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17話 情けは人の為ならず


 魔女として街に商売に行ったら、トラブルに巻き込まれた。

 チンピラみたいな連中が狙っていたのは、私が持っている魔法の袋。

 袋は高価なものらしいのだが、これは先輩から受け継いだ大切なものだ。

 悪人などに渡すことはできない。

 魔法とキンタマグッバイで脱出しようとしたが、他にも女の子が捕らえられているようだ。

 悪人どもを成敗して女の子を助けてみると、なんと領主の娘。


 そのまま助けたお姫様と一緒に騎士団に駆け込み――私が倒したやつらは、騎士団の皆さんが捕縛してくれた。

 これにて一件落着。

 皆で騎士団の寄宿舎まで戻ってくると、お姫様と一緒に事情聴取を受けた。


 ここは初めて中に入る建物だ。

 中に入ると、左右に木の廊下が走っていて、部屋がたくさん並んでいる。

 ここが騎士たちの寝泊まりする場所になっているらしい。

 自宅のある人たちは、たまに帰っているようだ。

 建物の裏には広大な馬房が作られていて、たくさんの馬が飼われている。

 騎士といえば馬が相棒。

 20人の騎士がいるとなれば、20頭の馬がいるということになる。


 さて、事情聴取だが――場所は騎士団の建物の中にある団長の執務室で行われた。

 赤い絨毯に机、テーブルとソファーがあるだけの質素な部屋。

 団長は鎧を着たままなので、ずっと立っていた。

 その横には、心配そうな顔をして私を見ているヴェスタがいる。

 お姫様が全部証言を保証してくれたので、問題はない。

 その間、ヤミはずっと私の肩に乗ったまま。

 普通なら心細くなるところではあるが、知り合いのヴェスタもいるので心配いらない。


「協力してくれて感謝している。紹介がまだだったな。私は団長をしている、ジュン・フォン・キリタップだ」

「私は魔女のノバラ、この子はヤミです」

 私の肩にいる黒い猫を紹介した。


「私もあなたのことをノバラと呼んでもいい?」

 お姫様は、私に興味があるらしい。


「ええ、もちろんです。光栄でございます公子様」

「ククナでいいから」

「はい、ククナ様」

「それでは――ノバラのことを逆恨みした衛兵の男が、無頼者にノバラの情報を売った――ということですね」

 ヴェスタがまとめてくれた。


「その通りです。ヴェスタ様も詰め所で立ち会っておられた、あの男です」

「その衛兵の騒ぎというのは、お前から報告を受けたあれか?」

 団長が騎士に厳しい視線を送る。


「はい、ジュン様」

「そこに私も捕まっていたというわけ。ノバラが来てくれなかったら、どうなっていたか解らないわ」

「大事にならなくてよかったですね」

「ノバラ、十分に大事ですよ」

 団長にたしなめられてしまった。


「失礼いたしました」

「にゃー」

「うるさい」

「むむ……よもや衛兵が、そんな裏社会ともつながっているとは……」

 団長が難しい顔をしている。

 衛兵の綱紀粛正を図れば、街の治安に不安が残るのだろう。

 兵の補充も難しいに違いない。


 事情聴取も終わり建物の外に出ると、門の所に黒塗りの馬車が止まっていた。

 大きくて、4頭立ての立派な馬車である。


 お姫様がその馬車に近づくと、ドアが開き1人の男性が降りてきた。

 金糸の刺繍が入った藍色の上着に白いズボンを穿いており、少々長めの金髪。

 口元と顎には立派な髭が生えている。

 歳はアラフォーであろうか。


「お父様!」

「ククナ! 無事か?!」

「はい! あの方に助けてもらったのですよ」

 彼女が私を指したので、その場に膝をついた。

 この世界の礼儀などは解らないが、元世界のような土下座はないだろう。

 あるのかな?


