第一航海 始まりの事故
SFファンタジーの物語です。
主人公と孤児が宇宙で漂流することになり、その中で生まれるドタバタやシリアスな流れを楽しんでいただければと思います。
「テメェのせいで俺たちはこんな宇宙に放り出されたんだぞ!責任とれやオラ!」
「知らねぇよ。まずお前らが盗みを働こうとしたのが悪いんだろ」
「あぁん?お前があの時来なけりゃこんなことにならずに済んだんだろうが!」
…こんな状況で、なんて不毛な言い争いなんだか。
面倒臭い。
どうしてこんな…こんなどことも知らぬ宇宙空間を燃料尽きかけの宇宙船で彷徨ってしまっているのか…。
◇◆◇◆◇◆
あれはそう。大型台風警報と隕石警報があったので、家の補修をしていた時だった。
「お〜い、ギル!そっちの補修終わったらこっちも頼む!」
「へいへい。人使いが荒いこって」
「しょーがないだろ、人手がたりねぇんだから」
2XXX年。時は宇宙開拓時代。一般人でも宇宙旅行が楽しめる時代。
地球は人類の長年にわたる酷使により資源が枯渇。人類は新天地を求めて、宇宙に飛び出していった。
宇宙開拓時代とは言っても絶頂期はもう100年ほど前に過ぎてしまっており、既に人類は方々の新天地に居を構えるようになった。
当初、金を持っている連中はすぐに開拓に乗り出した。
そうした連中が自分で開拓した星を我が物とし、王様気取りになっている現状。
そんな現代の科学技術は木星に行くのにまず1時間もかからない程に発展している。
不可能と言われていたワープ技術の開発に成功したこともあり、遠い星へ行くのはさほど難しくない昨今。
そんな科学技術の発展のお陰もあってか、70年ほど前に宇宙人の存在が確認され、交流に成功しているらしい。
昔の人が夢見たSFネタの多くが現実となっている訳だ。俺は宇宙人を見たことすらないが、いずれ会ってみたいとは思う。
宇宙の開拓が進んでいくのとは逆に地球の人口は過疎化の一途を辿っていた。
さらに何十年か前から地球では隕石が落ちてくるのも珍しくないような状況になっており、その他自然災害も頻発して起きている為、家屋をはじめとした建物は必然的にシェルターのような形が主流となっている。そのうえ建物の補修は度々しなければならないという有様だ。
地球がそんな状態である為、元々裕福だった者や何かしらのコネがある者などの殆どがとっくに地球を出て行ってしまっており、今でも地球外へと移り住む移住者が後を絶たない。今の地球はどこの地域でもスラム街が存在する無法地帯だ。無法惑星と言った方が正しいか。
俺、ギルバート・イーズデイルは未だ地球にいる人類の一人。後少しで21歳になる。地球の元々イギリスと呼ばれていた地にて祖父…爺ちゃんと二人暮らしで便利屋を営んでいる。
安物の宇宙船は持っているが、生まれ育って思い入れのある地球という星を離れるのは嫌だし、何より唯一の肉親である爺ちゃんに無理をさせられない。
だが、ならず者が多いうえに災害が頻発して起きているような地球で暮らすのに色々と苦労をしている面も多い。
爺ちゃんとしてもこの地球に骨を埋める気でいるようで、地球に対して爺ちゃんなりの思い入れはあるようだ。
そして今、俺は現代となってはもう古臭い2000年代前半の工具類で爺ちゃんと外装の補修を行っている。今は俺一人で屋根部分の外装の張り替えを行っているのだが、この間の災害で全体的にかなり傷んでしまったようでかなり広く張り替えしていかなければならない。正直言ってキリがない。
気が付けばもう昼過ぎだ。朝から補修の為に外で作業しっぱなしだったので疲労も溜まって来た。
立ち上がって背伸びをする。かなり腰に来ているな。
