32話 公儀隠密
突然ワイバーンに襲われたりしたが、順調に芋の畑の癒やしは行えているようである。
人生初のワイバーン肉を食べてみたが、中々の美味。
深夜の食事に舌鼓を打っていると、領主と薬問屋のバディーラという男がやって来た。
領主も客人が来ているので、ガウンではなく普通の服装をしている。
「これは領主様、お疲れ様でございます」
「聖女様のお力で、カルドの村も浄化されました」
「上手くいったようで安心いたしました。ワイバーンの肉も美味しくいただいております」
「それはよかった。ワイバーンの肉など、滅多に口にできるものではありませんからな」
領主も肉を食べたのか、笑顔がこぼれている。
いや、自分の領地が危機から抜け出そうとしているので、安心からか。
「貴重な肉をありがとうございます」
「なにをおっしゃいます。あれを仕留めたのは聖女様でありましょうや」
「まぁ、そうなのですが……ははは」
まさかワイバーンの胴体を貫通するとは思わなかったし。
彼の話によれば、肉は村人や皆で分けたが、鱗などは私の取り分になるらしい。
「にゃー」
「え? そうなの?」
ヤミが言うには、竜種の鱗はかなり高額で取引されるアイテムのようだ。
「にゃー」
「それでは半分だけいただいて、残りの半分はこの領地の復興のためにお役立てください」
聖女の奇跡で浄化は進みつつあるが、少なからず被害はあるだろうし。
「それでよろしいのですかな?」
「はい、もちろんです」
「ありがとうございます。聖女様のことを民に伝えることができたあかつきには、称賛の声で街は埋め尽くされることでしょう」
「いやぁ、そういうのはご遠慮したいのですが……」
「……」
私と領主の会話を、バディーラはジッと立ったままで聞いている。
彼のトレードマークの黒い帽子を握ったまま、下を向いて叱られた子どものよう。
「どうしたの? 今日はおとなしいじゃない?」
「う……まさか、聖女様とはつゆ知らず、大変ご無礼をいたしました」
彼が下を向いたまま謝罪した。
「別に聖女になりたてだから、今までのままで構わないけど?」
「そうはまいりません」
さすが貴族と付き合いがある商人なので、礼儀も心得ているようだ。
「こんな夜遅くに呼び立てて、ごめんなさい」
「いいえ、ことの重大さに比べたら――大飢饉になるようなことがあれば、私の商売とて立ち行かなくなるわけでして」
彼は、領主からすべての説明を受けているようだ。
今、ティアーズ領に未曾有の危機が迫りつつあるのを知ったのだろう。
「そうよねぇ――それで回復薬の希釈の件、調べてくれた?」
「はい、私のいただいた薬だと、100倍に希釈しても効果が認められました」
「後で作った廉価版は?」
「あれは10倍といったところでしょうか」
「やっぱりかなり落ちるわね。でも、薬の材料が手に入らないのよねぇ」
「あの赤い実ですか?」
「そうなの」
「ちなみに――私の手持ちの回復薬では、効果が得られませんでした」
「そうなんだ!」
巷に出回っている薬では、疫病を治療することができないということになる。
「それでは、回復薬を作るときに、聖女様のお力を使っているかどうかが鍵になるということだろうか?」
「おそらくは……」
領主の言葉に、バディーラがうなずいた。
なにか赤い実の代わりになるものがあればいいのだが……。
いや、回復薬と考えるよりも、最初から植物のための農薬だと割り切ったほうがいいのかもしれない。
「私は魔女になって日が浅くて薬草のことは不勉強なのだけど、消毒に効果が高い薬草ってない?」
「そうですな……薬草ではなくて、きのこなら思い当たる節が」
「きのこ?」
「はい、木の幹に生えて硬いきのこなのですが」
「それって、私の国ではサルノコシカケと呼ばれていたもののような……」
「猿ですか? ここら辺では、妖精の椅子と呼ばれております」
話を聞く限り、おそらく同じものだと思われる。
「それは珍しいものではないの?」
「ええ、森でよく見られるものです」
「へぇ~それじゃ、そいつを使って回復薬を試作してみますかぁ」
私は最後に残していたワイバーンの肉を口に入れると、両手を挙げて伸びをした。
「それでは、私は店に戻り材料を集めてまいります」
「ええ? 今から? 夜中よ?」
「先ほども申し上げましたが、大飢饉ともなれば、そんなことは言ってられません」
「バディーラ、頼む」
領主からもねぎらいの言葉がかけられた。
「かしこまりました。最善を尽くしましょう」
「資金がいるようなら、私がもらったというワイバーンの鱗を売ってもいいから」
「聖女様、それは大丈夫です。薬草の金なら領が出せましょう」
「薬を大量に製作するとなると人手もそれなりにかかるし、大丈夫?」
「それこそ、聖女様からお譲りいただいたワイバーンの鱗を売ればよろしいのです」
私の質問に領主が答えた。
「それでは失礼いたします」
バティーラはトレードマークの黒い帽子をかぶると、廊下に出ていった。
入れ替わるように廊下からメイドさんたちが入ってきて、食事の後片付けをしてくれる。
「それでは領主様、ここで回復薬の試作をしてもよろしいですか?」
それとも、私が寝泊まりしていた、あの離でやったほうがいいだろうか?
