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21話 ガールズトーク


 この地方を治めている領主との謁見を済ませて、家で料理などを作っているとお客様だ。

 やって来たのは、領主の娘であるククナと護衛のヴェスタ。

 こんな所まで遊びに来たのかと思っていたら、私が望んでいた大きなベッドを持ってきてくれたようだ。

 これで足を伸ばして眠れる。

 先輩の残してくれたベッドも中々よかったのだが、私には小さすぎた。

 やっぱり足を伸ばせないとぐっすり眠れないのだ。


 ククナからお土産などをもらい喜んでいたのだが、彼女がここに泊まると言い出した。

 もちろん護衛のヴェスタもかなり困っている。


「あの~ククナ様? ここは身分の高い方が泊まる場所ではないと思いますが……」

「そんなことはないわ。私はここが気に入ったし!」

 いやぁ、気に入ったとかそういう問題では……。


「ベッドも1つしかありませんよ?」

「ノバラと一緒に寝ればいいじゃない」

「え~?」

「いやなの?!」

「そうではありませんが……ほら、ヴェスタ様も困っておられますよ」

「ククナ様、領主様が心配なされます」

「心配って――ノバラがいれば、なんの心配もいらないわ」

「……」

 ヴェスタがすごく困っている。

 美少年の困り顔も中々よいのだが、宮仕えというのは大変な仕事である。


「今日は、ここに泊まるから! 明日の朝に迎えに来てね。これは命令よ!」

「……承知いたしました」

 彼が頭を下げた。


「え? いいのですか?」

「命令には逆らえません。危機的な状況でもありませんし」

 命令に従ったというか、諦めに近いようが気がする。


「ヴェスタ様がお叱りを受けたりとか」

「私がお父様に頼めば大丈夫よ。私の言うことなら、なんでも聞いてくれるんだから」

 話を聞くと一人娘らしいし、よく目に入れても痛くないっていうけど、そんな感じなんだろうな。

 うちの父親とはえらい違いだ。

 まぁ、こんな可愛い子が娘なら、そうなのかもね。

 私なんて、デカいだけだし。


 うちの両親も背がそんなに大きくないのに、私だけなぜデカいのか。

 会ったことがないのだが、母方の祖父がすごく背が大きい人だったと聞く。

 母親も隔世遺伝かなんかじゃないの? ――とは言っていた。


「申し訳ございません、ヴェスタ様」

「いえ、ノバラが悪いわけではないので」

「なぁに? 私が悪いと言いたいわけ?」

「そうではありませんが、領主様のお気持ちを考えていただきたいだけです」

「もちろん考えてはいるけど、今日はここに泊まります」

「承知いたしました」

 彼女の決意の固さに、彼も説得を諦めたようだ。


「いっそ、ヴェスタ様も一緒に泊まっていただくというのは?」

「だめよ! だめぇ!」

 ククナが、また私に抱きついてきた。


「いいえ、私も一旦戻って領主様に報告をしなければなりませんから」

「ああ、そういえばそうですねぇ」

「それでは……」

「あ! そうだ!」

 私は、魔法の袋からポトフの入った鍋を取り出した。

 袋の中に入っていた鍋は、まだ温かい。


「ヴェスタ様と、ネフェル様にスープのお土産はどうでしょう?」

 クッキーとチョコのお土産があるが、このスープの評価も聞いてみたい。


「よろしいのですか?」

「ええ――お口に合えばよろしいのですが……」

 彼に少し味見をしてもらうことにした。

 小皿に盛ったスープを、ヴェスタが口に運ぶ。


「美味しい……です」

「よかった」

「ああん! ノバラ、私にも~」

「はい、どうぞ」

 ククナもスープを口に運んだ。


「ん~、これはワイン煮ね」

「そうです。お屋敷でも作られるのですか?」

「よく食卓に並ぶけど、こんなに美味しくはないわ……」

「果物を煮詰めたものを少々加えているのですが、そのせいでしょうか」

「果物?!」

「はい」

「作り方を教えてもらってもいい?」

「ええ、別に秘密でもなんでもないですし」

