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48話 ぶっ飛ばしたい近衛騎士団


 マッドアイという、湿地帯の上にできた変わった街をあとにした私たちは、街道を王都に向けてすすんだ。

 アルシャインという街を出てから、一旦東に向かって伸びていた街道は、いつの間にか南に進むようになり――それから2日あと。

 街道の向こうから、光り輝く鎧に身を包んだ騎士の一行と遭遇した。

 キラキラと輝く派手な出で立ちから、聖女である私を保護と護衛をするために、わざわざ派遣された近衛騎士団だと思われる。


 近衛騎士団には赤と青があり、それぞれがコーディネートされた装備をあつらえているという。

 特に赤は、王侯貴族の子息たちが構成メンバーであり、より金がかかった豪華な鎧を装備しているらしい。

 それが、私たちの目の前にやってきたわけだ。


 あんなに目立つんじゃ敵に居場所を教えているようなものだと、素人目にも思うのだが……。

 本来は王宮の警備などをしているので、それでいいのだろう。


 街道で停止した私たちの馬車列に、赤い騎士団が近づいてきた。

 騎馬の後ろには大型の馬車が追走しているようだが、私たちと同じようにお世話係が同行しているのだろうか?


 騎士団をよく見てみる――赤い装備といっても、皆同じというわけではないらしい。

 赤く派手な塗装をしている騎士もいれば、一部の塗り分けだけに留まる者など、様々だ。

 共通しているのは、刺繍が施された赤く幅の広いタスキを肩から斜めにしている点か。


「にゃー」

 ヤミによれば、あのタスキはサッシュというものらしい。

 そうなんだ。


 向こうの騎士団の先頭にいた男が馬上から叫ぶ。

 短い金髪の美青年。

 歳は20歳前後って感じかな?

 見るからに育ちはよさそうな感じだが、性格はキツそうに見える。

 その右横に、赤く長い髪の男が黙って控えているのだが、おそらく副団長のような立場の人だろうか?

