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20話 森の中のお茶会


 ここらへん一帯を治めている領主に呼び出しをくらった。

 いったいなにかと思っていたら、娘を助けてくれたお礼をしたかっただけらしい。

 とりあえず礼儀作法などはその場しのぎだったのだが、問題なかったようだ。

 その礼儀作法だが、街の住民たちは敬語すら知らないという。

 まぁ、そういう教育を受けていない人たちに、敬語を使えと言っても無理なんだろうなぁ――と思う。

 街には学校すらないみたいだし。


 領主の娘を助けたお礼に、ベッドをもらうことにした。

 悪いが、先輩の残してくれたベッドは私には小さすぎた。

 面倒ごとに巻き込まれて色々と大変だったが、結果的にはベッドや香辛料などの貴重品をゲットできた。


 ――ヴェスタの馬に乗り、家に帰ってきた次の日。

 早速、手に入れたもので料理を作ることにした。

 サラダを食べたいと思ったのだが、葉物の野菜はないようなので、カブの葉っぱを使う。

 軽く茹でてから、おひたしのようにして千切りのカブと合わせる。

 その上から今回作ったドレッシングをかけた。

 ドレッシングのレシピは、ワインビネガーと油、そして香辛料と塩のシンプルなもの。

 そこに砂糖を少々加えた。


 できあがったドレッシングの味見をしてみたが、問題ない。

 もらった油は、オリーブオイルのような風味だが、オリーブではないような気がする。

 油の正体をヤミは知っているのだろうか。


「ねぇ、この油ってなんの油か解る?」

「にゃー」

「そうなんだ!」

 この油は、森に生えていた白いフワフワの種から絞ったものらしい。

 あの種は小さかったから、油を絞るとなると相当な数を集めなければならないはず。

 そりゃ大変だ。

 高いのも納得。


 おひたしサラダを食べる。


「うまー!」

 おひたしにした葉っぱと、シャキシャキした生のカブの歯ごたえがよく、絡まったドレッシングも美味い。

 元世界で食べた大根の葉っぱが美味しかったので、カブの葉っぱも試してみたけど、捨てるのがもったいないぐらいに美味しい。

 やはり香辛料が入ると、全然違う。


「よし! たくさん作るぞ!」

 作りすぎても魔法の袋の中に入れておけばいいのだ。

 庭のカブを掘り起こして、ポトフも大鍋で作る。

 花が咲いているカブもあるので、後で種を取ろう。

 自給自足だ。

 いざとなったら料理を売ったりもできるはず。


「にゃー」

「君の言うとおり、街で大量に野菜を買ってくるって手もあるんだけどね~」

 手間暇をかけるならそっちのほうがいいような気もするが、元々ものづくりは好きだし、こういうのも苦ではない。


 数日をかけて料理などをしていると、ヤミが反応した。

 どうやらお客さんらしい。


「ノバラ-! いるんでしょ?!」

 私は、ノックと一緒に聞こえてきた声に耳を疑った。


「ええ?! ククナ様?!」

 ドアを開けると、白いブラウスと青いロングスカートを穿いたツインテールの女の子が立っていた。


「遊びにきちゃったー!」

 そう言うと、彼女が私に抱きついてくる。

 びっくりして思わずドアを開けてしまったのだが、私は髪にブラシもかけておらず後ろで結んでポニーテールにしただけ。


「こ、このような恰好でお出迎えしてしまい、申し訳ございません」

「もう! 私と2人のときには、そんなにかしこまらなくてもいいから!」

 まさか、1人でここまで来たのだろうか? ――と思っていると、護衛の騎士が顔を出した。


「こんにちは、ノバラ」

「これはヴェスタ様、お勤めご苦労さまです」

「これも仕事ですから」

 彼の言うとおり、騎士の仕事といえば身分の高い人の護衛だが、わがままお姫様に振り回されていると言えなくもない。

 遊びに来てくれたことは嬉しいのだが。

 彼女には専用の護衛がいたようだが、裏の社会とかかわりになって裏切り行為があったみたいだし。

