35話 世界は回っている
私が暮らしているティアーズ領に蔓延りつつある芋の疫病を浄化していたのだが、笛吹き隊というこの国の魔導師に絡まれてしまった。
相手が力ずくなんて暴力もちらつかせるものだから、こちらも暴力で対抗だ。
話し合いができないのなら仕方ない。
手を出してしまってからどうしようかと思っていたら、ヤミが魔法でなんとかしてくれた。
ネコなのに頼りになる相棒だ。
ついでに魔導師の従者もできちゃったし。
従者の名前はアルル。
笛吹き隊の魔導師だったのだが、聖女の従者として鞍替えした恰好だ。
彼女は元々孤児らしく、徴発されただけで忠誠心はなかったという。
住む所と食事にありつけるからいいや、ぐらいの感覚だったようだ。
魔導師としての給料も出ておらず、この屋敷のメイドとして雇われていたお金で暮らしていたという。
元世界だと酷いブラック企業ね。
商品だけ渡されて、「こいつを売って来い! 経費は全部お前持ち!」みたいな感じだろうか。
ベッドを用意してもらい、アルルは私の部屋で寝ている。
それがズルいと、他のメイドたちやククナにヘソを曲げられてしまったのだが、できないこともある。
特にククナには、領主の娘としてやるべきことがあるのだ。
黒いワンピースに着替えて、街に繰り出してみることにした。
屋敷から出ようとすると門の所にヤミがいたのだが、あの男も一緒である。
もう追いかけっこは止めているみたい。
「ちょっとでかけてくるから」
「にゃ」
彼の後ろにいる男をチラ見すると、ひそひそ話をする。
「その男は、本当に大丈夫なの?」
「にゃ?」
「だってヤケクソで暴れたりとか、メイドさんを人質に取ったりとかしそうじゃない?」
「にゃー」
彼の話では、男は笛吹き隊で国王の勅命を受けている。
そんな男が、任務を失敗したからといって領主邸で騒ぎを起こしたのでは、王の面子を潰すことになるから心配いらないというのだが……。
「そういうものなの?」
「にゃ」
いざとなれば、魔法の強制力でどうとでもなるらしい。
意外と強力な魔法のようだ。
ヤミは男の魔導師の相手をして遊んでいるのだが、いつまでやるつもりだろうか。
多分、飽きるまで続けるのだろうが、ネコに遊ばれている男は少々気の毒に思える。
ヤミと別れて街に出た。
魔導師のアルルと騎士の護衛つきだ。
街ゆく人たちの表情は変わらない。
芋の疫病で大変なことになるんじゃないかと噂が流れていたようだが、騎士団や衛兵たちが流したカウンターの噂が効いて、パニックなどは起こしていない。
白いドレスのまま街は歩けないので、魔女の恰好をしているが、ただいま休業中だ。
周りに武装した騎士がいるので話しかけづらいのか、皆が遠巻きに見ているだけ。
普通はそうなのだが、まったく気にしないオヤジもいる。
「魔女のネーチャン! 回春薬を売ってくれよ!」
よく私の薬を買っていたオッサンが近づいてきた。
ヴェスタに睨まれたりしているのだが、まったく怯まない。
「ごめんね――森の家を悪いやつに焼かれてしまって、休業中なの」
「あん?! そうなのか? あんたの薬は効き目がよくて重宝していたんだがなぁ」
「悪いね」
「それじゃ、今はどうやって暮らしてるんでぇ?」
「今は騎士団の世話になっているの」
「それで騎士がついているのか。森の中で暮らしているよりいいんじゃね? どういう伝で、騎士団に転がり込んだんだい?」
どうも男は、魔女の世間話に興味津々のようだ。
「私の薬や回復薬は、騎士団でも入用だからね」
「ははぁ、そういうことか。上手いことやったなぁ……」
「私はねぇ、転んでもタダでは起きないのよ」
こんな具合に、街の様子は普段と変わらない。
街に出たついでに、私が薬を分けてやったクラーラ母娘の所も訪ねてみることにした。
この街の中でもボロい家が立ち並ぶ地区に脚を踏み入れる。
「聖女様、ここは?」
アルルが辺りを警戒している。
まぁ、あまり治安がよろしい場所ではない。
「私が治療してあげた母娘が住んでいるのよ」
「聖女様は、普段から慈愛に溢れている方なのですね」
慈悲だの慈愛などと、普通に生活をしていたら絶対に聞かない言葉だな。
元世界にいたときだって、そんな話は聞いたことがなかった。
「今、考えると――ネフェル様の病気が治ったのも聖女の力ということになるのかな?」
私の言葉にヴェスタが神妙な顔をしている。
「おそらくは……聖女様の治療を受けられるとは思ってもみませんでした。ありがとうございました」
「ふたりとも、人のいる所で聖女って言葉は止めてね」
「「は、はい」」
クラーラちゃんの家を訪ねると、お母さんの病気はすっかりとよくなっていた。
これって、やっぱり私の聖女の力だったのだろうか?
