24話 悪党どもと燃える家
騎士団から回復薬の注文を受けたのだが、大量だったので材料が足りない。
そこで、森に詳しい獣人たちに助けを求めると、ニャルラトが在り処を知っているらしい。
彼の案内で材料を集めることができた。
順調に材料集めも終わり、あとは家に帰って薬を作るだけだったのだが――。
帰ると家が燃えていた。
なにを言っているのか解らないとは思うが、私にも解らない。
私とヤミの絶叫が森に響いた。
「なんでぉぉぉ!」
「ふぎゃぁぁぁ!」
突然のできごとにめまいがして馬から落ちそうになり、ヴェスタに抱えられた。
ここで苦労した思い出、先輩魔女の追憶が詰まった日記がフラッシュバックする。
こんな所に消防施設などがあるはずもないので、消火なんてできない。
轟々と燃える家を黙って見ているしかないわけだが、家の周りに人がいるのに気がついた。
物騒なことに、皆が剣などで武装しているのだが――その中に知った男がいる。
「ジュン様! あの黒い服の男! ククナ様をさらった男です!」
「なに!?」
「取り逃した賊どもがなぜ、ここに?!」
騎士たちが馬上で剣を抜いた。
周りには12~13人ほどがいたのだが、服装を見ても堅気には見えない。
それに、白い法衣のようなものを着ている連中がいる。
あれは魔導師ではないのだろうか?
私の記憶が確かならば、あれは街の魔女を虐めていたやつらだ。
私の家に火を点けたのも、こいつらに違いない。
――ということは、組織が壊滅したことに対して私への意趣返しか。
やつらの目的は私ということだろう。
そう気づくと心に怒りが湧き上がってきて、初めて人を殺してやりたいと思った。
「ヴェスタ様、私を降ろしてください」
「し、しかし……」
「どのみち私を抱えたままでは、戦えないでしょう?」
「承知した」
馬を降りた私は、男たちの所に行く。
「家に火を点けたのは、お前らね!」
「この糞魔女が! お前のせいで組織はズタボロになったんだぞ!」
叫ぶ黒い男の横に、毛皮のジャケットを着た、背の低い小太りの男がいた。
髭を生やして髪は薄く、キュ○ピー人形のような頭だ。
「そんなことで、私の家に放火したの?!」
「フシャァァ!」
私の足下にやってきたヤミも毛を逆立てて怒っている。
そりゃそうだ。彼の寝床も灰になっているのだから。
「組織をやり直すにしても、とりあえずお前には落とし前をつけさせねぇと、気が収まらねぇんだよ!」
「この、くそチンピラ共がぁ……」
先輩が苦労して建てて、艱難辛苦をともにした家を……。
私なんかが受け継いたせいで灰にしてしまった。
彼女になんと詫びればいいのだろうか。
黒い男が叫んだ。
「前は、お前の魔法にやられたが、今日はこっちにも魔導師がいる! お前のような魔女じゃなくて本当の魔導師だぞ!」
「「「おおお~っ!」」」
悪党どもが盛り上がっている。
紹介された魔導師が前に出てきた。
「私の家を特定したりと、あなたたちがやったんでしょ?! 魔導師のくせに悪党どもに手を貸して恥ずかしくないの?」
「ふ! 私たちは、金を貰えば仕事をするだけ」
答えたのは女のほうだが、こっちがリーダーらしい。
「それじゃ、そこにいるチンピラどもと変わらないじゃない!」
「この者から話を聞いて、私たちにふざけたことをやって逃げた魔女だとすぐに解ったぞ?」
女がまるで、私を親の仇のように睨みつけている。
「呆れた! それじゃ、そんなつまらないことで私を探し出して、この家に火を点けたってこと? 冗談でしょ?」
もう怒りを通り越して、あまりにもくだらなすぎてめまいがする。
「くっ! 魔女なんぞに魔導師が舐められて、やっていけるはずがないだろう!」
「ありゃ~、そんなに魔導師様の誇りを傷つけたなんて、思いもつきませんでしたわ。小者の考えることは理解できなくて、ごめんなさいねぇ――おほほほ!」
「貴様ぁ~!!」
私の嫌味に激怒したのか、魔導師達の顔つきが変わった。
「にゃー」
ヤミの話では、敵に魔導師がいたことで魔法を逆に探知されてしまったようだ。
家にかかっていた結界を魔導師が解除してしまったらしく、限られた人たちにしか見えなかった家が、今は丸見え。
結界が生きている状態で火事になったら、ここはどんなふうに見えたのだろうか?