 それよりも、お姫様の父親ってことは――彼は、ここの領主で間違いないと思う。

 無礼はできない。

 ヤミも気を使ったのか、私の肩から降りる。


 領主が、お姫様と一緒に私の前にやってきた。


「そなたは魔女か?」

「はい、魔女のノバラと申します」

「ふむ――とりあえず礼を言う。娘を助けてくれて感謝をしている」

「当然のことをしたまでで、過分な感謝の言葉をいただき、恐悦至極にございます」

 そこに団長がやって来て、私の横にひざまずいた。


「ワイプ様!」

「ジュン、賊は?」

「彼女の案内で私どもが駆けつけたときには、主犯格が逃亡しておりまして……」

「やむを得ん。ククナの命が第一だからな」

「はっ! 逃げた男の跡を追います」

「賊共は、取り調べをしたのち即刻処刑せよ!」

「承知いたしました」


 やっぱり、いきなり処刑なんだ……。

 私は改めて、この世界に戦慄した。


 色々とあったが、領主のお姫様という身分がはっきりした方がいらっしゃれば、物事はスムーズに運ぶ。

 私は、そのまま解放されると森に帰ってきた。

 病気のお母さんがいる女の子のことが気になるが、もう夕方が近い。

 このまま帰って、明日街に来ようと思う。

 女の子から聞いた話でも、彼女の母親はすぐに危険な状態ではないということだったし。


 街の宿屋に泊まってもいいのだが、少々精神的に疲れた。

 自分の家で眠りたい。

 肩にヤミを乗せて、森の中を歩く。


「ふぅ~、大変なことに巻き込まれたよ」

「にゃー」

「ええ?」

 彼は、私の普段の行いに問題があるのではないのか? と言っているのだが、そんなことはないだろう。

 人の家を不法占有したりしているのだが、一応譲られたものだし……。

 家を守っていたヤミも認めてくれているしね。

 そもそも、私を森から案内してくれたってことが、そういうことなのだろう。


 一応、魔物などを警戒しながら歩く。

 魔法も使えるようになったから、今度は一方的にやられるつもりはない。

 もちろん侮るつもりはないのだが。

 相手が魔物なら、なんとかすることができる力を得た。

 それは僥倖だが、相手が人間で殺意を私に向けてきたら?

 この世界は犯罪者をすぐさま処刑するような世界だ。

 命の値段が軽い。

 相手が、「とりあえず殺してから奪えばいいや」ぐらいの軽い気持ちで私の命を狙ってくる可能性がある。


 そのようなときに、手加減で済ませることができるのだろうか?

 やはり大木が吹き飛ぶような強力な魔法を使わざるを得ないのだろうか?

