31話 空飛ぶ巨大な魔物
私が暮らしているティアーズ領という所で、芋の疫病が蔓延中だ。
このままいけば、芋が全滅してしまい大飢饉が訪れてしまう。
そうなれば多数の死者や、他領への移住者を出してしまうだろう。
そうならないように、私の力を使って病魔を浄化している最中だ。
領主が持っている直営農場と、村の1つの浄化は上手くいったらしいのだが、力を使うと私は倒れてしまうので、実際にどうなっているかはまだ見ていない。
皆の話では順調に浄化はできているようなので、私たちは騎士団に護衛されて次のカルドという村へ向かっていたのだが……。
突然、馬車が止まったので、私はドアを開けると外に出た。
そのとき頭上を真っ黒な巨大な影が通り過ぎる。
ヤミの話では、ワイバーンだと言う。
「はぁ? ワイバーンってなに?」
「にゃ」
私には、それがなにか解らなかったのだが、上空を見上げると黒くて大きな翼。
――よくは見えないのだが、その周りに小さくて白いのがチラチラ見える。
「白い鳥?」
大きいのが、小さいほうを追い回しているように見えるのだが……。
こちらに気がついたのか、黒いほうがくるりと旋回すると、畑すれすれを低空飛行をしてきた。
「にゃー!」
「え?! なんかデカくない?!」
大きな翼を広げて、鋭い脚の爪を立ててこちらに突進してくる。
「騎士団! 防御陣形!」
団長の号令で、馬に乗った騎士が横一列に並んだのだが、それで防げるとは思えない。
私は、とっさに魔法を唱えた。
「むぅぅぅ! 聖なる盾!」
芋畑を蹴散らしてやってきた巨大な鳥のような化け物が、私の出した透明な壁にぶち当たった。
かなり大きな音がして、敵が地面にひっくりかえる。
「ええ?! これってプテラノドン?!」
子どものころ、弟が見ていた恐竜図鑑に出ていたものによく似ている。
長いくちばしのような口、広げるとまるで巨大な壁のような翼。
胴体に比べて脚は細いが、爪は鋭く、ものを掴めるようになっている。
図鑑と少々違うところは、全身を硬そうな鱗らしきもので覆われているところか。
騎士が乗っている騎馬は十分に訓練を積んでいるらしく、目の前に巨大な魔物がいても平気なようだが、
馬車を牽いている馬はそうはいかない。
突然に現れた目の前の恐怖に、パニック状態になっている。
「どうどう!」
御者が制御しようとしているが、それは収まらない。
「なんで、こんなところにワイバーンが?!」
叫んだのは、グレルである。
やつが逃げ出さないか心配ではあるが、お姫様に大見得を切った手前、それはないと思われる。
敵はかなりのスピードで障壁に衝突したので、ダメージを負ったようだ。
地面の上でバタバタと暴れている。
そのせいで芋畑が台無しだ。
田舎で育った私としては、畑をめちゃくちゃにされると、すごい腹が立つ。
もう、ぶっ飛ばしてやりたい。
この畑だって、すごい手間と時間がかかっているのだから。
「騎士団! 突撃態勢!」
騎士団の並びが、三角形になった。
「聖女様! 聖なる盾の魔法を解いてください!」
それはいいのだが――本当にそんなやつと戦うの?
