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29話 私が聖女?


 領主の屋敷に滞在中である。

 貴族のつてを使い、回復薬ポーションの材料を集めて40本製作した。

 それを騎士団に納品して一仕事終了。

 騎士団の仕事は危ないらしいので、回復薬が役に立てばいいのだが。

 いや、役に立つような場面に遭遇しちゃだめなんだよね。


 余った材料を使って、赤い実抜きの薬も作ってみたのだが、それなりの効果はある模様。

 軽症や軽傷の患者には、使えると思う。

 そのうち値段を下げて売り出して見ようかと思っていると、屋敷が騒がしくなってきた。


 いったい、なにごとなのだろう。

 街の中に魔物でも出たのだろうか?

 慌てて外に出ると日が傾き始めており、メイドさんたちが慌ただしく走り回っている。

 私は1人のメイドを捕まえた。


「ちょっと、なにかあったの?」

「あ、あの、畑に異変が起きたとかで、詳しくは解りません! 急ぎますので!」

 畑に異変が起きて、なんでメイドさんが走り回っているのだろう。

 屋敷の中に入ってみると、玄関ホールに銀色の甲冑を着込んだ騎士団も詰めかけていた。

 人数は5人ほど。

 え~? 本当にいったいなにが……。


 とりあえず、騎士団の責任者である団長に話を聞く。

 忙しそうなので申し訳ないと思ったのだが、どうしても気になる。


「ジュン様! なにがあったのですか?」

「ああ、ノバラか。畑が広範囲に渡って枯れているらしい」

「畑って芋畑ですか?」

「そうだ、なにか知っているのか?」

「いいえ、家が焼けて街にやってくるときに、芋畑の元気がないとは思っていたのですが……」

 そう芋は枯れたら収穫の時期なのだが、ちょっと前まで花が咲いていた。

 まだ枯れるには早い。


「それで騎士団の皆様は?」

「ワイプ様が急遽視察に出られるので、その護衛だ」

 ああそれで、メイドたちがバタバタしていたのね。


「ノバラ!」

 ヴェスタもやって来たので話をしていると、領主が姿を現した。

 ジャケットのようなものを着て枯れ草色のズボンと、実務的な恰好をしている。


「ジュン! 用意はいいか?」

「はい、騎士団はいつでも」

「お姉さま!」

 ククナが私に抱きついてきたのだが、少々混乱しているのか、私をお姉さまと呼んだ。

 それは2人きりでいるときの約束だったはず。

 そのことについて、なにか反応があるのかと思っていたのだが、皆はスルーしている。


「ククナ様も視察に向かわれるのですか?」

「ええ、もしかしたら領の行く末を決めるかもしれないし」

 本当に広範囲で芋が枯れているとなると、次にやって来るのは飢饉だ。

 麦だけでは、領民を養うのは苦しくなるのかもしれない。

 かつてヨーロッパで、芋の疫病による大飢饉が発生し、人口が激減したというのを歴史の授業でならった。


「あの、私も行っていいですか? 故郷では芋の病気も見たことがありますし」

 私の言葉に領主が反応した。


「そうか、それでは頼む」

「かしこまりました」

「それじゃ、ノバラも馬車で行こう?」

「ええ?! 領主様と一緒というのは、いくらなんでも……」

「私は構わぬぞ。娘の恩人だ。遠慮することはない」

 またヴェスタに乗せてもらおうかと思ったのだが、予想外のことになってしまった。


 領主とククナのあとをついて、玄関から出ると黒塗りの馬車が待っていた。

 御者の隣に、黒服の中年男性が乗っている。

 執事だろうか?


 まずは領主とお姫様が馬車に乗り込み、最後に私が入った。

 本当に乗っていいのだろうか?