 それにヴェスタならここの場所を知っているから、この仕事にうってつけということだろう。

 護衛は彼だけではなくて、2人の騎士が庭の外で待機しているようだ。


「こんなあばら家、お姫様の来るような場所ではありませんよ」

「そんなことはないと思うし!」

「見ていただければ解ると思いますが、領主様のお屋敷じゃ小屋ぐらいの大きさでしょ?」

「可愛くていいと思うわ」

 まぁ、可愛いのは私も同意だ。

 狭いが慣れればどうってことないし。

 元世界だって6畳のワンルームだったのだから、ここのほうがまだ広い。

 天井は低いが。


「あ~、お姫様が来ると解っていたら、お菓子でも作っておけばよかったかなぁ?」

「大丈夫! お土産を持ってきたわ」

 どうやら彼女も魔法の袋を持っているようだ。

 さすがお金持ち。

 そこから取り出したのは、クッキーと赤っぽいもの。

 四角くて表面が滑らか――色はちょっと違うが、見覚えのある形をしている。


「こ、これってもしかしてチョコレート?」

「あ! やっぱり、ノバラってチョコを知っている!」

「私の知っているものと別物かもしれませんが……」

「これは王都でも超高級品なのよ。私も滅多に食べられないんだから」

「チョコは昔からあるものなのですか?」

「ある国で召喚された聖女がもたらしたと言われているわ。詳しくは知らないけど」

 私もチョコは知っているが、どうやって作るのかなんて知らないし……。

 確か、カカオを使うのよね。

 そもそも、この世界にカカオがあるのだろうか。


「このお菓子の原料ってどこで手に入るのでしょう?」

「チョコの原料はエルフたちが栽培しているから、彼らから貿易で手に入れるしかないわ」

「エルフ……?」

「そうエルフよ!」

 ククナが得意げだ。

 私が知っているエルフといえば、ファンタジーなどに出てくるあれだが……。


「エルフって、もしかして細身で金髪で耳が長くて、男なのか女なのか区別がつかない……」

「ノバラ、彼らに会ったことがあるの?!」

「い、いいえ、そういう話を聞いたことがあるだけで……」

「王都にはエルフがいるっていうんだけど、今まで会ったことがないのよね。王宮にはエルフの大使がいるらしいんだけど」

「そうなんですね」

「只人が知らない、すごい魔法をたくさん知っているのよ」

 そういえば、ニャルラトも普通の人間のことを只人と言っていたな。

 エルフのことを話すククナはうっとりしていて、なにやら憧れのようなものを抱いているようだ。


「エルフというのは素晴らしい種族なのですか?」

「……ふう……だったらいいのだけど……」

「そうじゃないのですか?」

「排他的で、性格も悪くて身勝手――というのが、エルフを知っている人たちの評価なの」

「それを差し引いても、高い能力があるのですね」

「そうなの」

 仕事のためには、どうしても付き合わないわけにはいかないという。

 私も経験があるけど、厄介なタイプだなぁ。


 茶菓子の心配はなくなったので、お茶を入れるか。


「あ! ノバラ! お茶も持ってきたから!」

 彼女はお茶の葉っぱを出してくれた。

 色は茶色で、においを嗅ぐと……。


「紅茶っぽい……」

「ノバラ、紅茶も飲んだことがあるの?!」

「ええ、ま、まぁ……もしかしたら、私の飲んだことがあるものと違うかもしれませんが……」

 どうやら、これも聖女様がもたらしたものらしい。

 そういう類のものはすべて高級品で、街や村の人間が口にできるものではないという。


「私も飲んだことはありません」

 黙って私とククナの会話を聞いていた、ヴェスタが口を開いた。

 彼の家に泊まったときにも、紅茶は出てこなかったし。


「それじゃ、いただいたお茶を淹れてよろしいですか?」

「もちろんよ!」

「ヴェスタ様にも……」

「もちろん! 私のわがままを聞いてもらっているからね」

 最初に出会ったときは、権力を振りかざしたとんでもない女の子かと思ったのだが、そんなことはなかったようだ。


