第二航海 自己紹介
自己紹介回です
「さて、俺が船長ということになったわけだが。まずは自己紹介をしようじゃないか」
何事にも、見知らぬ相手と協力することになれば自己紹介。基本だ。
船長が先に決まったりして順番がおかしい気もするが、この際どうでもいいだろう。
「じゃあ、あんたからやれよ」
先ほどから生意気な態度を取ってくる少年B。協力すると決まったからには反抗的な姿勢はやめて欲しいものだ。
確かに先ほどまで争っていた相手と仲良くするというのも難しいかもしれない。
「ちょっと!あんまり船長困らせない!」
「……」
少女がフォローしてくれはしたが、相変わらず不満な様子だ。まぁ、仲間を殴り飛ばしたやつに急に従うのが嫌な気持ちはわかるが…。
「わかった。俺から自己紹介しよう。俺の名前はギルバート・イーズデイル。20歳だ。ギルとでも呼んでくれ。爺ちゃんと二人暮らしで便利屋をしている」
「へぇ。とすると、この中では一番年上な訳ね」
「なんだ。お前らやっぱり10代だったのか」
「えぇ。まだ全員13歳。未成年よ」
イギリスでは成人は18歳だから、五年後には成人か。今の地球では、成人の概念はあってないようなものだが。
「で、妹たちが待ってるって言ってたな。兄弟いるのか?」
「本物の兄弟じゃないんですよ。孤児院を兼ねた教会で僕たちは育ったんですけど、そこの神父様が…その、暴力的で」
さっき言っていた神父よりマシって言ってたのはそういうことか。
「それで食事もろくに貰えなくて、弟たちがお腹を空かせていたから…ごめんなさい」
ふむ。そんなことが…嘘をついているようには見えないが。少年Aと少女の二人は結構痩せており、少年Bは骨格のせいなのかパッと見は体格が良く見えるが、言ってしまえばそれだけでよくよく見れば筋肉がついているとは言えない体つきをしている。
そういえば近くの教会はあまり良い噂を聞かないって爺ちゃんが言っていたな。
「気にするなって。水に流すって言ったろ。そんな事情があったんだったら言ってくれれば少しくらい食糧分けてやったのに」
「「「え?」」」
俺の言葉に信じられないといった面持ちで三人揃ってこちらを見てくる。
「ん?どうした?」
「…いや、食糧分けてくれるって言う人なんて今までいなかったですから。僕たちがパンとか買おうと思ったら他の人より高値でしか売ってくれなかったりしますし…ましてや分けてくれる人なんて」
あぁ、そう言うことか。今の地球は本当に世紀末だからな。食糧の確保が難しい連中はとことん難しい。孤児は特にそうだろう。とは言え、そんなひもじい思いをして助けを求めてくる子供を見捨てるほど俺も爺ちゃんも人間腐っちゃいないつもりだ。
しかし全くなんと言っていいやら。幾ら世紀末とはいえ、教会までろくでなしになっているっていうのは本当に嘆かわしく思う。
「ふん、どうせ俺らと仲良くなりたくて言ってるだけだろ。口先だけなら何とでも言える」
「どう思うかは君らにお任せするよ。ま、そんな湿ったい話は後にしよう。自己紹介の続きってことで、じゃあ次、そこの君」
そう言って、俺は一番最初に殴り飛ばした少年Aに視線を向けて自己紹介を促す。
「あ、は、はい!えっと、僕の名前はロイドです。ロイド・ラザフォード。わかってるとは思いますが、教会の孤児で…。機械が好きで、こっそり機械をいじったりとかよくやってますけど、宇宙船についてはさっぱりですのであんまり役には立てないかもです…」
「おう、よろしく」
中世的な顔立ちで気弱そうな物腰だが、コミュ障という程でなくとも人見知りな感じだ。眼鏡をかけていて顔が整っている所為か知的な印象を受ける。宇宙船云々に関しては孤児で宇宙船を触る機会がある方が珍しいし仕方ないだろう。
「じゃあ次、君」
次に俺にバットで殴りかかった少女に顔を向ける。