 そんな私のためらいなど、お構いなしに馬車が発車した。

 前後を騎士団の馬に囲まれている。

 ヤミを部屋に置いてきてしまったが、彼なら大丈夫だろう。


「どこの畑に向かわれるのですか?」

「領が直営している農場だが、他の畑でも同様の状態になっているらしい」

「お父様……」

 父親の言葉に、ククナが心配そうな顔をしている。

 飢饉が訪れれば民は飢え、食えない農民や住民たちは他の領に移動するかもしれない。

 そうなれば人口が減る。それ即ち領の経営も傾くってことだ。

 元世界でいうところの倒産するかもしれない。


 しばらく馬車に揺られて農場に到着した。

 日はすでに傾き、空は赤と黄色のグラデーションになりつつある。

 馬車から降りると、確かに畑の芋が枯れており、葉っぱが黒い染みに侵されていた。


「ええ?! これって全部?」

 しゃがんで葉っぱを手に取ると、黒く腐ったようになっている。

 裏を捲ると白い。

 これが胞子で、飛んで広がるわけだ。

 それが広大な畑に広がっていた。


「これって芋の疫病では?」

 昔のヨーロッパで、大飢饉の原因になったのもこれだ。

 私の所に団長がやって来た。


「ノバラ、知っているのか?」

「はい、私の故郷でも何度か」

「治療方法は?」

 菌によるものだと聞いたことがあった。

 元世界なら農薬でなんとかなるが、この世界では難しい。


「そこまでは……」

「そうか」

 少々離れた所では、農場の責任者と領主が話しているが、その周りには心配そうな農民たち。

 ククナも横で、その会話を聞いている。


「領主様、ここだけではありません。他の土地の芋もこのような状態になっているのです」

「な、なんということだ……」

「お父様……」

 領主が振り向くと、ククナを抱きしめた。


「すまぬ、ククナ! お前を、王都に留学させてやれそうにない」

「うん、解ってる……」

「それどころか、未曾有の大飢饉になり、我がティアーズ領がなくなるかもしれん」

「領主様!」

 領主の言葉に、農場の責任者や農民たちがウロウロしているが、どうしようもない様子。


「本当に最悪の場面を考えなくてはならん」

 そこにヴェスタが駆け寄った。


「他の領や、王都への連絡はいかがいたしましょう?」

 この状態なら、他の領にも被害が及んでいるかもしれない。

 下手をしたら、王国の全領地が大飢饉に見舞われる可能性すらある。


「そうだな――明日の朝一で、獣人の飛脚を頼む。セバス!」

「はい!」

 黒服の男が領主の元にやってきた。

 やはり彼は執事のようだ。


 私も領主の所に行った。


「あの、このような疫病が今まで流行ったことは?」

「この領ではないが、他の領でなん度かあったと聞いたことがある」

「ノバラ、これは疫病なのですか?」

「ヴェスタ様、そのとおりです。パンにカビが生えますよね? そのようなものと考えてもらえば」

「病気なら、薬が効くのではないか?」

 過去になん回か流行があったのならば、治療法があるのかもしれないが……。


「領主様、そのようなお話は?」

「いや、聞いたことがない」

 やはり、この世界では難しいらしい。

 殺菌剤などで駆逐できるものなのだろうか?

 たとえば木酢液みたいなものとか。


「葉が駄目でも、地下の芋はどうなのだ?」

 団長が土を掘ろうとしている。


「病気は、地下の芋まで侵します」

「なんということだ。本当に領の芋が全滅するというのか」

 いつもは冷静沈着な団長も、動揺しているのが解る。

 領のすべての生活が破壊されるのだ。

 それも領で済めばいいが、王国全土に伝播すれば、逃げ場所はなくなる。

 着の身着のままで他の国に逃げて、受け入れてくれればいいが。


 ヨーロッパの芋大飢饉でも、食い物がなくなり住む場所もなくなった沢山の人が、アメリカに渡ったという。


 領主とククナが抱き合って泣いている。

 ああ、ククナは王都に行くのを楽しみにしていたのに……。

 回復薬ポーションを作る仕事が終わったら、生クリームを作ろうとか言っていたが、それどころではなくなった。

 私も飢饉に巻き込まれるかもしれない。

 飢饉になれば皆の金もなくなる。

 私の薬などを買っている場合ではなくなるのだ。


 飢饉の間――森の中の食べ物だけで、サバイバルできるだろうか?


