表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

7.ブラック企業

 勤務先の工場に到着すると、更衣室で作業服に着替えた。


 俺の今の仕事は、ネジや機械のパーツに傷がないかどうかチェックするだけの単純作業。

 俺の職歴はこういった工場内軽作業かライン工ばかりだ。

 コンビニは面接時で顔が悪いから接客に不向きと言われた。名誉棄損で訴えようかと思ったが、今後の就職活動が不利なるかもしれねぇからやめておいた。

 

 

 さて、さぼっていたら上司に怒られるから、とっとと始めるか。

 

 俺に与えられた作業デスクの隅に、今日やる分量の段ボールを運んだ。

 開くと大量のネジが顔を見せた。

 嫌になるくらい、めちゃくちゃある。

 

 

 ミスがあるとデタラメに怒られて、場合によっては減給されちまう。

 月の給与は俺にとって生命線。

 契約社員だからボーナスがないとかいうクソのよう就業規則の会社だからだ。

 

 

 他に行きたいが、こんな俺を採用してくれたのはここだけだった。

 まぁ、見てろよ。

 もうちょっとしたら、行政書士の先生になって見返してやるのだから。



 おっと。

 雑念が入っていら、良い仕事ができない。

 集中、集中……



 俺はネジを手に取り、丁寧に調べていく。


『イノウエよ』



 なんだよ!

 集中しているんだから、黙ってくれよ。



『楽しいのか、その作業?』



 楽しくないわ。

 仕事だから仕方ないだろ。



『うむ。仕事は、時に、心を鬼にしても遂行することもあるだろう。皆が嫌がることをやることだってある。それが煉獄のトップたる者の所業。イノウエの意見をすべてまで否定はせぬ』



 そうかよ。

 ありがと。



『だがな、予は共に世界を暗黒の世に陥しめる同士として忠告しておきたい』


 勝手に同士枠に入れるなよ。



『仕事とは生活の糧でもあり、己を高める為の道なり。茨の道もあれば邪の道だってある。だが目標となる最終地点を目指し、今、通っている道が果たして正しい道だったのか否か、常に検証していく必要がある。貴様の仕事への姿勢はいくつか弱点がある』



 言わんでも分かっている。

 今の俺には弱点しかないわ。

 


『まぁ聞け。イノウエはまだ39年しか生きていない。予の1万分の1以下の経験値しか持たぬのだ』


 あんた、39万歳か?


『まぁ、ざっと計算したらな。だから予の経験を共有することは、イノウエにとって大いなる財産になる。長きにわたる暗黒の歴史そのものを知ることができるのだからな』



 なんか、壮大だな。

 暗黒は余計だけど。



 だけどあんたが言いたいことは大体分かるぜ。


 ここだといくら頑張っても給料が上がらない。

 そんでもって、スキルも身につかない。

 だからこんなところに長居すれば、人生そのものを奪われちまう。

 俺はもう39歳。人生の多くの時間を無駄に使っちまった。だからここから挽回するために行政書士を目指していたんだよ!



『……悪いが、イノウエよ。おそらくその考え方をスタンダードとして身に付けているようでは、ダーク法律ソルジャーにクラスチェンジしても、あまり良い結果が出せぬぞ。むしろ大きなダメージすら受けるやもしれぬ』



 なんだよ。

 行政書士を勝手にダークサイドにしないでくれよ。

 それになんだよ。

 俺の考え方が間違っているのか?

 俺は今の現実を打破するために、頑張って挑戦しているんだぞ。


『全否定はせぬ。だが、本当にそうか? もしかして現状から逃げようとしているだけはないのか?』


 現状?

 このブラック企業のこと?


 ここで俺はどうしろと?



『簡単よ。

 その前に、まず、予の編み出した究極の考え方--邪神三原則を教えておいてやる。

 ひとつ、どんな嫌なことがあっても目を反らせてはならない。

 ふたつ、辛い時こそ刮目のチャンスと知れ。

 みっつ、すべての経験は必ず己の糧となる。

 これをキチンと遂行すれば、イノウエは圧倒的な存在になれる』



 なんか、綺麗な言葉でまとめてきたね。

 だけど、こんな未来の無い会社でいくら頑張ったって先が見ているよ。

 頑張っても上になれないだろうし。


『やり方はいくらでもあるだろう。例えばこの会社を支配して恐怖のどん底に陥れ、イノウエの従順たる奴隷にするのよ』




 は?



 つーか、あんた。

 犯罪チックなことを考えているだろ?

 俺は人殺しとかしないぞ。



『安心しろ。貴様に憑依したのが学習中のあのタイミングで良かった。予はイノウエと共に、この世界のルールをかじることに成功した』



 えーと、この邪悪な方も、

 殺人 = 犯罪 = いけないことって理解できたのかしら。


『ククク。

 今のイノウエはレベル1。

 もし犯罪に手を染め、憲兵がやってきても返り討ちにすることは無論、逃走することも難しいだろう。仮に殺傷事を行うにしても、もう少し成長してからの方が良い。

 安心しろ。そのようなことをせずとも、支配することはできる』



 どうやって?

 それに、ここ、多分、そのうち倒産するよ。

 評判良くないし。



『だから貴様が乗っ取るのだ。このブラック企業とやらをな! ここの社長ボスまで昇格しろ。倒産寸前ということは、まさしくチャンス。邪神三原則、ふたつ目、辛い時こそ刮目のチャンスと知れ、よ。そして暗黒なる邪法を持ちい、実力のある会社に仕上げていくのだ。そして奴隷としてこき使え。まずはそこからだ。ククク。アハハハア!』



 お、おい。

 邪神さーん??

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