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47話 黄金の組み合わせ


 マッドアイという街にやってきた。

 街全体が水上に建てられた台の上に乗っているという珍しい街。

 泥の中に育つ芋が特産品だという。

 その芋をフリットという揚げ物にしたら、すごく美味しかったのだが――舌鼓を打っていると、貴族らしい男たちが押しかけてきた。

 どうやら悪人ではないみたいなのだが……。


 ククナが私の所に来て、耳打ちしてくれた。


「ここの領主のナミブ様です」

 ナミブ・フォン・トゥーフェイスという方らしい。

 挨拶したほうがいいのだろうか?

 どうしたらいいか戸惑うが、身分が低いほうから話しかけるのは無礼らしいし……。

 対応に困っていると、客人の声が聞こえたのかテントから領主が出てきた。


「トゥーフェイス子爵様ではありませんか。ご無沙汰しておりますな」

「わはは! ワイプ、随分と他人行儀だな」

「はは、人の目もあるしな」

 親しそうに話しているのを見ていると、2人は知り合いらしい。


「それにしても薄情だな! マッドアイに来ているなら、屋敷に顔を出してくれれば宿泊の手配もしたというのに」

「いやいや、お前に迷惑をかけるわけにはいかんし」

「それが薄情だというのだ! 王立学園の同期の華ではないか!」

 ははぁ、同級生ってやつなのね。

 それにしても同い年には見えないような気がするけど……。


 領主同士が話していたのだが、向こうの騎士の1人がこちらを見て、なにやら主人に耳打ちをしている。


「おおおっ! 貴女の頭の上に乗っているのは、ハーピーですかな? これは珍しい!」

 彼がこちらに歩み寄ると、モモちゃんが私の頭から飛び降りる。

 そのまま木の床を走って、ベランダから飛び出してしまった。


「モモちゃん!」

 すでに薄暗くなっているので、ちょっと心配だが彼なら大丈夫だろう。


「ああ~」

 ハーピーに逃げられてしまったここの領主が残念そうな声を出した。


「私にしか懐いておりませんので、申し訳ございません」

 私はドレスの裾を持って礼をした。


「はは、こちらこそ無作法をいたしましたな。ハーピーが人に懐くなど聞いたことがありませんでしたので、驚いてしまった」

「そのようですね」

「貴女の愛玩用なのですかな?」

「いいえ――彼らとは友人で、対等な関係でございます」

「ほう……」

 男が私をジロジロと値踏みするような視線で見ている。


「なんでございましょう?」

「ワイプ! 後添いをもらったのなら連絡ぐらいしてくれてもよいだろう! 領主生活25年、このナミブ、こんな薄情な仕打ちを受けたことはいまだかつてないぞ?!」

 貴族様が泣き真似をされている。

 どうやら、また()だと勘違いされたらしい。


「いいや、違うんだナミブ。その方は正室でも側室でもない」

「それじゃ愛人か? お前が?」

「いいや違うぞ」

「それじゃ、なんだというのだ! まさか、お前の所に聖女様が現れたわけではあるまい」

「「「……!」」」

 貴族の言葉に、領主、メイドと執事たち、そして騎士団も固まる。

 皆さん、冗談に反応しすぎでしょ?

