34話 収まる
順調に芋の疫病を浄化していたのだが、トラブル発生だ。
笛吹き隊と呼ばれる隠密部隊が、どこからか聖女の情報を掴んできたらしく、領主に圧力をかけてきた。
そんなことをしている場合じゃないってのに、王都まで聖女である私を連れて行くという。
もちろん断固として拒否。
相手が力ずくを匂わせてきたので、こちらも力で対抗。
ヤミが魔法を使って黙らせた。
まるで三蔵法師が孫悟空に縄をつけた緊箍経のよう。
今更ながら、ヤミの性格はちょっと悪いと思う。
畜生とか言われて恨んでいるのかもしれないが。
笛吹き隊の男はヤミに任せて、私は芋畑の浄化を続けた。
――そして力を使って目覚めると、真っ暗な屋敷の部屋。
また今日の仕事が始まるってわけ。
夜の食事を摂っていると、薬問屋のバディーラがやって来た。
「聖女様にはご機嫌麗しく――」
「いやぁ、そういうのはいらないから、あはは。お疲れ様です」
「……」
彼がなにか言いたそうな顔をしている。
「なぁに?」
「廊下に転がっている男は?」
ヤミを追っかけ回して精根尽き果てた、魔導師の男のことだ。
「ああ、あれは気にしないで」
彼の視線は、ベッドに移った。
「……」
「彼女は新しく雇った従者よ。寝る場所がなかったので、私のベッドを使ってもらってる」
彼女用のベッドを用意してもらわないとね。
朝になったらダイアナさんに頼んでみよう。
私がベッドのことを考えていると、バディーラが自分の袋から大きな樽を出した。
中には液体が並々と入っている。
「これってもしかして――」
「はい、あの回復薬の元です」
要は、魔力を注ぎ込む前段階の薬草を煮たもの。
ここに魔力を注ぎ込むと回復薬になるわけだ。
「こんなに作ったの?」
「はい、まだありますから」
「解ったわ」
畑に撒くとなると、このぐらいじゃ足りないかもしれない。
こんなに大きい樽に魔力を入れたことがないけど――やるしかない。
私は、樽を包み込むように手を伸ばした。
「む~!」
私の身体から青い光が溢れて、樽の中の液体に染み込んでいく。
バディーラは、なん回か液体を取って色味を見ている。
そのまま5分ぐらい注ぎ込んだろうか。
彼がOKを出した。
「聖女様、完成です」
「ふう……」
だいぶ魔力を使ったが、まだ大丈夫だ。
「まだいけるわよ、次のを出して」
「本当に大丈夫でございますか?」
「あなたもやらせるつもりだったんでしょ?」
「普通の魔導師の場合――こんなに魔力を使ったら、その場で昏倒するか数日は動けなくなるはず」
「今までの聖女って人たちは、奇跡は使えたけど魔法は使えなかったみたいね。でも、私は両方使えるから大丈夫」
「なんと心強い……」
悪党面の彼が、信心深い顔をしている。
彼は聖女を心から敬うタイプの人間らしい。
廊下で転がっている男も、彼の爪の垢を煎じて飲んでほしいところだ。
次の樽の中身も回復薬に変えて――都合3樽の薬ができた。
「これってどうやって散布するか、考えてる?」
「これを使います」
彼が魔法の袋から出したのは、ハンドルが飛び出た木の筒。
昔の水鉄砲のようで、下に陶器の壺がついている。
持つとずっしりと重たい。
プラや薄い鉄板で作れたらいいのだが、そういう技術はないのだろう。
竹でもいいが――森の中にその類の植物は見当たらなかった。
「はぁ~、これって噴霧器ね」
「はい、木酢液などを撒いて、害虫駆除などに使われております」
「え? 木酢液を薬として使ってるの?」
「これは聖女様がもたらした知識と言われております」
「そうなんだ」
呼び出された人がすごい専門知識を持っている人なら、機械や薬も作れるかもしれないけどねぇ。
やっぱり、私みたいな普通の素人が、やってくるんだろうしなぁ。
できあがった薬を、バディーラが自分の袋に収めた。
このまま領主の命令で、各村々や町を治めている貴族に配布されるという。
