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27話 領主の屋敷にて


 悪党に家を燃やされてしまった私は、領主の娘であるククナの誘いで、領主邸にお世話になることになった。

 屋敷から少し離れた場所にある、はなれが私の棲家。

 領主のお金で家具やら道具を揃えてもらって、もういたれりつくせり。

 不満なんて言ったらバチが当たる状態。


 広い部屋に新しいベッドももらって、そこに飛び込んだ。

 ヤミは日当たりのいい場所に、専用の小さなベッドをもらって丸くなっている。

 これはククナからもらったものだ。


 私は少々浮かれているが、この家をもらったわけではない。

 厚意から借りた家なのだから、仕事をこなして恩を返さねばならない。

 とりあえず騎士団からの仕事である、回復薬ポーションの製作をすることにした。


 薬の製作に使う薬草は火事で燃えてしまったので、手元にはない。

 森に採りにいくこともできるのだが、時間がかかりすぎる。

 そこで街にある薬草問屋を使うことにした。

 回復薬は1本銀貨1枚(5万円)で売れるため、多少経費がかかっても回収できる。


 ――部屋が片付き生活環境が整った私の所に、薬草問屋がやってきた。

 黒い上下に黒い帽子をかぶった、小太りの男。

 肩まである茶色の髪で、帽子の下から覗く目は鋭い。

 一見して、あまり善人には見えないのだが、領主と付き合いがあるというのはまともな業者なのだろう。


「領主様のご命令により、こちらにお伺いいたしました、薬問屋を営んでいるバディーラでございます」

「私は魔女のノバラ。よろしくお願いいたします」

「ククナ様から魔女の手助けをしてやってくれと言われて驚いたが、本当に魔女なんだな?」

 丁寧な挨拶だと思ったら、いきなり本性が出た。

 ならば、こちらも遠慮する必要がない。


「もちろんよ。魔女が気に入らないというのなら帰ってもいいけど?」

「そんなことをしたら、ククナ様に嫌われてしまうだろうが」

「ええ? まさか子どもに色目を使っているとか?」

「ククナ様は、成人していらっしゃるぞ?」

 彼女ぐらいになるともう大人扱いなので、彼女は大人なのだ。

 当然、ヴェスタも大人。

 実際に騎士団の仕事をして、立派に稼いでいるし。

 どうも元世界の常識が抜けない。


「あ、そう――まぁいいわ。それじゃお仕事の話をしましょ」

 テーブルにつかせると、薬草茶を出してビジネスの話に入る。

 材料を書き出し、図鑑を見せて確認する。

 使う薬草は4種類。

 赤い実はすでに採取してある。


 ものはすべて問屋で扱っているそうだ。

 子どもや獣人たちが、小遣い稼ぎで森で採取してくるものを買い取っているという。

 値段は高くないので、本当に小遣い稼ぎってやつだ。

 まぁ、元々はそこら辺に生えている草だからね。


 たとえば元世界に生えていたヨモギやドクダミなども立派な薬草だが、そこら辺に生えていたし。

 安いものもあれば、高いものもある。

 元世界の冬虫夏草みたいなものとか。


 私は、袋の中から赤い実を取り出すと、男に見せた。


「これは取り扱ってる?」

「……これはない。生じゃなければ使えないもので、乾燥させても保存が利かないからな」

「それは残念」

「余っている赤い実があれば買い取るが?」

「冗談――あなたに売るより、自分で薬を作って売ったほうが金になるでしょ?」

「ぐぬぬ……」

 キツネとタヌキの化かし合いみたいになっているが、商売なんてこんなもんだろう。


「これで材料が揃いそうだけど、金額はどのぐらい取るの?」

「これだ」

 男が指を立てる。


「銀貨1枚?」

「金貨だ」

「高っ! 子どもたちから安く仕入れているのに?」

「お前が注文したものは特殊な薬草だ。簡単には手に入らん」

 ありゃ~! あの庭に生えていた薬草の中には貴重なものも含まれていたらしい。


「燃やされてしまったのが、殊の外痛い……」

「それに買い取ったものが全部使えるわけじゃないからな。よいものを選り分けて、適切に処理をして保存しなければならん。お前だって森の薬草で薬を作って銅貨で売っているんだろうが」