 それじゃバレバレだっての。

 その反応に、男もただごとではないと気づいたらしい。


「つまり――訳ありということだな」

「そうなのだナミブ。色々と察してくれ」

「承知した。まぁ、俺とお前の仲だ――と言いたいところだが! それなら、なおさら一言ぐらいあってもよいではないか?」

「なにぶん火急なことでな。陛下にも呼び出しを食らっているし」

「そ、そうか……陛下にな。それならやむを得んか……」

 領主同士で話していると、ルクスが私の所にやってきた。


「聖女様、街で情報を集めてきてもよろしいでしょうか?」

「解ったわ――はい」

 足下にいたヤミを両手で捕まえると、ルクスの肩に乗せてあげた。


「ありがとうございます」

「……」

 ヤミが不満げな顔をしているのだが、嫌ならそろそろ魔法を解いてあげればいいのに。

 どうしても王都まで連れていくつもりだろうか。


 ヤミとルクスを見送っていると、話していた貴族がこちらを向いた。


「それはそうと、さっきから漂っている、この香ばしいかおりは……?」

 私はフリットが盛ってある大皿を、彼の前に差し出した。

 一応、ニコリと笑って営業スマイルだ。


「おひとついかがですか?」

「ほう、フリットですかな」

 貴族が手を伸ばそうとしたのだが、周りにいる部下に止められた。


「ええい、ワイプがわしになにか盛るはずがなかろう」

 制止を押し切り、彼がフリットを1つ取ると口に運ぶ。

 貴族の口に合うか少々心配だったのだが、フリットを一口食べた男の表情がほころんだ。


「これは美味い! まさか、これは――泥芋のフリットか?」

「そのとおりでございます」

「なんと! 泥芋をフリットにするとは、なんてもったいない! だがしかし、美味い!」

 高級食材らしいので、凝った高級料理などに使われるのが普通なのかな?

 フリットは庶民の料理らしいので、高級食材の泥芋は彼らは買えず、フリットにされることもなかったということだろうか?


「だめだったでしょうか?」

「そのようなことはないが、まさかフリットとは……う~む」

「私も1ついただけますかな」

「はい、領主様」

 彼の前に皿を差し出すと、彼が1つ摘んで口に入れた。


「ほう、これは美味い! 単純ながら、泥芋の旨味を引き出していると思うが……」

「わしもそう思う……うむむ……」

「どうした、ナミブ」

「この料理を広めていいか?」

「私が考えたものではないしな」

 領主がチラリと私を見た。

 私が提案したと知らないはずなのだが――見れば、執事やメイドたちも私を見ている。


「よろしいですかな? え~……」

 貴族が、私のほうを見て困っている。


「ノバラでございます。子爵様、それは私が考えた料理でもございませんし……」

「それでは問題はないな。このフリットを、トゥーフェイス領の名物として売り出す」

「とても、よいお考えだと思いますわ」

 営業スマイルプラスヨイショだ。

 微笑んだ私を、また貴族様が見ている。


「なにか?」

「ワイプとなんの関係もないなら、わしの側室にならぬか?」

「な?!」

 領主様が珍しく慌てている。

 ここにヴェスタがいたら、もっと慌てているかもしれない。


「実は私、魔女でございまして、貴族様に輿入れできる身分ではございません」

「う、うむ……そうなのか……それは残念だ」

 ニコニコしていた男の顔が曇った。


「申し訳ございません」

 この貴族様も、私がなんらかの秘密持ちだと気づいているのだと思うが、魔女の単語を口にすれば引き下がる。

 そのぐらいに疎まれている職業なのだろう。

 私はそんなことは気にもしていないが、上手く断ることができたので上々。

 弱点も上手く使えば武器になるのだ。


 このまま帰るのかと思ったら、ここで食事をしていくようで、急遽テーブルと椅子が用意された。

 こういう家具も魔法の袋に入っているのだろう。

 多分、袋も1つではなく、複数個用意されているのに違いない。

 小さなテーブルに、オジサマが2人向かい合って座っている。


「戻りました~!」

 さきほど、エールを買いにいった騎士が戻ったようだ。

 壺を小脇に抱えてスキップしている。


「ルスキーユ、そいつはエールだな?! こっちによこせ」

 いつも見せないような、領主様の乱暴な言葉づかいである。


「は、はい! 領主様!」

 騎士は領主の命令には逆らえない。

 震えながら、エールが入った壺を両手で主人に差し出した。


「そんな顔をするな」

 領主が、自分の袋から金貨を取り出して、騎士に渡した。


「こ、これは?」

「これで好きなだけエールを買ってこい。飲みすぎて仕事に支障をきたすなよ?」

「承知いたしました!」

 走って街に行こうとした騎士を、団長が呼び止めた。


「待て、俺も行く」

「それでは団長、ご一緒に」

 沢山買うとなると、運ぶのが大変だろう。

 団長が持っている魔法の袋を使うのかもしれない。


 揚げ終わったフリットが盛られた大皿も、2人の領主に取られてしまった。

 上司優先なのだから、これは仕方ない。

 メイドからカップをもらった2人が、フリットをツマミに手酌でわいわいとやっている。

 本当に仲がよさそうだ。

 エールとフリットの組み合わせも美味しいそう。

 大声で笑ったかと思えば、顔をギリギリまで近づけてヒソヒソ話をしている。

 ラレータという街で私たちが遭遇した、アンデッド事件の話だろうか?


