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16話 捕物!


 街へ行って商売を始めた。

 薬は順調に売れて、街の公園にある泉で一休みしていると、そこに小さな女の子がやってきた。

 彼女の話では、病気のお母さんに薬が欲しいと言う。


 小さい子相手なので、母親がどんな病気かも解らない。

 彼女の家に行ってみることにしたのだが、その場所を訪れると共々中に引き込まれた。

 中にいたのは多数の男たち。

 どうやら、私を冤罪で捕まえた男が逆恨みをしたらしい。

 その男は、キンタマグッバイして床に転がっているのだが、他の連中の目的はなんだろう?


「そいつが逆恨みってのは解ったけど、あなたたちは?」

 部屋の奥には、黒い服を着た男が椅子に座っていた。

 周りの下っ端らしき男たちより、上等な服を着ているようだ。

 脚が長くて、黒い髪の毛をキザったらしいリーゼントみたいな髪型にしている。

 あれで似合っていると思っているのだろうか。


 男の後ろには階段があり、2階に上れるようになっているらしい。


「俺たちが興味があるのは、お前が持っている魔法の袋だ」

 魔法の袋ってのは高価だと聞いたから、それを狙っているのね。

 なるほど、こういう危険もあるのね。

 おそらくは、元世界でいう8○3みたいな連中だろう。

 まぁ、こういう無頼な輩はどんな世界でもいるのでしょうが。


「よかった。病気のお母さんはいなかったのね?」

 私は抱いている女の子に話しかけた。


「ううん……お母さん病気……」

「え?! 本当に病気なの?! それじゃ、こいつらを片付けてから、お母さんの所に行ってあげる」

「……」

 彼女の頭をなでてあげると、黙ってうなずいた。


「私は、子どもをダシにするやつが大嫌いなのよね」

「別に命まで取ろうってわけじゃねぇ。お前が持っている魔法の袋を渡してくれりゃいいんだ」

「断る!」

「それじゃしょうがねぇ」

 男どもが迫ってきたので、私は女の子を抱きしめると魔法を唱えた。


「ぬう~! 光よ!(ライト) 光よ!(ライト) 光よ!(ライト)

 強烈な光の魔法3連発である。

 相手は対策として目を瞑っているらしいが、魔法が光り続ければ目を開けることができないはず。


「く、くそ!」「なにも見えねぇ!」

「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 目の前が真っ白なので私も見えないのだが、周りは全部敵だ。

 ぐるりと全方位に魔法を撃てば絶対に当たる。


「ぐわっ!」「ぎゃぁ!」「うぐ!」

 魔法が当たっている叫び声が聞こえる。

 魔力は込めず、速射に振っているので威力はそんなにないはず。

 フルパワーで撃ったら、魔法の実験で吹き飛んだ森の大木のようになるし。


「おりゃ! おりゃ! おりゃぁぁ!」

 光弾の魔法を3連発である。

 多分、数十本の光の矢が四方にばらまかれたはずだ。

 周りから男どもの反応がなくなったので、光の魔法を消した。


 床に男たちが折り重なるように転がっている。

 し、死んではいないはず……多分。


「どんなもんだ。女だからって舐めるからこういうことになるのよ!」

「く、くそ! こんな魔法が使えるだなんて聞いてねぇぞ!」

 聞こえてきた声に私は驚いた。

 生き残っているやつがいたのだが、チンピラたちを指揮していた黒い服を着た男だ。

 どうやら、魔法で視界を奪われて、とっさに椅子から降りて床に伏せたらしい。


 こいつは生き残ったようだが、他の連中は皆倒した。

 私は止めを刺そうと、魔法を唱える。


「光弾よ!」

 私の周りに浮かんだ光の矢を見た男が叫ぶ。


「解った! もう、お前には手出ししねぇ!」

「そう?」

 魔法の発動を止めると、ピンク色の破片になって床にバラバラと散らばった。


「くそっ! なんなんだよお前は?! あんな魔法をポンポンと撃ちやがって! 魔女とか嘘で、本当は国から送り込まれた高位魔導師なんだろ?!」

「違います。普通の魔女です」

「嘘つけ!」

 嘘とは失礼な。

 いきなりこんな場所に連れ込まれて憤懣やるかたないが、ここは逃げたほうがいいだろうか?

