15話 街で商売
街に行ったらトラブルに巻き込まれて、危うく全財産をなくすところだった。
まったく油断も隙もない。
先輩から受け継いだ魔法の袋をなくしてしまったら、彼女になんといって詫びたらいいのだろう。
とにかく、この世界では下手に出たら駄目だということが解った。
ハッタリでもなんでもいいので、強気にいく。
そう決めたのはいいが、なんでもかんでもイキればいいというわけではない。
礼儀を知らず、無礼なのはだめだ。
この世界には身分というものがあるので、最低限それに配慮しなければならない。
トラブルに巻き込まれはしたが、実りの多い初めての都市訪問だった。
意外と都市は整備されて綺麗な印象。
見栄えとは裏腹に、きちんとした警察機構やら法律もないので、気を緩めると脚を掬われる。
ヤミや、お世話になった騎士がいなかったら、どうなっていたか解らない。
これからも気をつけていかなければならないだろう。
ヤミを肩に乗せて道を歩き、魔道具を使って家の方角を確かめる。
この魔道具は本当に便利だ。
無事に家に帰ってきた。
森の中にある小さな家を見るとホッとする。
やはり帰る場所があるというのはいいものだ。
しみじみと思う。
家に入る前に周りをチェックするが、特に問題はなし。
扉を開けて家に入り、改めて中を見回す。
街にあった普通の家と比べる。
やはり、この家は小さい印象だが、先輩から受け継いだ大切な家だ。
贅沢を言ってはバチが当たる。
感謝はしているが、大きいベッドだけは購入しようと思う。
当面の目標はこれだ。
薬の売れ行きからすると、すぐに貯金もできそうではある。
ついつい取らぬ狸の皮算用をしてしまうが、油断は禁物である。
気を引き締めていかないと。
買ってきたものをテーブルの上に載せた。
「むふ~」
並ぶ商品を見てニヤつく。
やっぱり買い物は楽しい。
元世界じゃ残業残業で、買い物をする時間もなかったし。
異世界に飛ばされてその時間ができたってのは、少々悲しくもある。
早速、市場で買ったライチに似た木の実を剥いて食べる。
「美味しい~!」
これはリピート確定だ。
もしかして、森で収穫できるかもしれないし、今度ニャルラトが来たら聞いてみよう。
続いてワインだ。
果たして、この世界のお酒はどんなものか。
カップの中に紫色の液体を少々注ぐ。
「う~ん、イマイチ!」
口に含んでみたが、なんだかブドウのアルコールみたいな感じ。
元世界のスーパーで売っていた南米産の安ワインのほうが美味い。
残念無念。
まぁ、これは食事のときに飲む水みたいなものだし。
一緒に買ってきた、陶器の瓶に入っている調味料を出してみた。
小皿を用意して、少し出してみると――黒いドロドロの液体。
クンカクンカ――少し酸っぱいにおい。
指につけて舐めてみる。
「あ~、ウスターソースっぽいね」
香辛料は入っていないのでパンチはないが、元世界で売っていた黒いソースに近い。
多分、野菜や果実を煮詰めたものに、酢を入れたものだろう。
これは肉料理に合いそうだし、小麦粉を焼いてお好み焼きみたいなものを作れるかもしれない。
「あ、お好み焼きといえば、マヨネーズがないか」
マヨネーズってどうやって作ったかなぁ。
原料が卵ってのは解るが、この世界で生卵ってのは危険よね……。
なにがなくても安全第一だ。
食中毒になっても、医者もいないし治療法もない。
薬草や回復薬ってやつで、食中毒も治ればいいけど。
今、テーブルの上に載っているものは満足しているのだが、次だ――。
魔法の袋から、それを出してテーブルの上にドーンと置いた。
出したのは、肉のブロック。
前脚とアバラ、そしてもも肉。
白い脂肪があまりなくて、ほとんどが赤肉である。
そう――こいつは、黒狼の成れの果てだ。
