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10話 攻撃魔法


 森の中で黒狼という魔物に襲われて、命からがら逃げてきた。

 どうやら自分の身を守る手段が必要だ。

 そのために、今の私には魔法がある。


 簡単な初歩の魔法を使えただけで喜んでいたのだが、それでは不十分だったのだ。

 もっと強力な攻撃をするための魔法が必要になった。

 幸い、先輩が残してくれた魔法の本にはそのための知識が書かれていた。

 寝て起きたらそれを実践するだけだ。

 それが手に負えないものならば、私の生活をもっと慎重なものに考え直す必要がある。


 一緒に本に載っていた「猫の下僕になる魔法」というのを試してみた。

 すると、ヤミと話せるようになったのだ。

 これは嬉しい。

 彼はただの猫ではなかったようだ。


 ――魔物に襲われた次の日の朝。

 早く魔法を試してみたいのだが、腹が減っては戦はできぬ。

 まずは腹ごしらえだ。


「にゃー」

「なぁに? 鳥肉はもうないよ。君は野菜とか食べないでしょ?」

「にゃ」

 彼はプイと横を向くと、そのまま寝室に戻ってしまった。

 屋根裏部屋から外に出て、狩りをするつもりに違いない。


 かといって、私も料理をするつもりがない。

 2つ芋の皮を剥いて、魔法でチンするだけ。

 それを塩で食べる。

 完全手抜き料理だ。


「ほふほふ! あちあち!」

 中まで熱いから本当に熱い。

 木のスプーンで食べているのだが、食べにくい。


「木を割って箸を作ろうかな? 不便で仕方ないなぁ」

 ナイフで削って簡単に作れそうだが、夾竹桃みたいに枝まで毒とかの木もあるから気をつけないとね。

 竹があれば簡単なんだけど。

 森の中では見かけなかった。


 手抜き料理を食べたあとは――魔法の訓練といきたいところだが、まだやることがある。

 パン種の製作だ。

 幸い薬を作るときに使っていたらしい、広口のガラス瓶も地下にはあるし。

 あれを使ってパン種を作ることにした。

 原料にはりんごを使う。

 中学生の頃作ったことがあるので、やり方は知っているし、この世界のりんごでも問題がないだろう。

 酵母菌そのものがなかったらアウトだが。


 地下から瓶を持ってくると、魔法で加熱する。

 雑菌が混じらないように消毒をするためだ。

 本当は熱湯を使ったりするのだが、魔法を使えば簡単。

 あとは保存してあったりんごの皮とか、身もぶつ切りにすると全部突っ込んで水でひたひたに満たす。

 隙間があると雑菌が繁殖する可能性が上がるからだ。


 このまま放置してぶくぶくと泡が立つと、酵母が増えてきた証拠。

 そのまま1週間ほど放置したら、上澄みを小麦粉に混ぜればパン種の完成。

 途中で変な色が出たら、それはカビなので全部捨ててやり直し。


 魔法の袋の中は保存が利くようなので、完成したら中に入れておけばいつでもパン種が使えるだろう。

 また一歩文化的な生活に近づくってわけ。


「にゃー」

 ヤミが戻ってきた。

 シンクにジャンプしてきて、酵母瓶をクンカクンカしている。


「それは食べ物じゃないからね。いたずらしちゃだめよ」

 パンを焼くときには、カマドを使ったほうがいいだろう。

 魔法でずっと加熱し続けるのは不可能だし、電子レンジか瞬間湯沸かし器的な使いかたが合っているんじゃないかな。


「にゃー」

「よし! それじゃ一仕事は終えたし、魔法の訓練に行ってみようか!」

 パン種を作るためにつかった道具を片付けると、魔法の本を持ってヤミと一緒に家を出た。


「さて、どこで訓練をするかなぁ」

 試す魔法は2種類――火の玉の魔法と、光弾の魔法だ。

 他にも色々とあるらしいが、実用性を重視する。

 これは遊びではない。


 庭から出ると、草むらの中を進む。

 こんな場所で火の玉の魔法なんて撃ったら、火事になってしまう。

 1人で消火なんてできないし、家まで失うことになったら大変だ。


「う~ん……」

 少々悩んでいると、小川が見えてきた。


「あ! 火の玉なら、川に向かって撃てばいいのか!」

 水が近くにあれば、ちょっとボヤになってもすぐに消せるだろう。

 私は、小川に架かっている丸木橋の上に立つと、本を開いた。

 橋から落ちないようにしなければ。

 再度、魔法のあらましを確認する。


「にゃ」

「ちょっと離れててね」

 20mほど離れた小川の水面を凝視すると、精神統一に入った。

 右手を差し出して魔法を唱える。


「う~ん! 憤怒の炎!(ファイヤーボール)