疫病がぶり返しても、小規模ならこれで対応できるってことだ。
「夜中に作業をやらせてしまって悪いわね」
「これで、この領が救われるのですから、多少の寝不足などどうってことはありません」
「まぁ、眠たくなったら、その回復薬を舐めればいいしね」
「はは、そのとおりです」
不味いけど。
バディーラが帰ったので、私は机でお勉強だ。
魔法の勉強もしたほうがいいと思うのだが、現状では魔法の矢と防御の魔法で困っていない。
あとは、温めとか火を点ける魔法とか、それで十分だし。
だいたい、魔法矢があればワイバーンとかいうデカい魔物だって倒せた。
あれこれ手を出すより、得意なものを突き詰めたほうがいいと思う。
私も、そういう考えの人間だし。
「ヤミ」
「にゃ?」
「私たちが遭遇したワイバーンって凄く強い魔物なんでしょ? あれが倒せれば、だいたいの魔物は倒せるんじゃないの?」
「にゃー」
ワイバーンの上は、ドラゴンしかいないようだ。
ドラゴンってのは、あのドラゴンよね。
恐竜みたいな火を噴くやつ……。
聖女だっていうんだから、そんなのと戦うことはないと思うけど……。
そのまま朝になり、朝食が運ばれてきた音がする。
「はぁ、ずっと夜中に起きているから、食事だけが楽しみだよ」
自分で作らなくてもいいし、上げ膳据え膳なので楽なのはいいが――などと考えていると、廊下からメイドさんの声が聞こえてきた。
「きゃぁ!」
なんだろうと思っていると、突然ドアが開く。
入って来たのは、廊下でひっくり返っていたあの魔導師の男だ。
「ノックぐらいして入ってきてよね」
嫌味を言ったつもりなのだが、男はいきなり床に土下座した。
「お許しください聖女様!」
「ええ? なんのこと?」
「私のやったことすべてです」
いきなりなので本当にびっくりした。
この男が本当に改心しているのかは微妙なところだが。
「この世界にも土下座ってあるのね」
「歴代の聖女様がもち込んだと言われてますよ。最大限の謝罪の作法だということで」
「そうなんだ」
騒ぎに反応したのか、ベッドの上で丸くなっていたヤミが起きてあくびをしている。
一緒に、私のベッドに寝ていたアルルも起きたようだ。
上半身を起こしたのだが、まだ寝ぼけている。
「……あれ……ルクス様、どうしたのですか?」
「……」
アルルの言葉にも、男は床に頭をこすりつけて動かない。
それを横目で見ながら、メイドさんたちがテーブルに料理を並べていく。
「私に謝罪されても困るのよね。あなたに魔法をかけたのは彼だし」
私は、ベッドの上で伸びをしているヤミを指した。
「お許しくださいネコ様!」
「ああ、彼の名前はヤミね」
「お許しくださいヤミ様!」
躊躇なくネコに謝罪とか、ヤミとの追いかけっこは相当堪えたらしい。
「にゃー」
「駄目だって言ってるよ」
彼は畜生とか言われたことを相当恨んでいるようだ。
「……ううう……」
今度は男が突っ伏したまま泣き始めてしまった。
どうするのよ、これは。
「ちょっとヤミ。どうにかしてよ」
「にゃー」
「この領の疫病を片付ければ王都に向かうことになるから、王都に着いたら魔法を解くと言っているわよ」
まぁ、彼の仕事は聖女としての私を王都まで連れていくことなのだから、結果的には任務完了ということになる。
「承知いたしました!」
「いいのそれで?」
「私には、すでに選択肢がありません」
大の男が、ネコに土下座。
まさにネコの下僕になる魔法だ。
私は、なんの気なしに先輩の日記に書いてあった「ネコの下僕になる魔法」を使ってしまったが、こうなる可能性もあったのかもしれない。
日記には魔法を使っての後悔の文字はなかったので、問題はないと踏んでいたのだが……。
「にゃー」
「え? 窓を開けるの?」
彼が窓を開けてほしいという。
「にゃ」
「いいわよ」
