44話 聖なる者
立ち寄る予定の街で、アンデッドが出現するという噂から、そこをパスすることになった。
私たちが野営したのは、街道を少し進んだ場所にある小さな村。
そこにハーピーたちも遊びにやってきて、楽しくやっていたのだが――。
夜に目が覚めてシーツを羽織って外に出る――下はいつもの黒いミニスカだ。
焚き火の所に行くとヴェスタがいたので、彼と話していると、嗅いだこともないような異臭が漂ってきた。
ただならぬ気配の中、騎士が剣を抜くと暗闇になにかうごめくものが見える。
それを見たヴェスタが叫んだ。
「て、敵襲~!」
その声を聞いた騎士団が飛び起きる。
「なんだ?!」「どうした?!」
「なにかがこちらにやって来ます!」
「うぐっ!」「このにおいは!?」
起き上がった騎士団の男たちも鼻を押さえた。
とにかく真っ暗だ、明かりは焚き火のかすかな光だけ。
まずは明かりが必要だろう。
「魔法で明かりを出します! む~、光よ!」
私の魔法によって青い光が舞い、それが閃光となり地面を広範囲に照らす。
「アンデッドだ!」「くそ! こんな所にまで!」
もう人ではない人の形をしたなにかが、こちらによたよたと歩いてくる。
朽ち果てて、半分白骨化したものもいる。
鼻が曲がるようなにおいとともに押し寄せる、かなり強烈なビジュアルだ。
「うわぁ!」
全身に鳥肌が立つ。
映画じゃにおいは解らないが、これがリアルアンデッドだ。
夢に見そう……。
「領主様とククナ様を起こして、お守りしろ!」
「はい!」
団長の言葉に、すぐに騎士たちが行動を起こした。
半数が、領主とククナの下に向かう。
戦力を分けるのは得策ではないが、致し方ない。
彼らは、領主とククナを守るために存在している騎士団なのだ。
「おりゃぁ!」
騎士の1人がアンデッドを1体蹴り飛ばした。
動きが緩慢なので、倒せば起き上がるのに時間がかかるようだ。
剣で切っても死なないし、上半身だけになっても這ってこちらに向かってくる。
最初から死んでいるわけだから、もう死なないわけだ。
「聖女様!」
アルルも起きてきた。
普段着のままなので、いつもそのまま寝ているのだろう。
「アンデッドってことは、魔物になっているということなのでしょう?」
「そうです!」
「それなら、私の奇跡が効くかもしれない。時間を稼いで!」
「はい! 憤怒の炎を撃ちます」
「え?! 火葬はだめだけど、炎の魔法はいいの?」
「もう、アンデッドになってますから! うむむむむむ~!」
アンデッドになっている時点で成仏は無理ということなのだろうか?
アルルが精神統一を始めた。
「騎士団! 下がって!」
私の言葉に、一斉に騎士団が後退した。
「憤怒の炎!」
青い光が赤い炎に変わると、敵に向かって撃ち出された。
それが命中すると、アンデッドが大きな松明のように燃え上がる。
炎に包まれているのだが、その歩みは止まらない。
もう死んでいるので、焼けて苦しむこともないのだろうが、徐々に燃えて崩れ始めた。
攻撃は効いているのだが、これじゃ効率が悪い。
「お姉さま!」
ククナが起きてきたのだが、シーツを羽織った黒いミニスカ姿だ。
これは騎士団には目の毒だろう。
私はもっとミニスカなので、人もことは言えないが。
「お嬢様、お脚をお隠しください!」
メイドが集まってきて、彼女の身体を隠している。
「そんなことを言っている場合じゃないでしょ?!」
彼女の言う通りだ。
「ノバラ!」
騒ぎで起きたハーピーたちが、テントから顔を出している。
「ハーピーたちは、テントの中にいて!」
「解った!」
多分、鳥目で夜は見えないのではあるまいか。
彼らがテントに引っ込んだのを確認したのだが、ゾンビたちの動きがおかしい。
これだけ人がいるのに、一点を目指してきているような動きだ。
「これってもしかして、私に集まっている?!」
どう見ても、そうとしか思えない。
「うむむむむむ~、憤怒の炎!」
再び、アルルの魔法が炸裂して火柱が上がる。
よく解らないが、相手の目当てが私ってことなら、やっぱり私がやるしかないでしょ。
「騎士団の皆さん! 私が祈りますから!」
「聖女様!」
私の隣にヴェスタがやってきた。
「ヴェスタ様、お願いいたします」
「はい!」
「天にまします神よ! 哀れなる魂に癒やしの奇跡を与え給え!」
私の意識はそこで途切れる。
――そして、いつものように目を覚ますと、ヴェスタの腕の中。
周りには光の玉が浮かんで、私たちを照らしている。
魔法の明かりだろう。
「どのぐらいたちました?」
「1時間ほどです」
身体を起こすと、みんな無事だ。
――というか、人が増えてない?