「う~ん」

 考えるに難しい。

 私は再び座ると、黒くなっている芋の葉っぱを手にとった。


 この世界には奇跡ともいえる魔法があるじゃないか。

 魔法でなんとかなれば、皆が飢えなくても済むのに。

 なんとかならないものなのだろうか?


「あ――」

 私は、あることを思いついた。

 芋の疫病――つまり病気なのだから、回復薬ポーションで治らないだろうか?

 そんなことを考えつつ、黒くなった葉っぱを両手で包み、皆のことを祈ったのだが――。


 次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは天井らしき光景。


「え?!」

 いったいなにがどうなったのか?

 下は柔らかく、どうやらベッドに寝かされているらしい。

 窓から入ってくる光に照らされた私の身体を白い寝間着が包んでおり、毛布の上には黒いヤミが寝ていた。

 ベッドは天蓋付きのかなり上等なもので、お姫様が寝ているような代物。


「え~? なにこれ?」

 状況が理解できず、辺りを見回す。

 白い壁に赤い絨毯。

 白い水指しとカップが載った小さなテーブルと2脚の椅子。

 調度品や部屋のデザインから見て、おそらく領主邸だと思われるが……。

 私は畑で倒れてしまったのだろうか?

 めまいとか、どこか身体の調子が悪いという感じではなかったし。

 いったいどうしたのだろう。


「にゃー」

 彼が起きたらしい。


「いったい、なにがどうなったの?」

「にゃ」

「教えてくれたっていいじゃない」

 彼の話では、すぐに解るというのだが……。


「にゃ」

「性格悪~い。面白がってるでしょ?」

 ヤミが尻尾で返事をしている。


 窓から光が入ってきているので、朝か昼らしい。

 私が畑にいたときは夕方だったはず。

 一晩たってしまったのか。


「う~ん……」

 突然のできごとに悩んでいると、ドアが開いた。

 入ってきたのは金髪のメイドさん。

 彼女は、飲み物が載ったプレートを持っている。

 話したことはないが、領主邸で見た顔だ。

 私が魔法で洗濯の手伝いをしたときにもいたと思う。


 やはりここは領主の屋敷らしい。


「あの~?」

 声をかけた私に気づいて、メイドが仰天した表情になった。


「え! 領主様! 聖女様が! 聖女様がお目覚めになりました!」

 メイドはなにか持ってきたらしいのだが、ドアを開きっぱなしにして、そのままどこかに行ってしまった。

 それより、聖女とか言ってた?

 聖女ってなに?


「聖女?」

「にゃー」

 あの畑で、やはりなにかあったようだ。


 ベッドから降りて柔らかなクッションの縁に座る。

 あちこち確認してみるが、身体に問題はない。

 それなのに一晩たってしまったらしい。

 いったい、なにがあったのだろう。

 どこへも行くことができず、そのまま待っていると、ドカドカと廊下を歩いてくる音が近づいてきた。


 開きっぱなしになっていたドアから顔を出したのは領主。

 後ろをついてきたククナを部屋に入れると、人払いをさせてドアを閉める。

 部屋には3人だけ。

 彼が私に近づくと、いきなり赤い絨毯に膝をついた。


「え?! 領主様、なにを?」

 彼の後ろからついてきた、ククナも一緒に膝をついた。


「ノバラ様が聖女様だとはつゆ知らず、今までのご無礼をお許しください」

「あ、あの! その聖女ってのは、どういうことなんですか?」

「なにも覚えていらっしゃらない?」

「はい」

 彼から話を聞く。

 私が祈った瞬間、膨大な青い光が放たれて、疫病に侵された一面の芋畑を浄化したらしい。


「ほ、本当ですか?」

 いや、領主が嘘をつくはずがないのだが。


「はい、一緒にいた農夫たちや、騎士団も目撃しております」

「はぁ……」

 とりあえず、間抜けな返事を返すことしかできない。

 聖女ってマジ?

 この世界の住民から聞いた話では、聖女ってのは癒やしの奇跡ってのを起こせるらしい。

 私が芋畑を浄化したのが、それってことになるのだろうか?