「お前たちは、そちらをやれ!」
魔導師がチンピラたちに指示を出した。
男たちの相手は、騎士たちだろうが――大丈夫だろうか?
彼らをチラ見すると返事が返ってきた。
「はは、案ずるな」
「そのとおりですよ、ノバラ」
私が心配しているのを見透かされたのだろうか。
「はぁっ!」
団長とヴェスタが、馬に気合を入れると男たちの中に突っ込んだ。
体重が1tぐらいありそうな巨大な馬がぶつかったら、車に轢かれるようなもの。
男たちが、弾き飛ばされて草むらに突っ込んだ。
「やぁ!」
馬上からヴェスタの振った剣が、1人の男の頭を斜めに両断した。
スイカのように割れた頭から、真っ赤ななにかが吹き出す。
「うわ!」
私は目を背けた。
前に見たときには、建物の中で斬り合っていたので解らなかったが、今回初めて人が斬り殺されるシーンに遭遇してしまったわけだ。
「ぐわぁ!」「こんな場所に騎士がいるなんて聞いてねぇぞ!」
どうやら、ここには私1人で住んでいると思っていたらしく、騎士がいたのは想定外だったようだ。
そりゃ、今回たまたまいたんだけどね。
「魔導師の先生方! 騎士をどうにかしてくださいよ!」
「この魔女を片付けたら相手をしてやる! 悪党なら、それぐらい持ちこたえろ!」
「そんな無茶な!」
魔導師が私に向き直った。
「行くぞ~! 魔女など魔導師の足元にも及ばないことを見せてやる! 我が内なる力から生み出されし灼熱よ――」
男と女が唱え始めたのは、ファイヤボールの魔法だ。
この魔法は、本に書いてあった魔法と同じらしい。
魔法を撃たせるわけにはいかないので、先制攻撃を仕掛けることにした。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
瞬時に組み上がった白い光の矢が、敵に向かって撃ち出される。
「「な?!」」
魔導師たちが驚く間もなく、魔法の矢が彼らに次々と命中した。
早さを優先してすぐに発射したので、威力はそれほどない。
これで死ぬことはないだろう。
複数の魔法の矢を食らった魔導師が、もんどり打って草むらにひっくり返る。
「ぐあっ!」「ひぃ!」
男の魔導師は、ひっくり返ったまま動かなくなった。
「ぐぬぬ……ば、馬鹿な……」
女のほうは、まだ意識があるようだ。
私は草むらに這いつくばる女の前に立った。
「私の家を燃やした恨みは、こんなもんじゃないわよ……」
「ま、まて――ぎゃあぁぁぁ!」
その場で魔法の矢を10発ほどぶち込んでやった。
「ふん!」
殺しはしない。
本当は殺してやりたいと思ったのだが、私にその権限がない。
ここで裁けるのは騎士たちだ。
「うぎゃぁ!」
私が魔導師たちと遊んでいる間に――悪党どものほとんどが、騎士たちによって斬り殺されていた。
チンピラと本職の騎士の間には、そのくらい戦力の差があるらしい。
毎日そういう訓練をして、しかも腕の立つ人間だけを集めている。
ククナを誘拐した黒服の男も、すでに屍になっていた。
もう取り調べやらをするつもりはなく、ここで根絶やしにするつもりらしい。
「こ、こんなのやってられるかぁ!」
残っていた男たちが、バラバラに逃げ始めた。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
私の魔法を使い、逃げる敵の背中を撃って足止めをする。
ヴェスタが馬を降りて、ひっくり返っている敵に止めを刺し始めた。
無慈悲に淡々と、人間の体に剣を突き立てる。
「う……」
目をそむけて、その光景をなるべく見ないようにした。
残るは敵のボスだけである。
「フシャァァ! ふぎゃぁ!」
「うわぁぁ! な、なんだこのネコは?!」
叫び声のする方向を見ると、ボスの顔にヤミがへばりついていた。
男が彼を引き剥がすと、顔にすだれ状の傷が入っている。
「ひぃひぃ」
その場から逃げようとしたボスの前に、馬を降りた団長が立って剣を振り上げた。
自らの処刑を前に腰が抜けたのか、男が尻もちをついて右手を伸ばす。