 私の心は、鬱々とした感情で溢れた。


 元世界のブラック企業に辟易していた私だが、この世界も中々にブラックである。

 悩みながら歩いていると、家に到着した。

 住んでからそんなにたっていない家だが、たどり着くとホッとする。

 やはり自宅があるというのはいい。


「もう――とりあえずお腹が空いたので、ご飯にしよう」

 もう夕方になりつつある。

 お昼と夕飯が一緒になってしまいそうだが、足りないなら夜食に軽く食べればいい。

 これだけ歩いたら、太る心配もないだろう。

 元々、太る体質ではなかったが。


 それにしても、結構な距離をあるいているが、さほど疲れてはいない。

 ヤミの話によると、魔法を使うとかなり疲労するらしいのだが、そんな感じもあまりない。

 この世界にやってきてから元気ハツラツ(死語)で、調子もすごくいい。

 病気や怪我が致命傷になりそうな世界なので、健康というのは優先されるべきことだ。

 そのわりには、よく解らない木の実とか食べて下痢をしたりしたけど、なにも解らなかったのだから仕方ない。


 食事は、黒狼の肉と野菜をワインで煮て、ポトフもどきを作った。

 カラメルが欲しかったのだが、ここにはない。

 果物を焼いて作ってみたが、中々上手くいった。

 見た目はごちそうである。

 味付けをする前の肉をヤミに上げると、美味しそうに食べている。


 私も一口食べてみた。


「美味しい! 上手くいったかも!」

 あの不気味な黒い狼がこんなに美味しいなんて。

 赤身で脂もそんなに浮かない。

 食肉専用の家畜などがないこの世界では、こういう肉でも貴重らしい。

 私の腹を満たすために、黒狼には犠牲になってもらうしかない。


 美味くできたので、ニャルラトにも食べさせてあげよう。

 魔法の袋の中に入れておけば、腐ることもないし。


「けど、狼は群れで行動するから気をつけないと駄目よね?」

「にゃー」

 食事のあとは、売れた薬の追加を作った。

 回復薬ポーション用の赤い実は庭に生えているが、数があまりないので大量の生産は難しい。

 使った薬草はチェックすると、庭に生えているものを刈り込んで天井から吊るす。

 先輩もこうやってここで暮らしていたのね。


 薬の製作が終わったあとは、おとなしく寝ることにした。

 色々とあって疲れたのだ。


「本当にいきなりバッサリなんだねぇ……」

 血まみれになった団長の姿が目に焼きついて離れない。

 ベッドに入ってみたものの、中々寝つけなかった。


 ------◇◇◇------


 ――街でトラブルに巻き込まれた次の日。

 昨日の今日だが、街に向かう。

 病気のお母さんがいるという女の子を助けるためだ。

 情けは人の為ならずってね。


 いい天気だし、絶好の商売日よりだ。

 途中、なん人かに捕まり薬を売る。

 騎士団と一緒に馬に乗っている姿をたくさんの人に見られてしまったので、私は有名人になっていた。

 有名になるってことは商売に有利だし、騎士団と知り合いってことで、ちょっかいを出してくるやつもいない。


「寄らば大樹の陰ってねぇ~」

 やっぱり権力は利用しないとね。

 特に、こういう世界だし。


 私の肩に乗っているヤミの案内で、件の女の子の家を探す。

 どうやら、私が事件に巻き込まれた場所から、そんなに遠くない場所らしい。

 女の子の脚で歩ける範囲内ってことになるのだろうか?

 それが元世界の常識的な考えかたってことになるが、ここは異世界。

 私の祖父が子どもの頃でも、5~6kmぐらいは平気で歩いたそうだから、もっと行動範囲は広いと考えて差し支えないだろう。


 女の子から聞いた地区に到着すると、聞き込みを開始する。

 クラーラという名前で、病気のお母さんがいる家だ。

 ちょっと寂れた下町風で、私がいつも商売している市場周りとは雰囲気も違う。

 ボロい家も多く、住民の服装も継ぎ接ぎだらけ。

 それでも、街の中に家があるというのは、古くからここに住んでいる人たちってことらしい。

 まぁねぇ――うちの実家でも、メインストリートの周りに住んでいるのは古参の家ばかりだったし。


 こういう場所で普通に聞き込みをしても、住民たちはなにも教えてくれない。

 そもそも警戒されているし。

 そういうときは――袖の下だ。

 銅貨をなん枚か渡せば、すぐに情報は集まる。


 聞き込みの結果――私とヤミはそれらしい建物を見つけた。

 石造りで3階建ての集合住宅だ。

 真ん中に木でできた階段があり、左右に小さな部屋があるらしいが、これだと一部屋当たり6畳ぐらいではないか?

 1階に共同のトイレやら台所の水回りがある。

 トイレに行ったり、水を汲んだりとか大変そうだ。

 これなら森の中に住んだほうがよさそう――とか考えるのは、私が楽観主義すぎるのだろうか?