 入ってきたドアから立ち去ろうとすると、上から声が聞こえてきた。


「だ、だれかいるの!? 助けて!」

 確かに聞こえた。

 女の子の声だ。

 私を監禁しようとしたように、他の女の子も監禁されているのだろう。

 その声を聞いたヤミが、階段を駆け上がった。


「今のは?!」

「ちっ!」

 舌打ちしたってもう遅い。

 私の唱えた光弾の魔法が、男の股間を直撃した。


「$#@%^^!」

「雉も鳴かずば撃たれまい……ちょっと意味が違うか……」

 泡を吹いている男を放置して、小さな女の子と一緒に2階に上がる。


「旦那! 下からネコが上がって来やしたが、片付いたんですかい?」

 階段を途中まで上がると、スキンヘッドの大男とばったり鉢合わせ。


「わぁ!」

「な、なんだてめぇは?!」

 慌てて魔法を使う。


光よ!(ライト)

「うわっ! く、くそぉ!」

 目潰しを食らった男がジタバタしているので、止めを入れた。


「おりゃぁ! キンタマグッバイ!」

 階段で相手が上にいるからキックは使えない。

 私の必殺パンチが、男の股間に炸裂した。


「おわぁぁぁ!!」

 キックほどの威力はなかったのだが、目くらましと股間パンチでバランスを崩した男が階段から転げ落ちた。

 すぐに魔法で追撃をしようと、私は構えたのだが――10秒ほど待てど、男はそのまま動かない。


「ええ……もしかして打ちどころが……」

 もちろん罪悪感はあるが、こんな悪党どもなら、それなりの報いがあるのは当然だろう。

 今まで弱者から搾取して好き勝手やってきたわけだろうし。


 私が階段を上り――そうっと顔を出すと、くたびれた物置のような部屋があり、隅に女の子が縛られていた。

 金髪と白いブラウス、ロングの青いスカート――その顔には見覚えがあった。


「あれ?」

 あの女の子は――そう。

 泉の所で、ヤミを譲れと無理難題を言ってきた子だ。

 部屋の中を見渡すが誰もいない。

 チンピラたちは、全部倒したようだ。

 縛られている女の子の所には、ヤミがいて気遣ってあげている。


「ちょっと、私にそういう気遣いしてくれたことあった?」

「にゃー」

「嫌味なやつ」

 女の子の所にいく。


「あなたは?! 下に男どもがたくさんいたでしょ?!」

「皆、倒したから大丈夫」

「嘘でしょ?!」

「嘘だったら、ここにいないと思いますけど?」

「……」

「もしかして、助けてほしくないとか?」

「た、助けて……」

 まぁ、素直が1番ね。

 腰の短剣を抜くと、ロープを切ってやる。


「はい、どうぞ――お姫様」

「ありがとう……」

「にゃー」

「あなた……やっぱりクロなのね?!」

 彼女がヤミを抱きしめた。


「どういうこと?」

「にゃ」

 彼が領主の屋敷にも入り込んでいたという話をしていたが、そのときに小さかった彼女と知り合ったらしい。


「なんだ、それじゃ昔からの知り合いなのね」

「にゃ」

 それはそうと――。


「お姫様は、魔導師だって言ってませんでした? 魔法はどうなされたのです?」

「詠唱に時間がかかって……役に立たなかった。それに、まだ魔導師じゃないし……」

 上手く使えなかったみたいね。


「にゃー」

 普通の魔法ってのは、もっと発動に時間がかかるものらしい。

 そりゃ唱えている間にボコボコにされたんじゃ手も足も出ないってわけか。


「それじゃ、この家ごと吹き飛ばすような魔法は?」

「そんなの使えるわけないじゃない」

「そうなのですか」

「にゃー」

 私がおかしいのか?

 この世界の常識ってやつが解らないから。


「彼が、護衛がいたはずだって言ってますけど?」

「猫と話せるの?」

「そういう魔法だって申し上げたはずです。お姫様は外法だと馬鹿にしておられたみたいですが」

「ごめんなさい……護衛に内通者がいて、他の者は殺されてしまったわ」

 随分と素直になったじゃない。


「あら、可哀想に」

「にゃー」

「そうねぇ」

 領主の娘を誘拐するなんて、随分と大それた行為だとヤミも驚いている。

 両手に花で1階に降りたのだが、チンピラどもはまだ伸びたまま。


「全部、あなたがやったの?」

「ええ、まぁ……」

「殺したの?」

「いやぁ、死んでないとは思うけど……よね?」

「にゃー」

 ヤミが、クンカクンカしている。

 まぁ、生きているようだ。


 とりあえず女の子2人の安全が優先なので、ここから脱出する。


「にゃー」

「え? お金? それはちょっと……」

 倒れたやつらから金を剥ぎ取れと言っているようだが……。

 この世界ではそれが当たり前なのかもしれないが、元世界の常識が邪魔をして、そういう行為をする気にならない。

 最初は忌諱しているようなことでも、そのうち慣れてしまうのだろうか?