 魔法を使えるようには見えないが、男の魔女みたいな男だ。

 私の足元にヤミがやってきて、スリスリしている。


「気分を害したのなら謝罪するわ」

「……」

「にゃー」

「そうね、私が悪かったわ」

「構わん。いつも言われることだ」

 商売の経費が理解されないってのは、あるあるか。

 私だって小物のデザイン料で、「こんなちょこちょこと描くぐらいで、なんでこんなに高いんだ」ってよく言われたしね。


回復薬ポーションそのものは、扱ってないの?」

「性能のいい回復薬を作れるものがいなくてな」

「まぁ、薬を作れる魔女たちは直接客に売ってるしね」

「そうだ」

 それでも回復薬を頼まれることがあるという。

 魔女や魔導師を探して、高値で買い取るわけだ。

 商売なので儲けを乗せて売る。

 仕方ない。


「回復薬も余っているなら買うぞ?」

「あいにく、私の作るものはすべて騎士団が買い上げることになっているので」

「そうか……」

 気のせいか、男が困った顔をしているように見える。

 薬が欲しいのだろうか。

 どうしても必要なのであれば頼んでくるだろう。

 私としては、騎士団との約束を果たさなくてはならない。


 話が済んだので、男が帰った。

 明日にも材料は揃うという。

 それじゃ、すぐに製作にかかれるわね。


 男が帰ると、ククナがやって来た。


「お話は上手くいった?」

「ククナ様のおかげでございます」

「もう! 私と2人のときは、もっとくだけた感じでいいのに」

「そうはまいりません。私の家なら誰もいませんでしたが、ここでは誰が聞いているか解りませんし」

「もう、お姉さまったら!」

 彼女が私に抱きついてきた。


「――あの男は、いかにも悪人面なのですが、信用できるのですか?」

「ふふふ」

 ククナが私の言葉に笑っている。


「え? どうしました?」

「彼は、そのことをすごく気にしているから言っちゃだめよ?」

「そうなんですか?」

「彼は、あんな顔をしているけど、すごく善人なの」

「本当ですか?」

「ええ、身寄りのない子どもたちを引き取っては、養ったり薬の作り方を教えたりしている」

 人は見かけによらないと言うが、私は彼に悪いことをしてしまったかもしれない。


 そのまま夕方になると、食事の時間になる。

 食事は、はなれに持ってきてもらっている。

 ククナは私と一緒に食べたいようなのだが、親を放置して魔女と食べるのはマズいだろう。

 私としても、偉い人と食卓で顔を合わせるのも疲れるので遠慮させてもらっている。

 家族の団らんに毎回顔を突っ込むこともないだろう。


 魔法のランプが灯る下――食事はとても美味しく、種類も多い。

 テーブルの上に、沢山のお皿と色とりどりの料理が並ぶ。

 メイドさんがカートに乗せて運んできてくれる。

 まさに上げ膳据え膳だ。

 この世界でも金を積めば美味しいものが食べられるようだ。


 ただ、フォークがなくて、スプーンとナイフで食べるのは慣れない。

 箸が使えればいいのだが、私の後ろでメイドさんがじっと見ていて緊張する。


「にゃー」

 テーブルの下ではヤミも肉を食べているが、美味しいらしい。


「よかったわね」

「にゃ」

「こんな料理を毎日食べてたら、破産するでしょ」

「にゃ」

 別に凝った料理じゃなくても、自分で獲った鳥を塩焼きしただけでも十分な美味さがある。

 金があれば、香辛料が使えるという点は大きいが。


 食事が終わるとメイドさんが片付けてくれるし、汚れた食器を洗う必要もない。

 あまりにも快適過ぎて、少々いけない気分になってくる。

 こういうところが底辺なんだろう。


 食事のあとはやることもないので、図鑑を見て薬草の勉強をする。

 知識だけは魔法でなんとかできないので、自分での努力が必要。

 これからの自分の人生のためなので苦にはならない。

 毎日、少しずつでも積み上げていくことが肝要だ。


 本を読んでいると、ククナがやって来た。


「えへへ、来ちゃった」

「王都の学校に行くという話でしたが、勉強をなさらなくてもよろしいのですか?」

「いいのよ、私ってば優秀だから」

 本当に大丈夫なのだろうか?