 お姫様の口にも合うってことは、味に問題はないってことだ。


「あ! 味のお墨付きはいただきましたが、どうやって持っていってもらおう……」

 多分、お墨付きってのは通じないと思うが。

 私とククナは魔法の袋を持っているのだが、彼は持っていない。

 便利なグッズに慣れてしまっていたために、うっかりしていた。


「使っていない壺などはありませんか?」

「それならあります」

 屋根裏部屋に上ると、埃をかぶった壺を降ろしてきた。

 口の大きさに合った木の蓋も見つけたから、それも使おう。


「すご~い、こういう秘密の部屋があるのね?!」

「別に秘密じゃないですよ。ククナ様のお屋敷にも、屋根裏部屋があるでしょう?」

「ええ、普段は物置になっているわ」

「うちの屋根裏もそんな感じです」

 魔法を使って綺麗にする。


洗浄クリーン!」

 普通はタワシを使ったりと色々と大変なのだが、魔法なら一発だ。

 壺がきれいになったので、その中にスープを入れて木の蓋をする。


「これなら鞍に括りつければ運べますよ」

「よかった」

 ヴェスタが柵の外につないでいた馬の所に行くと、準備を始めた。

 外には、もう1人騎士が待っているのが見える。

 あれこれ話をしているようだったが、他の騎士も諦めたようにうなだれた。

 ヴェスタは話をしながら自分の荷物の中から縄を出し、手慣れた手付きで壺を鞍に縛り付けている。

 まぁ、しょっちゅうこういうことをしているのだろう。

 ロープワークも見事だ。

 私も教えてもらわなければならない。

 私が知っている団子結びやら蝶々結びだけでは、ああはならない。

 こんなことになるなら、ロープワークのネット動画でも見ておけばよかった。

 ――とはいえ、仕事でそんな時間も取れなかったけど。


 ロープの扱いは、ニャルラトが知っているだろうか。

 お菓子を駄賃にして教えてもらおう。

 出発の準備ができたようで、彼が馬に乗った。


「それではヴェスタ様。また街でお会いしましたときには、よろしくお願いいたします」

「ククナ様を頼みます」

「承知いたしました」

 いいのかな~と思ったのだが、それだけ私のことを信頼してくれているということなのだろう。

 困った表情をした2人の騎士を乗せて、馬が森の中に消えていった。


「ふぅ……」

 思わずため息をついてしまった。

 別にお姫様のことが嫌いなわけではない。

 なにかあったときの後処理の面倒くささを考えてしまうと、ため息が出てしまっただけだ。

 まぁ、こんな森の中の一軒家じゃなにもないと思うけど。


 家に戻る。


「ククナ様、ヴェスタ様がお帰りになりましたよ」

「そう」

「でも、本当にいいのですか?」

「大丈夫よ」

「こんな森の中のあばら家で、なにもすることがないと思いますけど……」

「そんなことはないわ! ノバラとお話ししたいし、ノバラが薬を作っているところも見たいし――魔法の話もしましょう!」

 彼女は、私のことを色々と知りたいようだ。

 いったいなにが彼女の琴線に触れたのだろうか。


「かしこまりました」

「もう! 私と2人のときには、かしこまる必要はないから」

「でも、ご無礼があってはなりませんし」

「いいの!」

「解りました」

「やったぁ!」

 彼女が私に抱きついてきて上目遣いで見てくる。

 金髪は綺麗で柔らかそうだし、青い目はキラキラ、確かに可愛い――可愛いのだが。


「ねぇ、ノバラ……」

「なぁに?」

「お姉さまと呼んでもいい?」

「はい?」

 まぁ、彼女の様子から、こんな感じになるんじゃないかと思っていたんだ。

 こういうことは初めてではない。

 私は背が大きいせいか、学校ではなぜか同性からモテた。

 ラブレターもらったりとか、バレンタインのチョコをもらったりとか、そういうことがあったのだ。

 これで運動とかできたらもっとモテたのかもしれないが、あいにく私は運動音痴である。

 社会人になってからは女性に告白されるようなことはなかったのだが、ここにきてこうなるとは……。