それとも回復薬だけでも病気は治ったのか。
家に上がり込むほどでもないので、玄関で話す。
後ろではヴェスタが警戒をしており、1階でアルルが目を光らせている。
私になにかあれば、騎士団の責任問題になるから真剣だ。
いや、国王陛下に聖女が現れたと報告までしてしまっているのだから、その奇跡の人になにかあれば、この領主の責任も問われる。
私としても無理して謁見を延ばしてもらっているので、こんなことをしていないで、さっさと王都に向かうべきなのであろうが……。
でも、もう少し街の様子を見たいし。
「高価な薬をありがとうございました。薬代はきっとお支払いいたしますので」
お母さんが、ペコペコと頭を下げている。
顔色もいいし、ガリガリだった身体もだいぶ肉がついてきた。
「クラーラちゃん。お母さんがよくなってよかったね」
「うん!」
元気な彼女の頭をなでてやる。
現在、お母さんは仕事を探しているようだ。
「そうねぇ。私が紹介できればいいのだけど……」
「そんな、薬だけでも大変な御恩がありますのに」
「気にすることはないのよ。早く仕事についてもらったほうが、早く薬代を返してもらえるわけだし」
まぁ、私は薬代をもらうつもりはないのだが。
「せい……いや、ノバラ様。騎士団の寄宿舎で下働きを探しておりますが」
一緒についてきてくれたヴェスタが、いい提案をしてくれた。
「本当? それならいい働き口じゃない?」
「ほ、本当に、そんな仕事をさせていただけるのでしょうか?」
「ああ、人手を探しているのは間違いない」
「本当に働けるのであれば、よろしくお願いいたします!」
お母さんが深く頭を下げた。
「承知した。団長にも話を通しておく」
「ありがとうございます!」
「お母さん、よかったね!」
「クラーラ!」
お母さんとクラーラちゃんが抱き合って泣いている。
そのぐらい仕事がないってことなのだろう。
なんにしろよかったよかった、これにて一件落着! ――と言いたいところなのだが、少々きになることがある。
少女と抱き合っている女性を眺める。
病気が快癒して肉がついてきた彼女は、中々の美人なのだ。
そうなると――騎士団にはヤベーやつがいる。
「クラーラちゃんのお母さん――」
「フレアです」
「フレアさん、寄宿舎で働くのはいいのですが、ちょっと気をつけなければならない男がいるんです」
「ああ、やつか……」
ヴェスタも、私がなにを言いたいのか、すぐに解ったようだ。
「騎士の方ですか?」
「そう! 腕は立つけど女癖が非常に悪い! 私も襲われかけたし!」
「え?! ノバラさんは大丈夫だったのですか?!」
「ええ、私は大丈夫! 魔法でぶっ飛ばしてやったから」
「お姉ちゃん強い!」
クラーラが喜んでいる。
「そう、私は結構強いのよ! それはさておき――フレアさんは結構美人なので気をつけてくださいね」
「頑張ります!」
気合を入れているのだが、なにを頑張るのだろうか。
もしかして故意に襲われて、玉の輿を狙ったりしないだろうなぁ。
あんな男が責任を取るはずがないのだが。
それとも、この前のワイバーン騒ぎで心を入れ替えたりしただろうか?