私が窓を開けると、彼がベッドから降りて窓の縁に飛び乗った。
「お止めくださいヤミ様! お止めくださいぃ!」
「にゃ」
ヤミが窓から飛び降りると、そのまま庭に出てしまった。
「あああ!」
男が起き上がると、ヤミを追いかけるために走って窓から飛び出した。
魔法を使った彼から一定距離離れてしまうと、術によって激痛が走るからだ。
窓から見れば、男がヤミを追いかけているのが解る。
「あ~あ……」
「あの、あれはどうしましょう……」
メイドが私と一緒に、ヤミの追いかけっこを眺めている。
「まぁ、ちょっと可哀想でもあるから、暇を見て食事だけ摂らせてあげて?」
「かしこまりました」
「領主様はなにか言っている?」
「聖女様にお任せすると……」
「それじゃ問題ないわね」
ヤミの魔法で縛られているうちは、なにもできないだろうし。
あの男はヤミに任せておけばいいだろう。
私は食事だ。
「アルル、一緒に食べましょう」
「え?! 私が聖女様と一緒にですか?」
「従者なのだから、一緒に食べてもいいでしょ?」
「普通は一緒に食べませんが……」
「面倒ねぇ――いいから食べましょう」
「は、はい」
命令すれば、聞かないわけにはいかないってことだ。
彼女はベッドから降りると、メイド服に着替えた。
「そのメイド服は、この屋敷の制服よねぇ」
「はい、でも――他の服を持っていなくて……」
「領主様のお屋敷に勤めているのだから、お給金はそれなりに貰っていたはずでしょう?」
「はい、貯金してあります……」
子どものころに拾われて仕事ばかりしてきたから、お金の使い方が解らないのかもしれない。
無駄遣いするよりは、貯金をしていたほうがマシか。
本当に必要なときがくるかもしれないし。
私の従者になって身の回りの世話をしてくれるのなら、メイド服のほうがそれっぽいか。
「そのメイド服をいただけるように、領主様に頼んであげるわ」
「ありがとうございます」
彼女が一礼をした。
メイドでアルルを見ていたときは、元気ハツラツな明るい子ってイメージだったのだが、今はおとなしい。
多分、メイドのときのほうが地だとは思うのだが、スパイとして礼儀作法を教育されているのだろう。
アルルを座らせると、私の袋から小皿を出した。
彼女と一緒に食事を始めたのだが、その様子を立っているメイドがじ~っと見ている。
凄い表情で。
「ふふ――まるで針のムシロの上ね。針のムシロって解る?」
「はい。仕方ありません。皆を騙していたのですから……」
――といいつつ、食べるのは止めない。
多分、腹が減っていたのだろう。
それはいいのだが、ずっと睨まれているとアルルが可哀想だ。
「そんなに睨まないでくれる? この子も仕事でやってたんだし」
「……聖女様のメイドになるなんてズルい……」
女の子がボソリとそんなことを言う。
「彼女はしっかりとした教育を受けているようだし、それに笛吹き隊の魔導師ってことは、それなりの実力もあるんでしょ? いい人材なのよねぇ」
「……」
メイドとしての仕事っぷりは同じでも、魔導師となると別だ。
魔法の才能ってのも重要になってくるし、誰でもできる職業ではない。
正式に魔導師になったってことは、難しい試験にも合格したってことだし。
この点には反論できず、女の子は黙ってしまった。
「アルルも、魔導師の国家試験とやらに合格したんでしょ?」
「はい、受からないと魔導師にはなれませんから」
「試験に合格できないと街の魔女よねぇ」
「はい」
彼女は孤児だと言っていたようだけど、どうやってスカウトされたのだろう。
「魔導師への勧誘はどうやってされたの?」
「定期的に街の孤児が集められて、魔法の才能があるか試験をするんです」
「試験って魔力循環みたいなやつ?」
「はい、それです」
「まぁ、あれができれば魔法が使えるってことだからねぇ。私も最初できて、びっくりしちゃったし」