 周りで護衛をしている、この領の騎士たちもチラ見している。

 多分、食べたいのだろう。

 そりゃ美味そうなフリットと、エールの組合わせは喉から手が出るだろう。

 気持ちは解るが、宮仕えは大変なのだ。


 ちょっとサラリーマンの哀愁に似ているな――とか思っていたら、メイドから話しかけられた。


「あの、聖――ノバラ様、フリットをもっと作りましょうか?」

「お願いしてもいい?」

 材料はある。

 なん回かに分けて料理を出すつもりだったのだろうが、こうなってしまっては仕方ないだろう。

 領主様も駄目だとは言うまい。


「はい」

 メイドさんたちが、再び揚げ物を始めた。

 そういえば――モモちゃんはどうしただろうか?

 もうすでに辺りは暗くなっている。

 ハーピーたちは夜が苦手だと思うが……。


 突然の訪問客があったとはいえ、彼のパンを食べてあげるはずだったのに。

 悪いことをしてしまったかも。


「お姉さま!」

 モモちゃんのことを考えていると、お姫様に抱きつかれた。

 彼のことなら大丈夫だろうと――私はククナとテントで食事を摂ることにした。


 2人で食事を始める。

 泥芋のフリットは本当に美味しく、ククナも笑顔だ。

 ティアーズ領がピンチだったときには、すごく暗い顔をしていたが、それももうない。


 彼女の笑顔を堪能しながらサクサクのフリットを食べる。

 これは蕎麦とかうどんに入れても美味しいかもしれない。

 そう考えると蕎麦やうどんが食べたくなるが、うどんは作れるかもしれないが、タレが無理かも。

 それでも、魚ダシで塩味ならなんとかなりそうだが……。

 こんど作ってみようかな?


「さきほどですが――領主様同士で、ラレータのアンデッド騒ぎについて話していたと思いますか?」

「ええ、多分……」

「そんなに早く情報が伝わるのでしょうか?」

「都市間には、飛脚の獣人たちが走っているので、彼らが噂をバラ撒くのよ」

「ああ、そういうことですか」

 運んでいる手紙のことなどは、もちろん秘密厳守だが、途中の都市でなにがあったか――なんてのは、別に制約されていない。

 むしろ娯楽に飢えている連中にそういう話をして、酒や食事にありつく獣人も多いという。

 馬車で数日かかる距離でも、獣人たちなら1日で到達する。

 下手をしたら数時間前にあったできごとだって、ホットニュースで聞くことができるのだ。

 走るニュース速報みたいな感じだろうか。

 そりゃ皆が聞きたがるに違いない。


 ――そのまま時間は進み、ほろ酔いになったトゥーフェイス子爵は、笑顔で帰っていったらしい。

 食事も終わったのでテントの外に出ると、まだ騎士たちが揚げ物を摘みエールを飲んでいる。

 飲みすぎるなと釘を刺されていたけど大丈夫だろうか?