魔法を解くと、剣を構えた騎士たちが突進したのを見て、私は援護をしようと馬車の屋根に乗った。
「聖女様!」
恐怖に引きつる御者が、私を見上げた。
「御者さんは、後ろに逃げて!」
「は、はい!」
男が馬車から飛び降りると、畑の中を転げながら逃げていく。
彼は戦闘ができる職ではない。
ここで逃げても責められることはないだろう。
この状態では、馬車は役に立たないわけだし。
騎士たちが馬で体当たりをして各々に斬りつけてはいるのだが、硬そうな鱗に阻まれてダメージが入っているようには見えない。
屋根の上に立つと、魔物の体当たりを食らって馬ごと吹き飛ばされる騎馬が目に飛び込んできた。
これはヤバい。
とても騎士団では歯が立つ相手ではないと思う。
「にゃー!」
一緒に屋根に上ったヤミが叫ぶ。
彼の言うとおり、ここは魔法だ。
「それよりも、あれって飛んで逃げない?」
「にゃ!」
あれが飛び立つためには長い助走が必要らしい。
「聖女様!」
馬車から領主の声が聞こえる。
「領主様も、お逃げください!」
私の声に彼が顔を出した。
「なにをおっしゃいます! 領主が聖女様を置いて逃げたなどということになれば、国中の笑いものになりましょう!」
「そんなことを言っている場合じゃないです!」
「私のことは構いません! 聖女様こそ避難を!」
彼が馬車から飛び降りたが、ここで言い合いをしている場合ではない。
私は、巨大な魔物に向き合った。
「騎士団の皆さん! 数分だけ時間を稼いで!」
「「「応!」」」
1人の騎士が馬の上に立つと、そこからジャンプしてワイバーンの顔を斬りつけた。
鱗に当たったのか、オレンジ色の火花が飛び散る。
「ギュェェェェ!」
着地した騎士を、激怒した魔物のくちばしが襲う。
「ぐわぁ!」
攻撃を食らった男が吹き飛ばされて、畑の上をゴロゴロと転がっていった。
魔物を斬りつけたのは、グレルらしい。
いけ好かない男だが、騎士らしく使命を全うしたということだろうか。
「むぅぅぅ! 光弾よ!」
私は魔法を展開し始めたのだが、数は要らない。
1本だけでいいから、可能な限りの魔力をそいつに注ぎ込む。
「うぬぅぅぅ!」
騎士団がワイバーンの気を引いているうちに、光の矢がどんどん太くなり輝きを増す。
「うにゃー!」
「騎士団下がって!!」
私の声に反応して、一斉に騎士団が引いた。
「我が敵を撃て!」
辺りに濃い影が落ちるほどに輝いた光の矢が、轟音とともに魔物に向けて発射された。
相手は剣を弾き返すほどの硬い魔物。
魔法が効くか自分でも半信半疑だったのだが、予想に反し撃ち出された矢は敵の身体を貫いた。
貫通した光が勢い余って地面に着弾すると、巨大な土の柱を作り出し、周囲に衝撃波を走らす。
胴体に穴が開いた魔物も、馬とともに下がった騎士団も、私が乗っていた馬車も衝撃波で横倒しになった。
「きゃぁぁ!」
「ふぎゃー!」
倒れる馬車からジャンプして、芋畑にごろごろと転がると泥だらけ。
ヤミはさすが猫という感じで、素早く飛び降りると畑に着地した。
畑に尻もちをついて振り返れば、無残に引っくり返った馬車と、山のように動かなくなった魔物。
さすがに胴体に大穴が開けば、もう生きてはいないだろう。
「た、倒した?」
「にゃー」
ヤミは、倒したんじゃないかと言っているようだが、まだ信じられない。
それよりも馬車がひっくり返ってしまった。
一緒に繋がれていた馬も、下敷きになってバタバタと暴れている。
「誰か、馬を助けてあげて!」
私は怪我人の治療に向かう。
そのための聖女だ。
「聖女様!」
「領主様、ご無事ですか?」
「ああ、擦り傷程度です」
「申し訳ございませんが、重傷者がいればそちらを優先いたしますのでご了承ください」
「もちろんです」
ひっくり返っている馬車に上って、辺りを見回す。
爆風で皆吹き飛ばされたが、ひっくり返ったままの騎士は――1人いた。
ジャンプしてワイバーンに斬りかかったグレルだ。
どうやら団長が介護しているらしい。
他は――大丈夫だ。
皆が立ち上がって、3人ほどが馬を起こしてくれている。
動かなくなった魔物の所に、ヤミが行ってクンカクンカしている。