 青い光が、赤い炎の玉になって、一直線に飛んでいく。

 それが水面に接触すると、水柱を上げて消えた。


「にゃ」

「や、やったぁ! きゃぁ!」

 丸木橋の上ではしゃいだので、落ちそうになる。

 確かに火の玉が飛んでいって水面で消えた。

 炎を遠くに飛ばせるってことだから、これは使えるだろう。


 普通の火を点ける魔法は飛ばせないけど、これは遠距離を狙えるのね。

 感覚を掴むために、3発ほどファイヤボールを撃った。

 水面からの衝撃で魚が気絶したのだろうか、白い腹を見せてプカプカ流れてくる。

 捕まえようとしたのだが、橋から落ちそうになって止めた。


「水に入って取ってくる?」

「にゃ」

「私は嫌よ」

 それはさておき、魔法のコントロールは上手くできているようだ。

 自分の思った場所に飛んでいく。


「すごい!」

「にゃー」

 ヤミの話によると――普通は、ファイヤボールをそんなに連発はできないらしい。


「だって、できてるし!」

「にゃ」

「おかしいって言われてもね」

 彼は納得できないようだ。

 納得できなくても、事実が目の前にあるのだから、認めてもらうしかないだろう。


 次は光弾の魔法である。

 これは火事の心配がないので、森の木を的にすることにした。

 適当な木を探す。

 的にするのだから、大木のほうがいいだろう。


「これがいいかも!」

 私が目をつけたのは、太さが両手を広げたぐらいの大きさがある広葉樹。

 ミズナラによく似ていて、栗のような大きなどんぐりが落ちている。


「にゃー」

「これって食べられるの?」

「にゃ」

 どんぐりは茶色で艶々光っており、美味しそう……。


「あ~、ここにはお米がないからなぁ。あれば炊き込みご飯ができるのに……」

 元世界で食べた、ホカホカの栗ご飯を思い出して郷愁に浸る。

 いやいや――それよりも魔法の訓練だ。


 私は30mほど離れた場所に位置を決めると、光弾の魔法を試してみることにした。

 念の為、もう一度魔法の本を読む。


「ふむふむ……う~ん、よく解らないけど、とりあえずやってみれば解るでしょ」

 さっきのファイヤボールの魔法も上手くいったわけだし。

 本を魔法の袋にしまうと、精神を統一し始めた。


「むうう……」

 精神統一とともに、青い光が舞う。

 ちょうど幹にウロがあり、黒い穴が開いている。

 そこを的にしよう。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 私の周りに大きく光る矢が現れると、大木に向かって1直線に飛んでいった。

 爆音を立てて命中し、衝撃で茶色の木の皮が飛び散る。


「にゃ」

「すごい! すごいすごい! 本当にビームみたいなものが飛んでいったぁ!」

 私は、その場で飛び跳ねるとくるくると回った。

 単純に当たっただけでなく、狙った木のウロに命中したのだ。

 これって、つまり百発百中ってことじゃない?


 まぁ、これは止まっている目標だからね。

 動いていると当てるのは難しくなるかもしれない。

 それとも、カーブとかはできるのだろうか?


