ボクのあてのない冒険
家を出ると、空は雲に覆われていた。ドンドンと僕は道を進んでいく。
ヒューと風が吹く。草木が音色を奏でる。道端の草はパタ、パタ。早かったり、遅かったり。
時にはサーと音を出す。ヒュルヒュルなんて珍しい音が出ることも。
木々はザワザワ。お隣さんと噂話をしているみたいだ。だんだん音が激しくなる。
ザワザワザワザワザワ。木の実がポトっと落ちてくる。
「君も逃げ出してきたのかい。」
そうなんだ、聞いてくれよ。と言いたそうにユラユラ揺れている。
「じゃあ一緒に行こう。」
その木の実を拾いポッケに入れる。風が止み、シーンという字が浮かんでくる。
それは一瞬で木が小刻みに揺れ、ザワっザワっザワっと薄気味悪い音が聞こえる。
木の実をそっと元の位置に戻す。恐る恐る僕は、上を見上げる。サーっと柔らかい音がする。
「あぁあぁ、冒険の仲間ができたと思ったのにな」
タッタッと僕はその場を離れる。しばらくしたら、ザワザワザワザワザワと聞こえてくる。
怒られているのかな。
「ごめんね。バイバイ。」
後ろを振り返らずに呟く。
ザー、ザー、湖の水面が揺れる音がする。水面にはいろいろなものが映ってる。
月、水面に浮かぶアヒルボート、遠くにある山までも。
しばらく見つめているとバサっ、バサっと一羽の白鳥が水面に映る。白鳥が月に着水した。
ファサっ。フォワ、フォワ。そんな音が周りに広がる。よく聴くとバシャバシャ音がする。
遠くに小さな影がチョコチョコ白鳥に向かっていく。山を越え、アヒルボートを越え。
白鳥に小さい影が近づき重なると、丸まって動かなくなっちゃった。
「僕はどんな風に映るんだろう?」
湖を覗き込む。そこには・・・
ぼやけた僕の輪郭が映し出されていた。
ジャリッ。「ちぇっ。つまんないの。」地面を擦りながら、その場を後にした。
しばらく進むとギコギコと金属が軋む音がする。いつも行列ができているブランコがそこにはあった。
今は順番待ちする必要もない。独り占めできる。キー、ギコギコ。僕の足の動きに合わせて音が鳴る。
ブランコに夢中になって思いっきり足を伸ばそうとしたその時、小さい黒い影が目に入る。
ザザザザっ。急いで足を曲げブレーキをかける。できるだけ足を開いて。
「あ、危ないじゃないか。」
そこにはリスがいた。リスがペコっと頭を下げる。ごめんなさいと言っているみたいだ。
「いきなりブランコの漕いでいる方にきちゃダメなんだよ。」
耳にタコができるまで聞いた言葉を僕が今発している。
「まあ、無事だったからいいや。君はどこから来たの?」
リスはちらっと山の方を見る。
「あの山に住んでいるの?」
リスはうなずく。「早く帰らないと」自分で言っていてむず痒くなる。
リスは顔をゴシゴシ掻いて動かない。よく見ると後ろ脚を怪我しているみたいだ。
「僕が連れて行ってあげようか。」
左腕を伸ばす。リスがピョコピョコ登って肩までくる。
フサフサな尻尾が僕の耳をくすぐる。
「ははは。くすぐったいよ。」
ズンズン進む。山の麓まできた。道は舗装されているが、薄暗く尻込みしてしまう。
ただ、肩の重みに勇気をもらう。ズンズン。ザワザワ。何かに見られている気がする。
ヒタヒタ。サッ。サッ。木々の上を行き来する影が見えた。
タタタタ。ヒュン。木から何かが飛び出してくる。
「っっ!」
声にならない叫びが出て、目の前が真っ暗になる。
肩の重さがなくなり、恐る恐る目を開けるとそこには2匹のリスが目の前にいた。
「驚かさないでよ。」
どうやら怪我をしたリスの友達だったみたい。どうやら目的地に着いたみたいで一安心。
リスたちはなにやら言いたそうにこっちを見て、尻尾を目線とは逆方向に伸ばす。
こっち、こっちと言わんばかりに。僕が立ち上がると、リスは進みだした。
いつの間にか肩の重さが戻っている。息を切らしながらリスを見失わないように注意して進む。
「い、痛いよ。」
肩にいるリスに耳を引っ張られて上に視線をあげると、満天の星が広がっていた。
耳の痛さなんて吹き飛んだ。いつの間にか開けたところに出ていたみたい。
僕はその場に寝転がって星を見る。星の光が左右に揺れていて小躍りしているみたいだった。
「きれいだなぁ。」
星を眺めていると、リスたちに肩を叩かれる。どうやらそろそろ家に帰えらなければならないらしい。
「僕はもう少し星を眺めてるよ。」
リスは尻尾を振って、ゆっくりとその場から去っていく。
「バイバイ。元気でね。」
しばらく眺めていると、いくつかの星が雲に隠れてしまう。
「なんだか帰りたくなっちゃった。」
僕は立ち上がり来た道を戻る。
タタタ。木々がサワ、サワと左右に揺れている。
タッタッタ。ギコギコ。
タッタッタ。ザワザワ。
タッタッタ。フォワ。フォワ。
タッタッタ。ザー、ザー。
タッタッタ。ヒュルヒュル。
タッタッタ。サー。
タッタッタ。パタパタ。
タッタッタ。はあはあ。
目的地に着く。なんだか忘れちゃっているような気がする。
ドアを開ける。さあ、このあと僕にどんな未来があるのかな。
これは、ある日の僕の僕しか知らない僕だけの冒険の物語。