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40話 好き好き


 森の中でハーピーという鳥形の獣人を保護した。

 獣人――つまり我々とも意思疎通が可能な人類である。

 どうやら怪我をしているらしく、聖女の力を使って治療をしてあげた。

 朝起きると、ハーピーは空を飛び回っていたので怪我は完治したようだ。

 我ながら、聖女の奇跡というのは凄い力だと思う。


 ただいま空から降りてきた裸の男の子に抱きつかれている。

 完全にこれから始まるファンタジーの冒頭場面だが、これが元世界だったら絵面的にはアウト間違いなし――いや、この世界でもアウトのような気がする。

 一見華奢に見える彼の身体だが、無駄な脂肪などは一切なく引き締まっており、指が沈みこまないまるで鋼のよう。

 ふわふわのように見えるが、ふわふわなのは翼と羽毛だけだ。


「お前、怪我治してくれた! 好き!」

「私の名前は、ノバラよ。あなたの名前は?」

「俺はモモ!」

「モモちゃんね。よろしく」

 彼の金髪をなでる。


「ノバラ! 好き!」

 彼が抱きついて頬を擦り寄せ、好き好きアピールが止まらない。

 まぁ、種族の違いと文化の違いかもしれないが、男の子から好きと言われて悪い気はしない。


「はいはい、私もモモちゃんが好きよ」

「本当か?! それじゃノバラ、俺の子供を産む!」

「ええ~っ!?」

 いくらなんでも子供は――というか、そんなことをしたら聖女の力がなくなってしまう。

 その話を聞いて、騎士団からドッと笑いが溢れた。


「おいおい! ヴェスタがもたもたしているうちに聖女様を取られちまったぞ?!」「わはは!」

 騎士団がヴェスタをからかって沸いているのだが、私は彼らのほうを見て、立てた指を口に当てた。

 聖女ってのは、まだ秘密だっての!