 人間の怪我や病気を治せるなら、植物の病気も治せる道理だが――未だに信じられない。


 いつも仲良くしてくれたククナも、黙って膝をついて下を向いている。

 大きな隔たりができたようで寂しい……。


「聖女様」

「はい――あの、その聖女ってのは止めていただくわけには……」

「そうはまいりません」

「ですよね、はは……」

「あなた様が聖女ということは、どこか他の世界からやって来た稀人ということで間違いないのでしょうか?」

「聖女というのは、他の世界からやって来た人――というのは決まっているのでしょうか?」

「そのとおりです」

 これは、もうごまかすことはできない。


「あの……領主様のおっしゃるとおり、私は他の世界からやって来ました」

「や、やはり!」

 領主が顔を上げると、明るい表情を浮かべている。


「聖女というのは召喚されるものだと聞きましたが、誰に召喚されたのでしょうか?」

「隣の帝国が、聖女召喚を行ったという噂を聞き及んでおりますが……」

「それじゃ、それに失敗して私が森に放り出されたのかな?」

「最初は、森の中にいらしたのですか?」

「そうなのです。いきなり放り出されていたところを彼に助けてもらったのです」

 私は、ヤミの毛皮をなでた。


「にゃ」

「君は知ってたんじゃないでしょうね?」

「にゃー」

 おかしいとは思っていたらしいが、聖女だとは思わなかったようだ。


「はぁ……」

 ため息をついてしまった。

 領主がじっと私を見ているのだが、少し後ろにいるククナは黙って下を向いたまま。


「あの――これから私はどうしたらいいのでしょうか?」

「ティアーズ領から国王陛下に報告をいたしますので、間違いなく招聘されます」

「にゃー」

「そうよね……」

 聖女の存在を隠していたなんてことがバレたら、この領地に謀反の疑いあり――と思われても仕方ないという。


「しかし、その前に! その前に! 1つだけ、我々の願いを聞き届けていただけないでしょうか?!」

「芋の疫病のことですよね?」

「そのとおりでございます!」

「もちろん、それには協力いたします。ここの人たちが大飢饉に遭ったりしたら嫌ですし」

「ありがとうございます」

「それに、ここで疫病が広がってしまうと、他の領地にも飛び火するかもしれません」

「可能性は大かと……」

 その前に確認したいことがある。


「その、私の力ってやつで、畑の全部が浄化できたわけではないのですね?」

「はい、かなり広範囲に渡って病魔を駆逐できましたが、他の地域でも疫病は広がっておりまして」

 こりゃ、やるしかないでしょ。


「承知いたしました。う~ん、それじゃ――国王陛下への連絡は少々遅らせて、その間に処置をしましょうか?」

 報告をしたら、即呼ばれる可能性が高いようだ。

 うわ~、面倒なことになった。


「ありがとうございます!」

「でも、浄化されるところを見られてしまったのですよね?」

「あそこは領の直営農場ですから、すぐに箝口令を敷かせました」

「でも、私が作業を始めると、噂がすぐに広まるような気がするのですが」

「私が不忠のそしりを受けるのは構いません。なにとぞ――なにとぞ、民の命をお救いください!」

「それはもちろん。ククナ様も、王都に留学するのを楽しみになされてましたし」

「お姉さま……」

 彼女が泣いているが、泣くことはない。


「それじゃ、一仕事しますかぁ! この街には、すごくお世話になったし」

 知り合いも沢山できたし。

 そんな人たちが沢山悲しんで路頭に迷うなんて、我慢ができない。


「にゃー」

「そうよね」

「ありがとうございます」

 領主が頭を下げるのだが、偉い人にそんなことをされると、どうにも落ち着かない。


「あの~、私に敬語はいらないんですけど……」

「そうはまいりません。おそらく、国王陛下も聖女様がお相手なら敬語で話されると思いますよ」

「ええ?!」

 マジか~。


「うにゃー」

「君、面白がってない?」

「にゃ」

 なんの責任もないネコにしてみたら、これは面白いことなのだろう。

 少なくとも、森の中にある一軒家で昼寝しているよりは面白いはずだ。


「あの、もちろんこの領を助けることについてはやぶさかではないのですが、その前に確かめたいことがあるのです」