 朱に交われば赤くなるっていうしね。


 皆で外に出た。


「とりあえず騎士団に行きましょう。お姫様が領主の娘だと解れば、騎士団も動いてくれるでしょうし」

「衛兵では?」

「私が倒した中に衛兵の男がいたから、無駄のような……」

「もう、なんてことなの?!」

 お姫様が憤慨している。


 小さい女の子とは、ここでお別れしなくてはならない。

 彼女はお使いを頼まれただけなので、危険はないだろう。

 魔法の袋からりんごを2つ出して、女の子に渡した。

 病気だという彼女の母親が気になる。


「これをあげる。あなたのお母さんは、すぐにお薬を飲ませないと死んじゃうとかそんな感じ?」

「ううん」

 彼女が首を振った。


「そう」

「でも、いつも苦しそうにしてる」

「解った。それじゃ、あとで診に行ってあげるから」

「うん」

「でも、今日は無理かな~? 多分、明日なら――大丈夫かな? これを一緒に食べて待ってて」

「知らない人からものをもらっちゃ駄目だって……」

 あら~この世界でも、そうなのね。


「お母さんにそう言われたのに、知らないオッサンたちからお金をもらおうとしてたのね?」

「ごめんなさい……お仕事だからいいと思った」

「それじゃ――果物は、お仕事を手伝ったお駄賃だってお母さんに言ってちょうだい」

「……わかった」

 女の子はりんごを2つ受けると喜んでいるので、彼女が住んでいる場所を聞く。


「ヤミ、場所は解る?」

「にゃー」

 おおよそ解るらしい。


「あなたのお名前は?」

「クラーラ」

「クラーラちゃんね。お家を探して、行ってあげるから待ってて」

「うん!」

 彼女はりんごを2つ持って街の中に消えていった。


「さて、騎士団に行きますか」

「解りました」

 騎士団の場所は、ヤミが知っている。

 お姫様も知っているようだが、拉致されてきたここの場所が解らないらしい。

 あまり治安がよろしくない場所で、こういう上流階級の人たちは近づかない場所のようだ。


「ヤミ、ここからの道順は大丈夫?」

「にゃ」

「大丈夫らしいので、彼に案内してもらいましょう」

「あなた――お名前は?」

「私ですか? 魔女のノバラです」

「私はククナ・ティアーズよ」

「よろしくお願いいたします。ククナ様」

 ヤミのナビで、騎士団が入っているという建物にたどりついた。

 石造りの平屋建てで、黒い鉄柵に囲まれている。

 ここに騎士団が常駐しているようだ。


「人数は?」

「にゃ」

 20人ほどらしい。

 地方都市の騎士団なので、このぐらいの規模のようだ。


「君は、この鉄柵の隙間から入っていたのね?」

「にゃ」

 門には衛兵がいたので、その人に告げる。


「私は領主の娘、ククナ・ティアーズよ!」

 衛兵が直立不動になった。

 さすが、これが身分の違いというやつか。


「は、はい! ククナ様! 騎士団になにか御用でしょうか?」

「私をかどわかした不埒者がいたのよ! 騎士団長に話を通して!」

「え?! は、はい! 少々お待ちを!」

「ああ、それから、騎士のヴェスタ様を呼んできていただけます?」

「お前は魔女か? 承知した!」

 衛兵が建物の中に走っていった。


「お姫様、団長さんという方とお知り合いですか?」

「ええ、騎士団の方々とは面識があるわ」

 そりゃそうか。

 いざというときは、領主やお姫様を守る盾になるわけだし。


 すぐに銀色の鎧を着た男が2人走ってきた。

 1人は金髪美少年のヴェスタ。

 もうひとりは、私より背が高いであろう、ガッチリとした体格。

 黒い髪をオールバックヘアにしているごつい男だ。

 浅黒い肌に、顔の左側に大きな傷がある。

 見るからに怖そうで、イノシシって感じ……。


「ククナ様!」

 やって来た団長とヴェスタは、お姫様の前にひざまずいた。


「ジュン! 私をかどわかした不埒者がいるわ! ここにいるノバラが倒してくれたから、すぐに行って捕縛して!」

「なんという大それた……ククナ様には護衛がいたはずですが?」

「悪漢どもに籠絡されていたわ! もう1人の護衛は殺されました」

「承知いたしました。すぐに出動いたします」

「お願い」

 お姫様の話を聞いた団長が立ち上がった。


「ヴェスタ! すぐに動ける者を集めろ! それから、領主様に連絡を!」

 やっぱり身分が高い人がいると、話が早くていい。


「承知いたしました。ノバラ! 大丈夫なのですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ヴェスタ! 急げよ!」