「こ、こうやって見ると、普通の肉に見えるけど……」
元が、犬に似た動物だから、どうしても抵抗がある。
肉を出すと、早速ヤミがテーブルの上に乗って、クンカクンカしている。
「生は寄生虫がいるかもしれないから、駄目よ」
「にゃー」
どうやら味見をしたいらしい。
包丁を持ってきて、肋の部分を少し削いでやり、小皿に載せた。
「温め!」
要は60度ぐらいに加熱できれば、寄生虫なども死ぬのだ。
「はい、どうぞ」
「なー」
彼が、肉にかぶりついた。
やっぱり肉が好きらしい。
私もちょっとつまみ食いをすることにした。
同じように肉を魔法で加熱すると、さっきのソースをつけて食べてみる。
「あ~、美味しいかも」
焼いて出た肉汁とソースが合わさり、マッチしている。
これならひき肉にして、ハンバーグにしても美味しいはず。
なんだ、こんな世界でも美味しいものが食べられるじゃない。
そのまま、お昼はワインビネガーを使った野菜の酢の物と、黒狼の肉を焼いて食べた。
買ってきたソースも合う。
先輩が残してくれた辛い香辛料も使ってみたが、山椒に近い気がした。
とにかく美味い――余は満足である。
まぁ、どんな環境でも慣れちゃうんだから怖い。
それから1週間、ずっと家に籠もって薬造りをした。
意外と需要があるようなので、数を揃えたかったのだ。
たくさんの薬と、20本ほどの回復薬を製作した。
全部売れたら100万円!
中古のベッドぐらいは買えるだろうが、1つ問題がある。
どうやって、運んでくるかだ。
流石にベッドは魔法の袋に入らない気がするが、分解すればなんとかなるだろうか?
先輩は家具とかをどうやって運んだのか気になる。
自分のベッドで丸くなっているヤミに聞いてみた。
「ねぇ、家具とかどうやって運んでいるの?」
「にゃ」
やはり分解するらしい。
――とはいっても、全部を分解する必要はなく、ある程度の大きさに分割できればいいわけだ。
袋に入れて運んできたら、ここで組み立てる。
ここ一週間薬を作ってきたわけだが、もう1つ楽しみにしていたことがある。
ガラス瓶で作っていたパン種ができたのだ。
早速これを使ってパンを焼いてみようと思う。
全粒粉の小麦粉でやるのは初めてだが、上手くできるだろうか?
なにはともあれ、やってみないことには始まらない。
少なくとも、食えないものができることはないだろうし。
小麦粉に水とパン種を入れて練り始める。
砂糖がないので、りんごのドライフルーツを混ぜ込んでみた。
発酵を促すためには、少し温めたほうがいいのだが、それも魔法でできる。
「温め」
元世界にいたときには、ドライイーストを使ったりしていたが、これは生のパン種だ。
瓶の中で生きて発酵している。
このまま放置すればどんどん発酵が進んでしまうが、魔法の袋の中に入れておけばいつでもパン種が使えるってこと。
便利この上ない。
固まりになったら、パン生地を発酵させる。
濡れ布巾などをかけて乾燥させないように気をつけ、魔法で温めていると――2倍以上に膨らんだ。
「へへ、上手くいってる」
丸くちぎって並べて、少し休ませたあとに鍋の底に円形に置いていく。
パン窯がないので、鍋とカマドで代用してみようと思う。
いよいよ、カマドに火を入れてパンを焼く。
電気炊飯器みたいなホームベーカリーでもパンが焼けるんだ。
鍋とカマドでも焼けるっしょ。
それから十数分あと、香ばしいにおいが家の中に充満した。
私の思いどおりに、きつね色のパンが焼き上がる。
「おお~っ! やったぁ! 異世界パンだ」
手でちぎって食べてみると、温かくて香ばしくて柔らかい。
「うまー!」
砂糖は入れてないから甘くはないが、塩味のパンでも十分に美味い。
練り込んだドライフルーツがいいアクセントになっている。
会心のできだ。
喜んでいると、ドアがノックされた。