「私も、もう飢えなくても済むと思いました」
「笛吹き隊に恩みたいなものを感じているなら、無理に引き抜いてしまったかな?」
「いいえ、飢えて死ぬことはなかったのですが、訓練は厳しいものでしたし、脱落していく仲間も沢山いました……」
過去を話す彼女はつらそうだ。
「ごめんね。色々と聞いちゃって」
「いいえ……そのおかげで聖女様にも出会えましたし」
「たは~、私ってば、そんな上等な人間じゃないんだけどなぁ」
「そんなことはありません! 現に、今も沢山の人々をお救いになられているじゃありませんか」
「まぁ、そう言われればそうなんだけどさぁ」
力を使ったあとは、ぶっ倒れてここに運び込まれているので、実際にどうなっているのか実感がわかないのだ。
領主や騎士、薬問屋のバディーラからも、浄化が上手くいっていると聞かされてはいるのだが……。
彼女と話をしていると、誰かが走ってくる足音が聞こえる。
騎士ではないし、領主は走ったりしないだろう。
――そうなると。
ノックもせずにドアが開いた。
飛び込んできたのは、ククナだ。
「ククナ様、ノックをお願いいたします」
「もう! ズルいんだけど!」
「なにがでしょう?」
「お姉さまの従者になるなんて!」
彼女がアルルを指した。
「ズルいと言われましても、領主のお嬢様が、私の従者になるわけにはまいりませんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「それに、ククナ様はまだ魔導師ではありませんが、アルルは正式な魔導師なのですよ。戦力として雇うのもやぶさかではないでしょう?」
「うう~」
なにやら納得できてない様子だが、彼女には婿を取ってこの領地を継ぐという仕事がある。
「聖女の力で芋の疫病が収まれば、ククナ様の王都への留学の話が持ち上がるでしょう?」
「うん……」
「一生懸命勉強なさり、立派な婿様を射止めてくださいませ」
テーブルから立ち上がると、彼女を抱きしめる。
「……」
まぁ、まだ若いし――色々とやりたいこともあるのだろうけど。
貴族に生まれてしまったのだから、逃げられないこともある。
私にも希望に燃えた青春時代があり、田舎を捨てて上京したはずなのだが、なんの因果か異世界で聖女。
わけがわからないよ。
ククナをなぐさめていると、ドカドカと足音が聞こえてきた。
これは男の足音だろう。
入ってきたのは、領主とバディーラ。
アルルが立ち上がり、礼をすると部屋の隅っこにいく。
「おはようございます、聖女様」
領主は、だいぶ顔色がいい。
物事が上手くいっている証拠だろう。
「おはようございます」
領主の後ろで薬問屋が礼をしている。
「聖女様に作っていただいたという回復薬を、各地に送りますゆえ」
「はい、効き目は問題ないと思いますが……」
「バディーラから聞き及んでおります」
「噴霧器の数は大丈夫でしょうか?」
薬があっても、噴霧器がないと散布ができない。
手でチャプチャプと撒いても、薬が無駄になるだけだし。
「街中の職人を集めて、製作させております」
さすがに領主からの直接命令なら聞かないわけにはいかない。
「バディーラ、街の噂のほうは?」
彼に街がどうなっているのか聞いてみる。
「芋の疫病の話は広がっていますが、新しい薬で治せるとこちらからも噂を流し、騎士団や衛兵の皆様にも手伝っていただいております」
「余計な騒動になったりすると、上手くいくものもいかなくなるからね」
「そのとおりでございます」
順調にことが運んでいるようだが、気になることがある。
「領主様、他の領地ではどうなのでしょうか?」
「今のところは――なんの情報も入っておりません」
彼の話では、他の領地とは森で隔てられていることが関係しているのではないか? ――とのことだ。