 まぁ、私も魔物に襲われたしね。

 腕っぷしに自信があるか、魔法を使えるぐらいじゃないと、森の中で暮らすのは難しいのかもしれない。


 とりあえず、1階のドアをノックする。

 分厚い板でできた頑丈そうなドアだ。

 奥から声が聞こえてきた。


「誰だい?! 金ならないよ!」

「あの~、ちょっと聞きたいんだけど」

 日本なら敬語が必要なところなのだが、この世界では不要だと学んだ。


「あ?!」

 ドアを少し開けて、こちらを見たのは皺だらけの女性。

 私は、ニコリと笑って銅貨を見せた。


「この辺に、クラーラという女の子と病気のお母さんが住んでない?」

「……もう1枚出しな」

「はい」

 彼女に銅貨を2枚渡した。


「2階の左側の部屋だよ」

「ありがとう」

「ふん!」

 大きな音を立てて、ドアが閉まった。


「にゃー」

「そういうことを言わないの」

 老婆の言うとおり2階に上がろうとするが、階段に手すりなどない。

 注意しながら登ると、左側の部屋に向かう。

 ドアの前に立ってノックした。


「……」

 返事がない。

 病気の母親がいるんだ、いると思うのだが……。


「クラーラちゃん。背の高い魔女がやって来たよ~」

 私の声に反応があった。

 扉の裏でなにかの音がしてドアがそっと開くと、小さい目がこちらを見ている。


「は~い――昨日、約束したでしょ?」

「うん……」

 まぁ、居留守を使うってことは、なにか理由があるのだろう。

 部屋の中に入れてもらうと、広さは私の予想どおりに6畳ぐらい。

 小さなタンスと食器棚があり、部屋の角にはベッド。

 そこには、痩せこけた女性が身体を起こしていた。

 他にはなにもない。


「こんにちは」

「あ、あの……」

「はじめまして、私は魔女のノバラよ」

「クラーラの母のシウンです」

 長い栗色の髪もボサボサで、ベッドの上を這っており、麻のワンピースの寝間着を着ている。

 顔色は――真っ青といってもいいかも。


「昨日ねぇ、クラーラちゃんの案内である所に行ったら、ある事件が解決できちゃったわけよ。ちょっと偉い人が関わっているので、詳しくは言えないけど」

「そうなんですか……なにか仕事をしたと言って、リンカーを2つ持ってきたのですが」

「ああ、それは私からのお礼ね。ついでに、お母さんの病気も診てあげようってことになったのよ」

「あ、あの……家にはお金が……」

 やっぱり、居留守を使ったのは借金取りかなにかのせいらしい。


「お礼だから、もちろん無料よ」

「にゃー」

「まぁ、そういうこと」

「ありがとうございます……」

 早速、診せてもらう――といっても、私は医者じゃないし。


「お姉ちゃん、お母さん治る?」

「まだ、解らないなぁ……」

「……」

 こんな家庭の状態じゃ――ちょっとでもお金が欲しくて、クラーラちゃんがああいう輩の言うことを聞いたとしても責めることはできない。

 母親の話を聞くと、激しい咳と吐血するらしい。

 あ~、これはもしかして……結核だろうか。

 ――といっても私自身結核の人なんて、見たことがない。

 私の祖母から、サナトリウムでの治療のことを聞いたレベル。

 治療にはストマイとかいう薬を使うらしい。

 これを使うと耳が聞こえなくなるとか、サナトリウムの病室からはうめき声や血を吐く音が夜な夜な聞こえる――そんな話を聞いたのだ。


 本当に結核だとすれば、薬草でどうこうできるレベルではなさそう。

 私の頭に、ヴェスタの母親の顔が浮かぶ。

 彼女の咳もこれではないだろうか。


 母親に背中を向けると、ヤミと小声で話す。


「ねぇ、結核の薬って聞いたことある?」

「にゃ?」

「え~と――労咳って解る?」

「にゃ」

 どうやら、労咳の治療薬はないらしい。

 ――となると……。


 私は、魔法の袋から回復薬ポーションを取り出した。


「これを飲んでみて」

 私が取り出した赤い薬を見て母親が驚いた。


「そ、それは回復薬では?」

「そう――お母さんの病気は、どうも薬草じゃちょっと難しそうなんだよねぇ。咳止めを飲んでも、咳が止まるだけだし」

「し、しかし、そんな高価な薬をいただいても……」

「さっきも言ったけど、これはお礼だから気にしないで」

「で、でも」

「気が引けるというなら、元気になってから返してよ」

「……はい」

 私の言葉に納得した彼女は、すぐにも回復薬を飲むようだ。

 小さな子どもに無理をさせているのが解っているので、一刻も早く元気になりたいのだろう。

 それは理解できるが、果たして薬が本当に効くだろうか?

 未知数だが、これしか手段がない。

 結核に効く薬はないというのだから。


 母親が薬を飲み干したので、空瓶を回収する。

 これがないと困る。


「まぁ、すぐには効かないとは思うけど、寝て寝て」

「は、はい……」

「クラーラちゃんは、お母さんが早く治るように私と一緒にお祈りをしましょう」

「うん!」

 母親が寝ているベッドの傍に、クラーラと一緒にひざまずく。


「お母さんが早く治りますように」

「治りますように!」

 私も目を閉じて、祈っていたのだが……。


「わっ!」

 突然、ヤミの猫パンチを喰らった。


「なに? どうしたの?」

「にゃー」

「え? 本当に?」

 どうやら、数秒目を閉じたつもりだったのが、30分ぐらいたっていたらしい。

 なんだかよく解らないが、私ってば大丈夫なのかな?

 魔法を使っているとか、この世界にやってきた影響で、記憶が飛ぶようになっているとか?