 自分で優秀という人に、優秀な人間があまりいないのが気になる。


「お姫様が自室にいないと、メイドさんが心配するのでは?」

「外にいるから、もうバレてる」

 どうやら彼女についてきて外で待っているらしい。

 メイドという仕事も中々大変だ。


 彼女はヤミをチラリと見たのだが、追いかけるようなことはしなくなった。

 じっと待って、彼の気まぐれを待つしかないと解ったからだ。

 いやに人懐っこいネコもいるのだが、彼は違う。

 完全に自立していて、人がいなくても困ることがない。


 椅子に座ったククナが澄まし顔で私と話していると、ヤミがポンと彼女の膝の上に乗った。

 膝の上で丸くなった彼の黒い毛皮を、お姫様が微笑みながらなでている。


「そうだ、ネコの下僕になる魔法を使いたいって言ってましたよね?」

「ええ! 使いたい! それを使えばクロと話せるようになるんでしょ?」

「なりますけど――それはつまり彼の本性を聞くわけで、その――あまりいい性格ではありませんよ。彼は」

「にゃー」

 私の言葉に、彼は不満があるようだ。


「どの口で、そういうことを言うの?」

「いいの! 彼と話したい!」

 彼女の決意は固いようだ。

 子どもにこんなことをさせてもいいのだろうか?

 いや、この世界では彼女はすでに大人。

 なにかあっても自分で対処しなくてはならない歳なのだ。


「解りました」

 自分の袋から魔法の本を出した。

 正式な魔導師は、こういう街で売っている魔法の本などは最初から馬鹿にしているのだろう。

 ククナも初めはそんな感じだったし。


 本を開いて、該当するページを見せる。


「この魔法です」

 あとは、彼女に読んでもらって魔法を使ってもらうしかない。

 なにせ人に教えるほど、魔法に詳しいわけでもないのだ。


「ふ~ん……」

 パラパラと本を読んでいるのだが、その前にヤミに確認を取らなければならない。

 この魔法は双方の合意が必要なのだ。


「ねぇ、ククナ様が魔法を使いたいって言ってるんだけど、いいの?」

「にゃー」

 問題ないらしい。

 双方の合意というが、人の言葉が解らない普通のネコが相手のときはどうするのだろうか?

 それともこれは、特別なネコに対する特別な魔法なのだろうか?