見たことがない人が沢山いるのだが……。
染めていない麻のシャツに麻のズボン――格好からして、村の人々たちだろうか?
今回の騒ぎで起きてしまったのかもしれない。
「お姉さま!」「聖女さま!」
領主親子も無事だ。
「アンデッドはどうなりました?」
「骨と塵だけになりました」
私の問いにヴェスタが答えてくれたのだが、近くにいたアルルが補足してくれる。
「聖女様の祈りがアンデッドたちに届くと、青い光が沢山天に昇っていきました」
それって成仏したってことなのだろうか。
近くにあった、アンデッドだったものの所に行ってみようとしたのだが――。
腰に巻いていたシーツを踏んづけて、盛大にコケてしまった。
腰から脚が丸出しである。
「ぎゃぁ!」
「「「……!」」」
騎士団がガン見もせずに、一斉に後ろを向いてくれた。
いつも下品な冗談を言っているわりには意外と紳士。
領主様も気まずそうだ。
「お姉さま! 隠して! 隠して!」
「大丈夫よ」
腰にシーツを巻き直して、アンデッドの残骸に向かう。
骨がかたまっており、腐肉だったものはカサカサに乾いている。
嫌なにおいもないが、少々かび臭いような感じはする。
「これがスケルトンっていうのになったりは?」
私の質問に、アルルが答えてくれた。
「魂は天に昇ったと思いますので、それはないと思います」
「お姉さますごい! アンデッドが退治できるなんて! これならゴーストも大丈夫でしょ?」
「さぁ? それはやってみないことには」
集まっている村人の中から、村長がやって来て私の前にひざまずいた。
「まさか、聖職者の方がいらっしゃるとは思いませんでした」
「ええ?」
本当は聖職者ではないのだが。
いや、聖女ってことは聖職者扱いなのだろうか?
聞いた話では、聖女は聖女という職業のような感じだったが……。
「あなた様のお力で、死者の魂は救われました。本当にありがとうございました」
「みんなバラバラになってしまったので、誰が誰かわからなくなってしまったのでは……」
「埋葬するときに、生前に大事にしていたものを身につけている者が多いので、それで判別ができると思います」
なるほど。
納得だが、ほとんど朽ち果てていたアンデッドもいたので、身元が解らないものも出そうな感じではある。
可哀想だが、どうしようもできない。
村人たちで話し合って、埋葬と供養をしてもらうしかないだろう。
村人たちが、袋や桶を持って集まり始めた。
シャベルなどを使って、骨や塵を掬って入れていく。
身寄りがないとか判別できないものは、ひとまとめで埋葬するらしい。
「こんなにアンデッドが出てくるなんて……魔導師とか聖職者の連中が手を抜いているんじゃないの?」
村人たちに聞くと、この村の遺体もラレータの魔導師たちが処理したものだという。
「ええ?」
こんな大事な仕事で手を抜くなんて。
これだけ騒ぎになったら、いくら独占状態でも魔導師協会への突き上げが激しくなるでしょうね。
なにはともあれ片付いて、ピンチは脱した。
故人の遺体があんなことになってしまった村人たちは可哀想だが。
「ふぁぁ~!」
ホッとして気が緩んだ私は、大きなあくびをした。
「聖女様、あとのことは我々が」
騎士団もそう言ってくれてるし。
「それじゃ、お言葉に甘えて寝ましょうか?」
「お姉さま!」
ククナが領主の下を離れると、私に抱きついてきた。
「アルル、ありがとうね」
