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43話 月が綺麗ですね


 現在、森を縦断している街道を進んでおり、あと1日で抜ける予定だ。

 森に入った初日にハーピーの男の子を助けたのだが、その子が仲間を連れて遊びにやって来た。

 彼らは魔法の袋がほしいらしいのだが、お金を持っていない。

 その代わりになるのが、彼らが持ってきたドラゴンの鱗。

 貴重なお宝に旅の商人が食いついた。

 その商人との取引で無事に魔法の袋を手に入れたのだが、男から気になる情報を入手した。


 次の街では、夜になるとアンデッドがうろついているという。


 ――ハーピーが3人で遊びにやってきた次の日の朝。

 食事を終えるとテントを片付けて、すぐに出発の準備を始める。

 食後に遊んであげる時間がない。


「ごめんね、ハーピーたち。急いで出発しないといけないの」

「解っている!」「ノバラ、またね!」「俺もなにか拾ってきてやるぞ!」

 ハーピーたちはそう言い残すと、地面を疾走――あっという間に空に舞い上がっていった。


「凄いなぁ」

 あんな風に空を飛べたら、楽しいんだろうなぁ。

 彼らの生活や文化も自由で、なんにも縛られていないみたいだったし。

 青い隣の芝生を羨ましがって、そんなことは言っていられない。

 私も片付けを手伝う。


 ククナはアンデッドが苦手のようだが、私だってそんなものには会いたくない。

 なにごともなく通り過ぎて、次の街を目指したいところだ。


 準備ができたので直ちに出発した。

 昨日の商人が頭を下げているのが、窓から見える。

 律儀な男だ。

 ああいう人間は信用できるのではあるまいか。

 私は彼を見送ったあと、席に座った。


「ドラゴンの鱗は金貨5枚ってお話でしたけど、商人を通すともっと上がるんでしょうね」

「幸運のお守りになるということで、欠片でも欲しがる人が多いから」

 ククナがお守り文化のことを教えてくれる。


「にゃー」

 薬にもなるらしいのだが、爪のようなタンパク質が固まったものでしょ?

 あ~でも、動物のつのが漢方にもあるしね。

 魔法の袋から先輩が残してくれた書物を出すと、パラパラとめくってみる。

 さすがにドラゴンの鱗を原料とする薬は載っていないらしい。

 この本は、ごく一般的な薬の本みたいだし。


「私の作る回復薬ポーションにドラゴンの鱗の粉を混ぜたらなにか効果があるかな?」

 それを確かめるためには、人体実験になってしまう。

 ドラゴンの鱗は毒にはならないらしいのだが……。


「お姉さまの作る薬なら、すごいのができると思うわ」

「そうかなぁ」

 ヤミに聞いてみても、蘇生薬とか不老長寿の薬とか怪しい返事しか返ってこない。

 その手の薬って、普通は眉唾ものばかりじゃない。

 なんらかの効能はあると思うけど、不老長寿ねぇ……ぶっちゃけありえない。


 私とククナの会話を領主は黙って聞いている。


「領主様。そんなに貴重なドラゴンの鱗なら、国王陛下によい手土産ができましたね」

「そのとおりでございます。これも聖女様のおかげでございます」

「やっぱり、よい贈り物をしたりすると、陛下の覚えがよくなったり?」

「それはもう」

 領主も嬉しそうである。


「にゃー」

「彼の話では――ティアーズ領は帝国と接しているので、もっと国防予算を回してもらってもいいんじゃないかと言ってますが……」

「帝国とつながっている街道は、蛇の道峠という難所です。簡単に軍を送り込むことはできません」

「にゃ」

 延々とグネグネした長い峠を列をなして行軍するのか。

 それは大変そうだ。

 通行止めにするために故意に崩す手もある。


「他の経路は、大陸を南北に走る山脈と帰らずの森に阻まれており、常人が足を踏み入れることは不可能です」

「それじゃ帝国が攻めてくることはないと踏んで、国防には力を入れていないと」

 なんだか呑気な気がするのだが。


「そういうことです。帝国が来るとすれば南の海からでしょうな」

 この王国は山脈に守られているので、まだ独立国家として存続しているが、他の国は帝国に併合されてしまったらしい。


「それじゃ王都の港には、巨大な戦艦が沢山並んでいるとか?」

 それはちょっと見てみたい。


「いいえ、ある程度の船はありますが、あまり遠洋には出られないですし」

「え? そうなんですか?」

「にゃー」

 ヤミの話では、海にも魔物が生息しているらしい。


「海の魔物ってどんなの?」

「シーサーペントとか、クラーケンとか――私も見たことがないので、話で聞いただけだけど……」

 ククナは敵の戦艦より海の魔物のほうが怖いという。

 木造の戦艦など、まっぷたつにするぐらいの破壊力みたい。

 それってどんなの? もしかして、ゴ○ラみたいなやつ?