「それでは」

 私は、いつものとおり鍋で煮出そうと思ったのだが、ククナが袋からなにか取り出した。

 出てきたのは、白いティーセット。

 急須――いやティーポットもある。


「これも、ノバラにあげるわ」

「なんか、高価な品に見えるのですが、いいのですか?」

「もちろん! ノバラは私の命の恩人なんだから」

 領主の屋敷には、贈り物としてこの手の食器がたくさんあるらしい。

 権力者へのごますりのために、色々と送られてくるのだろう。

 その中の1つということか。


「ありがとうございます。大切に使いますから」

「よかった!」

 早速、いただいたティーポットで紅茶を淹れる。

 白いカップが赤く染まり――漂ってくる香りは、元世界の紅茶のそれとまったく同じ。

 まぁ、私が飲んだ紅茶といえば、そこら辺で売っているティーバッグなのだが。


 淹れ終わったので、寝室から椅子を持ってくると3人で座った。

 紅茶を飲んでみたが、元世界のものとまったく同じ。

 いや、こっちのほうが美味しい。

 そりゃ、ティーバッグじゃなくて貴族が飲むお茶なのだから、手間暇をかけて作られたものなのだろう。

 クッキーもつまむ。

 こちらも元世界のものと同じだが、甘さ控えめ。

 やはり砂糖が貴重なので、なるべく節約するレシピになっているのだろう。


「それじゃ、チョコを――」

 異世界のチョコレートはどんな味なのだろうか。

 口に含むととろける感じは、私が慣れ親しんだチョコとまったく同じだが、こちらも甘さが控えめ。

 個人的には、こちらのほうが好きかな。

 外国のお土産などは、鼻が痛くなるぐらい甘いチョコばかりだったが。

 しかも、ヌガーが入っていたりするやつ。

 紅茶やブラックコーヒーのあてにするなら、あれでもいいのかもしれないが。


「むふふ……美味しい!」

 チョコを口に含んで、ククナがにんまりしている。

 女の子らしく、甘いお菓子には目がないようだ。


「……」

 ヴェスタは、チョコを食べて放心している。


「ヴェスタ様、どうしましたか?」

「いや――こんな美味しいお菓子を食べたのは初めてだったので」

「ネフェル様に、お土産にしたらどうでしょう?」

「いいのですか?!」

「どうでしょうか? ククナ様」

「これは、ノバラにあげたお菓子なのだから、ノバラの好きにすればいいと思うわ」

「それでは、お土産にお持ちください」

「ありがとうございます!」

 ヴェスタはクッキーを2枚、チョコを1つ取った。


「手で持ったりするとチョコが溶けるので、なにか器に入れたほうがいいですよ」

「承知した。馬に鞄があるので、それに入っている瓶に入れます」

 彼は魔法の袋を持っていないので、普通の鞄を持っている。

 お母さんにお土産ができて嬉しそうだ。

 騎士の身分でも、こういうお菓子は食べられないのだろう。


「お姫様でも、こういうお菓子はあまり食べられないのですか?」

「ええ、ウチはそれほど裕福な貴族ではないし」

 大きな屋敷に住んでいるし、基本はお金持ちだとは思うが、領主ってことは経費もたくさんかかるんだろうな。


「屋敷では、たくさんの人たちが働いているみたいでしたが」

「そうね。屋敷だけでも100人はいるはずよ」

「そんなに!」

 メイドや執事はもちろん、庭師や、掃除夫、修繕などをする大工も抱えているらしい。


「それだけじゃないわ、ワインや小麦、芋を作るための農場も持っているし、そこで働く農夫なども雇っているから」

「屋敷で消費する食材やワインを自家生産しているのですか?」

「ええ、外から買うと、なにを混ぜられるか解ったものじゃないし」

 生産に携わる農家は、数世代前から貴族に仕えている人たちだという。

 それだけ信頼も厚いし、そのぐらいセキュリティーに厳しくする必要があるのだろう。


「もちろん領主邸だけでは消費できない分は、売りに出しているのですよ」

 ヴェスタが教えてくれる。

 その収入も領地経営の財源になるわけか。