 特徴的なのは、彼の右目は赤い眼帯に覆われている。

 隻眼で騎士というのは大変だと思うのだが……。


 その赤い眼帯をマジマジと見る。

 なにか模様が刻まれているのだが、頭の中にある文字が浮かんだ。

 なんである、「愛」である。


 それは漢字の愛だった。


 なんでこんなところに漢字が? ――と思ったのだが、歴代の聖女が元世界から呼ばれていたということは、漢字が伝わっていたとしても不思議ではない。

 私が暮らしていた子爵領では見かけなかったが、聖女が暮らしていた王都では、その限りではないのかもしれない。

 そういえば戦国時代に愛の文字を兜に頂いてた武将がいたような……。


 眼帯に刻まれた漢字を見ていると、金髪の男が口を開いた。


「ティアーズ子爵の馬車列で間違いないか?!」

「そのとおりでございます」

 男の質問に団長が答えた。


「近衛紅玉騎士団、メイ・フォン・サウザンアワーである! 聖女を迎えにまいった」

 ウチの騎士団が全員下馬して、膝をついた。


「遥々、お勤めご苦労さまでございます」

「うむ!」

 男が馬上でふんぞり返った。

 私はその様子を馬車の中から見ていたのだが、これが格の違いというやつだろう。

 随分と偉そうだが――会社でたとえるならば、地方支社に本社のお偉方が訪問したようなものかも。


「にゃー」

「え? 公爵様なの?」

 サウザンアワーというのは王国にある公爵家の1つだという。

 公爵というと、王様の次に偉い貴族じゃなかったか。


「にゃ」

 本人ではなくて、公爵の息子らしい。

 本来、貴族の息子は貴族の身内というだけで、まだ正式には貴族ではない。

 親の爵位を継げば間違いなく貴族を名乗れるが、その前でも騎士団に入れば騎士爵になり貴族を名乗れるってわけね。

 貴族でも2男や3男になれば、家は継げないから騎士になるしかない。

 騎士になれなければ野に下る――つまり貴族ではなくなるということだ。

 偉そうにしているだけで、生きる術を持たない人間が平民になっても暮らしてはいけないだろう。

 運良く商人の娘とでも結婚し、婿入りでもできればいいが。


「聖女とやらはどこにいる!」

 向こうの騎士団は馬から降りもせずに、随分と乱暴な印象を受ける。

 気は進まないが、ここは出ないわけにはいかないだろう。


 私は、馬車のドアを開けると外に出た。


「私です」

 馬上の騎士たちの視線が一斉にこちらを向く。

 近くで見ると、派手派手な鎧ばかりで眩しい。

 磨き上げられてピカピカ。

 それだって自分で磨いたものではないだろう。

 金で人にやらせたもので、本当の戦いなど一度もしたことがないはず。

 傷だらけで歴戦の勇士揃いのウチの騎士団とはえらい違いだ。


「なんだ?」「女なのか?」「デカいぞ?」

 なにか失礼な言葉が聞こえるようだが無視。


「ノバラでございます」

 私はドレスの裾を持って礼をした。


「お前、男か?」


 ビキ!


 先頭にいた偉そうな男が吐いた言葉に私は硬直した。

 身体は固まってはいるが、顔は面のように笑い顔を浮かべている――つもり。

 もしかしたら、こめかみに青筋が浮いているかもしれないが。


「もちろん女でございます」

 平然を装い私は回答した。


「はは、見事なまでに平原だな。背の高さと、たいらな胸でエルフかと思ったが、顔は十人並みだしな」


 ビキビキ!


 まだだ、まだ慌てるような時間じゃない……。

 こんなセクハラ・パワハラなんて、ブラックじゃ日常茶飯事じゃない。

 ノバラさんを舐めるなよ?


「聖女というから期待してきたが、次期公爵の私がこんなツマラン女の護衛をすることになるとはな」


 ビキビキビキ!


 好き勝手言われ放題なんですけど。

 これってなんの罰ゲーム?

 聖女って国王陛下と同じぐらい偉いんじゃなかったの?

 全員並べて、キ○タマグッバイしてやりてー!