 それとも巨大なシャチとか?

 たしかに、シャチの知能でクジラほどの大きさの生き物なら、かなり怖い。

 空にはワイバーンやドラゴンがいるし、ブラック過ぎる世界だ。


「それじゃ海から攻めてくるのも大変そう」

「そうなのです。逆に王国もそれで守られているわけですな」

 帝国も簡単には手を出してはこれないようだ。

 しばらく戦争などもないということだろう。

 私とて、この歳で戦争を知っている世代とかになりたくないし。


「にゃー」

「ティアーズ領は、突発的な帝国との戦闘もありえるのだから、辺境伯領にしてもいいぐらいだと」

「ふ~む、そのネコは本当にネコなのですかな? すごい博識ですが……」

「お父様、クロは凄いのよ! 私の知らないことも沢山知っているし! 帝国のお話だってしてくれるのよ!」

 彼が帝国の事情にも詳しいということは、彼の地にも行ったことがあるということだろうか?

 まぁ、ネコならば、どこに紛れ込んでも怪しまれずに済むとは思うが……。


 そんな話をしながら――馬車は順調に進み、昼過ぎには森から出た。

 いつもなら次のラレータという街の野営地で一泊するらしいのだが、今日はそのまま通過する。

 街には貴族用の立派な宿というかホテルもあるみたいだが、それは利用しない。

 なぜならば経費がかかるから。

 往復で2ヶ月もかかる旅行なので、贅沢はできない。

 ティアーズ領はそれだけ僻地にあるので、他の貴族たちにくらべて不利なのだ。

 元世界でいう薩摩藩みたいな感じ?