腰に手を当てて体をのけぞらせ、上を見上げる。…綺麗なまでの曇り空。
「それにしたって普段の仕事含めて最近は忙しいよな。災害も最近増えてきたし。爺ちゃん、腰は大丈夫か?」
額から流れてくる汗を袖で拭いながら下で黙々と壁の補修に取り組んでいた爺ちゃんに話しかける。
「腰か…。今は比較的マシだがな。仕事が多いのはどうしようもないし災害が増えてきたとか気にしたって仕方ないだろう。全ては自然の赴くまま、神様の気分次第だよ」
「神様ね。今度近くの教会にでもお祈りにでも行った方が良いのかね」
「近くって言うとあの第三公園の近くの教会か。あそこの教会は最近あまり良い噂は聞かんからやめた方が良い。あと祈ることを考えてる暇あったらさっさと手を動かせ」
「わかってるよ…金持ち連中はこんなの全部ロボットで済ませるだろうになぁ」
「儂らみたいな平民には全部機械がやってくれるなんて便利な生活、一生手に入らんよ。それにそんなもんに頼らなくとも自分の肉体があるだろう」
「若い頃ヤンチャしてた年寄りは言うことが違うね。だけど肉体労働にも限界があるしやっぱロボットはいつか欲しいわな」
俺は度々ロボットが欲しいと爺ちゃんに話している。しかしその度に遠回しに無理だと言われてしまう。ウチにはそんな余裕なんてないことは俺もわかっているし、爺ちゃんも苦労して頑張っているからこそ、いつも愚痴程度に留めている。
現代では平民層以下の連中はこぞってロボットを欲しがる。
それ程までに現代のロボット工学は凄まじい。西暦2000年辺りのロボット工学とは比べ物にならないくらいだ。
昔、ドラ○もんという漫画を読んだが、まさしくそのレベルと言っていいくらいだ。秘密道具はないが。あんなのSFの世界での話だ。現実で再現しようとした者もいたようだが、一部の道具しか作れなかったらしい。
話は戻るが、作業用のロボットがいれば家の補修なんてものの一時間足らずで終わらせてくれる。隕石が頻繁に落ちてくる今の地球に住んでいる俺たちとしては是非欲しいものだが、もちろんそんな金はない。うちにある宇宙船だってどこかの誰かのおさがりだ。俺が記憶も残っていないほど小さい頃に爺ちゃんが貰った物なので誰の物だったかは知らないし興味もない。
「ま、とにかくさっさと終わらせねぇと」
そう言って、螺子を取ろうと、作業用ベルトのポケットに手を伸ばす。
…ない。もう使い切ってしまったのか。
「爺ちゃん!螺子使い切っちゃったんだけど、螺子持ってる?」
と屋根から降りて、下で作業をしていた爺ちゃんに聞く。
「ん〜?螺子か。そういやさっき切らしてたな。家にある物はもう全部…あ、確か宇宙船が置いてある格納庫にあったはずだぞ。格納庫のどこにあったかは覚えとらん」
「そっか。じゃあ取ってくる」
「早く戻ってくるんだぞ。あんまりモタモタしてられんしな」
「おう」
そんなやりとりをして宇宙船に向かった。螺子を取りに行くだけだし、探すのに手間取らなければすぐ戻ってこれるだろう。
無駄に広い庭に建っている宇宙船の格納庫へと足を運ぶ。
「あれ?扉が…」
格納庫の扉が少し空いている。閉め忘れか?
不審に思いながらも格納庫の中に入る。中は薄暗く、扉や窓から差し込んでくる外の光のみで格納庫の中は照らされている。
格納庫内へ入った俺はふと宇宙船の方へと目をやる。
…宇宙船の出入り口の扉が開いている。
また閉め忘れ?いやいや。流石に格納庫の扉と一緒に閉め忘れなんてないはずだ。爺ちゃんもまだそこまでボケてはいないだろうし…誤作動?いや、いくら安物でも最近メンテナンスしたばかりだから勝手に扉が開くなんてないだろう。
泥棒でも入ったか?
