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始まる中学生生活・中編(狂子)

 そして彼らと握手を交わした後……玄関ホールに入ると鍵付き戸棚タイプの下駄箱が学年クラス別にわかれて並んでいて、沢山ある鍵付き扉にはそれぞれに名前が書かれていた。


(なるほど鍵付き扉は……靴を隠す等いじめ悪戯防止の為か……小学校の時、千世ちゃん、何度もされてたからな、これであたしも安心できる)


 安堵の笑みを浮かべ早速、扉に書かれている自分の名前を「う~~ん」と指でなぞるように探し始め……数秒後


「きょうちゃん、有ったよ」

千世がため息混じりに声をかけてきた。


「えっ。見つけてくれて、ありがとう」

 あたしは礼を言うなり靴を脱ぎ、スノコの上を自分の名前の書かれた扉の前へと駆け寄り、靴を入れようとしゃがんだ時!


悲惨なモノが目に飛び込んできて、思わず「くそ」と舌打ちをする。


 あたしが見たモノ………それは、いびつに変形した扉と、それを埋め尽くさんばかりに書きなぐられた大量の彼女を罵倒する言葉と、靴跡。


「酷い事する……ほら、ちいちゃん、あたしの所一緒に入れて」

 これ以上の被害防止の為に、あたしは上履きを履きながら、自分の靴を入れるスペースを指差し声をかけた。


しかし千世は、首を横に振り


「大丈夫、慣れてるから……それに、ほら、鍵穴は無傷で充分使えるから大丈夫……本当、大丈夫だから、大丈夫」


 まるで自分を元気付けるように『大丈夫』を繰り返す千世が、たまらなく心配になったあたしは……


「でも……」と、さしのべた言葉は虚しくも

「大丈夫だから……気にしないで」と言う言葉で遮られた。


 数秒……互いに気まずい沈黙がながれた。



「こんな所でじっとしててもしょうがないから、とりあえず教室に行こ」


 あたしは、心に残る暗い気持ちを吹き飛ばす様に、息をはき……ようやく上履きに履き替えた千世の腕を掴み……壁に貼られている矢印(案内板)に従い、入り口を背にし一階右側に在る『一年三組』の教室へと向かった。


 教室へ伸びる廊下。

(景色が映りこむほど綺麗な床面……でもこれって、スカートの中も)

 あたしは、そばを歩く千世に気付かれないよう、その足元にそっと目をやると……もやがかかったように見えない事に安心する。


 光さす窓の外を見ると……白黒のコンクリートパネルがまるでチェスボードの様に敷き詰められている中庭……その中央には小さな噴水が。


 そして三階建ての校舎が、中庭を取り囲むように建てられており。二、三階には正面玄関から裏のグランド側に向かい渡り廊下がはしっている。


 あたしは足を止め……日頃ゲームのダンジョン探索でつちかったスキル『空間想像力』をつかい、一瞬で校舎の立体図を頭に思い浮かべた。


(なるほど……この校舎って上空から見ると、真ん中の線が少しはみ出た漢字の『日』に見える……って、相変わらずあたしの想像力ってすごい)

等と心の中で、自画自賛し、一人「ふふふ」とにやついていると……


「きょうちゃん、何か面白いモノでも見つけたの?」

 不意に側でにやけだす親友を心配してか、千世が顔を除きこむようにして声を掛けてきて『はっ』と我に返ったあたしは直ぐ様はぐらかすように言葉を返した。


「いや~ただ、綺麗な中庭だなって」

思いつきで適当に返事をするあたしの言葉に、千世が笑顔で返す。


「中庭を取り囲むように並べられているプランターや花壇に咲いてる花といい、中央で目立たず静かに吹き上げる噴水……金魚でも泳いでるのでしょうか」

(花なんて。気付かなかった)

なんとも女の子らしい、可愛い答えである。


 あたしは、その場逃れで口にした適当な言葉に、千世が笑顔で返た事に、少し罪悪感を感じ俯くが……すぐに気持ちを切り替え、窓に映りこむ一年三組の看板に気付き明るい声で


「教室の前に着いたみたいだら……とりあえず入ろうか」

 回れ右し、千世の背中を叩き話しかける

「はい」


 そしてあたしは教室の扉を開け『一日の始まりと人付き合いは元気な挨拶から』と、教室内でたむろう数人の生徒に笑顔と少し大きな声で

「みんな、おはよう!」

つづけて千世も、あたしの背中に隠れるようにしながら小さい声で

「……おはよう、ございます」と挨拶をする。


 しかし、あたし達に挨拶を返してくる生徒は一人もいない……皆、驚いたようにこっちを見るだけだった……目礼だろうか?


(まったく近頃の子はタンパクでいかんな……あたしんちの道場に来たら、そんな考え一発でたたき直してやる)


 あたしは少し不機嫌そうに教室を見回すなり、千世の手を引き、後ろに並ぶ鍵つきロッカー棚の前に行き……下駄箱の時同様に自分の名前を探し始める。


 と……またしても千世が俯き立ちつくしている。

予想はしていた……とはいえ……教室のロッカーにまで下駄箱同様の低脳な嫌がらせ……くそ!