いや、三つ子の魂百までもって言うし。
いざとなったら私の知り合いって言っておけ――とフレアさんには話しておいた。
とりあえず街の様子は確認したし、心配ごとは片付いたので領主の屋敷に戻ることにした。
屋敷に戻ると、庭に誰かいる。
庭には石の像があるのだが、そこにあの魔導師の男がいた。
隣にヤミが寝転がっているので、ひなたぼっこをしているのだろう。
それにつきあわされているようだ。
あの男はヤミに任せておけばいいだろう。
屋敷に到着したので、ヴェスタが護衛から離れる。
一旦、報告のために騎士団に戻るというが、すぐにここに帰ってきて泊まり込みの護衛をするらしい。
ヴェスタの他にも数人が屋敷に詰めているから、警備に抜かりはない。
正に厳戒態勢だが、ヴェスタに気になることを聞いてみた。
「聖女を狙う人たちっているのですか?」
「いないと信じたいですが、聖女をよく思っていない人たちがいるのも事実です」
「え? そうなのですか?」
「はい、特に教団などはその筆頭ですね」
宗教関係か……。
「聖女というのは、神様が遣わしたってことになっているのではないのですか?」
「そうです。聖女召喚の儀式に神が応え、異世界からふさわしい者を召喚すると言われています」
私の疑問に、後ろにいたアルルが答えてくれる。
「それなのに教団が反対するなんて……」
「教団の既得権益を守るためだと言われておりますが、かつて聖女様と起こした確執が問題になっているという者もいます」
「まぁ、教団が一番偉いところに、それより偉い聖女がやって来たら面白くない人もいるでしょうねぇ。でも、教団と聖女との確執というのは……」
「……」
ヴェスタが顎に手をやり、難しい顔をしている。
答えたくないのだろうか。
「私がお話しいたします」
私とヴェスタの会話を聞いていたアルルが説明してくれるようだ。
「聖女様は、この世界がどうなっているとお考えですか?」
「どうって……ちょっと質問が漠然としすぎててよく解らないけど……」
「たとえば、この世界がどのような形状になっているとか――です」
「ああ、それは球よね。なにもない空間に、丸い玉が浮かんでいるの」
「「……」」
その話を聞いた2人が固まってしまった。
「あ~、もしかしてこういう話がマズいとか?」
「はい、そのとおりです」
「なるほどねぇ」
かつて元世界であった、ガリレオ・ガリレイの苦悩が再びって感じか。
「大変心苦しいのですが、そのような話題は避けてくださるよう、お願いいたします」
「それは理解したから大丈夫。その話が出ても、世界は平面で端っこまで行ったら落っこちるのよ! って言えばいいんでしょ?」
「はい」
彼女の話によれば、歴代の聖女の中で教団とこの話題で揉めた人がいたらしい。
それで済めばよかったのだが、国を二分した大騒ぎになったようだ。
ことを重くみた当時の国王が、この話題は一時保留ということにして議論を棚上げさせたという。
「はぁ、そういうことがあったのね」
私が少々呆れていると、ヴェスタがなにやら興味津々な顔をしている。
「聖女様……実際はどうなのでしょうか?」
「どうって?」
「あの、世界が丸いという……」
その話ね。
「ここから一定方向にずっと進んでいけば、一番遠い地点がここ」
閉じた世界を説明してあげる。
「そ、そうなのですか?」
「ああ、高く空を飛べば、地上が弧を描いているのが解るわよ」
「空を飛ぶのですか?」
「ええ、私の世界には、空を飛んで他の大陸の間を行き来する機械が沢山あったの」
「……魔法なのですか?」
「いいえ、私の世界には魔法はなかったわ」
「魔法なくして、いったいどうやって……」
「それは――う~んと、鳥がどうやって空を飛んでいるのかを研究して、それを知識と技術で実現したわけね」
「鳥が飛べるなら、人も飛べるはずだと?」
アルルが私の目を見てつぶやいた。
本当かどうか疑っているのだろう。
「そういうことね」
「……確かに、ハーピーという種族はいるらしいですが……」
「ハーピー?」
まぁ、実際に嘘でもなんでもないし。
目に見える形で見せてあげられればいいんだけど……そうだ!