「構いませぬ」
「よい薬ができれば僥倖なのですが」
「ううう……」
領主が両手を握りしめて、悔しそうにしている。
「どうなされました?」
「自分の領地の危機だというのに、なにもできない自分の不甲斐なさが……くくく」
「そんなことはありませんでしょう? 領主様には、領地を治めるための通常業務がありますでしょうし」
「それは確かにそのとおりなのですが……」
「多分、私の存在がバレたら大騒ぎになると思うので、そのときには対応に追われると思いますよ」
「う、確かに……」
悔しがったり青くなったりと忙しい。
基本が真面目な方なのだろう。
貴族というと、横柄で傍若無人というイメージがあるが、この方はそうではないらしい。
「王家からあれこれ言われたそのときには、全部私のせいにして大丈夫ですよ」
「そうはまいりません」
「聖女が、ティアーズ領に広がる疫病の根絶を優先した結果です――と、言えばすべて丸く収まりますし」
「それはそうでも、なぜ報告でも先にしなかったと言われるでしょう」
「未曾有の危機ゆえに失念しておりました――とか、のらりくらりと躱せばいいんですよ」
「国王陛下相手に、それが通じるかどうか」
「まぁ、そのときには私が盾になるから大丈夫です。グダグダ言うなら、この国には協力しないと言えばいいわけですし」
「そのようなことを申せば、幽閉されかねません」
「そのときはそのときで、あはは」
「し、承知いたしました」
なんだか複雑な表情をしているが、納得はしたようだ。
幽閉なんかされても、魔法をフルパワーで撃てば壁ぐらい壊せるし。
いつだって逃げ出せる。
その前に、聖女が持っている能力や異世界の知識は国に多大な利益となる。
事実、歴代の聖女たちがもたらした知識で、この世界は多少なりとも潤っているというし。
私のわがままだって聞いてくれるはずだ。
それに、あまりに横柄で気に入らないなら、マジで協力しなければいい。
この国に来た経緯はよく解らないが、聖女と崇め奉られたからといって協力する義理はないわけでしょ。
領主がメイドを呼び、この領の地図を持ってこさせると見せてくれた。
あと3箇所ぐらい被害が大きい地区があるらしい。
「1日に1回しか力を使えなくて、申し訳ございません」
「なにをおっしゃいますか、聖女様がいらっしゃらなければ、ティアーズ領は不毛の地と化していたことでしょう」
それでも、あと3日。
3日あればなんとかなるか。
「あとは、効き目があって簡単に作れる回復薬があれば、被害の小さいところはなんとかなりそうですね」
「はい、これも聖女様のおかげでございます」
彼と話していると、バティーラが戻ってきた。
荷物は持っていないが、魔法の袋の中に入っているのだろう。
「それでは私は休ませていただきます。バティーラ、すまない。任せる」
「かしこまりました」
領主が部屋から出ていくと、メイドが2人入ってきた。
「お手伝いします」「なにをやるんですか?」
「あなた方に手伝ってもらっていいの?」
「はい、もちろんです」「夜勤って退屈なんですよ。ずっと交代で座っているだけですし」
それなら、何かの作業の手伝いをしたほうがいいってことか。
「それじゃ、お願いします」
「「お任せください」」
4人で回復薬の試作をするため、バティーラが袋から道具を出した。
魔力コンロと黒い鍋――薬草が多数あり、その中になにか黒い塊がある。
触ると、すごく硬いが軽い。
これは本当に黒いサルノコシカケだ。
「これが妖精の椅子ってやつね」
「そうでございます」
人相が悪いのに敬語を使われると余計に怖い気がするが、メイドたちは平気のようだ。
薬問屋として屋敷に出入りしているので、顔見知りなのかもしれない。
サルノコシカケを切り、乳鉢に入れて粉にする。
配合はバティーラに任せることにした。