 そんな思いが頭をよぎるのだが、相手は大貴族の子息たち。

 こんなことで暴れたら、ティアーズ領に迷惑がかかってしまう。

 ここは自重するしかあるまい。


 そこに、領主とククナが降りてきた。

 膝をつくことはないが、2人とも頭を下げている。

 それにしてもこのドラ息子、領主がやって来たというのに馬から降りようともしない。

 公爵家の息子であっても、今の彼らは騎士爵なのだから、子爵よりずっと下の身分だと思うのだが……。

 大貴族()の威を借る狐ってやつか。


「ティアーズ子爵、久しぶりだが息災でなにより」

「ははっ」

「しかし、貴殿もとんだ災難だったな。このような女を遥々王都まで送らねばならぬとは」

「いいえ――私の領も民も、すでに聖女様によって救われており、多大な御恩がありますれば」

「ふん」

 幼稚な煽りにも、領主は淡々と答えている。

 さすがベテラン貴族だ。

 こんなことで怒っていては貴族は務まらないのだろう。

 貴族なんて、足の引っ張り合いをしているような光景しか浮かばないし。

 それに鑑みると、ウチの領主とマッドアイの領主との関係は珍しいのかもしれない。


 ――とか思ってたら、ヴェスタが立ち上がろうとして、団長に制止されている。


「貴殿ら! 聖女様に無礼であろう!」

 我慢が限界にきたのか、ヴェスタが叫んだ。


「控えろ! 私を誰だと思っている。サウザンアワー公爵家の長子だぞ?」

「ぐぐ……」

 ヴェスタが剣に手をかけようとしているが、さすがにそれはまずい。

 公爵家なんてデカい貴族と争いになったら、ティアーズ領はかなり不利だ。


「ヴェスタ様。駄目ですよ。それに私は平気ですし」

「ぐ……」

 私にそう言われて、思いとどまったようだ。

 若い騎士の暴走は収まったようだが、今度は御者席にいるアルルと後ろからやって来たルクスが構えている。

 ヤミは――いない。

 多分、我関せず――馬車の中で丸くなっているのだろう。


「メイ様!」

 ただならぬ気配を察知したのか――後ろにいた赤髪の騎士が、生意気な金髪の横に並ぶ。


「なんだ?」

「お戯れは、ほどほどになさってください」

「戯れなどではないぞ?! ルナホーク! お前もあの女を見ただろう? しかも、こいつは魔女だという話ではないか!」

「「「ぐぬぬ……」」」

 ヴェスタだけではなく、他の騎士たちも立ち上がろうとしている。


「魔女の外法を使って、人々を欺いているのではないのか?」

「「「無礼な!」」」

 さすがに、ヴェスタ以外の騎士たちもそろそろ限界に近づきつつある。

 それを察した隻眼の騎士が止めに入った。


「メイ様は、我々の任務をお忘れですか?」

「……ふん」

「向こうには高位の魔導師もおります」

「う……」

 隻眼の騎士は、やって来たルクスとアルルが魔導師だと気づいたようだ。

 それを聞いたドラ息子騎士が、ちょっと怯む。


「とりあえず、任務のご遂行を」

「承知した! それでは――貴殿らは、近衛騎士の指揮下に入れ!」

「それはお断りいたします」

 ウチの団長が静かに答えた。

 その横で、ヴェスタが顔を真っ赤にして今にも爆発しそうだが。


「なんだと?!」

 まさか拒否されるとは思っていなかったのかもしれない。

 このキラキラ騎士たちは、実戦などろくに経験したことがないだろう――と推測される。

 そんな騎士団に組み込まれたら、どうなるか解らないし。


「それは、陛下からのご命令ですか?」

「そ、そうではないが……」

 いくら公爵の息子でも、ここで国王の命令などと嘘をついたら、後々面倒なことになるのは解っているだろう。

 ここが戦場で、陛下から軍の全権を委ねられた――というのなら話は別だが。

 まぁ、そこまで頭は悪くないみたい。


「それでは、お断りいたします」

「くそ! 田舎騎士風情が!」


 金髪の公子様が、へそを曲げたように馬を返して離れていった。

 金魚の糞のように、そのあとを赤い鎧の騎士たちがぞろぞろとついていく。

 なんのために彼らは、ここまでやってきたのだろうか?

 さっきの男が、近衛騎士団の後ろをついてきていた馬車に指示を出し始めた。

 ここで方向転換をするようである。

 向きを直すまでに、少々時間がかかるだろう。


「ぐぬぬ……」「くそ! なんて奴らだ!」「上級貴族のボンボンどもが!」

 騎士たちが怒り心頭だが、ここで怒っても仕方ない。

 騎士団の罰で済めばいいが、そうは問屋がおろさないだろうし。

 それにしても、こんなことを毎回やっていたら、そりゃ貴族同士で争いが絶えないだろう。


 それにしても、わざわざ近衛騎士団がやってくると聞いたから、どんな歓待を受けるのだろうと思っていたら……。

 王都でもこんな扱いだったら、この国に奉仕することないんじゃないだろうか?

 早々にお断りしてティアーズ領に帰りたいし、森の中に家も建てなくちゃ。


 近衛騎士たちは全員が我々から離れてしまい、ウチの騎士団は全員が苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「ふう……ジュン様が、近衛騎士を嫌がっていた理由が解った気がします」

「はは――やって来るのが青だったら、まだマシだったのですが……」

「ジュン様は、近衛騎士に詳しいのですね」

「お姉さま、ジュンは近衛騎士だったのよ」

 私の隣にククナがやってきてニコニコしているが、さっきの連中に腹が立たなかったのだろうか?


