴブリンの件で証明済みだ。
選択肢は色々とある。
食事が終わると外に出て、皆に労いの洗浄!の魔法をかけてあげる。
魔法の陣中見舞いに、ククナもついてきた。
1ヶ月の旅で、お風呂なんて入れる場所はあまりないと思うのだけど、いつもはどうしているのだろう。
「私は魔法が使えるけど――メイドたちは夜に身体を拭いたりしているわ。あと、旅の魔導師に頼んで魔法を使ってもらうとか」
「やっぱり大変よねぇ」
幸い、この世界には魔法の袋があるため、水に困ることはないだろう。
向かいの近衛騎士団を見れば、騎士たちは全員テントの中に入り、メイドたちがあくせく働いている。
まぁ、あまり気にしないことにしよう。
私はククナと一緒にテントに戻ると、黒い寝間着に着替えてからベッドに寝転がった。
「にゃ」
ヤミが私の上に乗ってくると、着替えたククナが、一緒に私のベッドの中に入ってきた。
それはいいのだが……。
「こんな寂しがり屋の甘えたさんで、学園は大丈夫なんですか?」
「今だけだもん……」
彼女がすねているが、少々心配だ。
メイドや執事もつくらしいので、元世界の学生のように本当に1人暮らしではないだろうけど。
それに学園の寮は、設備も整っているらしいし。
「ふう……」
向かいにいる近衛騎士団が少々悩みの種だが、あの人たちも仕事をこなしてくれることに期待しよう。
外は静かだ。
ウチの騎士団も、向かいに近衛がいるのに騒いだりできないだろうし、ちょっと可哀想だ。
私はランプを消すと、ククナと一緒に眠りについた。
------◇◇◇------
――王都からやってきた近衛騎士団と合流した次の日の朝。
ベッドから降りると早速着替えた。
お姫様は、まだベッドの上で寝ている。
いつもより起きるのが遅かったので、食事がすでにできていた。
起きたヤミと一緒にテントで朝食を摂る。
食事をしていると、ククナが起きた。
すぐにメイドがやってきて、着替えが始まる。
食事が終わったので外に出たが、向こうはまだ動きがない。
こちらに合わせてくれるみたいな話だったのだが、それも怪しい。
だいたい仕事をするつもりがあるのか。
もうほとんど娯楽か趣味の範疇に入っているんじゃないの?
愚痴っても仕方ない。
こちらは準備を淡々として、向こうが動くのを待つしかないだろう。
いつものように、テントを解体して収納。
馬の準備もして出発の用意が整うと、向こうも焦り始めたようだ。
なんだかバタバタしている。
慌てているといっても、それはメイドと御者らしき男たちだけ。
近衛騎士たちはふんぞり返ったまま。
そりゃ、お貴族様なんだから、そうなんでしょうねぇ。
そのまま待っていると、隻眼の騎士が走ってきた。
「も、申し訳ございません。もうしばらくお待ちください」
「承知いたしました」
団長が応対しているが、向こうの管理職も大変そうだ。
団長は、最初に近衛騎士がやってくると聞いて暗い顔でぐったりとしていたが、それも今ならうなずける。
近衛騎士だったときに、さんざんこういう目に遭ったのだろう。
若いヴェスタが弱音を吐き自信がなくすのも無理もない。
とりあえず向こうでまともそうなのは隻眼の騎士だけか。
なんだかんだで1時間ほど待ち、やっと向こうの準備が整ったようなので、出発した。
まぁねぇ――しっかりと統率する人がいなけりゃ、こうなるよね。
一番偉い人があの調子じゃ。
出発ではゴタゴタしたが、そのあとは順調に進む。
途中の休憩で、爆裂魔法の復習をしようと思ったが、すぐにめまいが始まってしまい断念。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
訓練していれば、そのうち使えるようになるのだろうか?