彼の話によると、生薬の配合を3種類試すと言う。
「これは普段はどうやって使うものなの?」
「獣脂に混ぜ込んで、血止めと消毒に使う軟膏を作ります」
「へぇ~、疫病の芋が少量なら、その軟膏を薄く塗っても効きそうね」
「なるほど、その手もありますか……」
私の持っている薬の本には、その軟膏の処方は載っていなかった。
似たようなものを作れば、薬として利用できる。
タダで企業秘密を知ってしまったようで、気が引ける。
まぁ、私の回復薬のレシピも彼に教えたのだから、お互い様でもある。
全部鍋にぶち込んで煮る。
いつも茶色だが、今日は黒が強い。
こんな状態でも魔力を入れたら赤くなるんだろうか?
煮出しが終わったら、いよいよ魔力を注入する。
「私、回復薬を作るのに立ち会うのは初めて」「私も!」
この屋敷の離で薬を作ったときには、いなかったメイドたちだ。
「それじゃ魔力を入れるよ――むううう~」
私の集中と同時に青い光が舞って、それが鍋の液体に吸い込まれると色が変わり始める。
色が変わったのだが、鍋が黒いのでいまいち解らない。
いつもの感じだとこれで完成しているはずだ。
バティーラが透明な瓶に入れると、液体はオレンジ色だった。
まるでオレンジジュースのようで、美味しそうに見える。
「綺麗!」「すご~い!」
「赤じゃないけど平気なのかな?」
「なにぶん、私も初めて作る薬なので、これで正解なのか解りません」
「魔力は十分に込めたはずだから、完成しているのは間違いないと思う」
「これで試してみましょう」
「ええ」
サルノコシカケの分量を変えて、3種類の薬を作った。
色はオレンジ色、濃いオレンジ色、最後に作った多く入れたタイプは緑っぽい色になってしまった。
ちょっとメロンっぽい。
色だけ見ると美味しそうに見えるのだが――鍋に残っているので、ちょっと指につけて舐めてみた。
「ぐぇぇ! ゲロマズぅ! おっといけない! 大変不味うございます、おほほ……」
テーブルにあった水差しから、水をカップに入れて飲む。
「じゃぁ、私も!」「止めときなよ!」
メイドの片方が、指で掬って舐めた。
「ぬぐぅ~」
彼女が口を押さえている。
「はい、お水飲む?」
私が差し出した水を、女の子は受け取ると一気に飲み干した。
「ぐぇ~、本当に不味いんですけど……」
「まぁこれは芋用で、人が飲むものじゃないから」
「ううう……あ、でも、眠気がなくなったかも」
「本当?」
もう1人のメイドも、そう聞くと試してみたくなったようだ。
少し口に含むと、口を押さえて青くなっている。
「ほう――それなら私も……」
バティーラはカップに水をいれて、そこに緑色の回復薬を注いで飲み干した。
最初から薄めて飲んだわけだ。
効き目は緩やかになるだろうが、身体に吸収される薬の量は変わらない。
さすが薬に詳しい専門家だ。
「回復薬として使えるのは、間違いないみたいね」
「そりゃ、妖精の腰かけ以外は普通に使われている材料ですからな」
3種類の薬が完成したので、こいつをバティーラに試験してもらう。
私が現場に行って祈ってしまうと、またぶっ倒れてしまうので役に立たない。
彼が頼りだ。
「よろしくお願いいたします」
「聖女様のもったいないお言葉。きっとよい結果が生まれることでしょう」
「その言葉使い、止めない?」
「そうはまいりません」
悪役レスラーみたいな顔しているのに、意外と堅い。
彼は一礼すると、別れを告げて暗闇の中に消えていった。
新型の回復薬が上手く機能すればいいけど。
「あなたたちも、手伝ってくれてありがとう」
「いいえ、聖女様のお手伝いができて光栄です」「回復薬を作るところも見られましたし」
「でも、普通の聖女って薬を作ったりはできないのよねぇ」
「癒やしの奇跡は使えても、魔法は使えないというのが聖女様だと聞いておりました」