 私の言いたいことを理解したのか、騎士団が慌てて口を押さえた。

 図星を突かれたのか、金髪の美少年騎士もぐぬぬ――な表情をしている。

 近くでキャンプしていた連中も、なにやら興味深そうに見ているし、珍しいハーピーを見てみたいのだろうが――。

 こちらは黒塗りの高級馬車と騎士団が護衛している、どう見ても貴族。

 おいそれとは近づいてこれまい。

 大店の商人とかなら、商談ついでに寄ってくる可能性はあるだろうが、そのような者たちは見当たらない。


「にゃー」

 私の所にヤミがきた。


「ねぇ、聞きたいんだけど。人間と獣人って子供できないけど、ハーピーも駄目だよね?」

「にゃ」

「モモちゃん、只人と子どもを作るのは無理みたいよ」

「そうなのか~でも、ノバラは好き!」

「ありがとう」

 駄々こねたりしなくてよかった。

 私は彼のことを子どもだと思っていたが、意外と大人なのかもしれない。


「モモちゃんの歳はいくつ?」

「俺は大人!」

「大人なんだ」

 歳は教えてくれないが、身体は小さいのだがやっぱり成人しているっぽい。

 身体が大きく重たくなれば、飛行に影響が出るはずで、小さくて軽いほうが有利なのだろう。

 こんな生物がいるなんて、さすが異世界と言いたいところだが、大人と言われても彼とゴニョゴニョするわけにはいかないしね。


「モモちゃん、お腹すかない?」

「うん、腹減った」

「ハーピーってなにを食べるんだろ?」

「なんでも食べる」

 メイドたちに、多めの食事を用意してもらうことに。


「聖女様、おはようございます」

 ハーピーを抱いたままメイドと話していると、領主がテントから出てきた。


「おはようございます」

「ククナがわがままを申しまして、申し訳ございません」

「いいえ、ハーピーのために私のベッドを使ったので、彼女と2人で眠れて助かりました」

「そ、そうですか」

「彼女も年頃ですし、親といえど男の人と寝るのに抵抗があったのかもしれませんが……」

「あ……そういうことにはまったく気づきませんで……た、確かにそうかもしれません」

 困っている領主は、貴族の威厳なんてどこへやら。

 女子高生の娘さんを持つ親父さんの顔だ。

 親の心子知らず、子は親を選べない――異世界でも親子関係はおんなじかぁ……。

 私は父親と仲が悪かったので、親子関係にどうのと言える立場にはないが。


「……」

 困っていた領主だが、娘のことはひとまずおいたのだろう。

 私の抱いているハーピーを見ている。

 いったいどうするか気になるのかもしれない。


「食事が終わったら、彼は自由にいたしますよ」

「そうですか――ひょっとして愛玩用にするのかと……」

「いいえ、そのようなことはいたしません」

 獣人たちを愛玩用にするとか、そういうことがあるのだろうか。

 奴隷制度もあるようなので、十分に考えられる。

 まぁ、本当にかわいいし。


 アルルが食事を持ってきてくれたので、一緒にテントに戻る。

 テントに入ると、黒い寝間着を着たククナがベッドの上に座っていた。

 まだ目をこすっていて眠たそうだ。

 彼女の黒い寝間着姿を見たアルルがぎょっとした顔をしている。


「ククナ様、早めに着替えてくださいね」

「うん……」

「私たちは先に食事をいただきます」

「うん……」

 アルルが机に置いてくれたので、モモと一緒に椅子に座った。


「にゃーん」

 ヤミも食事を要求して、脚にスリスリをしてくる。


「はいはい」

 私の袋から肉を出してやった。

 ヤミも机の下で食べ始めたので、私たちも食べるとしよう。


「スープはどうかしら? 飲めるのかな?」

「飲む!」

 彼は黄色い脚を高く上げると、スープの入った深皿を掴んだ。

 ひっくり返さないか、ハラハラ。

 私の心配をよそに器用に脚で掴んで口に運んでいる姿が可愛い。

 翼には小さな爪のようなものがみえるが、それでものを掴んだりはできないみたい。

 せいぜい引っ掛けるのに使うぐらいだと思う。


 人間がこんな格好をしたら脚が攣りそうだが、凄く身体が柔らかい。

 細くて長い脚が、まるで手のように動くのだ。

 手が使えないので脚が発達しているのかもしれない。


「大丈夫?」

「美味い!」

 彼がスープを置くと、爪でパンを掴んだ。

 それも口に持っていくと、まるかじりしている。

 硬いパンなのだが、バリバリという音が聞こえてくるから、歯も丈夫そうだ。

 手で千切ったりはできないので、こういう食べ方になるのだろう。


「随分と器用ね……」

 眠気眼のククナも、ハーピーの食事風景を興味深そうに見ている。


「もしかして、いつもこうやって食べているの?」

「うん」

「食器とかも使ってる?」

「使ってる!」

 裸なので原始人的な生活をしているものだと勝手に思い込んでしまっていた。

 服を着ていないのは、手が使えないから着れないし脱げないからだろう。


「服を着たりはしないの?」

「頭から被ったりはする」

 彼の話を聞くと、寒いときなどはポンチョのようなものを頭から被るらしい。

 普通に機織はたおりとかもしていて、文化的な生活をしているようだ。

 ポンチョなら脚だけでも被ったり脱いだりできるのか。

 へぇ~。

 どうにも先入観だけで、ハーピーたちに失礼な思い込みをしていた。

 反省しなければ。


 まぁ、それはいいとして――脚を使って器用に食事をしている彼だが、その、なんというか。

 脚を使うために股を開いているので、股間が丸見えなのだ。

 いくら子どもっぽいといいつつも、ついているものはついている。

 これじゃ目のやりどころに困る。

 ふと視線を外したら、モモちゃんの股間を凝視しているククナと目があった。

 真っ赤になるとそっぽを向いて、彼女がメイドを呼んだ。


「お呼びでございますか? ククナ様」

「着替えるから、シーツで目隠しをして」

「かしこまりました」

「私たちが出ようか?」

「私が勝手にお姉さまのテントに入り込んでいるんだから」

 メイド2人がシーツを持って目隠しをして、彼女はベッドの上で着替えているようだ。

 見た目は子どもっぽいといえども、男の前だしねぇ。


 ククナが着替えていると、別のメイドが食事を持ってきた。

 彼女もここで食べるようだ。

 メイドたちも仕事をしながら、こちらをチラチラ見ている。

 やはり気になるようだ。

 そりゃ、かわいいハーピーの股間とか、見る機会は滅多にないだろうし。

 いい話のネタになるだろう。


 私も食事を摂ることにした。

 スープにパンを浸して食べる。

 一緒に食べているモモちゃんに、色々と聞いてみることにした。


「なんで怪我をしたの? 落っこちた?」

「ワイバーンに追いかけ回された!」

「ワイバーン?」

 もしかして、ティアーズ領で私が落としたやつだろうか?