「ノバラいるんだろ? すごく美味そうなにおいがするんだけど!」
この声はニャルラトだ。
「はいはい~いらっしゃい!」
ドアを開けると、黒白の立っている猫。
「パンか?!」
彼が、テーブルの上にあるパンに気がついたようだ。
「今、焼き上がったところなの。君も味見してみる?」
「い、いいのか?」
「もちろん!」
家に入ってきた彼に、大きなパンの固まりをちぎって上げる。
それを口に入れたニャルラトが、目を輝かせた。
「ふあぁぁ! なんだこれぇ! 柔らかくて美味すぎるんだけど……」
「焼き立てのパンは美味しいよねぇ」
「ノバラが焼いたのかい?」
「他に誰がいるの?」
「……」
彼が一心不乱に、パンをむしゃむしゃと食べている。
すごく微笑ましい。
こう見てると、まだまだ子どもだよねぇ。
「美味しい?」
「うん!」
「よかった」
今日は、薬を注文しに来たらしい。
お求めは、腹薬と下痢止めだ。
水やら食べ物が悪いことがあるので、やっぱり下痢することが多いらしい。
本当は下痢ってのは止めないほうがいいっていうけど。
手渡した薬を間違えないように、木を薄くけずって、お腹の絵とお尻の絵を描いてやる。
全部で薬が4袋、銅貨で12枚――1万2000円の収入だ。
彼にパンも手渡す。
「お母さんにも食べさせてあげたら?」
「いいのかい?」
彼がじ~っとパンを見ている。
「いいわよ。ニャルラトにもいつもお世話になっているし」
「ありがと。すごく喜ぶと思う」
「優しそうなお母さんで、よかったね」
「怒ると、めちゃ怖いんだけど……」
「それだけ、ニャルラトのことを心配しているからだよ」
「うん……」
「パンを途中で食べちゃだめよ?」
「解ってる」
ニャルラトは、パンと薬を鞄に入れて村に帰っていった。
今日捌けた分の薬を追加で作らなくては。
------◇◇◇------
薬を揃えた私は、再び街へ向かった。
本格的な商売のためである。
ローブなどは被っておらず、魔女のトレードマークである黒いワンピースのまま道を歩く。
私の肩にはヤミ。
通行人が増えると、道の途中でも声をかけられる。
もちろん薬の注文だ。
早速、道端で商売をする。
色々な薬を作ったが、まんべんなく売れる。
回春薬も売れる。
これは男にも女にも効くらしい定番商品だ。
癒やしの奇跡とやらを起こせる聖女様だって回春はできないだろう。
それゆえ、魔女の商売として成り立つ。
それはいいのだが、どいつもこいつも私の胸の部分をチラチラ見てくる。
まったく男ってのは……。
すみませんね、ペッタンコで。
まぁ確かに、この服で巨乳だったら男どもが寄ってきて商売繁盛しそうではある。
多分、この先もずっとこんな感じだろうから、まともに相手をして腹を立ててもしょうがない。
面白くはないが、ここらへんは客商売のおまけとして割り切るしかないだろう。
ジロジロ見てくるのは諦めているのだが、お触りは許せない。
光よ!からの、キンタマグッバイで対抗する。
「^%$#**!」
早速、私の蹴りを喰らった、派手な服を着た商人がひっくり返っている。
私は、魔法を唱えて炎の弾を出した。
その前には、商人が乗っていた馬車がある。
荷物が満載だが、それが本物の荷物かは不明だ。
ヤミの話では、金持ちの商人なら魔法の袋を持っているはずなので、馬車の荷物はダミーの可能性が高いという。
「舐めるんじゃないよ! お前の馬車ごと燃やされたいのかい!?」
――とはいえ、馬車を燃やされたら結構な損害だろう。
「あぐぐ……か、勘弁してくれ……」
地面にひっくり返っている商人が、脂汗を流している。
「ふん!」
私は、火の玉を消した。
ちょっとやりすぎな感じもするが、弱みを見せれば搾取される。