私はあることを思いついて、腰の魔法の袋から紙を取り出した。
「聖女様――いったいなにを……?」
私のやることをアルルが、不思議そうに見ている。
「まぁ、ちょっと見てて」
その場で紙を折ってナイフで正方形に成形する。
それをパタパタと折れば完成だ。
「聖女様、それは?」
私は、今作ったものを空に放り投げた。
ちょっと茶色のそれが滑空する。
「これは?! 魔法ですか?」
空を滑るように飛ぶ紙飛行機に、ヴェスタが仰天した。
「魔法じゃないわよ、はい」
地面に落ちてきた飛行機を彼に手渡すと、あらゆる方向からマジマジと眺めている。
「たったこれだけで空を飛ぶのですか? 魔法ではなく?」
「ええ」
ヴェスタが私の真似をして、紙飛行機を空に飛ばした。
「す、すごい! これが聖女様がもたらす異世界の知識……」
「そんな大げさなものじゃないけどね」
これはコロンブスのたまごとういうやつだろう。
単純なことだが、誰も気づかないことが多い。
「つまるところ、これの大きなものを作れば、人が乗って空を飛べると?」
アルルも、空を飛ぶ紙飛行機を見て目を輝かせている。
「もちろん、紙じゃ人は飛べないから、もっと高度なものを作らなければならないけどね」
「素晴らしいです」
「残念ながら、私にはその高度なものを作る知識がないけど」
「いいえ、これだけでも私たちの世界では、ありえないものですから」
「でも、こんなものを見せたら、その教団の人たちがまた騒ぎそう。『できもしないことで、民衆を扇動しようとしている!』とか言われたりして」
面白がって紙飛行機を飛ばしているヴェスタだが、真剣な顔になった。
「可能性はあります」
「やっぱり、こういう知識は人に見せないほうがいいわね」
「残念です」
2人とも残念そうにしているが、仕方ない。
ガリレオ・ガリレイは、弾圧に耐えながらも「それでも地球は回っている」と言ったそうだが、私はべつに地動説を広めたいわけでもないし、この世界の住民たちとも争うことも考えていない。
飛行機のことから話を戻そう。
「教団の他に、聖女を狙うとしたら?」
「それはもちろん、他国の人間です」
「この国にも他国のスパイ――じゃなくて、なんていうの? 他の国に入り込んで、秘密を探ったりする人」
「間諜ですか?」
「その間諜って人が入り込んでいる可能性があるの?」
「はい。我が国でも帝国などに間諜を送り込んでいるはずですから、お互いに諜報戦を行っています」
彼が言うのはあくまでも予想。
地方騎士団所属の彼が、国王が進める国家の計略を知る由もない。
敵のスパイが入り込むとしても、王都に向かうのではないだろうか。
「帝国の間諜が最終的に目指すのは王都になるとは思いますが、ここティアーズ領は山脈を隔てて、帝国と一番近い場所です」
山脈にある峠ともつながっているらしいので、スパイが王国に入り込むとなると、絶対にここを通るという。
話はそこそこにして、私とアルルは屋敷に入り、ヴェスタが騎士団に戻った。
屋敷に入った私の行き先は厨房。
お姫様に、生クリームを作ってあげるという約束をしているからだ。
この手の知識は聖女から王侯貴族たちに流されて、下まで落ちてきていないらしい。
特権階級たちが、独り占めしているのだ。
まぁ、作り方さえ解ればたいしたことじゃないんだけど、砂糖も牛乳も高価らしいから、一般庶民は食べられないのはしょうがないみたい。
「アルル、他のメイドたちと顔を合わせるのが嫌なら、部屋に戻っていてもいいわよ」
「そうはまいりません。これが私の仕事なのですから」
真剣そのものなのだが、私はメイドをしていた彼女の明るく元気な姿しか知らないので少々戸惑う。
これが本当の彼女なのだろうか。
厨房に入ると、沢山のメイドたちが作業をしていた。