「そう!」

「ちょっと前に私たちもワイバーンを仕留めたのだけど……」

「知ってる! 俺も見てた!」

「ええ?」

 それじゃあのとき――空に白い鳥のようなものが見えたのは気のせいじゃなかったのね?

 あれはハーピーたちだったんだ。


「あのときのワイバーンも、モモちゃんたちを狙ってたのね?」

「そう! やつらは、いつも俺たちを追いかけ回す!」

 空を飛ぶ彼らの天敵も、空を飛ぶ魔物ってことか。

 それでワイバーンに追われて怪我を負い、森の中に逃げ込んだみたい。


「大変だったわね」

「森の中に入ったら、今度はゴブリンに追いかけ回された! あいつら汚くて臭くてしつこい!」

「ええ? それじゃ、あのゴブリンは、あなたを追いかけ回して集まっていたのね」

「そう!」

 やれやれ、とんでもないことに巻き込まれてしまったものだ。


「私たちの馬車についてきてたのは?」

「ノバラ、ワイバーン倒した! ゴブリン倒した! 騎士治した!」

「それじゃ、あなたの翼も治してくれると思ったのね」

「うん!」

 随分と計算高い気がする。

 かなり知能も高いのではないだろうか?


「モモちゃんは、文字は読めるの?」

「読める! 計算もできるぞ!」

「それじゃ――11足す11は?」

「22!」

 本当に計算ができるようだ。

 森にいた獣人たちは読み書きそろばんができなかったし。

 彼らより高い知能を持っていると思われる。


 着替え終わったククナが、食事を始めた。

 わたしたちは食べ終わったので外に出たのだが、ハーピーの髪の毛が気になる。

 目にかかっているので、少しカットしてあげたい。

 メイドさんに聞くと、ハサミを用意してくれた。

 ハサミは作るのが難しく、高価な代物であるらしい。

 ハーピーを椅子に座らせて、チョキチョキと髪の毛を切ってあげる。


「ほら、これで見やすくなったでしょ?」

「ノバラすごい!」

 いつもは、仲間同士で刃物を使って切るらしい。

 いくら脚が器用といってもハサミは使えないはず。

 髪の毛が綺麗にカットされて美少年度がアップしたモモちゃんとお別れすることに。


「ノバラ、また遊びにきてもいいか?」

「もちろんいいけど、私たちは王都に行くから、ここからどんどん離れるわよ」

「この国の王都に行くのか?」

「ええ、南にあるらしいわね」

「そうだぞ! 俺は行ったことがある!」

 そうなんだ。あまり目撃されたことがないと聞いていたけど、意外と人里近くに出没していたのかもしれない。

 それとも空の高い所から見ているから、皆が気づかないとか?

 あるいは鳥などと勘違いしているとか。

 そういう私も空を見上げて鳥を探すなんてあまりしたことがないし……意外とハーピーを目撃しているのかも。


「ノバラ、今はお礼ができない。でも、あとでなにかお礼を持ってきてやる」

「ええ? 気にしないでいいわよ」

「そうはいかない。お前は命の恩人」


 私とモモちゃんの所に、領主と騎士団がやってきた。

 領主にハーピーのことを聞いてみることに。


「領主様、ハーピーの種族は国民として数えられているのですか?」

「いいえ、普通は接触できませんから交渉も難しく、非接触民として扱われております」

「元々、本当にいるのかも怪しいぐらいでしたから」

 団長が笑いながら話している。

 まぁ、いくら国民だから税金をよこせと追い回しても空を飛ばれたんじゃね。

 捕まえることもできないでしょうし。

 本当に無敵よね。


 モモちゃんが空に帰るようだ。


「ねぇ、ハーピーだと、王都までどのぐらいの時間がかかるの?」

「う~ん、朝出発して、暗くなる頃には着く」

「そんなに早いの?」

 え~と王都まで1000kmぐらいだから、朝7時から夜の7時までとして12時間――時速80kmぐらい?!