「だめ?」

「身分の違いがあるでしょ?」

「もちろん、私と2人のときだけよ」

「それならいいけど、私としては同性に興味は……」

「私だって、夫は男性を選ぶから大丈夫よ」

「まぁ、それなら」

「よかった!」

 私も妹がほしいと思ってたことがあるから、妹ができたと思えばいいか。


「この歳で妹ができるとか」

「お姉さまは兄弟姉妹は?」

「弟が1人いるけど、10年以上会ってないなぁ」

「お姉さまの弟なら、やっぱり背が高い?」

「いやぁ、やつはそんなに高くないけど」

 家族親戚の中で、私だけ背が高いのだ。

 なにかの病気かもしれないと検査を受けたこともあったのだが、至って健康。

 背が大きくて得したことはなかったので、少々恨めしくもあった。


「そうなのね」

 彼女と家族の話をする――といっても、異世界にやってきたのだから、もう戻れないと思うが。


「故郷にはもう帰らないの?」

「帰らないというか、帰れないというか」

「さびしくはない?」

「多少はねぇ……でも、女は家から出るものだし……ククナ様は、実家を継ぐ大事なお勤めがあるのでしょうけど」

「私のことは、ククナと呼んでいいわ」

 彼女はそう言うのだが……。


「さすがに、それは身分的にマズいのでは?」

「2人きりのときなら問題ないでしょ? それに絶対、お姉さまは身分の高い方だと思うし!」

「ええ~? 実家は農家ですよ?」

「農民がそんな礼儀作法を身に付けているはずないじゃない」

「私の所はそうだったの」

「やっぱり元貴族とか?」

「曽祖父の代はあまり知らないのよねぇ」

 あまり突っ込んだことを聞かれると色々とヤバそうなので切り上げる。

 彼女は不満気だが、プライベートなことを色々と話すつもりもない。


 話は薬のことになった。

 薬といっても薬草を乳鉢で擦るだけである。


「それじゃ、回復薬ポーションはどうやって作るの?」

「ククナ様は……」

「ククナ!」

 本当に呼び捨てでいくつもりだ。


「ククナは回復薬を作ったことがないの?」

「ないわ」

 魔導師という人たちなら、誰も作るものかと思っていたのだが、そうでもないらしい。


「原料と魔力があれば作れると思いますが……」

「高品位なものを作るのは難しいと聞いたけど」

「他の人がどういうものを作っているのか知らないので、そこら辺はよく解らないのよねぇ」

 リクエストをもらったので、回復薬ポーションの製作を見せてあげることにした。

 寝室に行って、天井からぶら下がっている薬草から使うものを選別する。

 庭の木の根元に実っている赤い実もまだあったはずだ。


 庭に出て赤い実を採ってくると、テーブルの上に並べた。


「これが、回復薬ポーションの原料なのね」

「多分、この赤い実が肝じゃないかな~と思ってる」

「へぇ~」

「少ししかないので、数が作れないのよね」

「ねぇ、作って見せて~」

「それじゃ、やってみようか」

 いつもと同じように、材料を煮出し魔力を注いでいく。

 完成したものを魔法の袋から出したガラス瓶に入れた。


「こんな色の回復薬なんて見たことないんだけど!」

 彼女は手にもった瓶を掲げた。

 やっぱり普通のものとはなにかが違うらしい。


「これを見た人にはそう言われるけど、効き目はあるから大丈夫よ」

「綺麗~」

 明かりに透かすと、キラキラと光っているものが見える。

 光っているのが、なんなのか不明だ。


「ヴェスタ様のお母さんも、これを飲んでよくなったみたいだし」

「すごい! これって、なにか特別な力がある回復薬ポーションなんじゃない?」

「そんなことはないと思うけどなぁ」


 話題は魔法の話になった。


「私の魔法を見せると、驚く人が多いんだけどなぁ」

「お姉さまの魔法を見せて」

「う~ん、光よ!(ライト)

 目の前に光の弾が浮かんだのだが、それを見たククナが固まっている。


「……す、すごく魔法の展開が早いんだけど……」

「そうなの?」

「ええ――普通は……んん~~~~~~~~~光よ!(ライト)