あまり想像したくないことを考えてしまった。こんな寂れた一軒家の安物の宇宙船に泥棒?ありえ…なくはないか。
今や金持ち連中はこぞって他の星に移住してるし、普通の居住区よりスラム街の方が多いご時世だ。
うちのようなところが目をつけられやすいのかもしれない。とは言っても、盗まれて困るのは非常食くらいなものか。あと螺子。まさか宇宙船そのものを盗もうだなんてことは…あるかもしれない。
もしそうだとしたら非常にまずい。中で鉢合わせになる可能性もあるが…待ったところで仕方ないし誰か呼ぶにしても爺ちゃんを呼ぶわけにもなぁ…。
警察を呼んでも泥棒を捕まえた後ならまだしも泥棒がいるかもしれないという状況ではまともに取り合ってはくれないだろう。そもそもこちらで捕まえた後で泥棒を逮捕してくれるのかどうかすら今の腐りきってしまった警察じゃ怪しいが…。
うちから何か盗もうだなんて許せないし、待ち伏せてもそのまま外に逃げられる可能性もある。それなら狭い宇宙船の中でとっちめてしまった方が良いか…?
そう考え、俺は宇宙船の中に忍び足で入っていった。
警戒して中に進む。これではまるで俺が泥棒の気分だ。
とにかく、本物の泥棒がいるのか、去った後なら何が盗まれたか確認するしなければ。
こんなご時世だ。まだ二十歳だが今は亡き爺ちゃんの知り合いから護身術として武術を叩き込まれている。一人二人の素人ならどうとでもなる。
そうして、奥の方に進んでいくと、話し声が聞こえてくる。
「結構食糧溜め込んでるみたいだね」
「マジか。いいじゃん。これ全部持っていって俺たちが有効活用してやろうじゃないか」
「うん、申し訳ない気持ちもあるけど…でも、宇宙船に乗るなんて初めてだよ」
「宇宙船に乗ったって言っても、宇宙船を盗むわけじゃねぇぞ」
「まぁそうだけど。ここの構造とか凄くない?ここの装置とか計測器とか。あ、これ緊急離陸装置だって!このスイッチ押したら飛べるのかな!?」
「ぜってぇ押すんじゃねぇぞ」
「うん、わかってるよ。でも宇宙船って良いよね。ロマンって言うのかな。こんな宇宙船、僕も欲しいなぁ」
「この機械オタクが」
こっそり覗いて見た感じ二人だけのようだ。しかもまだ子供。だが泥棒であることに間違いはなさそうだ。泥棒ならば子供だろうと容赦はしない。
とにかく食糧を持っていかれてはいざというときに困る。あいつらを捕まえなければ。男二人とは言えまだ子供。武器を持っている様子もない。
不意打ちで一人。そして、一対一に持ち込めば大丈夫だろう。それに片方は体格がそこまで良い方ではない。まずは弱そうな奴から確実に気絶させてから一対一だ。
俺は意を決して、飛び出した。
「え?」
飛び出した時の物音に反応したあまり体格の良くない少年Aがこちらに振り向く。
素早く懐に潜り込み、少年Aの顔面に右ストレートをぶちかまし、左で顎にアッパーを食らわせる。
少年Aは反応できずにどちらもモロに食らい、倒れる。
「テ、テメェ!なにすんだ!」
そう言って、少年Aより体格が良い少年Bが俺に向かって殴りかかってくる。
それを軽くいなして、転ばす。
「ぐふっ」
情けない声を出して少年Bが倒れる。
「クソが!」
少年Bは逃げようとはせず、再び俺に立ち向かってきた。
「度胸は認めるが、その度胸はもっと他のことに使えよ」
そう呟いて少年Bの迫りくる拳を再度いなし、今度は腹部に膝蹴りをいれる。
「がはっ」
モロに膝蹴りを食らった少年Bはその場に倒れてうずくまる。
全く、素人もいいところだ。こんな非力な癖して盗みにきたのか。家主と会ったらどうするつもりだったのか。あ、今みたいに殴りかかるつもりだったのか。しかし武器すら持っていないとは子供とは言え無計画過ぎやしないか?