 そう考えると、1年に1回の国王と貴族の謁見は参勤交代と言えなくもない。

 元世界の大名行列と違い、連れているのは護衛の騎士団だけだが。


 森から出ると芋畑が広がるが、ここには疫病の影響はないようだ。

 抜けるのに4日もかかる広い森が、緩衝地帯になっているのだろうか。

 芋畑を進むと、堀に囲まれた小さな街が見えてきた。

 近くの川から水を引き込んでいるらしい。

 私がいたメランジュの街よりかなり小さい。


 小さな木造の門を潜ると、街の中を進む。

 背の高い建物も少なく、木造の家屋が多い。

 それでも通りには沢山の人々がおり、こちらを見てワイワイと騒いでいる。

 街の住民たちは、騎士団に囲まれている黒い馬車の正体に気がついているらしい。

 そりゃ森のほうからやってきた偉い貴族様となれば、ティアーズの領主しかいない。

 毎年毎年、参勤交代のように王都に向かっているなら、騎士団や黒い馬車を人々が知っているのだろう。


 人の多い通りを抜けて、馬車は街を出た。

 騎士団の男たちは、ここで美味い飯を食べるつもりだったのだろうが、これも仕事だ。

 危険があるかもしれないのに、領主を晒すわけにはいかない。


 芋と小麦の畑の中を馬車が走っていると、外から声が聞こえる。


「恐れながら、ティアーズ子爵様の馬車ですかい?!」

「そうだ!」

 進行方向右側の窓から外を覗くと、馬車と平行して黒い毛皮の獣人が走っているのが見えた。

 半ズボンにランニングのような姿だが、肩から青いタスキを斜めにかけている。


「国王陛下からの書状を運んでまいりやした!」

「止まれ~!」

 団長が馬車列を停止させた。

 彼が馬から降りると、ひざまずく獣人から書状を受け取る。

 書状を運んでいるから、これが噂に聞く獣人の飛脚なのかもしれない。

 こちらにやって来たので、ドアの前から避けて椅子に座る。


「ワイプ様!」

 領主が座席から立つとドアを開けた。


「陛下からの書状だと?」

「そのようです」

「恐れながら、すぐに返事をいただきたいとのことでやんした」


「うむ」

 団長から領主が書状を受け取る。

 手に取った紙は2つに折られており、赤い蝋封が2箇所見える。

 紙に穴が開いていて、そこに蝋を垂らすとくっつくようになっているようだ。

 領主は自分の魔法の袋から細く小さなナイフを出すと、蝋封を切った。

 手紙の内容を目で追っていたのだが、すぐに声を上げる。


「承知いたしましたと――陛下には伝えてくれ」

 領主は、袋からなにか道具を出すと、手紙の上に赤いものを垂らした。

 道具を逆さまにすると、それを押し付ける。

 赤い蝋と印が一体になった魔道具らしい。

 ここにはインク式の判子などがないので、蝋を垂らしてから印を押すのだろう。

 印を押した書状を団長に渡すと、そのまま獣人が受け取った。


「ありがとうございます。それじゃあっしは、いただいた返事を持って引き返しますんで」

「よろしく頼む」

「へい!」

 彼は立ち上がると、猛スピードで王都への道を走り始めた。

 元世界の自動車並のスピードだ。

 森の中でニャルラトの健脚を見たが、それよりも速い。

 飛脚という商売をしているのだから、彼らの中でも脚自慢が集まっているのに違いない。


「あれが飛脚なのね?」

「にゃー」

 今の場合、往復の料金を国王が払っているらしい。

 それと面白いのは、飛脚が困っていたら助けてあげないとだめな決まりになっているという。

 多分、重要な書状を運ぶことが多いので、滞りなく飛脚を運行させるためなのだろう。


「ワイプ様、陛下はなんと?」

「王都から、聖女様の護衛のために、近衛騎士団が出発したらしい」

「え゛?」

 いつもクールな団長が、すごく嫌な表情を顔に出している。

 珍しい。


「近衛がお城を離れてもいいのですか?」

 私の質問に団長が答えてくれる。


「聖女様の護衛が、王宮の警備と同じぐらい重要視していると言いたいのでしょうが……どちらが来ますかね?」

「おそらく赤だろう」

「はぁぁぁぁぁ~」

 これまた珍しく、団長が大きなため息を漏らした。

 本当に嫌そうな顔をしている。

 近衛には赤と青の部隊があると聞いた。

 やってくるのが赤ということは、王侯貴族のお坊ちゃん部隊なのだろう。

 青なら地方騎士団からの選抜部隊ゆえ、こちらの事情を汲んでくれるかもしれないが……。

 団長は、過去にその近衛と揉めたりしたことがあるのかもしれない。

 面白そうな話ではあるのだが、聞くのはマナー違反よねぇ。


 トラブルの予感はするが、国王が派遣したという騎士団を拒否はできない。

 げんなりした団長に先導されて馬車列は再び動き出し、空にオレンジと紫のグラデーションがかかる頃、小さな村に着いた。

 村の外れに停車したので馬車のドアを開けると、騎馬が1騎村に向かった。

 村の長とか責任者に許可を取るためだ。

 ――とはいえ、貴族がやってきたのに拒否する長は普通はいない。

 すぐに、グレーの髭を生やした、初老の男性が馬と一緒に走ってきた。


「よ、よくぞ、お越しくださいました! しかし、こんな村にはなにもありませんで……」

 膝をついた男が、粗末な上下の服を汗びっしょりに濡らしている。

 なんだか見ているだけで気の毒だ。

 団長が男の相手をしてくれている。


「構わぬ! 少々事情があり、野営の場所だけ貸してもらえればよいのだ」

「はは~っ! いかようにも!」

 村長の許可が出たので、早速テントの設営を始める。


「聖女様」

 テントの組み立てを眺めている私の所にルクスが馬でやってきた。


「なぁに?」

「私はラレータに戻り、情報を収集して参ります」