「いいえ、聖女様のためなら、なんなりと……」
「騎士団の皆様もありがとうございました」
「いいえ――褒美に聖女様のよいものを見せていただきましたから……」
「ばか!」
1人の騎士のつぶやきに、他の者が慌てて口を塞ぐ。
せっかく紳士的だと褒めてあげたのに、これだ。
「もっと胸がデカい女なら、もっとよかったのでしょう?」
「「「……」」」
ヴェスタ以外の男たちが目を逸らす。
「それじゃ、もっと見ますか? ほれほれ」
私がシーツをたくし上げようとすると、騎士たちが目を手で塞ぐ。
隠していたエロ本を、母親に見つけられた男子みたいな顔で逃げ回っている。
隠れては見ようとするのに、堂々と見せようとすると逃げるのよね。
まぁ、よいでしょう。
騎士団の皆さんは、命がけで戦ってくれているわけだし。
脚ぐらい見せたってどうってことありませんよ。
その前に、騎士団を集めて魔法を使った。
アンデッドと戦ったりして、汚れてしまっていたからだ。
においもついているしね。
「洗浄!」
これで大丈夫。
「聖女様」
領主様もホッとした表情をしている。
「領主様、私たちはお休みさせていただきます」
「ありがとうございました――それでは、明日の朝に」
お姫様と一緒にテントに戻ると、ハーピーたちが敷物の上に集まって丸くなっていた。
覗き込むと――寝ているようだ。
可愛い。
アンデッドが退治されたのが解ったので、安心して寝てしまったのだろう。
彼らを起こさないように、ククナと一緒にベッドに入る。
「ふう……大変な目に遭ったわ。しばらく夢に出そう」
「……気持ち悪かった」
「でも、魔導師になれば、ああいうのを相手にすることもありますでしょ?」
「魔導師になるのは、よい婿を見つけるための箔をつけようと考えているだけで、本格的に魔導師の仕事をしようとは思ってないし……」
「どうも魔導師って人たちは、ちょっと困った人が多いみたいな印象ねぇ」
「そうじゃない人もいるけど……」
まったく酷い目に遭ったが、私の祈りがアンデッドにも効くのが証明された。
「アンデッドたちは、私をめがけて集まってきてたみたいだけど……」
「お姉さまに癒してもらいたかったんじゃない?」
「そうかなぁ」
「でも、聖職者がアンデッド退治に赴くと、亡者たちが集まってくると聞いたことがあるわ」
それはまるで篝火に集まってくる虫のように。
それでは私のときもそうなのか。
聖女の力に反応しているのか、それとも単に魔力に反応しているのか。
現段階では解らない。
疲れた私は、ククナと一緒に眠りについた。
------◇◇◇------
――アンデッドに襲われた、次の日の朝。
「う~ん、重い……」
目を覚ますと、モモちゃんが私の上で丸くなっていた。
一度起きて、私の上で二度寝したのだろうか。
金髪がぽわぽわで可愛いのだが、これから毎日ハーピーたちが、とっかえひっかえやってくるのだろうか?
まぁ退屈な旅なので、遊びにやって来てくれるのはありがたいけどね~。
私の隣には、ククナが眠っている。
モモちゃんを起こさないように、そっと抱き上げて私の上から降ろすと、着替えることにした。
黒いミニスカワンピースを脱いで裸になる。
ハーピーたちはみんな大人らしいのだが、どうも見た目のせいか彼らの前で裸になっても気にならない。
ククナは気になるようだが。
着替えてから外に出ると、昨日の騒ぎのあとは綺麗になくなっていた。
徹夜して埋め戻したのだろうか?
