42話 取引
またハーピーのモモちゃんが遊びにやってきたのだが、今度は仲間を連れてきた。
小さな裸の子が3人とか、完全に絵面的にアウトなのだが、彼らはこういう種族なので仕方ない。
だって可愛いし……これも聖女の役得であろうか。
彼らはただ遊びにきたわけではなく、魔法の袋がほしいようだ。
私がモモちゃんにプレゼントした袋を実際に使ってみて、便利だと思ったのだろう。
そりゃハーピーたちにとっては神アイテムに違いない。
荷物を沢山持ったとしても、重さも感じずに空を飛べるのだから。
モモちゃんを見て、他のハーピーたちがほしいと思っても当然のはずだが、問題が少々ある。
ハーピーたちは王国の貨幣経済から外れた所で暮らしているのだ。
王国に税金などを納めていないし、お金を持って買い物をすることもないらしい。
ほぼ自給自足――たまに商人を見つけて、物々交換はするようなのだが。
そのモモちゃんは、問題を解決するためにいいものを持ってきた。
領主様によると、ドラゴンの鱗だという。
高価で貴重なものなので、金貨の代わりになるかもしれない。
「それじゃ、昨日私にくれたあの大きな魔石も同じ所で見つけたの?」
「そう!」
「あの魔石もドラゴンのもので間違いないかもしれないね」
「聖女様、それが本当なら国宝級ですぞ?」
「にゃー」
ヤミもそう言っていたのだが、それが証明された形だ。
テントの設営をしている騎士たちも、お宝が気になるのか、こちらを窺っている。
「領主様、ドラゴンの鱗ってどのぐらいするものなんでしょうか?」
「そうですな……これだけ大型で綺麗なものですと――金貨10枚はくだらないでしょう」
金貨10枚というと――200万円!
「すごいですね!」
「数多くを市場に流せば値崩れするやもしれませぬが、まぁそのぐらいの値段は確実だと思います」
「やったねモモちゃん。これが5枚あれば、魔法の袋と交換できるって」
魔法の袋の値段は1000万円ほどらしい。
「本当か?」
「ええ」
「商人を見つけたら交渉して、5枚以上なら断ってもいいからね」
「ノバラの言うとおりにする!」
もっとよこせとか、どこで拾ったとか聞き出そうとするやつらもいるだろうが、ハーピーたちしか到達できない場所にあるんじゃどうしようもない。
モモちゃんたちと話していると、突然騎士団が壁になった。
「え?! どうしたの?」
「恐れながら申し上げます! 貴族様御一行とお見お受けいたしますが、居ても立ってもおられず……」
壁の向こうから聞こえてくるのは、多分中年の男性の声。
距離は少し離れているに違いない。
その男がこちらに近づいてきたので、警戒した騎士団が壁になったのだ。
「にゃー」
ヤミの話では、身分が上の者に直接話しかけるのは礼儀的にマズいらしい。
そうなのね。
気をつけないと。
「ジュン! 構わぬ通せ」
普通はやらないような無礼を承知でやってきたこの商人に、領主も興味を示したらしい。
「はっ!」
騎士の壁が割れて現れたのは、平伏している小太り気味の中年の男。
赤からオレンジ系の派手な色の上着を着て、つばなしの帽子をかぶっている。
下は緑系のズボン――補色の組み合わせね。
身なりがいいので商人ではないだろうか。
ヴェスタともうひとりの騎士が護衛に残り、あとはテントの設営に戻った。
「恐れ入ります。私はラレータで商人をしております、ローザロードと申す者でございます」
「その商人がなにか?」
「ご無礼を承知で申し上げます。そちらの女性が持っているものを拝見いたしましたところ、居ても立ってもおられず……」
「これがなにか解るの?」
私の質問に、商人がすぐに答えた。
「私の目が曇っていなければ、ドラゴンの鱗かと……」
「なるほど、随分と目ざといな」
領主も感心しているようだ。
これの価値が解っているなら、取引もしやすいのではないか?
「ローザロードさん、あなたの所で魔法の袋は扱っている?」
「はい、もちろんでございます」
彼は私も貴族だと思っているらしい。
おそらく領主の愛人かなにかだと思っているのではないだろうか?
