2.脳改造
邪神は俺の脳のステータスとやらを閲覧している……みたいだ。
『おい、イノウエ。どうなっているのだ? この脳は。何をしたらこうなるのだ?』
そんなことを言われても……。
『イノウエは何歳だ? 3歳くらいか?』
ざけんな!
39歳だ。もうちょいで40歳になる。
『は? そんな訳ないだろう? イノウエの脳は、40年間ほとんど使われていないようだぞ』
おい、こら、バカにしているのか!?
『いや、褒めている。なんて素晴らしいのだ。この脳はほぼ空っぽである。つまり空き容量は十分過ぎる程あるということだ』
なんか腹立つ。
『いずれイノウエは、我が暗黒呪文の術式をこの脳髄の空き容量に刻み込み、この世界を混沌に陥れる必要がある』
怖い事をさらりと言うな。
永遠にないわ!
だけど、俺、そんなに頭を使っていなかったのか?
くそったれ。
『何もひがむことはない。多くの人間は脳を10%も使用していないと言われている。だがそれは人間の学者の台詞。予から言わせれば、使用率は1%未満がほとんどだ。それは脳の使い方を知らなかっただけなのだから仕方ない』
脳の使い方??
『説明するより、体験してもらった方が早い。これより煉獄に眠る暗黒なる術式で、イノウエの脳ステータスを調整する』
おいおい。なんだよその禍々しいネーミングは。
大丈夫なのかよ?
『脳調整には痛みが伴う。場合によっては時々死ぬが、安心せよ。予の蘇生呪文は最強だ』
は?
勝手に殺すな!
つーか、あんた。
この世界では魔法が使えなかったじゃないのかよ?
『イノウエの体内においては、予の能力は生前通り使用可能なことが分かった。試しに肝臓の一部を予のエネルギー最小限に落として吹き飛ばしてみたが、ヒーリングを詠唱したらすぐに再生したぞ』
マジか!?
何も感じなかったぞ。
一瞬過ぎて、痛みすらなかったのか?
『すまない。イノウエの細胞組織は思いのほか俊敏性が高かったため、神経細胞に運ばれてしまった。
少し遅れて痛みが発生するが、肝臓は完全に再生しているので安心してもらいたい」
な、なんだと!
全然安心じゃねぇぞ。
うぅ。
痛ぇえええ!
超痛ぇぇえ!!
俺は右上腹部を抑え、倒れ込み、バカの子のようにジタバタ転げまくった。
しばらくすると痛みが治まったので、その場に座り込んだ。
『よし、大丈夫のようだな。まぁその程度の痛みだ。すぐに蘇生するのでHPは減少しない。まぁ失敗しても蘇生させるので問題ない。ではこれから脳の施術を行う』
お、おい。
待て!
脳を改造されちまったら、俺はどうなる?
心とか乗っ取られてしまうのか?
『安心しろ。イノウエはイノウエのままだ。細胞を刺激して少しくらいの操作はできるが、イノウエから完全に支配権を奪えるわけではない。イノウエの感情を完全に乗っ取らない限り不可能だ。
考えてもみよ。イノウエの感情を支配できていたらとっくにしている。予は一刻も早く、混沌の世を作り上げようと思っているのだぞ。なのにどうしてこのように面倒なコミュニケーションを取っているのだと思う? イノウエと協力せねばならない理由がそれだ』
なんですと!?
ちょっとおいこら、待て待て。
それにだな、こんな痛みが続くのか!?
『イノウエの細胞の行動パターンは、少しは読めてきたので、神経に伝わる前に処置できる、、、と思う……』
少し?
思う?
えらい曖昧じゃねぇか
やめろ、やめてくれ!
うが!
その後、俺はみっともなく床にのたまわり、頭を抑えたままジタバタもがきながら、何とか拷問の時を終えた。