「待て! す、すべて話すぞ! お、王都の組織のことも知りたいのではないか?」
こんな場所で命乞いをしても、どうせ死刑になるだけだと思うのだが。
「ノバラ」
「はい、なんでしょう?」
「こいつに、さっきの魔法を撃ち込んでやれ」
「はい」
団長に言われたとおりに、キュ○ピーみたいな頭をしている男に、光弾を撃ち込んだ。
男は一発食らっただけで、ひっくり返って動かなくなった。
「ふう――これで全部か」
「そうみたいですね」
「ノバラ! 家が燃やされてしまって……」
ヴェスタが私のところにやってきて、心配そうな顔をしている。
美少年に心配されるなんて女冥利に尽きるが――もう、こうなってしまっては、元に戻すことはできない。
「ははは……どうしましょう」
そう力なく答えるしかない。
「にゃー」
ヤミが私のところにやってきた。
「ねぇヤミ……どうしようか……」
彼を抱き上げて黒い毛皮をなでる。
「これで我々の事案はすべてが解決できそうだが、ノバラを巻き込んでしまった。申し訳ない」
「いいえ、私が起こりの話でもありますし……」
いや――根本は、あの魔女のBBAが密告したからだ。
あれが、すべての元凶ということになるが――でも、あれがなかったらククナが誘拐された現場に行くこともなかったし……。
彼女の命と比べたら、家1軒で済んでよかったのかもしれない。
「ノバラ……」
ヴェスタが心配顔なのだが、私も落ち込んでばかりではいられない。
「はぁ――あの、ヴェスタ様? あの魔導師たちはどうなるんですか?」
「協会に任せることになるだろう。魔導師は騎士団では裁けない」
「にゃー」
騎士団と魔導師協会は仲が悪いらしい。
「どのぐらいの罪になるんですか?」
「この悪党どもは間違いなく死罪だが、魔導師たちは資格を取り上げられて終了だろう」
「魔法を使えても魔導師じゃなくなるってことは――私と同じ魔女になるってことですか?」
「そうだ」
「にゃー」
ちなみに、男でも魔女というらしい。
そう言われるのが嫌で、魔法を使えても男で魔女をやっている人は少ないみたい。
「へぇ、そうなんだ」
少々処罰が甘いような気もするが、こいつらは魔導師ってだけで鼻高々だった。
そこから転落するってことは、最大の罰になるのかもしれない。
随分と偉そうにしていたが、私と同じ身分になるってことだし。
「にゃー」
「え?」
ヤミは装備を剥ぎ取れという。
そりゃ、前に剥ぎ取っておけばよかったと思ったけどさぁ。
「あの――ジュン様……」
「なんだ?」
「彼が、悪党どもの装備を剥ぎ取れって言うんですけど……」
「ああ、構わんぞ? お前は家を燃やされたのだから、それぐらいの権利はある」
どうやら、やってもいいらしい。
「そっちの魔導師もですか?」
「そりゃ、こういう状態になってしまっては、なにをされても文句は言えませんよ?」
ヴェスタが苦笑いをしている。
もう魔導師でもなくなるし、なんの後ろ盾もなくなるわけね。
「そうなんだ」
異世界のルールに少々戸惑うが、逆にいえば私がこうなる可能性もあるってことだ。
すべてを奪われて、殺されたり放り出される。
実際に街の衛兵にそんなことをされそうになった。
それを肝に命じておかないと。
慣れないことで少々気が引けるが――ヴェスタの言ったとおり、こっちは家を燃やされているんだ。
その分は回収させてもらうしかない。
つ~か! 今でも目の前で家が燃えてるし!
轟々、メキメキって盛大に燃えてるよ!
ふざけんなよ! マジで!
ヤミが座ってじ~っとその様子を見ている。
彼は、私より長い間あそこに暮らしていたわけで――それだけ愛着もあるだろう。
先輩との思い出もいっぱい詰まっているはずだ。
「ここに住めなくなっちゃったから、街に行く?」
「……」
彼は黙ったままだ。
しばらく1人にしておいてやろう。
私は、女の魔導師を蹴飛ばしてひっくり返すと、腰の当たりをまさぐる。
短剣と刺繍がされた赤っぽい袋があった。
これって魔法の袋でしょ?