「じゃ、気絶してもらおうか」
そう口にした俺に対して、少年Bはうずくなりながらも反抗的な目つきで睨んでくる。逃げようと後退りでもするかと思ったが、むしろ逆に腹を抑えつつ今にも立ち上がろうとしている。その敵意丸出しの目からして、お仲間を置いて逃げ出す気はないようだ。
仲間を見捨てずに逃げ出さないのはご立派だが、大人しく逃がすつもりもない。
さっさと気絶させてしまおう。
そう考え、追撃の姿勢をとった俺を前にして、少年Bは不気味な笑みをこぼした。
「何がおかしいんだ?」
そう問おうとした瞬間。後頭部に強い衝撃を受ける。
後ろから殴りつけられたのだ。よろめきながら後ろを振り返ると、木製バットを持った少女が。畜生、三人いたのか。
「ナイスだ、ミラ!」
少年Bはそう言い、そのまま立ち上がって殴りかかってきた。
いなす余裕もないので、その拳を受け止めて、服を掴んで投げ飛ばそうとする。
だが、その途中で先ほど来た少女が再びバットで俺を殴る。俺をボールか何かと勘違いしてるんじゃないかこいつ。
バットで殴られた衝撃で投げ飛ばそうと掴んだ少年Bの服を離してしまう。そしてそのまま壁際に追い込まれてしまった。
クソ、頭がグラグラする。どうする、助けを呼ぶか?いや、この近辺には爺ちゃんしかいないし、爺ちゃんをこんなことに巻き込めない。そもそもここから叫んだとして声が届くのかも怪しい。
俺の目算が甘かった。だが、ただでやられるわけにもいかない。
そんなことを考えていると、少女がバットを振りかざして再度殴りかかってくる。
それを倒れるようにして、すんでのところで躱す。
そのまま俺は床に倒れる。
それと同時に、何かが割れる音がした。そしてその音に続いて、
『『ブーーーーーーー!!ブーーーーーーー!!ブーーーーーー!!』』
と警報音が鳴る。
さらに上の方…格納庫の天井辺りから重々しい音が響いてくる。
そしてその直後、大きな揺れが俺たちを襲う。
今の警報音と格納庫の天井が開く音…まさか!!?と思い、先程まで俺が背にしていた壁をみる。
そこには、少女が持っていたバットによって割れたプラスチックのカバーと、そのカバーが守るように覆っていた緊急離陸装置のスイッチ。
まずい。まずいまずいまずいまずい。これは本当にまずい。
このスイッチを押したらそのまま緊急離陸できるようにしていると昔爺ちゃんが言っていたのを不意に思い出す。
このままでは地球を飛び出してどことも知らぬ宇宙空間に行くことになる。そんなのは絶対にごめんだ。
「え?なになになに!?何なのこれ!!」
「おい!あのスイッチ何なんだ!?説明しろよおい!」
少年Bと少女が慌てふためき俺に問いかけてくる。
こいつらに構っている時間などない。早く宇宙船から出なければこいつらと一緒に宇宙旅行するハメになってしまう。
俺は二人を無視して宇宙船から脱出しようと宇宙船の出口へと急いだ。離陸準備による揺れで躓きそうになりながらも出口へとたどり着く。しかし扉は固く閉じられており、開けることができない。離陸の態勢を整えている宇宙船の扉は開けることはできないことを思い出す。
宇宙船は外に出ようと慌てふためく俺を嘲笑うかの如く、強い衝撃を伴って離陸した。