「本当に?! それじゃお願いしてもいい?」

「もちろんでございます」

 彼がこちらをチラチラ見ているので、察した。

 視線の先には、椅子に座っているククナがいる。

 彼女の膝の上で丸くなってるヤミの首を捕まえた。


「はい」

 ルクスの馬の尻に、ヤミを乗せてやる。


「ありがとうございます、聖女様」

「……」

 ネコが尻尾を馬の尻に打ち付けて、無言の抗議をしている。


「君がいないとルクスが動けないでしょ? 君の魔法で縛っているんだから、付き合ってあげて」

 むくれているヤミを乗せた馬が、ラレータの街に引き返していった。


 団長の所に行くと、村長と話していた。


「村長、ラレータでのアンデッド騒ぎの話は聞いているか?」

「は、はい!」

「この村では?」

「今のところは問題は起きておりませんが……本当にアンデッドが?」

「我々も、商人から話を聞いただけだからな」

「はぁ……」

 村長が胸の前で手を合わせて、そわそわしている。

 彼はアンデッドの心配より、貴族様の扱いに困っているようだ。


「なにも心配いらぬし、村に迷惑もかけぬ。下がってもよいぞ」

「は、はい。ありがとうございます」

「ジュン様!」

 メイドと執事がやってくると、彼となにか話している。


「村長、少々水を分けてはくれまいか?」

「かしこまりました。井戸にご案内いたします」

 村長が一礼すると、メイドと執事を連れて村に向かった。


「ジュン様、笛吹き隊の魔導師をラレータに向かわせました。情報集めをさせます」

「そうですか。助かります」

「あの街の笛吹き隊が、なにか掴んでいるかもしれません」

「すでにその情報を持って、王都に飛脚が走っているやもしれません」

「魔導師たちが、なにかやらかしたなら、ここの領主様の責任ではないのでは……」

「いいえ、そうはまいりません。聖女様」

 領主が、私と団長の会話に加わった。


「そうなのですか?」

「事情はどうあれ、監督責任は追及されます」

 うは~、管理職は大変だねぇ。

 言うことを聞かない連中でも、脅しなだめてすかして、時には飴と鞭で上手く人を使わなくてはならない。


 領主の仕事の大変さに肩をすくめていると、空からなにか聞こえた気がした。


「なに? 気のせい?」

 上を見ると、大きな5羽の鳥――じゃないハーピーだ。

 彼らが突然急降下すると、地面スレスレを飛び、私の寸前でふわりと浮き上がった。

 そのままスピードを落として胸に飛び込んできた。


「ノバラ!」

「モモちゃん、今日も遊びにきたの?」

 私が編んであげた髪はまだ大丈夫だが、飛び回っている間にほつれてしまうだろう。


「うん! 仲間も一緒だぞ?!」

 私の近くに降り立った子たちは、昨日のネネやナナと違う子たちだ。

 黒茶、白黒、茶色の縞々の子もいたりして、羽毛の模様もバリエーションに富んでいるらしい。


「モモちゃん、もう魔法の袋はないのよ?」

「解ってる! ノバラのおかげで買い方が解ったから、あとは自分たちでやる」

 彼らなら、人が入ることができない場所の貴重なものでも獲ってこられるわけだ。

 商人たちも、ハーピーと取引ができれば上手く稼げるだろう。


「でも、悪い商人に騙されないでね?」

「大丈夫。悪いやつすぐに解る」

 なにか、彼らにしかないような直感的なものがあるのだろうか?


「じゃあ、今日は遊びにきただけなのね?」

「あいつらの髪を切って欲しい!」

 なるほど、みんな髪がボサボサだ。

 私が綺麗にカットしてあげたので、他の子たちもやりたくなったのだろう。


 彼らと遊んであげたいところだが、いきなりお客様が5人も増えたら食事の準備も大変だ。

 私もメイドたちを手伝うことにした。


「いいえ、聖女様に手伝っていただくなんて……」

 メイドたちは遠慮しているのだが。


「私のお客様で、迷惑をかけるのだから遠慮しないでね?」

「そんな遠慮なんて……」

「ノバラ~!」

 モモが私の所にやってくると、自分の袋からなにか取り出した。


「わ!」

 いったいなにを取り出したのか解らなかったので、私は驚いて飛び退いた。

 彼が脚で掴まえているのは……多分、毛を毟った鳥。

 下ごしらえがすべて終わっているように見える。


「お土産!」

 全部で4羽もってきたらしい。

 彼らは狩りも得意のようだ。

 猛禽類も裸足で逃げ出すに違いない。


「ありがとう! よし、これでスープを作りましょう」

「「「はい!」」」

 料理はいいが、鳥さん4羽はちと多い。

 騎士団に陣中見舞いに行く。

 街での食事を取られて落ち込んでいるだろう。


「あの~、これを焼いて食べてみませんか?」

 私が手に持った2羽の鳥に、男たちの目が輝く。


「よろしいのですか?!」

「はい、どうぞ」

「散々ご無礼を働いた俺たちに、お情けをかけていただけるなんて」

「まぁ、それは忘れてはいませんけど、私としても王都まで護衛していただく立場ですし……」

 男たちは、大喜びで火をおこし、鳥を焼き始めた。

 棒に挿して丸焼きだ。

 焼けたところから、ケバブのように食べるのだろうか?

 鳥だと生焼けはマズいと思うのだが――まぁ、騎士ならそのぐらいは知っているのだろう。


 メイドたちの所に戻ると、彼女たちもやる気になってくれたようだ。

 加熱するのも魔法でやればすぐに終わる。

 じっくりと焼いたり、コトコト煮込んだほうが美味しいとは思うが、今は旅の途中。

 早さ優先だ。


 魔法の袋から私の鍋も出して、芋を分けてもらうと皮を剥く。

 こういうときは、ピーラーがほしい。

 歴代の聖女たちは、ピーラーを普及させなかったのかな?