私はグレルの下に向かった。
「いてぇぇぇ、死ぬぅぅ!」
彼が情けない声を上げている。
勇敢にも立ち向かったので、ちょっとは褒めてやろうかと思ったのだが、すぐに考え直した。
「死ぬ死ぬって言ってるやつは、死なないから平気。本当にヤバいときには声も出ないし。ねぇ団長?」
「はは、そうだな……」
私の言葉に団長が困った顔をしている。
彼はグレルに回復薬を飲ませていたようだ。
もちろん、それは私が作ったやつ。
「くそぉ! ちゃんと活躍しただろうが!」
「はいはい、偉い偉い。偉いから、ちゃんと治療してあげる。襲われそうになった男も治療してあげるんだから、私ってばマジで聖女」
「あんたを襲おうとしたことは、悪いと思っている……」
怪我をしてしおらしくなったのだろうか、あの悪びれない男が反省の弁を口にしている。
「その回復薬だって、私が作ったものなんだからね」
「ああ、解ってる」
そこにヤミがやってきた。
「にゃー」
「完全に死んでる?」
「にゃ」
あのデカい化け物は、完全に死んでいるらしい。
「さて、魔物の心配もなくなったし、治療しますか」
「聖女様、お願いいたします」
団長に、そう言われちゃ仕方ない。
「あの、このぐらいの治療なら、気を失ってもすぐに復活すると思うので、村に行っての疫病の浄化も続行しますよ」
「心得ました」
怪我をしている男の前で祈る。
多分、どこか骨折したのだろう。
「天にまします我らが神よ。巨大な魔物に立ち向かった英雄に、癒やしを与えたまえ」
祈る。
「聖女様!」
団長の声で我に返ったが、倒れたりはしなかったようだ。
「どのぐらい固まってました?」
「数分です」
グレルはすでに動けるようになっていて、腕をぐるぐる回している。
「すげぇ、マジで動けるようになったぜ」
「本当に奇跡だな」
団長が、癒やしの奇跡に感激をしているようだ。
まだ軽い怪我を負ってる騎士が残っている。
馬のほうを見れば、馬車とつながっている所が外されて立ち上がっていた。
「ヴェスタ様、馬は大丈夫ですか?」
「少し、怪我をしたようです。血が出ています」
「それでは、まとめて治療いたしましょう。皆さん、馬の所に集まってください。領主様も」
「私はかすり傷だが……」
「まぁ、皆をまとめてやりますので。ヴェスタ様、私が倒れたときには、よろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
グレルよりは軽傷の者ばかりなので、馬の周りに皆を集めると、祈る。
「聖女様」
「はっ!」
気がつくと、ヴェスタに支えられていた。
今度も数分らしい。
怪我や病気を癒やすという素晴らしい力なのだが、気を失うのが難点。
周りに誰もいなかったら、まったくの無防備になってしまう。
皆の怪我も治ったようなので、今度は洗浄だ。
皆が畑の中に転がったので、泥だらけなのである。
「む~! 洗浄!」
青い光が舞うと、服も鎧もすべて綺麗になった。
「「「おお~っ!」」」「やっぱり、魔法は便利だなぁ」「騎士団でも魔導師を雇えればなぁ」
「それについては考えていたのだが……」
団長が、気まずそうにこちらをチラ見した。
ああ、なるほど。
私を戦力として雇う計画もあったのか。
まぁ、お手伝いぐらいならそういうのもよかったけど、聖女ってやつになってしまったしねぇ。
綺麗になったら今度は馬車だ。
騎士団が全員でひっくり返った馬車を元に戻そうとしたのだが、持ち上がらない。
馬車が1トンだとすれば、騎士が10人で1人あたり100kg――ちょっときついか。
見たところ、1トン以上は確実にありそうだし。
ヴェスタは私を軽々と持ち上げるぐらいなので、騎士の皆が力持ちなのは確かだろうが、少々パワー不足らしい。
この状況に団長が指示を出した。
「誰か、カルドまで行って応援を呼んできてくれ。どのみち、この魔物の処分もしなくてはならぬだろうし」
「「「はい!」」」
誰が行くのか相談をしていると、領主を呼ぶ声が聞こえてきた。
「領主様!」
道をやって来たのは、黒い馬に乗った若い金髪の男。
革の鎧を着て、剣を装備して手を振っている。