 彼女も光の玉を出して見せた。

 明かりの大きさは同じだが、灯るまでに10秒ほどかかっている。

 大魔導師ってレベルでも、数秒はかかるらしい。


「やっぱりお姉さまは……」

「うちにあった本で、勉強しただけなんだけどなぁ」

「その本を見せて」

「ええ」

 彼女に見てもらっても普通の本のようだ。

 そりゃ、ここに住んでいた先輩のお婆さんが買った本なのだから、街で売っていたものなのだろう。


「書いてあることも普通ね」

「ここに書いてある魔力循環もよくやっているわよ」

 魔力循環を見せてやる。

 大きな樽を持つように手を広げると、青い光の輪がくるくると回り出す。


「そ、そんなに多くの魔力を循環とか普通はできないから!」

「そうなの?」

 彼女に普通の魔力循環の見本を見せてもらう。

 私と似たようなポーズだが、光も弱く輪が薄っすらと見える程度。


「ククナは王都に行くと魔導師になれるぐらいに魔力があるんだよね?」

「ええ」

「それじゃ私は、とんでもなく魔力が多いってこと?」

「そう!」

「そうなんだぁ。私以外に魔法を使える人にあったことがなかったからなぁ」

「住んでいた所に魔導師はいなかったの?」

「うん、そうなの」

「にゃー」

 そこにヤミがやってきた。


「そういえば、君もおかしいって言ってたよねぇ」

「多分お姉さまが王都に行ったら、大魔導師になれると思う……」

「でも、あまり興味はないなぁ……試験とか受かりそうにないし」

 ククナが私に抱きついてきた。


「やっぱり、私の目に狂いはなかったわ! お姉さまは絶対にすごい人なんだから」

「そうなのかなぁ……って、街であまり言いふらさないでよ?」

「どうして?」

 彼女のキラキラの目が眩しい。


「面倒な人たちが寄ってくると思うから」

「やってきてもお姉さまなら平気でしょ?」

「いやいや、街での身分は低いから、問題が起きたら私が不利になるじゃない」

「そんなの、お父様の名前を出せば平気よ? お姉さまほどの魔導師なら、お父様も雇いたいと思うし」

「魔導師じゃないし。う~ん、私は縛られるよりは、ここで薬を作っているほうがいいかなぁ」

 生活が安定しそうなのは、ちょっと魅力があるけどね。

 それと引き換えに色々としがらみができるし、好き勝手はできなくなるし、元世界のブラックのような仕事が舞い込んでくるかもしれない。


「解ったわ……」

「ありがとう。でも、街で騒ぎも起こしちゃってるし、いずれはバレそうな……」

「魔法のことは人には話さないけど、お父様に回復薬を購入することは勧めていいでしょ?」

「それは私もお金になるから嬉しいけど……」

「やった! 薬は騎士団でも使うし、結構重要な戦略物資なのよ」

「それって――戦争のときに使ったり?」

「そうね。戦じゃなくても、魔物退治などがあればどうしても必要になるし」

「それじゃ赤い実を探さないと駄目ね」

 村の獣人たちなら森の中に詳しいから、赤い実がなっている場所を知らないだろうか。


 そのあとも彼女との魔法談義は続き、色々な情報を得ることができた。

 彼女の魔法は、魔導師になるための正統派の魔法だ。

 ただ、どちらが正しいというわけではないらしい。

 数学の解法に色々な解き方があるように、魔法へのアプローチも色々とあるということのようだ。

 彼女が魔女の魔法を外法と言っていたのは、そういうことがあるからだろう。

 まぁ、そのことについては、あれこれ言うつもりもない。


 魔法の話が終わったら、今度は女性らしく化粧やファッションの話だ。

 大金を出せばそれなりに化粧品も揃うらしい。

 私が心配していた、鉛や水銀についても危険性が十分に知られているという。


「そういうのも歴代の聖女による知識なの?」

「はい。聖女の召喚に成功すれば、違う世界の知識などが手に入ると言われているから」

「違う世界ねぇ……」

 違う世界っていえば私もそうなんだけどぉ……。

 私も誰かに呼ばれたことになるのかな?