「ククナ様は平気そうね……」

「なにが?」

「さっきの連中の態度とかですが……」

「うふふふふ……」

 彼女がすごい笑顔で笑っている。

 笑っているのだが、ひと目でヤバいと解るぐらい。


「ジュン様が元近衛だとは思いませんでした」

「元近衛騎士というだけで箔がつきますから。騎士団をまとめるためには、そういう箔があったほうがやりやすいというわけで」

「ああ、なるほど~」

 元世界での旧帝大卒みたいな感じか~。

 まぁ、解りやすい勲章みたいなものよねぇ。

 地方から騎士団団長のような優秀な連中を集めて、色々と経験を積ませて故郷に返す。

 青い近衛騎士団は、ずっとそういうことを繰り返していたに違いない。

 赤いほうに比べると、かなりまともだ。

 そりゃ赤と青は仲が悪いだろう。


「それでは――ヴェスタ様も、近衛で経験を積んで、いずれはティアーズ領騎士団の団長に……」

「私は、そのつもりでいる……」

 団長はそう答えたのだが、当の本人は顔を真っ赤にして汗をかいたまま。


「……私は……我慢できそうにありません……」

「そんなことはないぞ。だれでも若いうちはそうなのだから」

「ははは」

 そこに領主が笑いながらやって来た。


「ワイプ様」

「まぁ、若い頃のジュンも相当だったからなぁ」

「止めてください。私にとって黒歴史ですよ。あの頃の自分を思い出すと、穴があったら入りたい気分です」

 いつも冷静沈着っぽい団長にもそういうときがあったわけだ。


「そうですねぇ。世の中に出たら、我慢するときのほうが多いですし」

「聖女様にもそういうことがおありなのですかな?」

「ええ、私も故郷では身分も低く、こき使われるほうの立場でしたから……」

 当然、元世界には身分制度などなかったのだが、こういったほうが解りやすいだろう。

 嘘も方便っていうしね。


「解りました……」

 皆の言葉を聞いたヴェスタが、握っていた拳を下ろした。

 ここで怒っても仕方ないのだ。


「それにしても――王都では聖女は歓迎されていないのでしょうか?」

「あの者たちは上級貴族の縁者たちで、いわば貴族至上主義の権化のような存在ですし」

 領主のような貴族にもそういわれるということは、相当なものなのだろう。


「自分たちより偉い人ができたら、威張れなくなりますしね」

「あきれた! たったそれだけのことで、国を救う可能性があるお姉さまをないがしろにしようとするなんて」

「貴族にもよります。実際に、聖女を崇める貴族もおりますし、国民のほとんどは神の御使いとして聖女様を歓迎してくれるはずです」

「そうだといいのですけど……」

「大丈夫よお姉さま! 扱いが悪かったら、王都から引き揚げてしまえばいいわけだし!」

 ククナの考えは私と同じようだ。

 最終手段として、聖女を大事にしてくれる国に亡命するという手もある。

 それは、最後の選択肢だが――以前、手紙でそれを仄めかしたら国王が折れたこともあるので、この国じたいが聖女に否定的ということはないだろう。

 反対勢力は、あくまでも一部分だけだと信じたい。


 そんな話をしていると、向こうの騎士団から一騎やって来た。

 さっきの隻眼の騎士だ。

 ヴェスタが私の前に出て剣に手をかけようとしたのだが、団長が止める。

 彼は馬を止めると、降りて私の前で膝をついた。


「聖女様、先程のご無礼をお許しください」

 全員がさっきのドラ息子の取り巻きかと思ったら、そうじゃない人もいるみたい。


「あなたは聖女を信じているのですか?」

「はい……」

 こういう貴族もいるのだろう。


「無礼を詫びるなら、さきほどの騎士に詫びてもらわないといけないのですが」

「――それは……」

「まぁ、それは期待しませんけど」

「申し訳ございません」

「貴殿も苦労しているでしょうから、隻眼の騎士に免じて謝罪をお受けいたします」

「ありがとうございます」

 私は、この騎士に近衛との橋渡しを頼んだ。


「あの、聖女様に質問がございます」

「なんでしょうか?」

「あなた様が魔女だというのは……?」

「光弾よ我が敵を撃て(マジックミサイル)

 私の周りに瞬時に展開され、発射された光の矢が路傍の石を吹き飛ばした。

 それを見た騎士が青くなる。


「こちらからも、お聞きしたいことがあります」

「なんでございましょう?」

「あの近衛騎士たちは、実戦の経験はおありなのでしょうか?」

「……いいえ。模擬戦なら、訓練を行っておりますが……」

「ティアーズ騎士団は、数々の魔物や盗賊などの討伐を行った強者揃いなのですが」

「……」

 男は下を向いたままだ。


「つい最近などは、ワイバーンの討伐も行いましたし」

「わ、ワイバーンでございますか?!」

「ええ――間違いありませんよねぇ、領主様」

「はい……」

「そうよ! ワイバーンの肉は美味しかったんだから!」

 領主親子が語るように討伐を行ったのは確かだし、誰が止めを刺したかは言ってないが、嘘ではない。

 実際に、彼らは巨大な魔物に臆することなく立ち向かったのだ。

 そのようなことを、あのキンキラ部隊にできるだろうか?