魔導師協会の手抜きでこんなことになったというなら、本当に酷い話だ。
メイドさんたちが食事の準備をしているので、私も手伝うことにする。
お客様が5人もいるからね。
自分の袋から鍋を出して、鳥肉のスープを作る。
肉は、モモちゃんからもらったものがまだある。
ちょっと変化球を出してみるか……。
鳥肉を骨から外すと、ナイフで叩いて塩と香辛料、小麦粉を混ぜると肉団子にした。
小鳥なら骨ごと叩いてもよいのだが、ハーピーが獲ってきてくれた鳥は少々大きい。
普通なら煮込んだほうが美味しいのだが、朝で時間がない。
手っ取り早く食べられたほうがいいだろう。
「温め!」
肉団子を魔法で温めてからスープにドボン。
これで食べられる。
メイドさんからパンをもらった。
「ラレータで追加の物資を買い込む予定ではなかったのですか?」
「大丈夫です。旅中はなにがあるか解りませんので、物資はかなり余裕をもって調達してございます」
執事が微笑みながら答えてくれたので、私は安心してできあがった鍋を持ってテントに戻った。
物資を多く買い込んでも、この世界には魔法の袋がある。
どこに行くのにも袋1つ持っていけば、全部賄えるってのは凄いよね。
「朝食を食べましょう~」
「ノバラ、おはよう!」
ハーピーたちは全員起きていたが、ククナはまだ半分寝ている。
食器などを袋から出して、食事の準備を始めるとメイドさんがテントの中に入ってきた。
「ククナ様! お起きになってください!」
「うう~ん……」
「学校に入るというのに大丈夫かな?」
「私たちもそれが心配で……」
――とはいうものの、お姫様にはメイドと執事たちがついて、身の回りの世話をしてくれる。
元世界の学生のように、1人暮らしでアパートとかそんなことはないし。
私たちが地面に敷いた敷物の上で先に朝食を摂り始めると、ベッドに目隠しをしてククナが着替え始めた。
「ノバラ、これ美味い! どうやって作るんだ?!」
「肉団子作ったことはないの?」
「ない」
彼らに肉団子の作りかたを教えてあげる。
「小麦粉を使うのか~」「そんな風に使うんだ~」
彼らに話を聞くと、パンは作るようなので小麦粉じたいはあるらしい。
「小麦粉は色々と使えるわよ。スープにとろみをつけたりとか」
「へ~! 今度作ってくれ!」
「いいわよ」
「それから、俺たちがパンを作っても、ふかふかにならない!」
「あ~、それはパン種が悪いのねぇ。パン種作ってる?」
「なんだそれ?」
モモちゃんが、パンを咥えて返事をした。
「そこからか~」
パン種を作るのは時間がかかるし、実際に見せてあげたほうが早い。
魔法の袋に保存できればいいのだが、できあがったものを袋に入れると、菌が死んでしまうのだ。
「ノバラから教えてもらう!」
「モモちゃん、どこまで一緒に行くの?」
「そうだな~パンの作りかたを教えてくれるまで!」
彼らの本拠地は、ティアーズ領にあった森の中なので、あそこからあまり離れたくないらしい。
ハーピーが空を飛ぶスピードなら、多少離れていてもやってくることは可能だろうが。
「解ったわ」
「やった!」
彼らが喜んでいる。
文化的に他の種族と接触がないので、情報が途絶しているようだ。
パン種を作るためには瓶などを使うので、そういうものも必要になるのだが。
「ハーピーって容れ物は持ってる?」
「焼き物を焼いたりするぞ!」
「そうなんだ」
文化が発達しているのか、していないのか。
彼らと話していると、着替えたククナも食事を摂り始めた。
私は食べ終わったので、待っていると――。
「にゃー」
ヤミの声だ。
「あ、帰ってきた」
私はテントから出て、彼の声がするほうへ向かった。
「ヤミ、どうだった?」
「にゃー」
「え?! 暴動?!」
なにやら街がすごいことになっているらしい。
「聖女様、おはようございます」
ルクスが私の所にやってきて、ひざまずいた。
「暴動ってなにがあったの?」