 それはそれで心配だ。

 記憶の空白がどんどん広がったら、いったいどうなるんだろう。

 それはさておき……。


「どんな感じ?」

「あ、あの、すごくよくなった気がします!」

 青白かった彼女の肌に、かなり血の気が戻っている。


「お母さん!」

 クラーラが母親に抱きついた。


「よかった。様子をみて、症状が改善するようならもう何本か飲んでみようか」

「ありがとうございます。こんな高価なものを……」

「クラーラちゃんのためにも、早くよくならないとね」

「はい!」

 薬の効果があってよかったが、心配ごとがある。


「クラーラちゃん」

「なぁに?」

「薬を前借りで飲ませてもらったとか、人に言っちゃ駄目だよ? 私の所に人が押し寄せてくるからね」

「うん、解った」

「今回のは、あくまでお礼だし」

 そういう人たちが来ても、薬を用意できないし。

 中には人の善意を悪用するやつまで出てくるだろう。

 私は、そういう連中が大嫌いなのだ。


 そんなことを考えていると、ドアが叩かれた。

 ノックではなくて、ドンドンと蹴られるような音。

 男たちの怒鳴り声も聞こえてくる。


「奴らは?」

「あ、あの……借金取りです……」

 ああ、やっぱりね。

 彼女たちが居留守を使っていたのは、こいつらのせいか。


「借金ってどのぐらい?」

「金貨1枚です……」

 え~と、20万円ぐらいか。


 私は、ドアのかんぬきを外すとドアを開けた。


「「お?!」」

 目の前に立っていたのは、色黒でデカくてごつい男と、目のギョロリとした細い男。

 2人とも、あまり上等な服ではなく、麻でできたボロを着ている。

 どうみても下っ端だ。

 この街には、こういう連中はどのぐらいいるのだろう。


「あんたら、借金取りだって?」

「ああ? なんだてめぇは? 魔女か?!」

「ここの借金なら、私が払ってやるよ。金貨1枚だろ?」

 私は、魔法の袋から金貨を取り出した。


「あ、あの!」

「いいから、私に任せて」

「はいよ」

 金貨を見せただけで、当然渡さない。


「なんじゃ、こりゃ――利息はどうした?!」

「利息? それじゃ利息はいくら?」

「金貨1枚」

「なんで金貨1枚借りて、利息が金貨1枚もするんだよ! 借用書を見せろ!」

「そんなもん持ってるわけねぇだろ」「そういうのは、親分が持ってる」

「そんなのに金が払えるか! ボケェ! 光よ!(ライト)

 男たちの目の前に閃光が現れた。


「うわぁ!」「な、なんだぁ!」

「おととい来やがれ!」

 私は、男たちを階段から蹴り落とした。


「「ぎゃぁぁ!」」

 ゴロゴロと転がって落ちた男たちの所に行くと、吠えた。


「金なら私! 魔女のノバラが払ってやる! 私の所に借用書をもって来い! そう、お前らの親分とやらに伝えろ!」

「お、俺たちに――こ、こんなことをして、どうなるか解っているんだろうな?!」

「私は、金を払うって言ってるのよ? 光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 私の周りから放たれた、光の矢が男たちの脇の地面を噴き飛ばした。


「「ぎゃぁ!」」

 石のつぶてが、男たちを襲う。


「とっとと帰らないと、今度はキンタマにぶち込むわよ!」

「「ひぃぃ」」

 2人の男が、起き上がると逃げ始めた。

 階段から突き落としたのに、意外とタフである――というか、私もこんなことを平気でするようになってしまった。

 すっかり荒っぽい異世界に染まってしまったようだが、金は払うと言っているんだから、あいつらにとってもメリットはあるだろう。

 病気の女性と子どもに支払い能力などないことは解っているはずだろうし。


「「覚えていやがれ!」」

「は~、本当にそういうセリフ言うやつがいるのね」

「にゃー」

 階段をヤミが降りてきた。


「え?!」

 彼の話では、借金が払えないと子どもを売られることがあるらしい。


「そんなことはさせるか!」

「にゃー」

 ヤミが、ぶっ飛ばしたチンピラから装備や金を剥げって言ってたけど、彼の言うとおりだった。

 こういう場面で使えるのね。

 ああいうやつらに返済するなら、汚い金で十分だし。


 彼女たちから話を聞くと、生活のためのお金も底をついているという。

 それでクラーラちゃんが、怪しいやつらの言うことを聞いたのね。


 恐縮する親子にお金を少し渡した。

 元気になるまでの生活費がないと困るだろう。

 これで一息つけるだろうが、買い物やら水くみなどはどうしているのだろう。

 小さなクラーラちゃんだけでは、大変なはずだ。


「……1階のお婆ちゃんに手伝ってもらってる……」

「ああ、あの人ね」

 ヤミは業突く婆とか言っていたが、意外といい人みたいだ。


 親子に別れを告げると、森の自宅に戻ることにした。

 今回のことで、標的は親子から私になるはずだし。

 いざとなったら、借金取りの事務所に押しかけてやる。


 その前に騎士団に踏み込まれて、チンピラ連中はボコボコにされるかもしれないし。



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