馬車に戻ると、ヤミとククナに見ててもらい自分に奇跡を使う。
数分で気分がよくなった。
小さな失意とともに小さな村の近くを通り過ぎ、どこまでも続く畑の上に日が傾き始めた頃。
馬車が突然街道を右側に外れた。
「なに?」
窓から外を見ると、脇道に入り草むらの中を走っている。
正確には草むらの中にある道を走っているのだが。
「お姉さま、大丈夫よ」
心配する私にククナが笑っているので、問題ないようだ。
それから30分ほど道を走ると、馬車が停止した。
外を見れば河原が広がっており、なん組か馬車が止まっている。
先客がいるように、ここが今日の野営地らしい。
元世界の常識からすると、河原でのキャンプは増水の危険があるのだが……。
「にゃー」
ヤミの話では、この国を流れている川は低地を流れており、いきなり増水することもないらしい。
そういえば、まとまった雨が降ることもないみたいだし。
話を聞いても梅雨のような雨季に相当する季節もないらしい。
他にも泊り客がいることからも、この野営地を利用する者も多いようだ。
危険があるなら誰も近づかないはずだし……。
馬車から降りると、近衛騎士の連中もいたので、いつの間にか打ち合わせをしていたらしい。
また隻眼の騎士がやってきて、ウチの団長と打ち合わせをしていた。
仕事をしているの、この人だけなんじゃ……。
真面目な人って損をすることが多いよね。
2人の近くにいって話しかけた。
普通は一般人が貴族様に話しかけたりはタブーなのだが、私は聖女らしいし問題ないと思う。
「失礼ですが、少々お聞きしたいことが」
「なんでしょうか? 聖女様」
「その眼帯の文字は、『愛』ですよね?」
私の言葉を聞いた男は、表情がパッと明るくなった。
「さすが聖女様! この文字を解っておいでなんですね」
「そりゃ私の国の文字ですし」
彼の話では、数代前の聖女から賜った文字だという。
「この文字を、我家は家紋にしているのでございます」
「そうなんですね」
王侯貴族ばかりの赤い近衛騎士の中でも、この人は家ぐるみで聖女派らしい。
まぁ、こういう人もいるってわけだ。
ウチの騎士たちは、いつものようにテントを張り始めた。
今日は河原で石だらけだが、寝るときにはベッドなので関係ない。
騎士たちは、いつもそのまま寝ているので、ちょっとつらいかもしれないが。
いつもと同じようなテントの設営作業に飽きていた私は、川辺ばかりみていた。
水辺まで行ってみたが、水は透き通っており綺麗。
通り道にあった村の生活排水で川が汚れることもないだろう。
それに、この世界には水石という水を浄化するアイテムもあった。
川の水で手を洗ってみる。
私の頭の中をあるシーンがぐるぐると回っている――水浴びがしたい。
身体は洗浄の魔法で綺麗なはずなのだが、やはり水で洗いたいのだ。
私は、水辺の大きな石を並べて、小さな水たまりを作った。
水は濁っているが、手を浸けて魔法を使う。
「温め」
すぐに水が熱くなって、湯気が出始めた。
これなら、お風呂にも入れるかも……。
そう思ったのだが、私1人では無理。
こんなドレスを着ているし。
――かといって、騎士団の皆さんにこんなことを頼むのは……。
「どうしました?」
悩んでいると、ヴェスタが話しかけてきた。
多分、変な動きをしていたのだと思う。
「え~、あの~……」
「なんでもおっしゃってください」
「こんな感じで石で囲んで池を作ってほしいなぁ――と思ってみたり……」
「――承知いたしました。テントが終わってからでよろしいですか?」
「本当ですか?! もちろんですぅ」
ちょっとカワイコぶってみた。
アラサーが、なにやっとんじゃ――と自分でも思うが。
ヴェスタの言ったとおり、テントが張り終わると、騎士の皆さんが水辺に穴を掘って石を並べてくれた。
水が濁っているが、石を取って新しい流水を入れればすぐに綺麗になる。
今度はメイドさんの所に行くと事情を話す。
風呂にするためには、目隠しがいるのだ。
まさか、周りに人がいるのに堂々と見せるわけにもいくまい。
「え?! お風呂?!」
私の話を聞いたメイドたちの目が輝く。
彼女たちも風呂に入りたいらしい。
「もちろん、私も入るわよ!」
ククナも入るようだが、お姫様がこんな場所で裸になっていいものなのだろうか?
「あ、あの――聖女様……」
いつの間にか領主様もやってきて、小さく手を上げている。
どうやら彼も入りたいらしい。
話し合いの結果――私とククナが一緒に入って、そのあとが領主様。
最後はメイドたちとなった。
目隠しは、魔法の袋の中に入っていたついたてを使うようだ。
人のいる場所から見えないようにすればいい。
もちろん回り込まれたら覗かれてしまうが、そこは騎士団が警戒する。
料理ができる間に時間があるので、私とククナが先に入ることになった。
2人でついたての中に入ると――水を温める。
さすがにヤミは、ご一緒しないらしい。
ネコは水嫌いだしね。
「温め!」
すぐに溜まった水がお湯に変わる。
少し熱めにして、温度調整は川の水をいれればいい。
魔力は有り余っているから、こういう魔法ならいくらでも使える。
いい湯加減になったら、メイドさんに手伝ってもらい2人で裸になった。
完全無防備ともいかず、忙しいのにメイドが1人ついていてくれる。
私のわがままで、まったく申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
素っ裸は、さすがに女同士でもちょっと恥ずかしい。
それに野外だし。
まぁ、私は露天風呂に入ったことはあるが、この世界の人たちはどうだろうか?