 まったく企業経営と同じね。

 ふんぞり返っていれば、お金が入ってきて左うちわってわけには、いかないのか。


「領地の経営は大変そうですね」

「お父様を見ていると、そう思うわ。いつも唸っているし」

「うわぁ」

「赤字などにすれば、経営能力がないとみなされて領地を取り上げられることもあるし」

 中々大変だ。

 没落貴族って言葉があるが、経営に失敗すればそんな感じになるのだろう。

 そんな中から、彼女の王都での滞在費を捻出してくれるのか。


「それは王都での勉学に励まないといけませんね」

「もちろんよ! 私には大きな目標があるんだから」

「目標ですか? 魔導師になる?」

「魔導師はもちろん、立派な婿を見つけ出して、お父様を安心させてあげるのよ!」

「あの……ククナ様に兄弟姉妹は?」

「私、一人娘だから!」

 母親は――と聞きそうになって、私は言葉を飲み込んだ。

 どうにも領主夫人の姿が見えて来ないのだ。

 領主邸に行ったときにも、母親がいれば挨拶にやってきただろう。

 それがなかったということは――多分。


 跡取りの問題もあるのか。

 領主様も大変だ。

 そりゃ、一人娘がさらわれたら慌てるはず。

 頑張ろうと張り切っているククナを見て、ヴェスタがつぶやいた。


「領主様が、裏社会相手に本気になられた理由がわかったでしょう?」

「ええ! こんな可愛い子に酷いことをするなんて許せない! 全員ぶっ飛ばしてやる!」

「ノバラ……ありがとう!」

 私がヴェスタの言葉に立ち上がると、ククナが抱きついてきた。


「ちょっとククナ様……」

「……」

 私が慌てていると、その様子をヴェスタがじっと見ている。


「なぁに、ヴェスタ? ノバラに抱きついている私が羨ましいの?」

 チラリと横目で見たククナがそんなことを言う。


「い、いえ、そ、そんなことは……」

 ククナの言葉に彼の顔が赤くなった。


「ヴェスタ様も抱きつきますか? いつもお世話になっているので、いいですよ?」

 私の冗談に、彼の耳まで真っ赤になる。


「き、騎士たる者が婦女子に抱きつくなど、あってはなりません!」

「え~? 恋人同士になったらどうするの?」

「そ、そのときは別です!」

 お姫様のからかいに、ヴェスタが必死になっている。

 基本的に真面目なのだろう。

 こういう場合は、冗談で返せばいいのだが。


「にゃー」

 いつの間にか、ヤミが足下に来てきた。


「ははは、まぁね」

「クロはなんて言っているの?」

 ククナは、ヤミのことをクロと呼んでいて直すつもりはないらしい。


「え~? 正直者は損をすると言ってます」

「そうねぇ」

 ニヤニヤしながら、ククナは私に抱きついたままだ。


「ククナ様、そろそろ離れていただけませんか?」

「え~? ノバラは、私のことが嫌い?」

 そんなことをいいながら頬を擦り付けてくる。

 まるで大きな猫だ。


「嫌いではありませんが……」

「う~ん、そうね。仕事を先に片付けましょう!」

「仕事?」

「ええ」

 彼女が私から離れると寝室の場所を聞いてくる。


「寝室がなにか?」

「ベッドよ!」

「ベッド?」

「ノバラが欲しいって言ったでしょ?」

「はい」

「私が持ってきたから!」

 ここにやって来た目的というのは、ベッドを運んできたことのようだ。


「それなら、ククナ様がいらっしゃらなくてもよかったのでは?」

「私が来ちゃだめ?」

「そんなことはありませんが、森は危険が多いですし。私も黒狼に襲われたりしましたしね」

「それでどうしたの?!」

「なんとか2頭を仕留めましたが――ヤミも怪我をしたりして大変でした」

「大丈夫だった?!」「大丈夫なのですか?! そんなことは初めて聞きましたけど?!」

 ククナより、ヴェスタのほうが真剣だ。


「ええ、薬で治りましたよ」

「すごーい! やっぱりノバラって強いんだ!」

「いえいえ、そのときは必死でしたから」

 光弾の魔法もなかったし。


「危ないことは控えてくださいよ」