やった! こいつらの持っているものを全部いただこう。
もう、本当に裸一貫で放り出されるんだから、情け容赦は捨てた。
男の魔導師の持ち物は、腰の短剣だけ。
男女2人の短剣は、飾りがついたりしていて値が張りそう。
これはもらった。
男は手ぶらだが、おそらく荷物は女の袋の中なのだろう。
なるほど、そういう関係かと察しがつくが、女のほうが主導権を握っていたような気がする。
続いてチンピラのボスだ。
デブの腹など触りたくないが――こっちにも魔法の袋があった。
他にはなにも持っていない。
袋があれば持つ必要はないのだから、当然だ。
魔法の袋を見ている私の所に、団長がやってきた。
「ノバラ、そいつには悪事の証拠が入っているかもしれん」
「そうですね。それでは、これはお渡しいたします」
「感謝する。中身を確認したら、お前に全部渡すからな」
「いいんですか? 大金が入っているかもしれませんよ?」
「ああ」
彼が、燃えている家を指した。
元世界でいうところの損害賠償に当てろというのだろう。
黒服の男の腰にも袋があったが、これは普通の袋だ。
中に金貨と銀貨が数枚入っていた。
これも当然もらう。
あとの雑魚は、なにも持っていない。
剣が転がっているが、粗悪そうで切れ味が悪そう。
売っても大した金にはならないだろう。
ヴェスタがやってきて剣を拾ったのだが、チラ見してすぐに捨ててしまった。
まぁ、私の目から見てもなまくらにしか見えなかったし。
団長は縄を出すと生け捕りにした者たちを縛り始めた。
手首と足首を固定して動かなくしたようだ。
「ジュン様、これからどうするのですか?」
「ヴェスタに騎士団まで行ってもらう。我々だけでは運べないからな」
応援を呼ぶようだ。
「ノバラ、大丈夫ですか?」
「はい、ちょっと動揺してますが、平気です」
「そうですか――それではジュン様、行ってまいります」
「頼む」
馬に乗ると、ヴェスタが森の中に消えていった。
戻ってくるのにどのぐらいかかるだろうか。
1時間? いや、報告やら人を集めたりするだろうから2時間ぐらいはかかるか。
それまで死体と一緒か。
恐ろしいことだが、なんだか慣れてしまった――いや、家がなくなってしまったので、ヤケクソになったというべきか。
ヤミとひそひそ話をする。
「ねぇ、袋に死体って入らないの?」
「にゃー」
入らないらしい。
犯罪に使われる可能性が高いからのようだ。
なるほど……。
便利なものを作ると、それを犯罪に利用しようとする輩が出るのねぇ。
ただ待っているのも暇だ。
「ジュン様、お茶でも飲みましょうか?」
「女だと、こういうときには震えているものだが、随分と肝が据わっているな」
「はぁ――もう慣れました」
魔法の袋からお茶の道具を出した。
落ちている剣を拾って地面に穴を堀り、カマドを作っていると、私を呼ぶ声が聞こえる。
「ノバラ-! ノバラ-!」
この声は、ニャルラトだ。
「ニャルラト! こっちよ!」
「ノバラ!」
彼が私の所に、すっ飛んできた。
「どうしてここに?」
「大人たちが、森から煙が上がっているというから! なんだよあれ! 家が燃えているじゃねぇか!」
「そうなのよねぇ、燃えちゃったのよねぇ」
「いったい誰が!」
「そこにひっくり返っているやつらが……」
ニャルラトが、草むらに埋まっている死体を見て、飛び上がった。
「うわぁぁ! こいつらは?! ノバラがやったのか?!」
私は首を振った。
そうなれば、あとは騎士しかいないのが彼にも解るだろう。
「王都からやってきた悪党なんだって」
「な、なんでこんなことに!」
彼に経緯を話す。
「ただの逆恨みじゃねぇか!?」
「そうなのよねぇ……」
「そうなのって……」
「ちゃんと騎士団の人たちが、それ相応の報いを受けさせてくれるから。大丈夫よ」
慌てていたニャルラトだが、私が冷めているので一緒にクールダウンしてしまったようだ。
「こ、これからどうするんだよ……」
「どうしようね……」
「にゃー」
ヤミがやってきたので、抱っこしてなでなでする。
そうしているうちに、お湯が沸いたのでお茶を淹れた。
精神的に疲れて甘いものも欲しいので、りんごを剥いて魔法で温めることにした。
切り身にしたりんごに魔法を使う。
「温め」
りんごが茶色になったので、団長とニャルラトに渡す。
「ほう、リンカーを温めて食べるとは……甘くて美味い」
団長がりんごを食べて微笑んでいる。
さすが歴戦の勇士だ。
こんなことで食欲が落ちたりはしないらしい。
むしゃむしゃと食べているのだが、ニャルラトは食欲がないらしく、りんごを手にもったまま固まっている。