ひっくり返っているのが領主の馬車だし、騎士団もいるので、領主がいると解ったのだろう。
「おう! アルム! いいところに来た!」
領主の口ぶりからすると、目的地の村を治めている騎士爵らしい。
馬で近寄ってきた男だが、私たちの近くにあった小山が魔物の死骸だと解ると仰天したようだった。
「ひっ!? わ、ワイバーン?!」
「そうなのだ! 馬車をひっくり返されてしまってな。それにこいつを解体せねばならぬ。村人を貸してはくれぬだろうか?」
その話を聞いたグレルが、後ろでブツブツ言っている。
馬車がひっくり返ったのは、私の魔法のせいなのだが。
「は、はい! 承知いたしました」
「芋の件があるのに、無理を言ってすまぬ」
「いいえ、こいつをこのまま放置するわけにもまいりませんし」
「村人たちにも、死ぬほど肉が食えると伝えてやれ」
「え?!」
領主の言葉に、私は思わず反応してしまった。
皆の視線が一斉に私に集まる。
「これは申し訳ございません。聖女様のお許しもなく、獲物を民に施すなど……」
「いいえ、それはいいのですが――これって食べられるのですか?!」
私は魔物の小山を指した。
「はい、私も食したことがないのですが、ドラゴン系の肉はたいそう美味らしく……」
「にゃー」
「ヤミは食べたことがあるの?」
「にゃ」
どうやら美味いらしい。
「貴族様でも食べたことがないのですか?」
「はい、王族か上級貴族ならあるのでしょうが、ここらへんでドラゴン種が討伐されたのも久しぶりだと思いますし」
私が退治したこれは、かなり珍しいもののようだ。
「あの……領主様、この方は……」
話に入り込めないでいた、アルムという騎士爵が私の正体を知りたいらしい。
「連絡したとおり、この方が聖女様だ」
「本当でございますか?!」
「領主の私が、そんな嘘をついてどうする」
「も、申し訳ございません! にわかに信じがたくて……」
「信じられぬのも無理もないが、これは現実。この腐りかけの芋の畑も復活するのだぞ?」
「そ、それは事実ならば、村は救われます」
男が膝を地面につき、両手を合わせた。
「事実、デュガの村は聖女様によって救われた」
「本当でございますか――いや、申し訳ございません!」
「まぁ誰であれ、目の前に突然聖女様が現れたとなれば、そのような反応になるのも致し方ない」
ここで話していても前に進まない。
応援を呼んでもらわなければならないのだが、時間が少々惜しい。
「領主様、私とヴェスタ様だけ現場に行って浄化の作業を行ってもよろしいですか?」
「聖女様が、それでいいとおっしゃるのであれば……」
「応援が来るまでに時間がかかると思いますし、その間に浄化を行います」
「承知いたしました」
「ありがとうございます」
「アルム!」
男が領主の下にやって来た。
「はっ! なんでございましょう領主様」
「手紙で伝えたとおり――聖女様のことは、しばらく他言無用だぞ?」
領主は各村に、手紙で連絡をつけていたらしい。
「かしこまりました」
ヴェスタの馬に乗せてもらい、村を管理している騎士爵の案内で疫病被害の中心地に向かう。
ヤミはどうするのかと思ったら、馬の尻に飛び乗った。
「君も行くの?」
「にゃー」
「ありがと」
私たちの前を黒い馬が歩いている。
「……」
先導しているアルムという男は、私の正体が気になるようで、こちらをチラチラと見ている。
まぁ好奇心もあるだろうし、半信半疑でもあるのだろう。
「……」
私を後ろから抱いているヴェスタも黙ったまま。
いつもより力が入っているようにも感じる。
街の魔女だと思っていたら、いきなり聖女だというのだから、彼だって混乱するだろう。
「ヴェスタ様――私と2人のときは、いつもと同じように接していただいてもよろしいですよ?」
「いいえ、そういうわけにもまいりません。あなたは聖女様なのですから」
そりゃ、この国では国王陛下と同じぐらいの身分になるようだし、上下関係に厳しい騎士なら当然ともいえるが……金髪美少年との接点がなくなってしまって、ちょっと寂しい……。
せっかく私にも春がやって来たと思ったら、こんなことになってしまった。