「やっぱり、そうなのねぇ……ちなみに――」
「はい?」
「聖女の活動期間って解る? なん年ぐらい聖女をやったとか」
「私が生まれてから聖女様が降臨されたことはないので、人から聞いた話になってしまうのですが……」
「それでいいわ」
「長い人でも10年、短い人は数年で奇跡が使えなくなるということでした」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
メイドさんたちが下がり、部屋には私とヤミだけになったが、彼はお腹がいっぱいになったのかベッドで丸くなって寝ている。
私は朝までやることがない。
この時間を有効活用できればいいのだが。
とりあえず薬草などの勉強をしよう。
メイドさんから聞いたとおり――聖女の力をもらったといっても、こんなのいつなくなるか解ったもんじゃないし。
そうなったら生きていくためには知識が必要よね。
知識は力なりっていうし。
まぁ聖女をやっているあいだに、なるべく稼がせてもらうつもりだけど。
やっぱり聖女だってバレたら、王都まで呼び出されるわよねぇ。
お役御免まで長くて10年か~。
そのときは、アラフォーよアラフォー。
さすがにヴェスタも結婚しちゃってるよねぇ。
2~3年で帰って来られたらいいけど……。
いい人が見つからなかったら、森の中に家を建てて獣人の子どもたちともふもふすることにしましょう。
――そのまま朝になった。
私は朝食を摂ると、再び騎士団を従えて小さな街に向かった。
そこでも無事に浄化の作業を終え目を覚ますと、またまた真っ暗なベッドの上。
食事をしていると領主とバティーラがやってきて、新しい回復薬の効果を教えてくれた。
「これは素晴らしい効き目でした」
「本当? それはよかった」
彼の話では、濃いオレンジ色の薬が1番よかったらしい。
緑っぽくなってしまっても効果は変わらず、材料を消費するだけのようだ。
彼が、回復薬の瓶を自分の袋から取り出した。
「こいつは、200倍ほどに薄めても効果があります」
「それじゃ、疫病だけじゃなくて植物全般の病気にも効果があるかも」
「そのとおりです。これは画期的な薬になるでしょう」
「でも、あくまで聖女の力を込めた薬だからってことじゃない?」
「う……た、確かにその可能性は……」
「今は時間がないから私が作ってしまうけど、追試を行ってね」
「もちろんでございます」
領主の話によれば、奇跡を使ったあとの畑は順調に回復しているという。
私は倒れてしまうので、どうなっているのかさっぱりと解らないのだけど、上手くいっているのだろう。
安心してそのまま部屋で過ごし、朝を迎えた。
朝食を摂って、次の現場に向かう準備をしていたのだが、領主に呼び出された。
領主の執務室に来てほしいという。
「君はここで待ってて」
「にゃー」
ヤミを待たせて寝間着から着替えると、領主の部屋に向かった。
メイドのあとをついて赤い絨毯の上を歩いていると、すれ違った女たちが礼をしてくる。
領主の部屋に到着するとメイドが部屋のドアをノックした。
「領主様、お連れいたしました」
「入ってもらいたまえ」
メイドがドアを開けてくれたので、中に入る。
「失礼いたします」
入ったのはいいが、室内は異様な雰囲気に包まれており、ソファーに座った領主が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
これはただごとではない。
その雰囲気の原因と考えられるのが、領主の対面に座っている男。
長めの金髪をオールバックにして、灰色の上着――その上からマントを羽織っている。
下は濃いグレーのズボン。
一見して剣士や騎士ではなく、ひょろりとした体型から見ても頭脳労働をするタイプであろうか。
などと男の見立てをしていると、彼が立ち上がり私の前にひざまずいた。