緊急離陸の為、内部の人間に配慮するような優しい離陸とはなってくれない。何かを掴もうとするも間に合わず、緊急離陸の強い衝撃に耐えることができなかった俺は、そこで意識を失った。
◇◆◇◆◇◆
どのくらいの時間が経ったのか。水をかけられ、ふと目が覚める。
「うぅ…」
気分の悪い目覚めだ。
頭部に残るズキズキとした痛みを感じながら、うっすらと瞼を開ける。
「おう、起きたか。この野郎」
…訂正。超気分の悪い目覚めだ。
目を開けた目の前には先ほどの盗人少年たちがいた。思うように動けないことにすぐに気が付き自分の状態を確認すると、椅子に縛られて拘束されている状態となっていた。
少年少女を前に拘束される成人男性。なんだこれ。誰得な状況なんだとツッコミたい。
「なんで俺をこんな風に縛ってるんだ?」
「は?お前。自分の立場がわかっていないようだな?」
先ほど、俺が膝蹴りを入れた少年Bが、バケツを持って俺を睨んでいる。
「あー、そうだな…。突然飛び立った宇宙船の中で盗人に縛られて手も足も出ない立場だな」
「…あぁ、そうだ。で、お前自分がしたことわかってるんだろうな?」
「は?」
訳がわからん。俺悪くなくないか?思い出す限りでは、そこの女の子がバットで暴れたのが原因だし、そもそもがお前らが盗みにこなければよかった話で。
そんなこんなで、冒頭に戻る。
「テメェのせいで俺たちはこんな宇宙に放り出されたんだぞ!責任とれやオラ!」
「知らねぇよ。まずお前らが盗みを働こうとしたのが悪いんだろ」
「あぁん?お前があの時来なけりゃこんなことにならずに済んだんだろうが!」
本当に不毛すぎる言い争いだ。
「はぁ…。取り敢えず整理するぞ。まず、前提として盗みを働くお前らが悪い。そして、緊急離陸装置のスイッチを入れたのはそいつだ」
そう言い、俺はバットで俺を殴りつけた少女に視線を向ける。他の奴より小柄で、体格もあまり良い方ではない。それが不幸中の幸いか、バットで殴られても気絶するほどのダメージはなかった訳だ。そんな少女は俺の言葉に思うところがあるのか目を逸らして俯いてしまった。
「うるせぇよ。このまま縛ったまま殴り続けてもいいんだぞ?」
「あのなぁ。俺を殴ったとしてお前たちになんの得があるんだ?この宇宙船の持ち主は俺と俺の爺ちゃんだ。少なくとも俺がいなきゃ、この宇宙船を満足に操縦もできんだろ。この宇宙船の通信機器も大分前にぶっ壊れてからそのままだから他の宇宙船や惑星との交信なんて出来ない。俺と協力して地球に帰る方がいいんじゃないか?お前たちが地球に帰りたいのかどうかは知らないが」
「あぁ?そんな屁理屈どうだっていいんだよ!」
何この脳筋の少年B。話が通じない。
「え、えぇと…ちょっといいかな?」
そうして、口を挟んだのは最初、俺が殴って気絶させた少年A。鼻血や血反吐の跡が残っている。
「まずさ、ジャック落ち着こ?こんな言い争いしてても意味ないよ。この人がいないと操縦もできないし、これから何があるかわからない。この人も敵対するつもりもないみたいだし。だから縄を解いて協力した方がいいよ」
「お前の顔面殴り飛ばした奴だぞ」
「いや…それは僕たちが盗みに来たのが悪いんだし、このくらいなら神父様の暴力で慣れてるから気にしないで」
「………」
納得がいかなさそうな少年B。
しかし少年Aの言った「このくらい慣れてる」って…一体どんな育ちをしてきたんだ?