 彼女は魔法を唱え始めると、膝の上に乗っていたヤミがジャンプして、テーブルの上に座った。

 正式な魔導師になるっていうぐらいの才能があるなら、街の魔法などでつまづくこともないだろう。


 ヤミとの間に赤い魔法の線が現れた。


「それを指で触れればいいのよ」

「これを……?」

 彼女がそっと赤い線に触れると、私のときと同じようにそれは弾けてキラキラと床の上に散らばった。


「それで大丈夫だと思うけど……」

「え? どうなったの?」

「にゃー」

「あ! 解る! クロの言葉が!」

「にゃ」

「こちらこそ、よろしくね!」

 彼女がヤミに抱きつこうとしたら、スルリと逃げられた。


「にゃー」

「はぁい……」

 触られるのが嫌だと、はっきりと言われてしまったので、彼女がしょんぼりしている。

 言葉が解るということは、こういうことも伝わってしまうのだ。


「彼の好みの女性を教えましょうか?」

「え? 教えて!」

「ネフェル様をご存知ですか?」

「ネフェル……あ、ああ、ヴェスタのお母様ね」

「ヤミは、ああいう女性が好きみたいですよ」

 ククナがじ~っと彼を見ている。

 プレッシャーに耐えられなくなったのか、顔を洗ってごまかしているが。


「解った」

 解ったというのは――諦めるということなのか、それともネフェル様のように振る舞うつもりなのか。


 ヤミとの魔法の契約が終わると、ククナがドアを開けて外にいたメイドさんとなにか話している。


「どうしたのですか?」

「今日はここに泊まるから、メイドを帰したのよ」

「いいのですか?」

「もちろん! お姉さま!」

 彼女は私に抱きついたあと、服を脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと?!」

 自分の魔法の袋から黒いワンピースを取り出すと、それに着替えたのだが。


「やっぱり、お姉さまと一緒のときには、これじゃないと!」

「こんな恰好をして大丈夫ですか?」

「メイドたちは知っているから」

 この脚を出した服装は大丈夫なのだろうか?

 まぁ、脚を出しているといっても、脛がちょっと見えるぐらい

 先輩が残してくれたワンピースは、ククナにはそんなに短くはない。

 私が着ると完全にミニスカートなのだが。


 この世界でも、子どもの女の子は短いスカートを穿いていることがある。

 要は、子どもっぽい服装ということになるのだろう。


「メイドさんたちは、なにもいいませんでした?」

「また、お嬢様の悪い遊びが始まったとか言われたわ」

 彼女はちょっとお転婆っぽいし、いつもメイドを困らせているのかもしれない。

 私が悪い遊びを教えていると、文句を言われないだろうか。


 少々心配しながら、私も服を脱いで寝間着のミニスカワンピースに着替える。

 膝辺りのミニスカでも色々と言われるなら、元世界の太もも剥き出しのあれは、なんと言われるだろう。


 2人してベッドに飛び込むと、彼女の袋に入っていた魔法の本を見せてもらった。

 正式な魔導師になるための本だ。

 あれこれ難しいことが書いてあって理解できない。

 多分、魔法の原理的なものが解説してあるのだろう。

 これは私には無理だと思った。

 元々、学校の成績だってよくなかったし。

 それはすなわち、私に魔導師は無理ってことになる。

 ククナの話では――試験には国の地理や歴史の問題もあるのだから、異世界人の私にはナニソレだ。


 そんな小難しい勉強をしなくても、魔法は使える。

 光の矢は大木をなぎ倒し、壁に大穴を開けることができる。

 これ以上必要ない気もするが、他にはどんなものがあるのだろうか?


「あと、よく使われる魔法というのは、どんなものがあるのですか?」

「そうね――聖なる盾(プロテクション)の魔法かしら」

「それはどういうものなのですか?」

「知らないの?」

 知らないし知るはずがない。

 私が知っている魔法の知識は、先輩が持っていた本だけだ。


「はい」

「透明な壁ができて、敵の攻撃を防いだりしてくれるものよ」

 ははぁ、映画やアニメで出てくるバリアみたいなものか。

 それはすごい!