 下駄箱なら『他のクラス、他の学年』の仕業だと自分の心に言い訳が出来る……けど教室の中でそんなことは出来ない!

 しかも、今日は入学式……

(これから仲良くしようと思っているのにこんな事されたら……彼女の悲しみの大きさ深さ……バカなあたしの頭じゃ、駄目だメーター振り切って計測不能……理解できない!)


 あたしは心が壊れたように苦笑いを漏らし、軽くふらつくが、足を踏ん張らせると、すぐ千世を見る。

「千世……」

「大丈夫これくらい、大丈夫、慣れてる、大丈夫、壊れてない、大丈夫、使える、大丈夫」


 またもや彼女は自分を元気付ける言葉を、呪文の様に呟きながら、ロッカーの鍵穴にゆっくりと鍵を近付けた、その時!

(もう見てられない!)


 あたしは、鍵穴を叩く様に手でふさいだ!

突飛な行動に、千世が戸惑いの表情であたしを見る。

「なっ……きょうちゃん」

「こんなロッカー使っちゃ駄目! 使ったら負けだと思う」

「でも……これ、私の名前」


 断言するような声でじっと見詰められ戸惑う千世

「だったら、これでどう⁈」


 あたしは、落書きだらけの千世のロッカーから、彼女のネームプレートを外すと……それを鞄から取り出した糊で、自分のロッカーのネームプレートの下に貼り付け

「ほら、ちいちゃんと、あたし、二人のロッカー! 下駄箱もこんな風に出来たらよかったんだけど……靴を二つ入れるスペースがなくて……ともかく、ちいちゃん、ここに鞄入れて」

「うん……ありがとう、きょうちゃん」


 あたしの言葉に礼を返しながら、千世はおずおず遠慮がちに鞄を、あたしのロッカーの隅の方に置いた。


「これでよし……じゃあ、とりあえず」

 教室を見回すと……黒板のメッセージ『適当な席に座り待って下さい』に気付くより早く、千世がそれを口にする。


「先生が来るまで席に座ってまってよう……私、きょうちゃんの隣に座りたい」

「うん」


 千世の言葉に頷いたあたしは、最後尾、窓から二列目の席に座るなり、振り向き

「ちいちゃん、この席に座りなよ」

(ここなら授業中いたずらされる事無い)

と勧めるように最後尾窓際窓の机(自分の左隣)を叩いた

「はい」

 千世は微かに微笑み頷いて、あたしが勧めたた席にゆっくり座ると、安堵のため息をついた。


「私、きょうちゃんと同じクラスになれて……本当によかった(クラス&担任替えが無い)三年間よろしくお願いします」

「あたしも同感……親友と一緒のクラスになれて嬉しいよ……こちらこそ、よろしくね」


 等と楽しげに雑談を交わしていると……数分後……教師が入って来た。

窓辺やロッカーの側で立ち話をしていた生徒も、わらわらと適当に開いてる席に座った。


「みんな入学おめでとう……僕がこのクラスを受け持つ担任の橋中渡はしなかわたるだ……我が校は、学年が上がってもクラス替えが無いので、卒業までの三年間、よろしくお願いします……早速でわるいけどこの後、入学式会場である体育館に向かうのでチャイムが鳴ったら、名前を呼ばれた生徒は順に廊下に出て男女別一列に並ぶように……分かったかな?」


「はい!」

まばらな返事の中、ひときわ元気おおきなあたしの声が響き……担任も皆、あたしを見る。


「全く近頃の若者は……」

聞こえない程の小さな声で愚痴る。ってあんたも最近の若者だろ?


 とまあ、それはさておき……さっそく担任が出席簿をと鉛筆を手に名前を呼び始め……男子の名前を呼び終え、女子の名前を呼び始め……

「鬼道狂子」

名前を呼ばれ「はい」と元気な返事で立ち上がったあたしは、笑みを浮かべ千世に軽く手を振り教室を出て……廊下から彼女の様子をうかがう。


「暗木千世」

「はい……」ぎりぎり聞こえる声で、うつむき立ち上がった彼女が廊下に出てくると、まるで『番長のお通り』の如く、生徒全員黙り込み彼女を避けるように一本の道をつくる……この様な現象は小学校の入学式から続いており……

(中学になってもか……)