 早速、試してみる――やっぱり真っ直ぐにしか飛ばないらしい。

 そりゃ、なにごとにも利点と欠点があるってことね。

 動いている的に当てるには、少し先を狙わなくてはいけない。

 私の魔法を見て、ヤミがなにか言いたそうだ。


「にゃ」

「普通は、そんなに光弾の数が出ないって? そりゃ、私の才能がそうさせるのよ、えっへん!」

 少し調子に乗ってみた。


「にゃ」

 猫が尻尾をふりふり、ブツブツ言っているのだが、そんなのは無視である。

 1発より2発、2発よりは10発のほうがいいに決まっている。

 大は小を兼ねるって言うしね。


 もう一度、魔法の本を読む。

 どうやら魔力を込める量を多くすると威力が上がるようだ。


「へ~、試してみよう」

 さっきの命中した感じだと、魔物を仕留められそうにないし。

 生き物を殺すのは抵抗があるが、元世界の田舎でよく行われる有害動物駆除と一緒だ。

 あれを可哀想っていう人がいるのだが、危険だから駆除するわけだし。

 野生動物に情けをかけても、理解してくれないしね。

 ここにいる魔物だって、私たちを餌として襲ってくるわけで、やらなければやられる。

 弱肉強食、死ぬのはやつらだ。


 必殺の決意をするが、それはあくまで自衛と食料にするため。


「むぅぅぅぅ~!」

 私の周りに出現した光の矢に、魔力を注ぎ込んでいく。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 放たれた光の矢が、大木の幹に突き刺さると、閃光とともに爆発。

 幹の大部分を欠損した大木が、不気味な音を立てながら、ゆっくりと傾き始めた。

 周りの木々からも、鳥たちが一斉に飛び立っていく。


「えええ! う、うそぉ! ちょ、ちょっとまってぇ!」

 沢山の枝や葉っぱが擦れる音を立て、地面に接地すると倒れた震動が足下まで伝わってくる。

 断末魔のようになん回かバウンドして暴れると、大木は静かになった。


「にゃ」

「ご、ごめんなさ~い! こんなの思いっきり環境破壊だし……」

 それにしても、威力ありすぎでしょ!

 少々驚いたが、素早く撃てば相手を殺さないで無力化できるかもしれない。

 ちょっと加減が難しそうだが……。


 すでに切り株になってしまった大木に近づく。

 チェンソーなどで切ったわけではないので、平らではなくてギザギザ。

 手に刺さりそうだ。

 この大木は死んだわけではない。

 すぐに脇芽が出てきて、また大木になる。

 それには数十年という長い月日が必要になるが。


「もう、倒してしまったものは仕方ないので、有効利用させてもらおっと」

 料理をするときには薪が必要だし、そろそろ薪拾いもしようかと思っていたところだ。

 薪を得るために、斧やチェーンソーで木を切ったと変わりない――ってことにしよう。

 うん、そうしよう。


 さて、この大木をどうやって薪にするかだが……。


「倒れた木に、さっきのをぶち込めばいいんじゃない?」

 そうすればバラバラになって、薪に使える大きさになるかもしれない。

 そうと決まれば実行だ。

 私は、ちょっと離れた所で再び構えた。


「にゃー」

「なぁに? 魔力切れ?」

「にゃ」

 どうやら、魔法を使い過ぎると、魔力切れというのを起こして倒れるらしい。

 ヤミの話によると、相当つらいらしいのだが……。


「今のところは全然大丈夫だよ?」

「にゃ」

 彼がまたブツブツ言っているが、無視だ。


 私は魔法を使う態勢に入った。

 再び青い光が舞う。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 横倒しになった大木に次々と光の束が命中すると、茶色の幹が弾け飛んだ。