そもそも、このティアーズ領から南では、芋がメインで作られていないらしい。
「ここの地方は、芋の栽培に適しているのですか?」
「はい、雪は降りませんが、比較的涼しいのが芋には合っているらしく」
元世界でも芋といえば、試される大地を初めとして涼しい地方の特産品だ。
南ならさつまいもだし。
「もしかして南には、長い芋があったりしますか?」
指で形を真似る。
「はい、よくご存知で」
やっぱりあるんだ。
スィートポテトとかに使えそうだけど。
ティアーズ領の芋は他の領にも輸出されていて、大きな収入源になっているという。
そりゃ、疫病で芋が全滅なんかしたら、飢饉だけでは済まなくなるわけね。
私と話していた領主であったが、すぐそばにしょんぼりしている自分の娘に気がついたようだ。
「聖女様、娘がなにか……?」
「芋の疫病が撲滅できれば、ククナ様の王都への留学ができるようになりますねぇ――という話をしていたのですよ」
「本当に聖女様には、なんといって感謝すればよろしいのか……」
「この領がなくなると私も住む場所がなくなるので、自分のためでもあるのですから、お気になさらずに」
私と領主が話していると、ククナが出ていってしまった。
「あいつはどうしたというのだ……」
「彼女が、私の従者になったというのが羨ましいというのですよ」
私は、部屋の隅で小さくなっているアルルを指した。
「領主の娘にはやることがある。聖女様の従者になれるはずがあるまい。まして魔法の腕も半人前――まだまだ学ぶべきことが山程ある」
「まぁ、そうなんですよねぇ。でも、若いと割り切れないこともあったりいたしますし」
「この騒動が収まれば、ククナと話す機会をもうけましょう」
「よろしくお願いいたします」
領主がいるので、ついでに厚かましいお願いをしてしまう。
「アルルのためのベッドがほしいのですが……」
「あの、聖女様――私は床でも」
部屋の隅にいる彼女が、小さくつぶやいた。
「そうもいかないでしょう」
「承知いたしました。すぐに用意させましょう」
「ありがとうございます。それから、ネコを追っかけている魔導師の男の件ですが……」
「それも聖女様にお任せいたします」
「私――というか、ヤミが彼を雇いますので、屋敷で食事などを与えてもよろしいでしょうか?」
「構いませんが――笛吹き隊の魔導師がネコに雇われるとは……」
領主が呆れているが、ヤミの魔法は強力だ。
しかも手慣れているので、以前にも似たようなことをやったのかもしれない。
彼の本当の歳は解らないが、私より経験も知識も豊富で手練だ。
タダのネコではないのは間違いない。
――それから数日後。
被害の大きかった畑の浄化はほぼ完了した。
私も自分で浄化した畑を訪れてみたが、葉色は少々悪いが疫病の進行は止まっており、元気に葉を伸ばしているように見える。
自分でやったことを初めて目の辺りにしたわけだ。
未だに散発的な病変は出ているようだが、私とバディーラが作った回復薬をすぐに散布すれば問題ない。
噴霧器の数も揃いつつあるし、もう問題はないだろう。
王都の国王陛下から公文書簡の返答があり、聖女の私にすべてを任せてくれるようだ。
どうやら、あの笛吹き隊の男が正確に報告をしていなかったらしく、ティアーズ領の被害が甚大だと解らなかったらしい。
あの男を王都につれていったら、なんらかの処分を受けるかもしれない。
色々とあったが、とりあえず落ち着けるようになった。
昼間にぶっ倒れて夜中に目が覚めるのを繰り返していたので、世の中がどうなっているのかわからなくなっていたのだが――。
黒いワンピースに着替えて街に出てみても、混乱している様子もないし、聖女の噂をしている人もいない。
情報の統制が上手くいっているようだ。
あとは国王陛下だけか……。
やっぱり王都に行かないわけにはいかないよねぇ。