「――というわけで、実戦経験もない騎士団の指揮下に入ることを拒否するのを解っていただけたでしょうか?」

「は、はい……」

「私としても、実力のある騎士団に守っていただきたいものですから」

「……」

 私の目の前にひざまずいた騎士は言葉を失ってしまった。


 すぐに騎士は戻ると、私に言われたことを向こうに伝えたようだ。

 あのドラ息子騎士がこちらを睨んでいたので、微笑んで見せた。

 なにか地団駄を踏んでいるが、こちらの知ったことではない。

 ワイバーンを退治とか、向こうは信じてないのかもしれないが、それは向こうの勝手。

 敵対してくるようなら容赦なくぶっ飛ばすし。

 まさか、そこまでアホじゃないとは思うけど。


 向こうの馬車の方向転換も終わったようだ。

 馬車に乗っているのはメイドが多い――ハーレムですか?

 やっぱり騎士団のお世話係を連れてきたようだ。

 こちらにもメイドがいるが、あくまで領主親子の世話係。

 騎士団は、自分たちで食料を調達したりしている。

 団長に聞いたところ、戦場ではそれが基本になるから、そのための訓練も兼ねているという。

 ボンボン騎士団とは、心構えが基本的に違うよ。


 あちらは、あくまで貴族たちの腰掛けなのだろうが、地方の騎士団は命がけの職業だ。

 話が通じてまともそうなのは、隻眼の騎士、1人だけ。

 ふと、向こうの馬車の後ろに座っているメイドと目が合ってしまった。

 睨まれる。


「ふう……」

 先が思いやられる。

 ぐったりしていると、隻眼の騎士がやってきた。

 彼の話では、間に入ってこちらのスピードに合わせてくれるようだ。

 そりゃ、私の護衛にわざわざやってきたのだから、こちらに合わせてもらわないと困る。


「お姉さま、馬車に戻りましょう」

「ええ――大丈夫かな?」

「おそらくは……」

 領主も確信は持てないようだが――まぁ、まったく当てにできないかもしれない。


 不安はあれど、準備ができたので馬車列は出発した。

 最初に比べると、随分と増えたものだ。

 近衛騎士も10人増えたし、向こうの馬車には、結構な人数が乗っているように見える。

 貴族なのだから金は持っているだろうし、当然装備している魔法の袋の中には物資が唸っているだろう。


「向こうの騎士団はメイドを連れているようですが……」

「多分、貴族のお付きのメイドたちだと思う」

 ククナが私の質問に答えてくれた。


「それじゃ、騎士1人にメイドが1人?」

「多分……」

「そういうメイドはどうやって選ばれるのでしょうか?」

「実家からついてくることもあるし、騎士団に売り込んでくる場合もあるわ」

「にゃー」

 ああいう上級貴族のメイドになるのは、ほとんどが貴族の娘らしい。


「なるほど、玉の輿狙いねぇ」

 おそらく彼女たちの眼中には私はいない。

 聖女なんてどうでもいいのだ。


「お姉さまの言うとおりね」

「ククナ様は、メイドにはならないのですか?」

 彼女が王都の学園に入学する理由には、婿探しという側面もあったはずだ。


「私?! いくら名家だろうが、あんな連中なんてまっぴらごめんだわ」

「ふふふ……そうだな……」

 本を読み始めた領主が、苦笑いしている。


「中にはまともそうな人もいたようですが」

「まぁ、そうね……」

「どうしても相手がいないなら、ナミブの息子がいるぞ?」

「う、う~ん……あれなら、ジュンのほうがいいわ……」

 領主同士が仲がいいからいい話だと思うが、察するに相手がククナの好みではないのだろう。


「まぁ、よい出会いがあるかもしれませんし、焦る必要はありませんよね」

「私はぁ……お姉さまがいいのだけど……」

 ククナがもじもじしているのだが、どうやったらそういう結論になるのだろうか。


「子爵家の跡取りはどうするのです?」

「う、う~ん……」

 この世界では大人だという年齢だが、中身はまだ子どもっぽい。

 別に男が嫌いというわけではないようだし、素敵な出会いがあれば私のことなどどうでもよくなることだろう。

 ガタガタと馬車に揺られながら思う。

 そういうものだ。


 王都への道のりもちょうど半分まで来たが、まだまだ街道は続いている。


 

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