「酸っぱい果物もこうやって食べると結構甘くなるんですよ」
「リンカーなんて食っている場合なのか?」
呆れ果てていたニャルラトが口を開いた。
そのとおりだ。
家は轟々と燃えて熱気は顔に伝わってくるし、あちこちに死体の山があるのに、呑気にお茶とか頭がおかしい。
「もう、なるようにしかならないし」
「呑気だな!」
私も座ってお茶を飲む。
ククナからもらった紅茶に、りんご焼きはよくあう。
これで家が燃えてなくて、死体の山がなかったらよかったのに。
「はぁ……」
もうため息をつくしかない。
「行く所がないのなら、騎士団の寄宿舎に来ればいい」
「あそこですか?」
「ああ」
「でも……」
「騎士たちにはきつく釘を刺しておくし、なによりお前はククナ様の恩人だ。なにかあれば、我々がお咎めを受ける」
「……」
私が悩んでいるのを、団長が気がついたようだ。
「あの男か?」
私は黙ってうなずいた。
あの男とは、寄宿舎で私を襲おうとした男のことだ。
「お前が飛び出して行ったあと、ヴェスタとグレルが斬り合いになりそうになったんだぞ?」
「そうだったんですか……」
「あいつは女癖は悪いが、危険を冒してまで手を出すことはない」
「それじゃ、私はちょろそうに見えたんですね」
「はは、そうかも」
実際、私はまったく警戒してなかったし。
団長とヴェスタしか見てなかったから、騎士団ってのは真面目な人しかいないものだと勝手に思い込んでいたのだ。
「そんな所に行くより、俺たちの村にやって来なよ! 皆、歓迎するぜ?」
ニャルラトの言うとおり、獣人たちの村に行く手もある。
「う~ん、やっぱり街のほうがいいかなぁ……」
ものが全部なくなってしまったので、色々と揃えるにも街のほうがいいだろう。
せっかくもらったベッドも絶賛炎上中だ。
それに騎士団の寄宿舎なら大きなベッドもあるだろう。
「ちぇ! こんな奴らについて行ったら、なにをされるか解ったもんじゃないぜ?」
「言ってくれるな少年」
「ふん!」
「団長さんとヴェスタは素晴らしい方よ」
「……」
私が騎士の肩を持つので、ニャルラトは面白くないようだ。
草をむしったりして、すねている。
紅茶を飲みながら、改めて燃えている家を見る。
「周りに木がなかったから、森に延焼しなくてよかったかも」
「違うぜノバラ。ここにあった木を切って家を建てたんだ」
「ああ、そうか!」
ここも森だったに違いない。
木を切りながら、木材を作って家を建てたのか。
逆に街で家を建てるとなると、どこかから運んでこないと駄目なので、手間暇がかかるってことだ。
家を建てるなら森の中のほうが都合がいいのか。
魔物に襲われるというデメリットはあるが。
「うう……はっ! こ、これは?!」
どうやら女の魔導師が目を覚ましたらしい。
縛られているので、ジタバタしている。
「はいはい、おとなしくしててね」
「やかましい! 下賤な魔女の分際で、魔導師の私にこんなをことをして――」
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
「うぎゃぁ!」
沢山の光の矢が女に撃ち込まれて静かになった。
その光景を見ていたニャルラトがドン引きしている。
「ノバラ、俺帰る……」
「ごめんねニャルラト。悪人どもに家を燃やされて魔女の仕事ができなくなってしまったと、村の人たちに伝えて」
「うん、解った」
私が街のほうを選んだので、ショックだったのだろうか。
彼は、しょんぼりして森の中に消えていった。
悪いことをしてしまったかもしれないが、寄宿舎のほうが設備が揃っているし、衣食住に困ることがない。
すべて失ってしまった私には渡りに船なのだ。
残されたのは私と団長、そして沢山の死体の山。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「人を殺すのは恐ろしくないのですか?」
「……それは、深く考えないようにしている」
彼が、紅茶を飲みながら小さくつぶやいた。
「そうなのですか?」
「殺された者にも家族やら家庭があったなどと考えたりしていたら、こんな仕事はできん。生真面目なやつは、すぐに心を病んだりするしな」
それじゃ人材不足にもなるわね……。
「それじゃ、ヴェスタ様などは?」
「ああ、やつは大丈夫だ。優男に見えるが、中身は真っ赤に燃える鋼のような男だからな」
この団長がそう言うのだから、そのとおりなのだろう。
それから2時間あと、ヴェスタとリアカーのような馬車が戻ってきた。