仕返しをされる恐れも考えねばならないが、1つを許すとそれが2つになり、いつの間にか10にも100にもなる。
妥協というのは、つまり負けってことだ。
一度突っ張ったら、突っ張り通さなければ。
そのためには、私の身体の特徴も生かす。
私は背が高い。
元世界では嫌な思いをすることも多かったが、これは威圧するのにとても便利だ。
デカイ女が高圧な態度で迫ってくる。
これだけで普通の男はビビる。
それでも怯まないやつには魔法を使う。
もちろん、なんでもかんでも突っ張るわけではない。
いいお客さんや、金払いのいいやつには愛想よく胡麻を擦ることも忘れずに。
私はこの世界で、たくましく生きていくのだ。
――などと、決意を新たにして街までやって来た。
少々買い物を済ませて、街を歩く。
もちろん営業のためだ。
私の肩に乗っているヤミに声をかける。
「ねぇ、一緒にいるのが退屈なら、彼女の所に行ってもいいのよ」
「にゃー」
そういうのは夜にやるらしい。
「今日は、夕方前には家に帰るのよ?」
「にゃ」
解っているらしい。
「おい、薬をくれ」
ヤミと話ながら街を歩いていると、声をかけられた。
ボロボロの小汚い恰好をした、禿げたオッサンだ。
無精髭を生やして歯も欠けているが、大切なお客様。
「なんの薬ですか?」
「ふへへ、回春薬だぁ」
またか、これは普通の薬より多めに作ったほうがいいのかもしれない。
それにしても、副作用とかないのだろうか?
先輩も、ずっとこのレシピでやっていたようなので、問題はないと思うのだが……。
「銅貨3枚」
金をもらってから薬を渡す。
持ち逃げされる可能性があり、元世界のような性善説は役に立たない。
最初は薬を渡していたのだが、ヤミにたしなめられたのだ。
「はい」
銅貨をもらったはいいが、なんだがネチャネチャしている。
「ふひひ」
「なにこれ? どこから拾ってきたの?」
「うひひ、今日の朝、便所に落としちまってなぁ」
「ぎゃぁ! 洗浄!」
叫びながら魔法を使う。
もう、最悪!
本当に落としたかは解らないが、このオッサンは女を見つけてはこういうセクハラをやる常習犯っぽい。
こういうのを楽しみにしているのだろう。
困ったオッサンではあるが、ボロボロのオッサンのキンタマグッバイすると可哀想だし、まぁゆるしてやるか。
困ったセクハラオッサンの相手をしていたら、瓢箪から駒。
私の洗浄の魔法を見ていた人から仕事が入った。
オッサンから洗濯での依頼である。
依頼人の家まで行くと、山積みになった洗濯物を部屋ごと綺麗にする仕事だ。
「いやぁ、忙しくて洗濯できなかったから助かったよ」
どうやら独身のオッサンらしい。
男の家に入るので少々緊張していたのだが、問題はなし。
いきなり連れ込まれたりする可能性もあるから注意が必要だろう。
色々と街の中で商売をしてみたが、今のところ、あからさまな差別などはない。
まぁ、セクハラがそうだといえば、そうなのかもしれないが。
あのぐらいは元世界でもそれなりにくらっていたし、下手に暴れられない分、向こうのほうが始末が悪い。
次の仕事は魔石の充填だ。
客から黒い石を渡されると、魔力を入れる。
値段は魔石の大きさで決まっているらしく、こちらから請求することもなく出してくれる。
この値段は魔導師が所属している協会が決めているらしい。
そういうわけで、魔女が安く仕事をしたりすると叩かれるわけだ。
内緒で安く仕事をこなしても、人の噂はすぐに広がるし。
私が暮らしていた田舎がそうだったから解る。
それでもトラブルはあるのだろう。
魔導師と魔女の仲が悪いってのは、そういう積み重ねがあったに違いない。
街の中をぐるぐると回ったので、一休みすることにした。
そういえば、私が脅した中年の魔女を見かけない。
私の脅しの効き目があって、シマを移したのだろうか?