 生木なのであまり細かくはならないようだ。

 木っ端が散らばる場所に駆け寄る。


「ほら、こうやってちょうどいい感じに割れたのを拾うわけよ」

「にゃー」

 ヤミが割れた大木の上に乗って、クンカクンカしている。


 拾った薪は、魔法の袋に入れて運べばいい。

 いくら入れても重さを感じないのだから、インチキすぎる。

 長いものはノコギリで切ればいいし――確か、小屋の中にノコギリもあったはずだ。

 ひとつひとつ薪を袋に入れると、取り出すときも大変なので、ある程度紐でまとめてから収納する。

 この紐は私が作ったものだ。

 ニャルラトから教えてもらって、自分で作れるようになった。

 なせばなるが、こんな紐ひとつでも自作しなくてはならないので、かなり大変。

 暇を見つけて、どんどん紐を作らなくては。


 地面の上に、さっきの大きなどんぐりが沢山落ちているのに気がついた。

 これも拾う。

 森の貴重な栄養源だ。

 そのまま食べたり、パンに入れたり、色々と利用できる。

 すべて自給自足なのだから、実りはすべていただかなくては。

 魔法の袋の中に入れておけば腐ることもないし。

 これも、ひとつひとつ袋に入れてしまうと、取り出すときが大変だ。

 あとで、家から入れ物をもってきて拾ったほうがいいだろう。

 とりあえず、10個ほど拾った。

 食べられると言っても、大量に採ってから不味かったら困るし。


「やったね! さて、帰ろう」

 魔法の訓練もできたので、家に帰ることにした。

 これだけではなくて、他にも色々とやることがあるのだ。

 回復薬ポーションも作らなくてはならないし、畑の世話もある。


 家庭菜園もいいけど、一気に採れすぎるのが欠点なのよね。

 1番簡単なのはトマトとかだけど、一気に10個とか20個とかできても食いきれないし。

 まぁ、ホールトマトとかにして冷凍すれば保存もできるのだけど、それができない野菜もある。

 中々難しいのだが、魔法の袋があればそれも解決する。

 採れすぎたら袋にいれておけば保存が利く。

 消費できないようだったら、人にあげたり街で売ってもいいだろう。


 家の畑には薬草も植えられている。

 それらも管理し、乾燥させたりして薬の原料としてストックしておかなければ。


 私は、ヤミと一緒に家に戻った。

 裏庭に行くと、魔法の袋から紐で縛った薪を出す。

 長さがバラバラだが、薪置場に積んでいく。

 生木なので、このままで使えないので乾燥をさせる必要がある。

 今すぐ使いたいわけではないので、魔法を使うこともないだろう。

 外での作業が終わったので、家の中に入った。


「さて、とりあえずなにをしようかなっと――そうだ!」

 さっき手に入れたデカいどんぐりを試食してみるか。

 味を把握しておかなければ、どう利用するか計画が立てづらい。

 不味かったら非常食だ。


 私は、魔法の袋からどんぐりを一個取り出すと、カマドの上に置いた。

 茶色でまるまると太っていて、見た目は実に美味しそうである。

 栗は横に幅があるが、これは縦に長くて大きい。

 小学生の頃、お婆ちゃんがどんぐりを使って、コマやヤジロベーを作ってくれたことを思い出した。

 ヤジロベーなんて言葉すら最近は聞かなくなってしまったけど。


 ちょっと細長い木の実に郷愁を感じつつ、木の実を温める。

 普通は鍋で煮たりするのだろうが、私には魔法がある。


温め(ウォーム)!」

 こうやって直接温めれば――と、得意げになっていたのだが、どんぐりが突然爆発した。


「きゃぁぁ!」

 辺りに茶色の木の実の皮と、白い実が飛び散る。

 ヤミは飛び上がると寝室に逃げてしまった。


「び、びっくりしたぁ……」

 そういえば子どもの頃――お婆ちゃんちのストーブに栗を入れて、爆発させたことがあったっけ……。

 ストーブの蓋が飛び上がるぐらいの爆発だったのだが、すっかり忘れていた。

 これは、いわゆる水蒸気爆発。

 電子レンジで卵を温めると起こる爆発と同じだ。


 硬い殻に覆われているものを加熱すると、中の温度が上がり圧力が上昇する。

 そのまま内部の圧力に負けて殻が破損したりすると、内圧が一気に下がって沸点も下がる。

 今まで押さえられていた水分が一気に沸騰して、発生した水蒸気が殻を吹き飛ばす――こんな感じらしい。

 水蒸気の急激な膨張で爆発するのは、私が吹き飛ばした黒狼の頭と一緒である。

 ヤミの話では、普通はああはならないみたいだが。


「にゃ?」

 真っ先に逃げた猫が、オッドアイの片目だけ出してこちらを覗いている。


「あ~あ」

 栗の破片だらけになってしまった台所を呆然と眺める。

 これって片付けに魔法を使えないの?