あたしも千世も、そろって表情を暗くする。


 あたしは、出席簿の順番なんて無視して

「ちいちゃん、ここ、ここ」

と手招きをして千世を自分の後ろに並ばせる……悲しい事だが案の定、千世の後ろには空間が出来る。


なるほどこれは、彼女の表情をこれ以上暗くさせないように、前だけは皆と同じようにとの狂子なりの

「よかったこれで入学式の間、隣同士で話が出来るね」

配慮ではなかったようだ……。

「きょうちゃん……」


 名前を呼び終えたのか担任が教室から出てきた。

「出発します……静かに付いてきて、式の間は、司会者に従い式の間は雑談しないように!」

玄関ホールとは反対側の中庭から運動場に通じる大きな非常口を出て……舗装された通路を通り、十数段の階段を登り……左に運動場と、雑木林を見下ろして。右側のプールや、柔道部等が使うであろう小さな道場、等を横目で見ながら、青い屋根の白い体育館の入り口に到着した。


「全員ストップ」担任の号令で皆、足を止める。



……しばらくすると、体育館の中から

『新入生入場』と篭った声がすると、それを合図に

「出発します、静かに!」

担任の号令で歩き出す。



(どうせ良く在り、使い回しのテープ録音の曲だろう)

 あたしは、嘲笑混じりのうんざりととした顔で体育館の中へ足を踏み入れた瞬間、目を丸くした!


 初めて耳にする、これでもかと波のように押し寄せる、ブラスバンド部による生演奏の迫力……圧倒さるけど、あたしは聞き逃さない。

(この音楽は、もしや!)


 そう、今ブラスバンド部が演奏している音楽は、あたしが大好きなテレビゲーム『ザ・ファンタジークエスト』のテーマ曲である!

(この感じ一作目の『ファーストファンタジー』か? ちなみに、あたしが今してるのは三作目の『サードファンタジー』だけど)


 あたしは一人、心の中で興奮気味に解説しながらほくそ笑む。

だって。誰だって自分の好きな曲が流れる中、花道を歩くのは無性にテンションが上がるとでしょ……で今、正にあたしは、その境地に立ち、息が荒く、落ち着かない!

 押し寄せるトランペット、力強いアルトサックス、地を揺らし腹にくるホルンと、ドラム。と思いきや優しいフルート、時折とぼけた感じのクラリネット、生楽器のサウンドは最高!

(テンション上がってきた、キターー!)

「きょうちゃん、気持ちは分かるけど……お願いだから落ち着いて」


 服の裾を引っ張り、注意をうながす千世の言葉に

「ありがとう」

と、落ち着きを取り戻したあたしは『入学式に行く』と約束した家族を探す。


(居た!)

 家族がみんな来ている、手を振る母ビデオをとる父、笑みを浮かべるお爺ちゃん。

 その隣には、電球頭……いや、微動だにしない千世のお爺さんが。


(いろんな意味で目立っている……これが反面教師か)

大衆の面前で恥をさらさず、舞台前の新入生用の席に座ることが出来た。


『只今より、市立花園中学、入学式を始めます……国歌斉唱、皆様、御起立下さい』

静かな会場……国歌につづき、校歌斉唱とお約束のパターン。

(はぁこの後、校長やら他にも長い話が続くんだろうな)


 とろんとした目を舞台に向けていると……

『学校長スピーキング』

司会の言葉で、急にスモークがたかれ。出来損ないのムーンウォークで白髪の男性が現れた。(校長先生?)


『みんな元気かな~? 僕は元気だよ~ってことでいってみようか』

一歩下がり一呼吸

『今日も校長、絶好調~!』

 大きな声と、マイクを倒さんばかりのオーバーアクションの後……そこには何かをやりきった、汗で光る、満足げなオトコの顔が有った。


(オヤジギャグ? いや。間違いない、校長は魔法使いだ……男は凍てつく台詞を吐き出した。周囲は動けなくなった。全体魔法といったところか?)

ちなみに校長の名前は……池輝雄いけてるおというらしい。


 案の定、その後は静かなもので……時折、制服の裾を引っ張る千世に起こされながらも……入学式プログラムを消化していき

『新入生あいさつ代表、脇役君』「はい」と、最前列に座っていたいかにも『ガリベン』といった風貌の男子生徒が舞台に上がり分厚い眼鏡を光らせながら事前に用意された文章をはきはきと棒読みしている。


それを見ながら、あたしは少し不満そうな顔で千世に囁きかけった。

「ちいちゃん……なんで学年総代辞退したの? 本当ならあそこに立つのは」

「目立つと、その……いじめられるし……視線が怖い」

「出る杭は打たれるか……」

と、ため息と共に納得し閉口し……再びわきあがってくる眠気に負け……俯く千世の隣で眠ってしまった……。


 数分後……。

『これにて入学式を終わります』ゴツン!


 緊張が一気に解けたせいだろうか、おじぎをした司会者が勢いよくマイクに頭をぶつけ、その音にあたしは『はっ』と目を覚まし、軽く焦り辺りを見回し、笑いに包まれる会場の中……何が起きたのかと首をかし質問しようと、隣でくすくす笑う千世を見て、瞬間で理解し。

(何か面白いものを見逃した)と今度は悔しさで頭を抱えた。


『新入生退場……それなりに拍手!』

 そんなこんなで、ほどなく無事に式が終わった。


鬼道狂子のプロフィール(予定)

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