 ネコ獣人たちの俊足より早いわけね。


「そうだぞ」

「それじゃ、ハーピーが手紙を運んでくれれば、すぐに届けることができるわね」

「俺たちはそういう仕事はしないぞ」

「そうなの? ごめんね」

 普通の住民とは接触していないということは、貨幣経済や物の売買もしていないってことだ。

 お金がほしいとか、そういうこともないのだろう。


「でも、ノバラの頼みなら聞いてやる」

「本当? ありがとう。あ! そうだ、それじゃこれをあげるわ」

 私は魔法の袋から、刺繍の入った赤い袋を取り出した。

 これは私の家を燃やした女の魔導師から奪ったものだ。

 奪ったものを人にプレゼントするのはどうかと思うのだが、まぁこの世界では普通のようなのでよしとすることにした。

 中は全部開けて片付けてある。


「これは?」

「これは、いろんなものが入れられる魔法の袋よ」

 メイドから長い組紐をもらって魔法の袋に通すと、ハーピーの身体にたすきがけにしてやる。


「どうやって使う?!」

「入るように思えば使えると思うけど、試しにやってみて?」

 袋から出したリンカーを彼の脚に持たせた。


「こうか? うおっ! 消えた?!」

「それで袋の中に入ったから、今度は取り出してみて」

「こうだな?! あはは! 出てきた! これは凄いぞ! 獲物とかも沢山運べる!」

「これをあなたにあげたいのだけど、飛ぶのに邪魔かしら?」

「大丈夫、うまくやる!」

 彼はすごく喜んでいるみたいだ。

 よかった。


「こんな風に、他の種族と取引したりはしないの?」

「商人を見つけて、綺麗な石とかと交換したりすることはある」

 つまり物々交換ね。

 お土産も渡したし、彼を地面に降ろすと離陸の準備に入った。


「それじゃね、モモちゃん」

「ノバラもな!」

「いいな~空を飛べるなんて」

「地面が小さく見えるからな! 面白いぞ!」

「あ、そうだ! 空高くから見たら地面が丸く見えない?」

「ノバラ――それ、なぜ知ってる? 地面は丸いぞ?」

「それじゃ、ハーピーたちは地面が丸いって知ってるわけね」

「みんな知っている。空から見れば丸いのが解るからな」

 読み書きもできるし独自文化も持っている。

 自分たちの住んでいる土地が丸いと知っているし、この世界のどの種族よりも進歩的じゃない。


 翼を振った彼がダッシュすると、地面を猛スピードで駆け始めた。

 そのスピードも凄いのだが、突然宙に浮いたかと思うと、あっという間に天高く舞い上がってしまう。

 私のプレゼントした袋がパタパタと風にあおられているのだが、大丈夫だろうか?