 試しにやってみる。


洗浄クリーン!」

 壁やら、戸棚にくっついてたどんぐりの破片はパラパラと落ちてきた。

 下に落ちたものは、ホウキなどで集めないと駄目らしい。

 少々がっかりだが、ゼロから掃除するよりはちょっと楽だ。

 おそらく服の汚れなども、こうやって下に落ちているものと思われる。

 思うに、この魔法は汚れがへばりつくのを阻害する魔法なのではないか?


 ホウキで破片を集めたあと、外に捨てた。


「殻がついたまま加熱したから爆発したのよ。最初から水蒸気が逃げるように殻を割れば大丈夫」

 どんぐりをもう1つ出して、包丁で切れ込みを入れる。

 念の為、それを手に取ると、外で実験をすることにした。


 石の上にどんぐりを置き、魔法を使って温める。

 今度は大丈夫だ。

 家の中に加熱したどんぐりを持ち帰り、スプーンで食べてみた。


「あ、美味しい……」

 ホクホクして、栗と同じぐらい甘く、渋みもない。

 これなら料理に使えるし、乾燥させればでん粉として使えるだろう。

 油があれば唐揚げもできる。


 大きな入れ物を持って、落ちているどんぐりを可能な限り拾ってこないと。

 思い立ったら行動だ。

 小屋に行くと大きな木の箱があったので、魔法の袋に入れた。


「こんなの入るの?」

 私の心配をよそに、木の箱が袋に吸い込まれた。

 どうにも物理法則を無視しているのが気になるが――そういうものだと諦めることにした。

 どうやってやっているのか原理も不明だし、考えるだけ無駄だと思ったのだ。

 考えるより便利だしね。


 樽もあったので、これに薪も入れようか。

 それも魔法の袋の中に入った――むう。

 釈然としないが、それを飲み込んだ。


 私が塀の外に行こうとすると、ヤミに呼び止められる。


「にゃー」

「なに?」

 しゃがめということらしい。

 その場に腰を下ろすと、彼が私の肩に乗ってきた。

 どうやら私を乗り物代わりにするようだ。


「まぁ、私は下僕ですから、いいんですけどね」

「にゃー」

「はいはい」

 猫を肩に乗せて、木を倒してしまった場所に向かう。

 彼の乗りかたは――私の両肩に横になって脚を乗せるか、後ろ脚を肩に乗せて前脚は私の頭の上――という感じ。

 私の頭の上で、器用に身体をくるくると入れ換えている。

 目的地に着くと猫を降ろし、袋から樽と木箱を取り出すと、どんぐりと薪を拾い始めた。


「ふぅ……」

 額の汗を拭う。

 1時間ほどで、木箱に一杯のどんぐりが採れた。

 大漁である。

 普通では女の細腕じゃ持ち上がらないが、魔法の袋に入れれば軽々と持ち運び可能。

 こんな袋を元世界でも欲しかった。

 すごいぞ魔法!


 家に帰ると薪は外に出して、昼飯にはどんぐりを食べることにした。

 どうせ半分割ってスプーンで食べるのだから、最初から割る。

 これで、魔法で温めればいいわけよ。


「私ってば天才」

 魔法で加熱されてホカホカになったので食べようとしたのだが、あることを思いついた。

 これを小麦粉に入れて焼いてみたらどうだろう。

 早速、小麦粉に水を入れて、どんぐりを練り込んでから、カマドを使ってナンもどきを焼いてみた。

 これは魔法ではできない。


 できあがったので、試食――見た目は美味しそうであるが、一口食べてみてがっかりした。


「う~ん、微妙……」

 やっぱり、多少は砂糖がないと、こういうものは美味くはならないようだ。

 砂糖は少しあるが、多分高価なものだろうし、元世界の感じで使っていたらあっという間になくなってしまう。

 思いついた私は、袋からりんごを出して皮を剥いて刻んだ。

 魔法で加熱してから乾燥させると、さっきのどんぐり入りのナンもどきで包んで食べる。

 口の中にほんのりと甘さが広がっていい感じだ。


「まぁ、及第点かな」


 さて、昼食を食べ終わったら、回復薬ポーションに挑戦してみようかな?


 

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