「昨日の夜も大規模なアンデッド騒ぎがあり、犠牲者が多数出たようで……」
毎度のアンデッド騒ぎ、それに犠牲者も出たことで、ブチ切れた街の住民たちが魔導師協会と領主の屋敷に押しかけているらしい。
「そうなんだ」
「危うく暴動に巻き込まれそうになって、なんとか街を脱出できました」
「危険な思いまでして、情報を持ってきてくれてありがとう」
「にゃー」
「はいはい、あなたもね」
ヤミを抱きかかえて、私の肩に乗せてあげる。
「原因はなんなの?」
「魔導師協会が、遺体の処置で手抜きをしたようですね」
「やっぱり……」
「あの街の笛吹き部隊も、しばらく活動できそうにありませんので、他の街に移動すると言っておりました」
「笛吹き隊は、情報を掴んでいたのね?」
「ええ、すでに情報は王都に向かっているようです」
「うわぁ」
いくら魔導師協会の影響が大きいと言っても、国王の命令には逆らえないだろう。
協会が酷いことをしているというのが公になれば、鶴の一声で協会自体がなくなる可能性だってある。
ただし王様って方が、まともな人ならば――という条件はつくが。
絶対的な権力は絶対的に腐敗するって言うし、グルになっていることだって考えられる。
私は、もたらされた情報を団長に伝えた。
そのまま団長から領主様へ。
領主を囲んで、騎士団があれこれと論議している。
「グルートン男爵は、どうするつもりなのだろうか?」
「協会の反発があっても、なんらかの処分をしませんと、これじゃ住民が納得しませんよ」
「そうだろうな……」
同じ領主として、私たちの領主様も心配そうだ。
魔導師たちを処分すると、協会の反発をまねいて遺体の処理などが滞るかもしれない。
まぁ、今でもとんでもないことになっているので、協会が反発しても状況は同じだろうが。
話を聞いていた私は、ちょっと気になることを質問してみた。
「あの~、協会に入っていない野良の魔導師っていないのですか?」
私の言葉を聞いて、皆が不思議そうな顔をした。
「なにをおっしゃいます。協会に所属していない魔導師、それはつまり魔女のことですよ」
「あ、そうですね……」
そう言われればそうだ。
男でも女でも、非正規の魔導師は魔女。
私の家を燃やした魔導師のように、正規の魔導師として実力があるのに、なんらかの理由で魔女になっている者もいるはず。
そういう人を探して遺体の処理を頼むのだろうか。
「だが、他領のことに我々は口を挟めん。予定通り出発することにしよう」
「「「はっ!」」」
領主の命令により、騎士団はテントを解体して出発の準備をすることになった。
テントからハーピーたちが走り出て、道を疾走していく。
そのまま天高くまで飛び上がった。
くるくると円を描くように徐々に高い空まで昇っていく彼らに手を振る。
本当にパンの作りかたを覚えるために、やってくるのだろうか?
出発の準備をしていると、村長と村人たちがやって来た。
「貴族様と騎士団、聖職者様には、大変お世話になりました」
「暴利を貪らないあなた様は、本当の聖職者――まるで聖女様でございます」
皆が私の前でひざまずく。
「あはは……」
苦笑いするしかない。
自分たちの身を守っただけなので、今回のことでお金などは取っていない。
アンデッドたちは私に向かってきたようだったし、自衛のために退けただけ。
それだけで本当の聖職者だなんて言われるなんて……。
協会ってのは、どんだけ酷いの?
村人たちが、お礼に畑で採れた野菜を持ってきた。
これはありがたい。
食料はいくらあっても困らない。
領主やククナに食べさせるには毒味をする必要があるが、それはメイドたちがやる。
人の善意を信用できないのはつらいことだが、この世界ではなにがあってもおかしくない。
元世界のような性善説は通用しないし。
出発の準備ができたので、私たちは馬車に乗り込むと村人たちに見送られて出発。
ラレータの顛末がどうなるか気がかりだが、私たちは村をあとにした。