 そういうことなら、なにか専門職の女性が呼び出されたりすれば、もたらされる知識はすごいかもね。

 たとえば、お医者さんとか。


 それはいいとして――私のように人生やけくそになっている人なら、異世界に来ても諦めもつくだろうが、元世界で幸せだった人が連れてこられたりしたら困るんじゃないのかな?


「元世界に帰せ!」

 ――とか言い出すだろうし、協力を拒否することだってありえるわけだし。

 そう考えると迷惑な話よね。


 そういえば――大きな国が聖女の召喚に失敗したって聞いたけど……まさか、それに巻き込まれたとかそういうの……?


「ねぇ、ククナ。召喚された聖女と呼ばれた女性が、協力を拒否したとかそういう話はないの?」

「ええ? 聞いたことがないけど……」

 聖女として発表される人は協力的な人だけで、そうじゃない人は闇から闇へと――ってそういう話?

 政治ってのは裏があるのが普通だし、それはそれで怖い。


 それなりの地位と衣食住は保証してくれて、イケメンも沢山いるし――まぁ、いいかって人が多いってことなのかな?

 若いときならそれでもいいだろうけど、歳をとったら故郷が懐かしくなるような……。

 現職の聖女がいるなら、そこら辺の話を聞いてみたいような気がする。

 記録とか日記とか残ってないのかな?