「まぁ森にいれば、少々危険なのは承知の上なので……ははは」

 みたいな話をしていたら、ククナが寝室のドアを開けた。


「ここね!」

「わぁぁぁ! ちょっとぉ!」

 寝間着に使っている短いワンピースとかが、そのまま脱ぎ捨ててあるのだ。


「ククナ様――女性の寝室をいきなり開けるのは、どうかと思いますよ」

「ごめん、私も今そう思った……」

 急いで片付ける。

 こういう場合は、魔法の袋の中に全部入れればすむので簡単だ。


 片付けが済んだので、今まで使っていたベッドを分解しなくはならない。

 そうしないと新しいベッドが置けないし、場所を確保するために机も動かす必要があるだろう。

 先輩の作ってくれたベッドは藁でできた簡易的なものだったのだが、中々具合がよかった。

 魔法の袋の中に金貨が入っていたが、ベッドぐらい買えたのではないか?

 ――と思うのだが、あのベッドの寝心地からすれば、新しいベッドは必要ないと先輩も思っていたのかもしれない。


「こ、こういうベッドもあるのね……」

「見た目は悪いですが、結構いいんですよ」

 私の言葉に、ククナがベッドに飛び込んだ。


「う~ん、結構いいかも~」

 彼女がベッドをなでなでしている。


「いいでしょう?」

「う~ん、ノバラのにおいがする~」

「ちょ、ちょっと止めてください……」

 このお姫様は、なにを言い出すのだろう。

 後ろを見れば、ヴェスタが羨ましそうな顔をしているし。


「にゃー」

「そうです! ククナ様、ベッドをお願いします」

「解ったわ」

 まずは、皆でベッドを分解する。

 下に敷いてある毛皮を取ると、藁束を外に運び出す。


「藁は私が運びますよ」

「ありがとうございます、ヴェスタ様。畑の向こうに堆肥の置き場があるので、そこに捨ててください」

「承知した」

 重い藁の束を、彼は片手でヒョイと持ち上げた。

 さすが男の人だ。


 彼が大きな藁の束を担いだまま家の外に出ていった。

 男手がなければ魔法の袋に入れればいい。

 まったく魔法ってのは便利だ。


「ヴェスタって、ノバラのことが好きなんだね」

「は? え? そうなのですか?」

「え~? ノバラってどんくさぁ!」

 えらい言われようだが、まぁ彼の様子を見ればそんな風にも見える。

 今までのことで金髪の美少年に好かれるようなことをしただろうか。


「でも、身分が違いますし……」

「下位の騎士なら、町娘と結婚するのも普通だよ」

「まぁ、そうは聞きましたが……」

「ふうん、ノバラはあまり興味なさそうね」

「私は生活するのが精一杯でして、あはは」

 実際、それどころではないのだ。

 右も左も分からない状態で、文字どおりに右往左往しているのだから。

 そんな話をしていると、ヴェスタが戻ってきた。


 ククナにそう言われると若干気にしてしまうのだが、それよりもベッドだ。

 机を動かすとスペースができたので、そこにベッドを設置する。

 彼女が袋をいじると、ベッドが現れた。

 私のリクエストどおりシンプルで大きなベッドだ。

 それはいいのだが、これはダブルサイズではなかろうか。


「こんな大きなものも入るのですね」

「まぁ、値段によるわ」

 高いほうが大きなものを入れられるようだ。


 早速寝てみて大の字になった。

 ――足がはみ出ない。

 これはいい。


「これはいいです! ありがとうございます」

「よかった!」

「ククナ様、これでお仕事は終了ですね」

 彼女の所に、待ちくたびれたように騎士がやってきた。

 お姫様につきあわされて飽きたのかもしれない。


「ええ、ヴェスタ。あなただけ街に帰っていいわよ」

「は?」

 彼女の言葉にヴェスタが固まった。


「私は、ここに泊まるから!」

「はい~?」

 彼女の言葉に私も驚く。


 このお転婆お姫様には困ったものだ。


  

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