「それでは、この鱗10枚と引き換えに魔法の袋を2つほしいのだけど」
「今すぐにでしょうか?」
「モモちゃん、鱗はまだ持ってる?」
「ある! ノバラにあげようと思って、沢山持ってきた」
「ちょうどよかった。それであなたたちの魔法の袋を買えばいいじゃない。どうかしら、ローザロードさん」
「かしこまりました! すぐにご用意させていただきます!」
彼が自分の袋から、魔法の袋らしきものを取り出した。
こちらもモモちゃんの袋から、ドラゴンの鱗を取り出したのだが、その光景を見た商人が青い顔をしている。
「あ、あの! 恐れながら――」
「なんでしょう?」
「も、もう少し丁重に扱っていただきたく……」
「ああ、ごめんなさい」
私とハーピーたちにとっては、たんなるアイテムの1つなので、どうでもいいわけだ。
メイドさんからシーツを1枚もらうと、それを地面に敷いてハーピーたちに並べてもらった。
「……」
目の前でキャッキャウフフと飛び回るハーピーたちを見て、男がなにか言いたそうにしている。
「今度はなぁに?」
「恐れながら、そのハーピーどもは奥方様の愛玩奴隷で?」
「お友達よ、お友達。ねぇモモちゃん」
「うん! ノバラは友達! でも俺は交尾もしたいぞ!」
「う~ん、それはちょっと無理だからねぇ」
彼の言葉に苦笑いで返すしかない。
「し、失礼いたしました!」
商人が頭を地面につくぐらいに垂れた。
「それと、私は正室でも側室でもないし」
「え?! そうなのでございますか?!」
彼が驚くのも無理もない。
貴族と一緒に椅子を並べていたので、家族に見えても仕方ないだろうとは思う。
「私の正体は探らないように」
「し、承知いたしました!」
彼がドラゴンの鱗の数を確認したあと――手を伸ばすとシーツの端っこに商品である魔法の袋を2つ置いた。
私はモモちゃんを抱いたまま椅子から立ち上がり、その袋を取って他のハーピーに手渡した。
私の行動を見て、男がぎょっとした表情を浮かべる。
まさか身分の高い人間が直接品物を取るとは思わなかったに違いない。
こういう場合は、お付きの者が手に取って主に渡すのが普通のようだ。
「はい、魔法の袋よ。紐の工夫をして落とさないようにしてね」
「解ってる。沢山入れてなくしたら大損害!」
「うふふ、そうね~」
「ネネは慌てん坊だから、絶対落とす」
「落とすのはナナ」
「落とさない!」
2人が私の前で睨み合っている。
「ほらほら、喧嘩しないの」
喧嘩って脚のかぎ爪でやるんでしょ?
本気でやったら大怪我するんじゃなかろうか。
メイドから組紐をもらうと、2人の首にかけてやった。
「「にひ~」」
2人ともキャッキャとはしゃいでご満悦である。
翼をパタパタと開き、ジャンプをしてくるくると回る。
まるでダンスを踊っているよう。
その光景には目もくれず、商人は自分の袋から出した布に丁寧に鱗を包んでいた。
それはもう我が子を慈しむように。
「そこな商人」
ヴェスタが鱗を包んでいる商人に話しかけた。
「な、なんでしょうか、騎士様」
まさか話しかけられるとは思ってもみなかったのか、男が少々焦っている。
「このような無謀なことをしていたら、命がいくつあっても足りないのではないか?」
「にゃー」
「そうねぇ」
ヤミの話では、貴族に話しかけるという時点で、無礼者と罰を受ける可能性が高いという。
この男は、領主様なら大丈夫だと踏んだのであろうか?