石組みのシンクの上に並ぶ数台の魔導コンロやら、沢山の食器などが並ぶ。
台所の印象は元世界とそんなに変わらない。
ちょうどメイド長のダイアナもいたのだが、一斉に彼女たちの視線がこちらに向く。
聖女である私もそうだが、実はスパイだったというアルルにも厳しい視線が向けられた。
「アルルをあまり虐めないであげて、彼女も仕事でやっていたわけだから」
「仕事だからといって、仲間を裏切っていいわけではありません」
「う――そりゃそうだけどぉ」
まぁ解っている。
まったくの正論だ
要は彼女たちの感情を考慮していない、私のわがままなのだ。
アルルは棘が突き刺さりそうな視線を躱して、部屋の隅に構えた。
ここで誰かに襲われることはないと思うけど……。
「それで聖女様――ご用件は?」
「ククナ様に、生クリームを作ってあげるという約束をしたのよねぇ」
「な、生クリームですか?」
「ご存知?」
「ククナ様の付添で王都に行った折、一度だけ……」
「それを作って差し上げようというわけ」
「作り方を知っていらっしゃるのですか?」
「まぁ、実際に作ったこともあるし、多分大丈夫だと思うわ」
メイドたちがざわつく。
「白くてすごく美味しいって聞きますけど、本当に作れるんですか?」
女たちが私の周りに、目をきらめかせて集まってきた。
もう、アルルのことなんてどうでもいいらしい。
「ええ、材料さえあれば」
「材料ってなんですか? すごい特殊なものとか高価なものとか?」
「砂糖と牛乳よ」
「「「……え?! それだけなんですか?!」」」
「ええ、それだけ」
本当は、元世界で市販されている牛乳では生クリームは作れない。
牛乳というのは本来分離しやすいものなので、そうならないように調整されているのだ。
逆に、この世界には牛から搾ったままの生乳しかないはずだし。
砂糖の在庫はあるが、牛乳は直営の農場に頼んで搾ってもらわないと駄目らしい。
ダイアナさんがすぐに手配してくれるらしいので、私は部屋で待つことにした。
2時間ほど部屋で待っていると、メイドが呼びにきた。
牛乳が手に入ったらしい。
早速、厨房に向かうと、壺にはいった牛乳があった。
なん頭の牝牛から搾ったのか不明だが、量は2Lほど。
新鮮な牛乳だが、直接飲んだら下痢をする人もいる。
私もそうだったので、生乳をもらったときは沸かしてから飲んでいた。
「あの、聖女様! これをどうするのですか?!」
「早く、教えてください」
「その前に、ククナ様も呼んできてください」
「かしこまりました!」
メイドが走って厨房から出ていくと、すぐにお姫様をつれて戻ってきた。
「お姉さま! 生クリームを作ってくれるって本当?!」
「ククナ様――そ、その呼び方は……」
「あ! ご、ごめんなさい」
別に嫌ではないのだが、人のいる所ではねぇ……。
「あ、あの! ククナ様は、聖女様と姉妹の契をなさったのですか?!」
メイドの1人が、なにやら言い出した。
なに? 姉妹の契って?
「「「きゃ~っ!」」」
「いや、あの――そういうのじゃないから……」
私を囲んでいるメイドたちが、キャッキャウフフして目をキラキラさせている。
なにかそういう儀式があるの?
「私が勝手にお姉さまと呼んでいるだけだから、聖女様にご迷惑がかかるような噂は止めてよね?」
ククナが顔を真っ赤にして否定している。
「大丈夫ですククナ様。そこら辺はキツく言っておきますので」
「頼んだからね! ダイアナ」
「承知いたしました」
話が横道にそれてしまったが、生クリームよ生クリーム。
異世界の牛乳の乳脂肪分が極端に少ないとか、そんなことはないだろうか?
いや、実際に王都では生クリームが作られているのだから、それはないか。
一度とにかく作ってみなくては。