前に訪れた街にある泉にやって来ると、石組みの所に腰をかけた。
途中の市場で買ってきた、緑色の果物を袋から取り出す。
大きいブドウみたいな感じで、皮を剥いて口に放り込んだ。
「酸っぱくて美味しい」
この世界にはジュースとかないからなぁ。
果物はたくさん売っているのに、それを絞って飲み物として売っている所がない。
そういうのはないのだろうか?
ヤミに聞いてみる。
「ねぇ、果物を絞った飲み物とかは売ってないの?」
「にゃー」
そういうのは宿屋や、食堂などの食べ物を提供している店が販売しているようだ。
「へぇ~」
お酒とか、そういうものに分類されているのかな?
ヤミと泉でまったりとしていると、私の前に女の子がやってきた。
粗末な麻のワンピースを着た、小学校低学年ぐらいの子である。
茶色の髪を後ろで束ねており、顔を洗っていないのか、土埃がついている。
「ねぇ、お姉さん――薬を売っている人?」
「そうよ」
「お母さんが病気なので薬が欲しい……」
「お母さんが病気なんだ? どんな薬が欲しいの?」
「……」
彼女の話は、どうにも的を射ない。
小さい子なので、母親がどういう病気なのか解らないのかもしれない。
可哀想だし、彼女の家に直接行って確かめてみることにした。
女の子と手を繋いで、少々歩いた場所にある石造りの家にやってきた。
2階建てだが寂れていて、人が住んでいるようには見えないのだが……。
「ここ?」
「うん……」
どうにも女の子の反応が薄い。
少々気になるが、本当に困ったお母さんがいたら大変だ。
入ってみるか……。
ドアを開けてみると、中は薄暗い。
「あの~」
声をかけようとしたら、いきなり手を掴まれて部屋の中に引き込まれ、後ろのドアが閉じられた。
女の子と一緒に床に転がる。
ヤミは私から飛び降りて平気な顔をしている。
さすがネコだ。
「うあぁぁぁん」
どこかぶつけたのか、女の子が泣き始めた。
彼女を抱きかかえると、部屋の中に多数の男たちがいる。
その様子からみて、泣いている女の子のお母さんがいる家ではない。
下っ端らしき連中は、粗末なシャツとズボンだが、奥に座っている男は黒っぽいそれなりによい服装をしている。
「なに? あなたたちは?!」
「おい、魔女の分際で随分と舐めたことをしてくれたなぁ……」
1人の男が歩み出たのだが、デコが広くて無精髭――どこかで見た顔だ。
「ああ! 衛兵の詰め所で私に蹴られた男ね!」
「うるせぇ! 女にボコボコにされたって、俺はいい笑いものよ!」
「そりゃ、しょうがないでしょ? 実際にボコボコにされたんだから」
「このアマ!」
男が殴りかかろうとしたので、私は魔法を唱えた。
「光よ!」
「うわっ!」「なんだ?!」
周りにいた男たちがうろたえるが、あまりダメージを負ってないように見える。
「ふはは! お前の手口はもう解っているんだよ!」
どうやら、男たちは私の魔法に目を瞑っていたようだ。
初見殺しだが、手口がバレると簡単に防がれてしまう。
「フシャァァ!」
私の背中からヤミがジャンプして、目を瞑っている男の顔面に張り付いた。
「ぎゃぁぁ!」
「おりゃぁ! キンタマグッバイ!」
「*&(%@%$!!」
私の必殺の蹴りが男の股間に炸裂すると、男は床を転げ回っている。
おおかた、私に対する逆恨みだろう。
まぁ、こういうこともあるんじゃないかと覚悟はしていたけど。
「ふっ! またつまらぬものを蹴ってしまった……」
などと冗談を言っている場合ではない。
この場面をなんとかして切り抜けないと。