人を見る目に自信があるのかもしれないが、確かにヤミの言うとおりだ。
「人の通ったことのない荒れ地にこそ、お宝がございます。商いで命を落とすのであれば、商人として本望なれば……」
「呆れた男だな。その道が間違っていたらどうするのだ」
「間違った道は、その道を学ぶよい機会となります」
「ほう」
商人の言葉に領主も感心をしたようだ。
「面白いわ」
黙って話を聞いていたククナが、声をあげた。
「ククナ様」
ヴェスタはお姫様を諌めようとしたが、止めたようだ。
「ラレータのローザロードね。その名前、覚えておきましょう」
「はは~っ! ありがたき幸せ」
「こちらは、ティアーズ子爵領の領主様と、ご令嬢のククナ様。私はノバラ――よろしくね」
まぁ、騎士団を連れているのだから、普通の貴族ではないと彼も理解していたのだろう。
領主という単語には、あまり驚いていないように思える。
「ご無礼の数々、お許しくださいませ」
元世界でもこの世界でも、商人に重要なのはコネである。
この世界で特に重要なのが、王侯貴族とのコネ。
この男は、それを自力で勝ち取ったということになるのだろう。
「ククナ様、次の街はラレータという街なのですか?」
「ええ、お姉さま。グルートン男爵領の中にあります」
つまり、子爵領は抜けて次の領地に入ったということになる。
「商人よ、ラレータの様子はどうだ?」
領主が男に質問をした。
彼も、これから訪れる街の情報を少しは知りたいというところだろうか。
「あの……私が直接見たわけではないのですが――」
「なんだ? 申せ」
「は、はい。夜な夜な、アンデッドが街に徘徊しているという噂が広がっておりまして……」
なんか不吉な単語が出てきた。
それってホラー映画とかでよくあるやつじゃないの?
ゾンビとかそういうやつでしょ?
「アンデッドって、動く死体ですか?」
「せ――ゴホン! ノバラ様はご存知なのですか?」
多分ヴェスタは聖女と言いそうになったのだろう。
慌てて言い直した。
「ええ、まぁ」
ぐぇ~、映画でも気持ち悪いのに、本当に死体が動くとか……見たくない。
グログロでビチャビチャで、吐き気をもよおすにおいに違いない。
「それは初耳だな……」
領主の情報網にも入っていないようだ。
「アルル、いる~?!」
「はいはい」
彼女が走ってやって来た。
「次のラレータでアンデッドというのが出るようなんだけど、そういう話は聞いた?」
「いいえ」
彼女がルクスという魔導師の男からも話を聞いているが、笛吹き隊の情報にもないようだ。
魔導師が私の前にひざまずく。
「あなたたちの仲間も次の街にいるんでしょ?」
「そのとおりですが、普段から連絡を取り合っているわけではないので……」
どうやら笛吹き隊は縦社会で横の繋がりは希薄らしい。
「にゃー」
「そういうことを言わないの」
「クロの言うとおりだと思うわ。お姉さま」
「もう」
ククナのお姉さま呼びもデフォルトになってしまった。
周りの人たちもなにも言わないし。
アンデッドという単語を聞いた私はピンと来ないのだが、ヴェスタがすぐさま団長の所に向かう。
あれこれ話したかと思うと、領主の所に戻ってきた。
「領主様!」
「うむ」
2人が渋い顔をしている。
その横にいたヴェスタが商人に告げた。
「そなたは戻るがよい」
「はは~っ! 素晴らしいお取引、ありがとうございました」
彼は立ち上がると、走って自分の馬車の所に戻った。
待っていた仲間と部下らしき男たちと大騒ぎをするのかと思いきや、平然としている。
目立っては、狙われたりつまらないトラブルに巻き込まれるのを知っているのだろう。
かなり老獪な商人に見えたのだが、やはりそこら辺は心得ているようだ。
こちらはこちらで揉めている。
行く先の街でトラブルが発生しているので、どう躱すのか相談中だ。
選択肢に、「解決する」という項目はない。
いくら子爵様といえど、ラレータは他領の街。
他所者がやって来て好き勝手をやってしまっては、そこを治めている男爵閣下の面子を潰してしまう。
「ワイプ様、ラレータの手前で野営いたしますか?」
「う~む……」
団長だけは、領主のことをワイプと呼んでいる。
「それとも辺りが暗くなっても、街を突っ切るか……」
テントの設営が終わった他の騎士たちもやって来て、あれこれ話している。
「ククナ様、街の大きさはどのぐらいなのですか?」
「メランジュよりは小さいから、通り抜けるのに時間はかからないと思うわ」
「あ~! 4日ぶりに美味い飯が食えると思ったのに。ついてねぇ!」
普段、騎士たちは団長の魔法の袋から支給される保存食を食べている。
テントを張ったりするので、料理などをする時間がないのだろう。
メイドたちは、領主やククナの世話をするために同行しているわけだし。
街に到着すれば、自分の金を使って好きなものを食べるつもりだったのだろう。
一応、出張手当のようなものが出ているらしい。
もちろん領主親子の警備があるので交代で――ということになるのだろうけど。
それがパーになったと嘆いているわけだ。
「ノバラ~、どうしたんだ?」
モモちゃんが飛んできて、私の膝に乗った。
「モモちゃん、次の街でアンデッドが出るんだって。知ってる? アンデッド」
「知ってるぞ! よく1人で森の中をウロウロしてる」
「ええ~?」
森の中に入った人間が、死んだあとそういう風になってさまよっているのだろうか?