「私の名前はミラベル・ハートフィールド。ミラって呼んで。家事は普段からしてるから、そういった面で役に立てるかも。よろしくね」
「うん、よろしく頼む」
この三人組の紅一点であり、腰ほどまでに伸びる黒髪が特徴的な少女だ。華奢な体をしているが、先ほどのやりとりを見た感じ結構気は強い方なんだろう。
少なくとも、男の頭をバットで殴りつけるくらいの度胸はあるようだし、緊急時にも頼りになるかもしれない。
「じゃ、最後。お前だ」
最後に、先ほどから俺に敵対心を抱き続けている少年Bに挨拶を促す。
「俺だけ"お前"かよ。いいけどな。名前はジャック・ローガン。喧嘩は得意だけどよ、そんなんは宇宙では役に立たねぇだろうな」
「なに、喧嘩が得意って言うだけの腕っぷしがあるなら運搬作業とか捗るんじゃないか?」
「荷物運びか…まぁここじゃそれくらいしか役に立てねぇだろうけどな」
こんな準備もしていない段階で宇宙に来ることになったんだ。人手は多い方がいい。力がある奴は色々と役に立つしありがたい。
しかし、こうして改めて見ると三人ともそれぞれ個性が際立っているというか。
ロイドは機械が好きな頭が良さげなインドア系。ミラは家庭的だけど気の強そうな姉御肌を感じさせる紅一点。ジャックは不良感溢れる喧嘩師。地球に帰るまでそれぞれの得意なことで貢献してくれることを願おう。
「さて、自己紹介も終えたことだし、これからのことを話そうじゃないか」
「これからのことね…」
ミラが少し気まずそうな顔をする。緊急離陸装置のことをまだ気にしてるのか?あまり気にされても困るが、今こちらからこれ以上言っても仕方ないな。
「そうだ。このまま目的もなく彷徨っていたって、いつか食糧や燃料が底を尽きる。非常食はある程度置いてるし、最悪切り詰めればしばらくは問題ないだろうけど、問題は燃料だ。さっき言った通り、近場の星を2,3個回ったら底を尽きるだろう。だけどここがどこかはわからんが、今の時代この宇宙船で地球から緊急離陸して行ける程度の距離であれば開拓が進んでる所も多いだろう。とにかく、人が住んでる惑星や宇宙ステーションを目指して、そこで燃料を貰う。それでいいか?」
改めて確認の為に全員に聞く。こういった今後の方針含め、全員の意思疎通はこまめにやっておかないといけないな。向こうはまだしも俺はまだこいつらのこと全然わかってないからな。
「燃料を貰うって…タダで貰えるようなものなのかよ」
「タダは無理でも、その星で働けばいい。人が住んでる場所に行ければ少なくとも餓死はなくなるだろうしな。そこでしばらく働いて、燃料代を稼げばいいさ。で、どうする?」
「でも、それしかない…ですよね」
「そうね、このまま彷徨ってても餓死するだけだし」
「生き残る道がそれしかないんだもんな」
三人とも納得できたようだ。
「じゃあ決まりってことで」
ジャックが反抗してきたらどうするかとか考えてたが、変な問題が起きなくてほっとした。まぁそりゃ命がかかってるんだからあーだこーだ言ってられないか。
「じゃ、早速出発するとするか。今こうしてる間にも燃料は使われてるんだ。早い方がいい」
「OK。操縦はよろしくね」
「あぁ。ていうか俺以外できないしな。誰か覚えてくれればいいんだが」
そう言いつつ、俺は操縦席に座る。
「あ!それじゃあえっと…僕、教えてもらってもいい、ですか?」
おっと、ロイドが志願してくれるとは。そういえば、機械いじるのが好きで機械オタクだとか言われていたっけか。
「もちろんいいぞ。じゃ、操縦しながら教えるから側に来てくれ」
「わかりました。よろしくお願いします」
さて…無事に人間の住んでる星か宇宙ステーションが見つかってくれればいいんだけどな。こればっかりは運だ。何とかなると信じるしかないな。
色々とあって次話を投稿するのが遅れました。
今後、気まぐれに投稿することになるかもしれませんが、最低でも一ヶ月に一本は投稿する予定です。