「はじめまして、聖女様であらせられる。私はルクス・フォン・スパーク、笛吹き隊の魔導師でございます」
「ああ! 噂の魔導部隊という人たちですか?」
「そのとおりでございます」
公儀隠密みたいな人たちが、本当にいたことになる。
情報封鎖していたのに、どこからか聖女がこの領地に現れたと嗅ぎつけてきたのだろう。
さすがということか。
「それで――私が呼ばれたということは、私になにか御用ですか」
「はい、聖女様には、国王陛下に謁見していただきたく――」
男の言葉に私は驚いた。
聖女のことを知っているだけではなくて、すでに王都まで連絡を取りつけていたのだ。
私が聖女だと判明してから、まだ数日しかたっていない。
国王に会う? 今はそんなことをしている場合ではない。
「お断りいたします」
「……は?」
下を向いて話していた男が顔を上げた。
「お断りいたします」
私は同じ言葉を言った。
「国王陛下の要請を断ると?」
「そう、命令じゃなくて要請よね? 絶対に行かないとは申しませんよ。ここでお仕事があるので、それらが一段落したら登城いたします――と国王陛下にお伝え下さい」
「それが通用するとお思いですか?」
「この国では、聖女の身分は国王に匹敵すると聞きましたよ? 国王からの要請をお断りしても、なんら問題はないはず」
「せ、聖女様……」
領主が立ち上がって、私を止めに入った。
「領主様、この領地で起こっていることを、この男に説明いたしました?」
「は、はい、もちろんです」
「それなら国王陛下も理解してくれるはずです。陛下には、事情を説明する連絡をしていただき、あとで登城するとお伝え下さい」
私の言葉に男が立ち上がり、不敵な表情を浮かべている。
「ここで強引に私が連れていくことも可能ですが?」
「なるほど? 話し合いにならないから、暴力も辞さないということですか?」
「ええ、大人しく我々に従っていただければよろしいのです」
我々と言ったからには、仲間もこの街にはいるのだろう。
もしかしたら、この屋敷の中にも潜り込んでいる?
「国王にも匹敵するという身分だという聖女に対し、随分と無礼な態度ではありませんか?」
「聞けば、お前は元は魔女だというではないか」
こいつは魔導師らしいので、どうしても魔女という存在を下に見たいらしい。
正体を現したって感じ。
「聖女だろうが、元魔女という下賤な女には従うつもりなどないと?」
「どう取ってもらっても結構。我々は国王陛下の直属。勅命を果たすまで」
「そうですか、よく解りました」
「理解したのならば、大人しく――」
話し合いにならないと悟った私は魔法を使った。
「光よ!」
「な、なに?!」
まばゆい光が部屋の中を覆う。
「せ、聖女様!」
「おりゃぁ! キ○タマグッバイ!」
領主の言葉に構わず、私の必殺の蹴りが男の股間に炸裂した。
「*^&%$&**!」
自分の息子にさよならした男が、声にならない声を上げて床で転げ回っている。
「ふっ、またつまらぬものを蹴ってしまった……」
――ってそりゃいいんだけど、これからどうしよう。
だって、暴力を使って強引に連れていくとか言われたら、これって正当防衛だよね。
領主の顔が青くなりオロオロしているのだが、ここで私がティアーズ領から離れたらすべて元の木阿弥だ。
領の行く末を考えていると、ドアが勢いよく開いた。
「う、動かないでください!」
入ってきたのは、赤髪のメイドさん。
彼女は、私の試作ポーションを試してくれた女の子だ。
「*&&……うぐぐ……アルル――お前がなんとかしろ」
床に転がっている男が、女の子に指示を出した。
「聖女様……」
彼女が戸惑いながら、私の目をジッと見ている。
笛吹き隊の男と知り合いってことは、この女の子も魔導師ってこと?
つまりスパイ?