いっそ、2人きりのときに私から誘っていれば……いやいや、そんなことをしたら聖女の資格を喪失して、この領地がヤバいことになっていたんだから、無理に決まっている。
「はぁ……」
ため息をつくと、幸せが逃げるっていうけど。
「聖女様、なにかご心配でも?」
「ええまぁ、これからどうなるんだろうなぁ――と思いまして」
金髪美少年とやっておけばよかったか、はたまた否か、そんな葛藤しているなんて本当のことを言えるはずもない。
「最終的には、国王陛下の判断になると思いますが」
「やっぱりそうなるんですね」
「はい」
「にゃー」
「そんなお気軽なものじゃないと思うんだけどなぁ」
騎士爵の案内で、私たちは被害の中心地にやって来た。
再び、芋畑の中に入ると祈りを捧げる。
「ヴェスタ様、倒れたらお願いいたします」
「お任せください」
私は、畑がまた緑を取り戻し、実りをつけるように祈った。
――そして気がつくと真っ暗の中。
ベッドの感触に覚えがあるので、多分領主の屋敷にある部屋だ。
また寝間着に着替えさせられていて、ベッドに寝転がっているらしい。
「光よ」
天井近くに光の玉が浮かんで、部屋の様子が浮かび上がる。
やっぱり領主の屋敷にある同じ部屋だ。
ベッドの上にはヤミが丸くなっていたが、明かりを点けたので起きてしまったようだ。
4本の脚を伸ばして、あくびをしている。
「起こしちゃった?」
「にゃー」
彼から話を聞く。
浄化は上手くいったようだ。
あのあと馬車の所には村から応援が100人ぐらい到着して、ワイバーンを解体し始めたらしい。
彼もすぐに戻ってきてしまったので、どうなったかは見ていないそうだ。
「ワイバーンの肉ってもらえるかな? 食べてみたかったんだけど……」
肉の話をしたら、腹が減っているのに気がついた。
やっぱり奇跡を起こしたあとは腹が減るらしい。
さすがに一仕事するまえに食事を2回摂ったせいか、別に身体に異常は感じない。
私はベッドから降りるとドアを開けた。
前と同じように、ドアの横にメイドさんが座っていた。
足元には魔法のランプが小さく灯っている。
「あの~」
「聖女様、お目覚めになられたのですね」
「はい、それで食事はありますか?」
「はい! すぐにご用意いたします」
ランプを持つと、パタパタとメイドが暗い廊下を走っていった。
一仕事するたびに、夜中ってのも困ったものだ。
夜中に仕事をすればいいのだが、それだと騎士団が大変だ。
ベッドに腰かけていると、メイドさんが2人、料理を運んできてくれた。
今日の料理も美味しそう。
自分で作るのもいいけど、美味しい料理が黙っていても出てくるって素晴らしい。
お金があれば、こういう生活もできるわけだ。
「聖女様! 今日は素晴らしいですよ。なんとぉ、ワイバーンの肉料理です!」
金髪のメイドさんたちが、キャッキャウフフしている。
「ああ、村で解体した肉をここまで運んできたんですね」
「はい」
領主なら、沢山ものが入る魔法の袋も持ってそうだ。
「私たちの夕飯にも肉が出たんですよ~」
「それは、よかったですね」
「すべて聖女様のおかげでございます」
2人が礼をした。
それを知っているってことは、どうやって倒したのか全部知っているのだろうか?
私がテーブルにつくと、料理が並べられた。
「ワイバーンをどうやって仕留めたか、聞きましたか?」
「聖女様が止めを刺されたと……」
「あちゃー、全部喋っちゃっていいのかしら?」
「にゃー」
ヤミがテーブルの下にやってきたので、肉をあげた。
焼いた肉には、なにもかかってないようなので大丈夫だろう。
私も、初ワイバーンを体験してみることにした。
塩と香辛料で食べるようだ。
「ん~、美味しい……」
口に入れた風味は鳥肉みたいな感じなのだが、身が詰まっていて食いごたえがある。
包丁などで筋切りをしてあるらしく、噛み切れないということもない。
噛みしめると、肉の旨味が口内に広がる。
「「美味しいですよねぇ」」
舌鼓を打っていると、ドアがノックされた。
「はい、どうぞ~」
ドアを開けて入ってきたのは、領主と薬問屋のバディーラという男だ。
そうそう、疫病に回復薬が効くようなので、効率のいい薬剤散布の方法を考えなくてはいけないのだ。