 いつも食事のときにワインを飲んでいるし、エールは水みたいなものかもしれないが。

 ついでに、皆に洗浄クリーンの魔法をかけてあげた。


 騎士たちの楽しげな晩酌を眺めていると、小さく私を呼ぶ声が聞こえる。


「ノバラ……」

 声のするほうを見れば、テント脇の暗闇から、モモちゃんが顔を覗かせていた。


「モモちゃん!」

 私は彼の下に駆け寄って、抱き上げた。


「ごめんねぇ、知らない人が沢山来ちゃって」

「大丈夫!」

「夕食、食べてないよね?」

 彼がうなずいたので、メイドさんの所にいくと、残っているフリットとスープをもらった。

 それをテントまで持ってきてもらう。


 ベッドの縁に座ると、彼を膝の上に乗せて食事をさせてあげる。

 食事が終わった私も、彼が作ったパンをもらった。

 さっきも食べたが、やはり柔らかくて美味しい。


「モモちゃんが作ったパンは美味しいね」

「多分、俺が一番作るの上手い」

「そうだね~」

「他のやつらも、ノバラに会いたがってる」

「でも、森からどんどん遠くなるから、難しくなるかも……」

「うん、俺もあまり来れなくなるかもしれない」

「無理はしないでね? 私がティアーズ領に帰ったら、また遊ぼう?」

「おう!」

 返事をしながら彼は泥芋のフリットを頬張っている。

 美味しいのだろう。


「このサクサク美味い!」

 ハーピーの話では、森の奥にも泥芋はあるらしいが、空を飛ぶ彼らがそれを掘り出すのは不可能に近い。

 泥だらけになったら、飛べなくなってしまいそうだし。


「さっきの説明で作りかたは解った?」

「大丈夫! 任せろ!」

 まぁ、パンの作りかたも一発でマスターしてしまったのだ。

 心配はいらないか……。


 モモちゃんが食事をしている間、カーテンを閉めてククナが着替えをしている。

 外から騎士たちの笑い声が聞こえてきた。

 まだ酒を飲んでいるようだ。


 ハーピーの食事が終わったので、メイドさんに片付けてもらうとベッドに寝転がる。

 そこにククナもやってきた。


「ククナ様、無理に一緒に寝なくても……」

「む~!」

 私の言葉に、彼女がほっぺたを膨らませている。


「解りました」

「お姉さま!」

「お前も、ノバラを独り占めしたいのか?!」

「そうよ! お姉さまは、私のお姉さまなんだから!」

「ものを独り占めしたいのは、幼稚な証拠。只人、そういうやつが多い!」

 ヴェスタも、モモちゃんにそう言われてたよね。


「「ぐぬぬ……」」

 ククナとハーピーが睨み合っている。


「はい、喧嘩しないでね」

 2人が一緒に私に抱きついてきた。

 2人とも子どもみたいだ。


 やることもないので、3人で寝ることにした。

 この先、モモちゃんが遊びにこないと、少々寂しくなるなぁ。


 ------◇◇◇------


 ――マッドアイという街にやってきた、次の日の朝。

 メイドさんたちが、いつものように食事の準備を始めているが、ちょっと戸惑い気味だ。

 街の住民たちが、遠巻きにこちらをジッと見ているのだ。

 そこに、ルクスとヤミが帰ってきた。


「にゃー」

「おはようございます、聖女様」

「おはよう。それで、あれなんだけど――なんだか解る?」

 私は、こちらを見物している街の住民たちを指した。

 もしかして、聖女がいるとバレてしまったのだろうか?


「さきほど聞き込みをしたところ、彼らのお目当てはハーピーのようです」

「ああ、そうなんだ」

 ここの領主が訪ねてきたときに、護衛についていた騎士たちがいたが、彼らから街に噂が広まったのだろう。

 ハーピーという珍しい種族が見物できるかもしれないと――そう思って集まったわけだ。

 揃いも揃って暇なのだろうか?

 これは、ギリギリまでモモちゃんを出さないほうがいいだろう。


「ラレータのアンデッドの話は、ここでも広まっていた?」

「はい、暴動が起きたことについても、詳細に知られておりました」

 やっぱり飛脚ニュースのせいだろうか。


「ここの魔導協会については、どう?」

「まぁ、いつものように評判はよろしくありませんが、あまりあくどいことをやってはいないようです」

「そう」

 他の街で暴動が起きたとなれば、自分たちにもその火の粉が降りかかる可能性が出てくる。

 少しは評判を改善しようとするのではないだろうか?