「あのさ…私も協力すべきだと思う。いざこざもあったけど、こんな事態になったんだから地球に帰るために協力しないと。あの子たちを放置してこのまま死ぬまで宇宙を放浪するつもり?」
お、この二人話がわかるじゃないか。
「……だーもう!わかったよ。しょーがねぇ。地球に帰るまで協力だ。だけど、地球に帰った後は覚えとけ!」
そう言って、少年Bは俺を縛っていたロープを解き、俺を解放してくれた。
「いやはや。君たちが話のわかる子で助かったよ」
「まぁ、私たちだって悪かったし。それに…その、殴ってごめんなさい。あと、あの緊急離陸装置って言うの?あれを押しちゃったのも…私の所為、だから。本当にごめんなさい」
申し訳なさそうに俯く少女。こうもしおらしくされると、こっちとしても調子が狂う。
「…ま、協力するって決めたんだ。こうなった原因を今突き詰めても仕方ないだろ。過去のことは水に流そう。こんな状況であまり争いたくもないしな」
「…うん、ありがとう」
協力関係になったのに、いつまでも引きずられても困る。盗みを働いた奴らだが、この状況下で謝っている子供に対してとやかく文句を言うほど俺に余裕がある訳でもない。
「でよぉ。ここって、どこなんだ?」
「えっとだな。緊急離陸装置は緊急で星から脱出する為のものだ。大体、星の環境による影響で宇宙船が壊れそうだとか、星が隕石とかで壊れそうだとかいうときに押すんだ。そういう装置だから、できるだけ元いた星から離れるようにプログラムされてる。移動に全力を注ぐから、記録装置とかにもどこをどう移動したのか載らない」
この宇宙船を飛ばすつもりなら緊急離陸装置で離陸した時の移動記録を残せる記録装置をつけたりはするのだが、生憎金がないうえ飛ばすつもりもなかったのでそんなものはない。
「…えっとそれってつまり、ここがどこか調べられないってことですか?」
少年Aが怯えた様子で尋ねてくる。
「…つまりはそういうことだ」
「そ、そんな…」
三人とも青ざめる。それもそうだ。宇宙空間に放り出されて、現在地もわからない。つまり、どの方向に行けば地球に帰れるのかわからないということだからな。
現在地を示すレーダーもあるにはあるが、地球近辺でしか使えない。どうやらここはレーダーの範囲外のようだ。
「ま、そういうことなんだが、近場の宇宙ステーションや開拓されてる星に行って、現在地と地球のある方向を教えてもらえれば帰れないことはない」
「ほ、ホントかよ!?帰れるのか俺たち!」
一転、明るい表情になる三人。帰れるかもしれないという期待に胸を膨らませているようだ。
「あぁ。だけどな。喜ばせておいて悪いが、見たところ燃料があまり残っていないんだ。移動にかなり使ってしまったようだな。この前メンテして燃料も結構入れていたってのに。宇宙船の中に予備の燃料も置いてない。これじゃ、近場の星を2、3個回ったらもう燃料が尽きてしまうだろうな。そこで十分な燃料も一緒に貰えなければアウト。完全に運任せだ。かなり分が悪いけどな。」
文字通り希望が絶望に変わってしまったことにショックを受けてか、三人揃ってまたもや青ざめてしまう。揃って二転三転と表情をコロコロ変えているのは絵面としては面白いがこの状況下では笑おうにも笑えない。
俺ももうダメかもしれないとは心の中で思っている。だからこそ"分が悪い"などと口に出してしまった。
俺たちは言ってしまえば詰みに近い状況に陥っている。
燃料が尽きた後、そのまま宇宙空間を漂流して、食糧が尽きる前に救助されるなんてまずあり得ない。燃料が尽きる前に何とかしなければならないが、全く余裕がない。
もっと高価な宇宙船なら、緊急離陸装置を押しても燃料には十分に余裕があるものだが、残念ながらこの宇宙船は安物。つまりはそういうことだ。