 普通に文化的な生活をしている彼らなら、落ちないように工夫すると思うのだが。


「すごい!」

 あんな速さで急上昇や急降下できるなら、あっという間に王都まで着きそうだ。

 周りにいた他の旅行客も度肝を抜かれている。


「いやぁ、この目でハーピーを見られるとは……これも聖女様のおかげということですかな」

「彼も、私が治療をできると解ってて近づいてきたようですし。お互い様という感じでしょうか?」

 そこに男の魔導師がやってきて、いやらしい笑いを浮かべている。


「さすが聖女様、上手くハーピーを手懐けましたね」

「そういうつもりでやったんじゃないけどね。私の国では、情けは人の為ならずって言うし」

「これは、ご無礼をいたしました」

 さて、私も着替えよう。


 テントに入ると、ククナの食事が終わっていた。


「お姉さま、あの子は?」

「空に帰っていったわ」

「そうなんだ……」

「もしかしてお別れを言いたかった?」

「う~ん、あの子もお姉さましか見てなかったし……」

「確かにそんな感じだったわねぇ」

 他の人間なんて眼中にないって感じ。

 意外と計算高そうな種族みたいだし、自分たちの不可能なことをできる只人――として認識されただけかも。

 そうひねくれた考え方をすると少々寂しいけど、こちらとしても遠い所に超特急でものや手紙を届けたりと、彼らとつながりがあるメリットは大きい。

 どのぐらい協力してくれるのかは不明だけどね。


「にゃー」

 ヤミも私と似たようなことを考えているようだ。

 付き合う前から損得勘定してるなんて、嫌らしいのだけど――だって大人だしねぇ。

 綺麗事じゃ済まないことも、この世界じゃ色々とあるし。

 使えるつては多いほうがいい。


 メイドさんが、私の着付けを手伝ってくれた。

 ドレスは着るのが面倒なので、黒いワンピースでいきたいところなのだが、そうもいかない。

 私とククナがテントから出ると、騎士たちによるテントの収納作業が始まる。

 毎日これをやるのか。

 大変そうだ。

 彼らはテントだけではなく、自分たちの馬の世話もしなくてはならない。

 魔法で手伝えればいいのだが、力仕事ではなにもできない。

 せめて、男たちが疲労困憊になったときに、癒やしてあげることぐらいだろう。


 私たちが乗っている領主の馬車の準備は、メイドたちや御者の仕事。

 アルルも馬車の準備や馬の世話を手伝っている。


「アルル、昨日はごめんなさい。巻き込んでしまって」

「いいえ、それがゴブリンを一掃するきっかけになったのですから、これも神の思し召しでしょうし」

 そうなのよねぇ。

 癒やしの奇跡が魔物には毒になるなんて。


 皆が出発の準備のために、慌ただしく働いている。

 馬車が動いているときには仕事はないが、止まったらずっと働きぱなしだ。

 こちらも中々のハードワーク。

 騎士団を癒やしてあげるときに、メイドと執事たちも癒やしてあげよう。


 テントを片付けている騎士団の所にいく。


「手伝えなくて申し訳ございません」

「いいんですよ。聖女様に手伝ってもらっちゃ領主様――いや陛下に怒られてしまいます」

「それに、聖女様が近くにいらっしゃるせいか、身体が軽いし疲れないんですよ」

「そうなのです。昨日寝る前にその話になりまして」

 団長が言うには、騎士たちの意見が一致しているらしい。

 私がいるだけで貢献できるというなら、それに越したことはない。


「いやぁ、聖女様の癒やしをお受けしつつ、地方の美味いものを食いながら金がもらえる――いい商売ですよ」

「昨日は初日からついてないとか言ってませんでしたか?」

「いやぁ、ははは……まぁ、この森を抜ければ難関はありませんし」

 森のあとは、平地と畑がひたすら続いているだけらしい。

 私がいたティアーズ領は、やはり辺境――ということなのだろう。


 話をしている間に、テントも片付け終わった。

 大変な仕事だが、この世界には魔法の袋があるので、元世界より便利なところもある。

 メイドと執事たちの馬車も準備完了だ。

 私たちも馬車に乗り込むと、キャンプ地を出発した。


 他の旅行者もいたが、テントなどは張っていなかったので、すぐに出発をしたようだ。

 一番最後に出たのが私たちである。


 森の中をひたすら進み、途中で沢山の馬車とすれ違う。

 たまに歩きの人もいるのだが、この森の中でキャンプをするのだろうか?

 ゴブリンなどという魔物が跋扈する森の中では命がけだと思うのだが。

 順調に森の中を進んで、日も傾き始めたとき、馬車の屋根から大きな音が聞こえた。


「きゃぁ!」

 同時にアルルの悲鳴が聞こえたので、驚いた私は馬車のドアを開けた。


「どうしたの?!」

「ノバラ!」

「え?!」

 予想外の所から声をかけられて、そちらを向くと――屋根の上にハーピーが乗っていた。

 天井から聞こえた大きな音は、彼が着陸した音だったらしい。


「ノバラにお礼をしてなかった。これをやる!」

 彼が脚で掴んだ網を差し出してきた。

 その中には20cmほどの黒い石が入っている。

 大きい。


「これをもらってもいいの?」

「うん! やる!」

 私のプレゼントした魔法の袋は紐が短くされて、彼の首からさげられていた。


「さっそく魔法の袋を使ってくれたのね?」

「これ、すごく便利! 沢山ものが運べる! ノバラ、好き!」

「あはは、ありがとう」

「今日も泊まって行く? 食事もあるわよ」

「いいのか?!」

 彼も喜んでいるようだ。

 彼はこのまま馬車の天井に乗って、今日のキャンプ地に向かう。


 ハーピーと親交を深めるのもいいだろう。



WEBで連載しておりました発明王のコミカライズが完結しまして

電子書籍化することになりました


異世界で目指せ発明王(笑)1巻

https://syosetu.com/syuppan/view/bookid/5449/


異世界で目指せ発明王(笑)2巻

https://syosetu.com/syuppan/view/bookid/5450/


1巻は4月1日発売

2巻は5月6日発売


です

よろしくお願いいたします。

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スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様より刊行の月刊「コンプティーク」にて、黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミカライズ連載中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
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