 宇宙船の映画でも、攻撃のビームと透明なバリアはセットだし。

 それは使えそうだ。


「それって、私にも使えそうですか?」

「う~ん、私も使ったことがないから、解らないわ……」

 彼女に、その魔法が載っている本を見せてもらう。

 相変わらず、よく解らない理論が書いてあるが――魔法を起動できれば、なんの問題もない。

 いつもは体内で循環させている魔法を撃ち出して攻撃に転化しているわけだが、それを目の前に固定化させるようだ。


 なんとなく理屈は解ったような気がするので、本に載っている魔法を試してみることにした。

 これは防御のための初歩的な魔法らしい。


「むう~ん!」

 魔力を身体の前に集中させていく。


「す、すごい魔力なんだけど――お姉さま……」

聖なる盾(プロテクション)!」

 青い光が集まって、透明になっていく。

 目の前に波ガラスのようなものができて、景色がゆらゆらと揺れているのが解る。


「できた?!」

「すごい、お姉さま! 1回目で魔法を成功させるなんて……」

 集中を解くと、それは光の粒子になって消えた。


「ふう!」

 初めての魔法なので、力の使い方がよく解らなくて効率が悪い。

 全身に余計な力が入っているというか、無駄なことを強引にやった感じだ。

 慣れれば、もっとシンプルに起動できるはず。

 光弾の魔法も慣れることによって、すぐに撃ち出せるようになったし。


「すごいすごい! お姉さまは王宮魔術師、レオス・フォン・パンキー様に匹敵するかも!」

 初歩的な魔法なんでしょ? ちょっと大げさな。


「レオス? その人はすごいのですか?」

「ええ! 成人するまでに、ほとんどの魔法を修めたという神童で、私の憧れなの!」

 弱冠20歳ほどで王宮魔導師筆頭になったという、なにやらすごい人らしい。


「そんなすごい人と比べられても――私はタダの魔女ですし」

「そんなことはないわ! お姉さまも、多分すごい魔法を使えると思う」

「ええ~、自分の周りを守れるだけで十分なんですけど……」

 強大な力やら権力を持つと、それに群がってくるやつらが出てくる。

 そんなやつらに興味はないし、まして仮面を被って付き合うなんてまっぴらごめんだ。


 それはおいておいて、新しい魔法の練習をしたいのだが、ククナを追い出すわけにもいかず相手をする。

 ベッドの上で女子会っぽくあれこれ話してみるも、この世界のことなんてなにもしらないし、流行りものもわからない。

 悲しいかな歳も違いすぎる。


「この街には、娯楽というものはないのですか?」

「そうねぇ、王都まで行けば劇場があったりするんだけど」

 そこで演劇などが行われているという。


「地方でも、旅巡業の劇団が回ってきたりするのよ」

「へ~、そういうのがあるんですね」

 元世界でもそんな話があったな。

 私の親の話では――ど田舎でも、公民館(死語)などを使って上映会をしたらしい。

 彼女が言うには、王都まで行けば歴代の聖女がもたらした色々な文化を堪能することも可能らしい。

 もちろん大金を積めばだが。


 そういう文化は王侯貴族や金持ちが独占しており、一般市民までは降りてきていないということのようだ。


「でも、ククナ様だって貴族様なんですよね? そういう文化をたしなんでいらっしゃるのでは?」

「うちは領主と言っても、そんな裕福じゃないし……楽しめるのは紅茶ぐらいよ」

「王都に行ったときに、楽しんだりはしなかったのですか?」

「クリーム!」

「クリーム?」

「そう! 白くて甘いふわふわよ! 王都で食べたあれは、すごく美味しかったわ!」

 話を聞くと、クレープのようなお菓子のようだ。


「それも聖女様がもたらしたものなのですか?」

「そう言われているわ!」

「……それなら、私が作れるかもしれませんよ」

 学生の頃に、生乳から作ったことがあるのだ。

 もちろん市販のもののようには、うまくいかないが。


「え?! 本当?!」

 彼女の目がキラキラと輝く。


「ええ、牛乳があれば――あと、卵も欲しいですね」

 卵があればパンケーキを作れるし。

 あと、バニラエッセンスとか――いや、アイスにするわけじゃないから必要ないか。


「卵と牛乳なら、領直営の農場から手に入られるわ」

 元世界で売っていた牛乳は成分が調整してあるので、クリームやらバターを作ったりはできない。

 作るなら牛から搾ったままの生乳が必要だ。


「砂糖はありますよね?」

「ええ!」

「それじゃ、回復薬ポーションの製造が終わったら、試しに作ってみましょうか?」

「やったぁ! お姉さま!」

 彼女が私に抱きついてきた。


「失敗するかもしれませんから、いまのうちに謝罪しておきますね」

「お姉さまなら大丈夫!」

 生乳からバターや生クリームを作るなんて久しぶりなので、覚えているだろうか。

 成功すれば、食生活が1段階パワーアップするに違いない。


 魔法の練習もしたいし、やりたいことが山積みだ。

 まずは、回復薬ポーションの製作をしなくては。

 

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