「はっ!」

 彼は私のことを心配してくれているようだが、どうやら話をしている場合ではないようだ。

 すぐに騎士団が招集されて、外で待っていた私とお姫様の所にやって来た。

 皆が甲冑を着て、大きな馬に乗っている。

 元世界の競馬で使うような細くて綺麗な馬ではなく、ガッチリとした重戦車みたいなタイプ。


「わぁ!」

 ずらりと並んだ騎士と馬の組み合わせに、私はときめいた。

 その絵面はまさにファンタジー。

 特に金髪美少年のヴェスタは白い馬に乗っており、実に絵になる。

 白といっても、ちょっとブチなので真っ白ではないのだが。


「ジュン! 私が案内するわ」

「それではお手を」

 騎士が手を伸ばしたお姫様を掴むと、ヒョイと持ち上げて自分の前に乗せた。

 スカートだと跨げないので横すわりだが。


「ほぇ~」

 その絵になる姿に感心していた私に、ヴェスタが手を伸ばしてきた。


「ノバラ!」

「ええ?! 私もですか?」

「はい!」

 真剣な顔でそう断言されてしまっては、手を伸ばすしかない。

 お姫様と同じように、ヒョイと持ち上げられて彼の前に座らされる。

 私の肩に乗っていたヤミは、ジャンプして馬のお尻に乗った。


「た、高い! 怖い!」

 2mぐらいあるのではないだろうか?


「馬に乗るのは初めてですか?」

「は、はい」

 くぅ~、いくら枯れたアラサーでも耳元で囁かれると堪えるぅ。

 ドキドキしていると追い打ちをかけられた。

 彼が、私の腰をぎゅっと抱きしめてきたのだ。

 鎧越しで残念なのだが、そんなことを言っている場合ではない。


「あ! あの!」

「私が落ちないように、掴まえていますから大丈夫です」

「きゃぁぁぁ!」

 結構なスピードが出るので、かなり怖い!

 心臓が飛び出しそうになるぐらい怖いが、ヴェスタがガッチリと掴まえてくれているので、落ちる気はしない。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。ちょっと! ヤミは、後ろにいるの?」

「にゃー」

 なんか余裕の声で返してきて、ちょっと悔しい。

 私の前を走っている騎士団長と一緒のお姫様は、慌てている節はない。

 貴族なのだから、馬にも乗っているのだろう。

 まさか人生初乗馬が、異世界になるとは……。


 お姫様と一緒に騎士団の建物まで歩いたら、それなりに時間がかかったのだが、馬だと数分で現場に到着した。

 おそらく時速20~30kmぐらい出ていると思う。

 件の建物が見えてくる。


「ジュン! あの建物の中よ!」

「承知いたしました」

 馬を止めて騎士団が降り立ったのだが――そこから数人の男たちが逃げようとしているのが見える。


「あ! あいつらです! 目を覚ましたみたい!」

 私は、男たちを指差した。


「逃がすな! 追え!」

 騎士団が一斉に走り出したが、これじゃ逃げられる。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 私の放った魔法の矢が、逃げようとしていた男たちの背中に命中した。