 ククナと話をしていると辺りが暗くなってきた。

 魔法のランプを灯して食事にする。

 メニューはポトフと、おひたしサラダ、黒狼の肉を焼いたもの。

 彼女はスプーンで食べているが、私は自作の箸だ。

 やっぱりこれじゃないと食事がはかどらない。

 スープだけなら、スプーンでもいいんだけどね。

 肉やおひたしを食べるなら箸のほうが便利だ。


「にゃー」

 私の足下にヤミがやってきた。


「え?」

 彼の話では外に誰かいるようだ。

 慌てて魔法を唱えて光の玉を出すと、ランプを手に取った。


「ノバラ、どうしたの?」

「外に誰かいるようなので、確認してきます!」

 家の外に出ると、暗闇にオレンジ色の光が見える。

 どうやら焚き火をしているらしい。

 少し警戒しながらそこに近づくと、大きな馬と鎧を着た金髪の男の子が座っている。


「ヴェスタ様?」

「ノバラ」

 私の顔を見た彼の顔が輝く。


「街にお戻りになったのでは?」

「戻って領主様に報告してきたよ」

「それで、ヴェスタ様だけここに戻ってきたのですか?」

「ああ、ククナ様になにかあったら大変だからね。領主様にも了解を取ってある」

「怒られませんでしたか?」

「領主様は頭を抱えておられたよ」

 彼が苦笑いしているが、領主様もおてんば娘に困っているようだ。


「まぁ、そうでしょうねぇ――なにか食事を持ってきましょうか?」

「いや、ノバラからもらったスープがあるから大丈夫だ」

 家の中での食事を勧めてみたのだが、断られてしまった。

 ここで野営するらしい。


 家に戻るとランプの青白い光の下――料理をテーブルの上に並べる。


「ノバラ、外に誰かいたの?」

「ヴェスタ様が護衛のために野営をしておいででした」

「……ちょっと悪いことをしちゃったかしら?」

 一応、そう思っているらしい。


 席につくと料理を一緒に食べる。

 ちょっと光が青っぽいと美味しそうに見えないのが、玉に瑕だ。

 ヤミにも味つけしていない肉をあげると、美味しそうに食べている。


「みんな美味しい!」

「貴族のお姫様の口に合ったようでよかった」

「屋敷の食卓に出ても大丈夫なぐらいよ。それにこのパンも柔らかくて美味しいわ」

「それも私が焼いたパンよ」

「お姉さまが焼いたの?」

「ええ」

 彼女が、おひたしをスプーンで掬った。


「これは?」

「それは、カブの葉っぱなんだけど……お姫様はカブの葉っぱなんて食べないよね」

「カブは食卓にのぼることもあるけど、葉っぱは食べないわ」

 まぁ、下々の者の食事になったり、家畜の餌になっているのかもしれない。


「変なものを食べさせちゃって大丈夫?」

「美味しいから平気」

「よかった! それにしても――やっぱり香辛料があると料理の味が違うわぁ」

 味にアクセントが加わって、料理が締まるって感じがする。

 肉の臭みも取ってくれるし。


 食事が終わったら寝室に移動して、ガールズトークタイムだ。

 ベッドの上でパジャマで語り合うことにしよう。

 ここにはパジャマはないから寝間着だけどね。

 その寝間着も、ククナが用意してきていた。

 彼女が袋から取り出したのは、白い絹のワンピース。

 裾にフリルがついているのだが、よく似合っている。


「もう、最初から泊まるつもりだったのね?」

「えへへ」

 着替えるので、ヤミを屋根裏に上る階段の所に出す。


「にゃー」

「ダメダメ、年頃の女の子の裸を見せるわけにはいかないでしょ?」

「私なら構わないけど……」

「本当に?」

「ええ」

「にゃー」

「調子に乗らないの」

 ランプの灯りの下で、2人で裸になる。

 お姫様はやっぱり綺麗ねぇ。

 それに若いし――こちらは、お肌の曲がり角が来ているのだから、どうしても敵わない。

 ――とか思っていると、抱きつかれた。


「ちょっと裸で抱きつくのは……」

「お姉さま、肌が綺麗」

 お肌の曲がり角のことを考えていたので、そう言われて少々嬉しかった。


「そう? ありがとう」

「んん~」

 困った、ククナが離れてくれない。

 いくら女同士でも、裸で抱き合うのはちょっと……。

 もうちょっと歳が近ければ、キャッキャウフフもできるのだろうけど。


 それにしても、日本人は若く見られることが多いっていうけど、私も若く見られているのかもしれない。

 自分から歳を言ったことがないし……。


 私はいつもの黒いミニスカワンピースに着替えたのだが、脚を出した私の姿を見てククナが固まっている。


「こういうのは駄目なんでしょ? でも、これしか持ってないのよね~」

「お姉さま――なんてはしたない……でも素敵……」

「いずれは、女の人のスカートが短くなって、こういう恰好をするようになるわよ」

「そうかな?」

「まぁ、解らないけどね~」

 召喚されていた人がいるって話だったが、ミニスカは流行らなかったのだろうか?

 やっぱり反対されたんだろうな。


 私の恰好をはしたないと言った彼女だったが、興味があるらしい。

 黒いミニスカをじっとみている。

 私は、魔法の袋から黒いワンピースを出した。

 先輩が着ていた魔女の服はまだある。


「ククナも着てみる?」

「……はい」

 ちょっと迷っていたようだが、禁忌に触れることに興味があるのだろう。

 イケナイことをやってみたい年頃なのだ。


 彼女が黒いワンピースを着た。

 白い脚が黒い裾から出ている。


「可愛い……」

「お姉さまとお揃いね!」

 もう、モデルが可愛いからなにを着ても可愛いよね。

 ちょっとズルいかも。


「にゃー」

「あら、君もそう思う」

 ヤミが彼女の脚の所に行ってスリスリをしている。


「気をつけて、そいつはスカートの中を覗くからね」

「クロならいいけど」

 ククナが彼を抱き上げると、ベッドの上に一緒に倒れ込んだ。


「ベッドが一気に大きくなったから、2人でも余裕ね。あ、まさか、このために……」

「どうかしら」

 彼女がクスクスと笑っている。

 どうやら意外と策士のようだ。

 諦めて2人と1匹で寝るが、それでも十分な大きさがある。

 私が大の字になっても平気――これでぐっすりと眠れる。


「お姉さま、クロと一緒に寝られるなんて……この時間がずっと続けばいいのに……」

「ゴロゴロ……」

 ヤミの喉がゴロゴロしているのが聞こえる。


 彼女は寂しいのかもしれないな。

 この先、1人で王都の学校に行くことになるみたいだし。

 領主の娘だからお供が沢山つくと思うけど、心細いに違いない。

 そのためにヤミを欲しがったと言っていたし。

 でも彼を連れていかれると困るのよね~。


 まぁ、彼も行く気はないと思うけど。



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