温泉の話など聞いたことがなかったし、露天風呂もないに違いない。
「ククナ様、地面からお湯が湧いている場所はないですか?」
「そんな話聞いたことがないけど……」
やっぱりか。
山を見ても、火山みたいな山は見かけないし……。
2人でお湯に浸かる――といっても、底は浅いので肩まで浸かることはできない。
寝そべる形ならなんとか――でも、私の長い脚が出ちゃうけど。
それにその格好をするとモロ出しになってしまうので、さすがにちょっと……。
ククナはちょっと恥ずかしそうにお上品に入っている。
さすがお姫様だ。
「ふ~」
思わず、オッサンみたいな声を上げる。
やっぱりどうしてもね。
苦笑いしていると、ククナに抱きつかれた。
「もうちょっと温かいほうがいいですか?」
「ううん」
そのあとは十分に温まったので、いつもの黒い寝間着に着替えた。
ククナもいつものそれだが、脚が出ているので二人でロングのガウンを着ている。
こういう服も持ってきているのね。
そのままテントに戻ると、食事にする。
戻る途中で近衛騎士たちを見ると、私たちと似たようなことをやっていた。
働いているのはメイドと御者たちだが。
こちらを見ていたあのお坊ちゃま騎士が、風呂に入りたいとか言い出したのかもしれない。
あれだけ人がいれば、温めの魔法ぐらいは使える人がいるかもしれないし。
食事のあとは、領主様の入浴タイム。
辺りはすでに暗くなっているので、魔法のランプで照らしながら再びお湯を沸かす。
あとはメイドさんにまかせて――と思ったら、いつのまにか暗闇で騎士の男たちが裸になって水浴びをしていた。
「ぎゃあ!」
「おっと、こりゃ我が息子が失敬」「うひひ」「も、申し訳ございません!」
セクハラ騎士団だ。
ヴェスタも一緒に裸になっている。
強引に誘われたのに違いない。
慌ててテントに戻った。
領主様の入浴タイムのあとは、メイドさんの入浴だ。
テントに戻っても、キャッキャウフフが聞こえてくる。
一緒にアルルも入っているようなので、温度調整はできるだろう。
旅の間に、アルルとメイドたちもいつの間にか仲直りしていたようである。
彼女は魔法が使えるので、頼りにしたということだろうか?
打算で仲良くなったとすれば、少々負の感情が湧くが、人のつき合いというのは少なからずそういうところがある。
私だって魔法が使えたり奇跡が使えるから、こうやって面倒をみてもらっているわけだし。
――気がつくと、ヤミがいない。
パトロールだろうか?
もしかしてメイドたちを覗きに行ったのかもしれない。
しばらくしてから戻ってきたので、問い詰めてみても知らんぷり。
まぁ、いい。
お風呂に入って、さっぱりしたベッドの上でククナと2人で眠りについた。
------◇◇◇------
――川の露天風呂に入った次の日。
風呂に入ったせいか、ぐっすりと眠れたようだ。
朝食が終わり領主に挨拶をしても、同じことを言っていた。
「まさか、こんな所で風呂に入れるとは思ってもみませんでした」
「あはは……単に私も入りたかっただけでして……」
「それでもありがとうございます。メイドたちの士気高揚にもつながっておるようですし」
騎士団も入りたかっただろうが、彼らは街で食事のついでに入ろうと思えば入れるのだ。
街の風呂は、湯船に浸かるタイプではなくて、サウナのような蒸し風呂らしいが。
食事が終わったので、直ちに出発の準備に入る。
近衛騎士団のほうも我々のペースが解ったのか、昨日より準備が早くなっている。
これなら、ほぼ一緒に出発することができるだろう。
出発の準備が整うと、近衛騎士団を先頭に出発した。
昨日やって来た道を30分ほど進み、街道に戻る。
そのまま街道に出ると、道のりは順調に進み昼を過ぎて、3時頃を過ぎた。
次のアティードという都市は結構大きいらしく、道行く馬車も多く往来が激しい。
我々は、そのかなり手前の野営地に泊まることになるらしいのだが、近衛騎士たちは街に泊まるという。
あの、聖女の護衛って仕事は?
呆れつつも馬車は街に近づきつつあったのだが、突然馬車の天井が大きな音を立てた。
「なに?!」
私はびっくりして、椅子から飛び上がった。
窓から外を見ようとすると、目の前に逆さまの顔が現れた。
「ノバラ! 助けて!」
「モモちゃん?!」
彼の顔はかなり怯えているように見える。
さっきの音はハーピーが屋根に降りた音だったらしい。
いったい、なにがあったのだろうか?