「ぎゃ!」「ぐあぁ!」「うげ!」

 攻撃を喰らった男たちが、もんどり打ってその場に倒れ込んだ。


「やったぁ!」

「「「え?!」」」

 お姫様はよろこんでいるのだが、騎士団の男たちの反応は違う。

 ガッツポーズをしている私のほうを一斉に向いたのだ。


「え?!」

 皆で顔を見合わせたのだが、団長が叫んだ。


「あとにしろ!」

 現場を一旦離れてしまったので、もしかしてもう逃げられてしまったかもしれない。

 チンピラたちを捕まえるより、お姫様の安全を守るのが第一だったし……。

 騎士団が一斉に建物の中になだれ込んだ。


 怒鳴り声などが聞こえてきたのだが、それが悲鳴に変わる。


「ぎゃぁぁ!」「ぐぇ!」

「え?! なに?」

「にゃー」

「え? 切られたの?!」

 確かに騎士たちは、全員剣で武装をしていたけど……。

 おっかなびっくりしている私の所に、お姫様がやって来た。


「ねぇ?! 今のってどうやったの?!」

「え?! どうって?」

「魔法よ!」

「魔法ですか? 普通にやりましたけど……」

「あの……」

 なぜか、お姫様の態度が変わったような気がするが……。


「なにか?」

「王都から派遣された、隠密魔導部隊(笛吹き隊)の方じゃありませんよね?」

「え? ち、違います。ただの森に住んでいる魔女です」

 そういえば、敵のボスらしき男もそんなことを言っていたような……。

 幕府の命を受けた隠密というのが、お婆ちゃんが観てた時代劇に出てきたけど、似たようなものであろうか。


「ヤミ、そういう人たちっているの?」

「にゃー」

 いるらしい。

 地方都市が反旗を翻そうとしていないかとか、隠畑を作って不正蓄財していないかとか、そういうのを調べているという。


 お姫様と話をしていると、縄で縛られたチンピラたちが、なん人か出てきた。

 私が魔法で撃った男たちも捕縛されている。

 これで一件落着だ。


「ねぇヤミ。あの人たちはどうなるの?」

「にゃ」

 領主の娘に手を出したなんてことになれば、有無を言わさず死刑だという。

 法律とか裁判とかないから、偉い人の一存で全部が決まってしまうのね。

 気をつけなければ――と思うのだが、街の様子からすると、ここの領主が悪徳領主とは思えない。

 街を歩いてみても、まつりごとに対する不満などが聞こえてこないからだ。


 私の所に団長がやって来たのだが、血まみれになっている。


「うう……」

 これってやっぱり、人間の血よね……。

 鳥やら動物でも慣れてないのに、やっぱり人間の血ってのは抵抗がある。


「にゃー」

「そうよねぇ」

 突入した際に抵抗した者たちがいたので、その場で斬り殺されたのだろう。

 即断即決――この剣が自分に向けられるのかもしれないのだから、肝に銘じておかなければならないだろう。


「貴殿が、ノバラ殿か」

 団長が私の前にたった。

 血まみれの彼は、すごい迫力を醸し出している。


「は、はい」

 こ、怖い……。


「ヴェスタが話していたとおりのことはある。1つ聞いてもよろしいか?」

「な、なんでしょう?」

「さきほどの魔法――貴殿は、笛吹き隊の魔導師ではないのか?」

「いいえ! お姫様からも、そんなことを言われたのですが、違います」

「そうか、ならばいい」

 ぞろぞろと縛られた男たちが列をなしているのだが、あの男がいない。


「あ、あの! 捕まえたやつらは、それで全部ですか?」

「そのとおりだ」

「そいつらをまとめていた主犯らしき、黒い服を着ていた男がいたのですが」

「そうよ! ジュン! 確かにいたわ! 黒い頭のにやけた男が」

「主犯を取り逃がしたか……」

 団長が難しい顔をしている。

 もしかして、領主から罰を受けるかもしれない。


「申し訳ございません! お姫様を守るために、ここから離れるのが第一だと思ったものですから」

 私は団長に頭を下げた。


「いや、貴殿は悪くない。ククナ様のお命を守るのを優先するのは当然のことといえる」

「あなたも騎士団も悪くないわ! お父様には、そう伝えるから!」

 彼女が、私と騎士団をかばってくれるようだ。

 思ったよりいい子なのかもしれない。


 再び馬に乗せてもらうと、騎士団の建物まで行く。

 後ろに捕縛した悪党をゾロゾロと引き連れているので、街の住民から注目の的だ。

 当然、馬の上で2人乗りをしている私にも注目が集まる。


「おい、魔女だ……」「なんで騎士団と一緒に?」「後ろの連中はなにをやらかしたんだ?」

 こんなんじゃ、また街中の噂の的になってしまう。


「えらいデカい女だが……」「ありゃ、男じゃないのか?」

「女に決まってるだろうがぁ!」

 ムカついた言葉に思わず大声を出してしまう。

 なんて失礼な。


「ひぃ!」「うわっ!」

 男たちがその場から逃げ出した。


「ははは……」

「笑い事じゃないですよ、ヴェスタ様」

「申し訳ない。こんな素敵な女性を男呼ばわりとか、見る目がないやつらだ」

「ちょっと……」

 後ろから抱かれて耳元でこんなこと言われたら、さすがに照れる。

 お世辞でも言われたことないし。

 顔や耳が熱くなってくるのが解る。


「にゃー」

「君は黙ってて!」


 馬に乗った私たちは、騎士団の建物に戻ってきた。

 ここは寄宿舎らしい。



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