「はい、なんなりと――」

 芋の疫病なので、回復薬ポーションで治るんじゃないかという、私の仮説を領主に話す。


「なるほど、それは思いつきませんでした」

「症状の軽い場所がそれで治るなら、もっと迅速に処置できるのではないでしょうか」

「そのとおりですな」

 しかし、事態は急を要するので、被害が酷い場所に早速向かうことになった。

 やれ、忙しい。


 ――と、その前に食事だ。

 昨日、倒れてからなにも食べてないので腹ペコ。

 自分で自分に癒やしの奇跡を使っても、腹は膨れないと思う。


 その前に、メイドさんが入ってきて、白い寝間着から着替えさせてくれる。

 ひらひらのついた、白いロングドレスだ。

 この世界のトレンドらしく、胸の所と背中が開いている。

 胸と背中はいいが、脚を出すのが駄目なのは同じだ。

 私の黒いワンピースと魔法の袋も返してもらったので、その中に入れた。

 聖女ってことになってしまったからには、もう黒い服は着れないのかもしれない。


「君は留守番してて?」

「にゃー」

「ついてくるの? だって、また倒れるだけだよ?」

「にゃ」

 ついてくるようだ。

 寝室に食事を持ってきてもらうと、とりあえず詰め込むだけ詰め込む。


 その被害現場に行って、力を使ったらまた倒れると思うし。

 そうなると2日連続で飯抜き。

 自分の身体が心配になる。

 いくらすごい力が使えるといえど、無制限に使えるはずがない。

 それ相応の対価が必要になるはずだ。


 食事をしながら目的地について聞く。

 すでに、各地から被害の報告が上がってきているらしく、私が倒れている間に次に癒やす現場の選定をしていたようだ。

 手際がいい。


 ここティアーズ領の各村々や街は、それぞれ騎士爵や男爵などが治めており、それらの貴族は領主の寄子だ。

 そこから情報がもたらされているのだという。

 前々から芋が枯れるなどの事態が起きていたが、ここ数日で一気に進行したようだ。


「もぐもぐ――腹ごしらえもできたので、それじゃ行きましょう」

「にゃー」

「もう行儀なんて言ってられないよ。緊急事態よ」

 領主のあとをついて、廊下を歩いて玄関に向かう。

 ククナはお留守番のようだ。


「領主様、彼も一緒でいいですか?」

「構いませんよ」

 黒いヤミのことよりも、私のこの白い恰好のほうが気になる。


「あの~、やっぱりこの恰好じゃないとマズいのでしょうか?」

「聖女様に、魔女の恰好をさせるわけにはまいりません」

 やっぱり、とほほ。

 黒いワンピースも気に入っていたのになぁ。


 玄関から出ると黒い馬車が止まっており、護衛の騎士団が10人ほどいた。

 騎士団の団長を始め、ヴェスタや他の騎士も膝をついている。

 農場の視察の際には5人ほどだったのに倍増している。

 私がパンピーから聖女様にレベルアップしたせいだろう。


 それはいいのだが――騎士の中にグレルがいた。

 寄宿舎で私を襲おうとした男だが、彼は黙って下を向いている。

 警護をするってことは、私のことも聞いているだろう。

 その場に、団長やヴェスタ、他の騎士もいたわけだし。


「まさか、あなたに護衛してもらうことになるとは思わなかったわ」

「……」

 私の嫌味に対しても、彼は黙って下を向いたまま。


「あの、領主様」

「なにか?」

「聖女っていうぐらいだから、やはり純潔というのは大事な要因になるのでしょうか?」

「無論です」

 なるほど~そうなのか。

 私が召喚されたってことは、そういう条件にも当てはまってたってことか。

 別に後生大事に取っておいたわけじゃなかったのに……。

 ただ、勤めていたブラック企業のせいで、その出会いがなかっただけで。


「あのとき、誰かさんに本当に襲われていたら、この領はなくなってたかもしれないってことですねぇ」

「……」

 私の言葉に、グレルが青い顔をして脂汗を流している。

 これで少しは懲りて、言動が改まるだろうか?


 いやぁ、三つ子の魂百までもっていうしねぇ。



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