いやだなぁ。そんな風になって成仏できないなんて。
まぁ成仏ってのは仏教だから通じないかもしれないが……。
「ずっと、森の中をさまよっているの?」
「そのうち腐って動かなくなる」
「それで終わりなんだ」
「違うぞ。今度はスケルトンになって、ウロウロしだす」
「にゃー」
ヤミが説明してくれる。
「え? 魔法を使えるものもいるの?」
それだけ魔力の影響を受けていると、どんどん力が強くなるらしい。
限界はあるようだが、生前の能力にも影響されるようなので、強い戦士や魔導師がアンデッドになると厄介だという。
「そもそも、なんでアンデッドが現れるようになったんでしょうか?」
「解らないわ」
私の隣で座っているククナも首をかしげる。
「どこの場所でも、そういうことってあるのですか?」
「う~ん」
「考えられるのは、遺体に適切な処置をしていないからだと……」
ルクスが会話に割って入ってきた。
「適切というと、アンデッドにならないための処置ってこと?」
「そうです」
「ああ! 私の家で捕物をしたときに、死体を回収したのはそういうのを防ぐためなのかな?!」
「そのとおりですよ、聖女様」
団長がうなずいてくれた。
つまり、あのまま屍を森に放置したり地面に埋めたりすると、ゾンビになることもあるってことね。
「その処置って誰がやってるの?」
「魔導師協会や、聖職者です」
「聖職者という人は魔導師とは違うの?」
「聖職者は教団の所属ですが、魔法が使えるので魔導師協会にも所属してます」
「結局は協会に入るわけね? あなた方、笛吹き隊は?」
「正式な魔導師なのでもちろん所属しておりますが、笛吹き隊は独立した機関ですから、協会から仕事は受けません」
「なるほどねぇ」
そんな大きな組織だし増長しても仕方ないか。
俺たちがいなくなれば街にゾンビが出てくるんだぞ――そんなことを日頃から言っているに違いない。
そりゃ、魔導師たちに文句を言いたくても強く出られないわけだ。
――とはいえ、魔導師たちも商売をしないと食えないわけで、あまり適当なこともできない。
微妙なパワーバランスの上に成り立っているのだろう。
小さな村などで死人が出ると、魔導師がいる街まで運んでいって処置をしてもらうらしい。
魔導師を呼ぶと金がかかるからだ。
「火葬は駄目なんでしょうか?」
私の言葉に、皆がぎょっとする。
どうやら触れてはいけないことらしい。
「にゃー」
この世界では、火葬というのは天に召されるのを断ち切られると考えられているという。
「天に行けなくなったらどうなるの?」
「戻りたくても身体がないから、ゴーストになるわ」
ククナが嫌そうに話してくれる。
この手の話は嫌いらしい。
「ゴーストっていうと、幽霊」
「にゃ」
「相手が幽霊じゃ、切ったり攻撃したりできないけど、そのときはどうするの?」
「にゃー」
退魔という魔法を、聖職者が使うようだ。
「は~、でも幽霊でもアンデッドでも魔物なわけだから、私の力が通用するかも……」
魔物を癒せばダメージが入るわけだし。
「にゃー」
ヤミもその可能性は高いと言っている。
それはさておき、普通なら起きないアンデッド騒ぎが起きているということは――。
「男爵領の魔導師協会になにかありましたかね?」
ヴェスタの言葉に皆がうなずく。
「そうだとしても、我々が介入できる立場にない」
団長の言うとおりで、私たちは他所者。
「にゃー」
「え? 私? パスパス!」
パスと言っても、なんのことか解らないだろうが。
私の力が通用するかもしれないが、そんなことに首を突っ込もうとは思わない。
そりゃ、情けは人の為ならずとか格好いいこと言ったりしたけどさぁ。
だって絶対にキモくてグロいやつじゃん。
「それでは……」
団長からの提案で――少々スピードを上げて移動し、ラレータの街を通り過ぎてその先にある小さな村で野営することになった。
話している間に食事ができあがったので、テントで食事をすることにした。
小さなお客様が増えてしまったので、地面に敷物を敷き、そこで食べてもらう。