 普通に使われていないということは、ピーラーはもたらされなかったのだろう。


「ノバラ、芋の皮むき上手い!」

「ありがとう。モモちゃんたちは、芋とか食べるの?」

「食べるぞ! 焼いて食う!」

「そうなんだ」

 ハーピーと話していると、メイドがひそひそ話をしてくる。


「あの……ティアーズ領で、なぞの畑荒らしが出るんですけど、それってもしかしたら……」

「かもしれないけど……ハーピーたちとお付き合いするほうがメリット……じゃない利点が多そうだし」

「そ、そうですね……」

「いっそ本格的に作物交換場所を作って、積極的に物々交換してもらうというのは?」

 私の話に執事が歩み出た。


「それはいいかもしれませんね。それでは、私がこの旅が終わったときに、領主様に提案させていただいてもよろしいですか?」

「よろしくお願いいたします。私はしばらく戻ってこれないかもしれないし……」

「……」

 メイドたちが悲しそうな顔をするのだが、別に人身御供にされるわけじゃないし。

 されないよね?


 話をしながら水を鍋に入れてもらうと、皮を剥いた芋を入れる。

 ぶつ切りにした鳥さんも入れる。

 骨からよいダシが出るだろう。

 普通の料理と違うのは、若干でも香辛料が使えるところだ。

 さすが領主様の台所。


 料理ができあがったので、鍋ごとテントの中に持ち込んだ。

 ククナやハーピーたちと一緒に食べる。

 今日はハーピーが5人もいるので、かなり騒々しい。

 彼らは地面に敷いた敷物の上で食事をしているのだが、モモちゃんだけは私の膝の上だ。

 食事をしている彼の金髪をなでてやる。


「美味い! ノバラは料理も上手いな! やっぱり俺は、ノバラと交尾したい!」

「ありがとう。でも、交尾はできないのよねぇ。モモちゃんのことは、私も好きなんだけどねぇ」

「う~ん、残念!」

「他の子たちも、美味しい?」

「「「「美味しい!」」」」

 食事が終わったら、ククナが目隠しの向こうで着替えている間に、ハーピーたちの床屋さんを開かなくてはならない。

 髪の毛の長い子は、みんな髪の毛を編んでほしいという。

 なんだか流行りになってしまったようだ。

 まぁ、彼らの脚じゃ髪の毛を編むのは難しいだろう。


 床屋さんとお姫様の着替えが終わったら、モモちゃんからもらった果物などを食べてワイワイ。

 今日も、ククナと一緒のベッドで寝ることになった。

 相変わらず狭い。


「そういえば、ヤミが帰ってこないねぇ」

「大丈夫でしょうか、お姉さま」

 ククナも心配している。


「まぁ、大丈夫でしょ」

 多分、暗い中の移動は危険なので、街に泊まっているのではなかろうか。


 そのまま眠りについたのだが――真夜中に目が覚めてしまった。

 お姫様を起こさないように、そ~っと起きてテントを開けると、オレンジ色の炎が見える。

 騎士団の誰かが寝ずの番をしているはず。

 私は、袋からシーツを取り出すと、腰に巻いて簡易のスカートを作った。

 黒いミニスカワンピースのままじゃ、外には出られない。


 燃える光の近くに行くと、焚き火の周りに寝ている騎士団。

 火の番をして、1人で座っていたのはヴェスタだった。


「こんばんは」

 突然声を掛けられた彼は、驚いたようだ。

 火を見つめていたようだったが、少しウトウトしていたのかもしれない。


「聖女様……」

「なんか目が覚めてしまって……」

「そうですか……」

「前みたいに、ノバラでもいいですよ?」

「そうはいきません」

 一瞬真剣な顔をした彼が、目をそむける。

 ヴェスタは、私が巻いているシーツの下がミニスカだと知っているだろう。

 それを想像したのかもしれない。

 彼の隣に座り、上を見上げれば満天の星と満月。


「うわぁぁ~」

 元世界では見られないような素晴らしい光景に、思わず声が出てしまう。


「……つ、月が綺麗ですね……」

「え?」

 私はヴェスタの顔を見た。

 彼の真剣な眼差しに、この世界でもこの言葉は元世界と同じようにあれを指すのだろうか――などと考えていると、異臭が鼻をついた。


「う? なにこのにおい?!」

 思わず鼻を押さえる。

 生ゴミなんて生易しいものではなく、嗅いだこともないような吐き気をもよおす異臭。


「う! こ、これは?!」

 彼も腕で鼻を押さえている。


「ヴェスタ様?」

 異様な雰囲気の中、彼が剣を抜くと暗闇の中になにかが動いて見えたのを確認し、警戒の声をあげた。


「て、敵襲~!」


 ――ということは、これはやっぱりあれってことですか?


 

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