「それから、王都から近衛騎士団が出発したそうです」

 飛脚が地方からの上りのニュースを運べば、王都からも下りのニュースがやってくる。


「本当に来るんだ? 赤いほうだっけ?」

「はい」

「近衛って王宮の警備とかそういうのじゃないの?」

「まぁ、聖女様の護衛となれば、箔がつきますから」

 近衛騎士がわざわざやってくるなんて、なんの騒ぎだろうと街々の住民がざわついているという。

 そりゃ当たり前でしょ。

 聖女という事実を、今のところは隠しておきたいのに、なにかすごいことが起きますよ~と宣伝して歩いているようなもんだ。


「結局、自分たちの名誉のことばかりで、聖女はダシじゃないの?」

「……」

 ルクスが困った顔をしている。

 おそろく事実なのだろう。

 それから導き出される結論は――赤い近衛騎士の人たちは、聖女をなんとも思っていない連中――。

 名目上は、国王と並ぶ身分と称されている聖女だが、貴族至上主義の王侯貴族のボンボンたちは、そんなものはイミテーションだと考えている――という感じだろうか。


「にゃー」

「ねぇ、ヤミ? ルクスを魔法から解放してあげたら? 私は許してあげてもいいと思うんだけど」

「にゃ」

「いいえ聖女様。今回のことは、私の未熟から出た錆。このまま王都までご一緒いたします」

 彼が深く礼をした。

 基本的には悪い人間ではないのだろう。

 任務遂行を目指すばかりに、少々融通がきかないタイプなのかもしれない。


「まぁ、あなたがそう言うならいいのだけど」

「はい」

 2人とも朝食は摂ったという。

 私たちも食事を摂らねば。


 朝食をテントの中に持ってきてもらった。


「モモちゃん、外に沢山人がいるので、出たらすぐに空に昇ってね」

「解った!」


 テントで朝食を摂ったあと、モモちゃんから髪の飾りをまたねだられた。

 髪を編んであげるとリボンをつけてあげる。


 そんな彼がテントから出ると、周りに集まっていた見物客からどよめきが起こった。

 彼は素早くバルコニーから飛び降りると、水面すれすれを飛行。

 そのあと、すぐに上昇気流に乗ったのか、天高く舞い上がった。

 それを見た観客から歓声が上がる。


 その声に、領主もテントから出てきた。


「なにごとですかな?」

「街の人たちが、ハーピーを見物しにやってきてしまって……」

「ああ、なるほど。昨晩の客人から漏れましたかな? 申し訳ございません」

「いいえ、危害が加えられているわけではないですから」

 今回は安全だが、私と一緒にハーピーがいるという情報を掴んだ悪党が、彼を狙いにやってくるとも限らない。


「あの……今まで、ハーピーが捕まったということは……?」

「話には聞いたことがありますが、そういうことをすると手酷い仕返しをされるようですよ」

「そうなんですか?」

 ハーピーは空を飛んでどこにでも行ける。

 軍隊や騎士団などの警備も関係ない。

 貴族の屋敷だろうが、王宮だろうが、自由自在だ。

 そんな彼らから敵対行為を受けるようになると、突然空から石が降ってくるとか火を投げ込まれる、そんなことが頻発するらしい。

 どんなに警備しても、空からやってくるから防ぎようがない。

 慌ててハーピーを解放しても、敵をボコボコにするまで続くという。

 それは怖い。

 それに、彼らは私を通じて魔法の袋をゲットした。

 その中に大量の石などを忍ばせれば連続爆撃ができるし、建物を破壊できるような大きな石を落とすことも可能だろう。


 怒らせると恐ろしい相手なのは間違いないと思うのだが、大変可愛らしいので愛玩用に捕獲しようとする輩があとを絶たないという。

 ハーピーたちも、人間を警戒するわけだ。

 そんな彼らに心を許された私は、稀な存在ということになる。


 出発の準備ができたので、ただちに出発する。

 見送りに、ここの領主も来てくれた。

 随分と律儀な男である。


 沢山の住民に見送られて、騎士団を先頭に馬車列は出発した。

 街の外周を取り囲むベランダの上を進み、街道に戻る。

 この街は景色が変わっているし、名物の食べ物もある。

 観光地としても受けそうであるが――ただ少々くさいのが難点であるが。


 マッドアイの湿地帯に水を供給している川を渡ると、街道は徐々に進路を南に変える。

 私たちの旅は、ティアーズ領を出発してからすでに2週間を経過していた。

 最初は、馬車で1ヶ月の旅なんて、すごく大変そう――そう思っていたのだが、意外となんとかなるものである。


 そこから2日がたった頃、街道の途中で団長が叫んだ。


「止まれ~!」

 なにごとかとドアを開けると、街道の向こうから光る沢山の鎧が見えてきた。

 赤い光がキラキラと陽の光に反射しているように見える。


 そういえば、聖女の護衛にと近衛騎士団がこちらに向かっているはず。

 あれが、その騎士団なのだろうか?



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