敷物の上でナナとネネというハーピーが、モモちゃんと同じように脚を器用に使って食事をしている。
やはり、いつもこうやって食事を摂っているようだ。
ヤミも私の足元で食べているのだが、一緒に食事をしているククナの元気がない。
「ククナ様、どうなさいましたか?」
食が進まないので、近くにいたメイドに心配されている。
「なんでもないわ」
身体の調子が悪いとか、そういう感じではないらしい。
食事が終わると、寝る前にハーピーたちの髪の毛を切ってやることにした。
とくに、虎刈りになっているネネがヤバい。
メイドからハサミを借りると敷物の上で切り始めた。
短い頭というのは、格好よくするのが難しいのだが。
私は弟の髪をよく切ってあげたので慣れたもの。
親指を動かさず片方の刃を固定して、チョキチョキとリズムよく動かすのがコツ。
「はい、おしまい! 中々よくなったでしょ?」
虎刈りの短い髪の毛に揃えたので、かなり短くなってしまった。
「にゃー」
「すーすーする!」
「ごめんね~、でも揃えるとこうなっちゃうんよねぇ」
「いいぞ! 俺は長い髪が嫌いだから!」
やっぱり好みが色々とあるのね。
それで自分で切ったか人が切ったか解らないけど、ああなっちゃったってわけね。
「それじゃ、つぎはナナちゃん」
「うん」
彼女の髪は少し整えるだけでいいだろう。
それじゃ少々つまらないので、左側の髪を少し編んで紐でリボンをつけてあげた。
飛んでいたらすぐに解けちゃうかもしれないけど。
「ほら、可愛くなった」
「ノバラ! ずるいぞ! 俺にもやってくれ!」
飛んできたのはモモちゃんだ。
「ええ? こういうのは女の子がやる飾りなのよ?」
「俺もやる!」
まぁ、本人がやりたいならそれでいいけど。
彼の柔らかい金髪を編んであげた。
「はい、おそろいね」
「やったぁ!」
彼が嬉しいそうに、ナナと一緒にパタパタしている。
くぅ! 男の子なのに可愛い! そして似合っている!
それを見ていたネネが、ちょっと悔しそうだ。
「ネネちゃんの髪じゃ無理ねぇ」
彼の頭をなでなでしてあげる。
「解ってる! 俺は短いほうがいい!」
男らしく背伸びしている姿は、これはこれで可愛い。
私がハーピーたちと遊んでいる間に、ククナはカーテンをして着替えていた。
いつものとおり黒いワンピースになった彼女だが、なんだか不安そうな顔をしている。
強気な彼女がどうしたのだろう。
「あ、あのお姉さま……」
「どうしたのですか? なにか不安ごとでも?」
「あの、一緒に寝てもいいですか?」
不安そうにそうつぶやく彼女の顔を見て、私はピンときた。
アンデッドや幽霊の話をしたので、怖くなってしまったのだろう。
話をしているときから、かなり苦手そうな顔をしていた。
「もちろんいいですよ。でも、ハーピーたちもいるし、ベッドが狭そうね」
「それじゃ俺たちは、そっちを使ってもいいか?」
「ええ、いいわ」
トレードが成功をしたようだ。
ククナは私と一緒に、ハーピーたちは空いたベッドに移った。
彼らは子どものように見えるが、あまりわがままを言ったりはしないし、中身は大人なのだろうと改めて思う。
もっともベッドを使うといっても、ベッドの上で集まって丸くなって眠るだけだ。
毛布をかぶったりもしない。
「ここらへんは冬になったら寒くなると思うんだけど、そのときはどうするの?」
「森の南に行くぞ。食料も少なくなるしな」
私が住んでいたあの森は、ずっと南の海岸線まで続いているらしい。
1000kmも南に下れば、かなり気候も暖かくなるのではないだろうか。
それじゃ渡り鳥のように行ったり来たりしているわけね。
「けど、そのときは、モモちゃんと遊べなくなるなぁ」
「春まで待ってて!」
そりゃ、そうだ。
ハーピーたちと話している間も、ククナが私から離れない。
私は元世界のゾンビとか慣れているのだが、この世界の人たちには宗教的な嫌悪感もあるのかもしれない。
私は明かりを消すと、丸くなったヤミを真ん中に、ククナと一緒に眠りについた。