「僕たち、やっぱり帰れないんですかね…」
「宇宙船が動かなくなったら、私たちこのまま死ぬまでこの宇宙船の中ってことだよね…」
悲壮感溢れる声色で呟く少年Aと少女。気持ちは痛いほどわかる。しかし…。
「だけど___」
「だけど、何もせずにいたってしょうがないだろ。帰れるかどうかなんてことは今はまだわからねぇし、宇宙船がどうこうなんてのも俺にはわかんねぇけどよ。帰れると信じて行動するしかねぇだろ。」
俺が話そうとした瞬間、少年Bの声が被さった。
俺が言いたいことを全部言ってくれた。少年Bは脳筋思考のようだが、こういう時にポジティブなことを言ってくれるのは非常に助かる。
知り合ったばかりの俺に言われるよりこいつに言われた方が他の子もより納得できるだろうし勇気付けられるだろう。
「…うん。僕に何ができるかはわからないけど、皆で頑張ろう!」
「そうだよね…私だってこんなところで何もせずに死ぬなんて嫌だし…何よりあの子たちが待ってるし」
葬式のような暗い表情から一変、意を決したように覚悟を決めた様子の少年Aと少女。
俺が心の中で勝手に名付けてるこの少年Bがこいつらの中じゃリーダーみたいなポジションなのだろうか。こうして二人を勇気づけてくれたことを内心褒めつつも、実際に褒めたら調子に乗りそうなので口に出すのはやめておく。
そんなことを考えていると少年Aが俺の前に駆け寄ってきて、
「じゃあ貴方が船長ということで!これからよろしくお願いします!」
と唐突に口にして頭を下げる。
「え?船長?俺が?」
素っ頓狂な声が出てしまった。
船長って。
そんなことを急に言われるとも思っていなかったので思わず聞き返す。
「え…っと、ダメですか?僕たちこの船の操縦とかできないですし、船のことわからないですし。あなたが船長ということでまとめてくれた方がいいかなって。」
確かに何日一緒にいるかわからない状態で4人とは言え団体生活をするんだったらまとめる者がいた方が良いだろう。俺以外の三人はまだ子供だが…。
「あのさ、船長を決めるとしてもだ。俺でいいのか?さっきまで争っていた相手だぞ?」
「気にすることないわ。私たちもあなたに悪いことしたって思ってるし」
そう思ってるんだったら、最初から盗みをしないで欲しいものだが…いや、そのことは言及すまい。
「まぁ、全員がそれでいいなら俺としては文句はないが」
そう言って、少年Bに顔を向ける。
「………」
わかりやすく物凄い不満そうな顔をしている。
そりゃそうだ。殴り合った相手のことを船長だなんて言いたくはないわな。
「なんて顔してんのよ。ジャックだって早く地球に帰りたいでしょ。行動方針を決めていく人がいないと効率が悪くなるだけ。私たちにはそんなことできないでしょ。宇宙のことなんてこれっぽっちもわからないんだし。この人に全体のまとめ役をやってもらうべき」
「…わーったよ。仕方ねぇ。だがな、俺たちは三人生きて地球に帰るってのが目的だ。もし二人になんかしたら承知しねぇからな」
「はい決まりね。じゃあこれからよろしく船長」
少女が俺に手を差し伸べてくる。一人面倒そうなのがいるが、仲良くなっていくしかないな。
とにかく子供に宇宙でのたれ死んでもらっても非常に目覚めが悪いし、こうなった以上は運命共同体だ。
"この三人と生きて地球へ帰還する"。そう固く決意した。
「こちらこそ。よろしく」
そうして、俺はその少女と握手をした。
この先どうなることやら。そんな不安を抱えつつ、この盗人共と一緒に地球に帰る為、協力することになったのであった。
この度、この小説を読んでくださりありがとうございます。
他の小説と並行して書くことになります。より人気のあるものを優先して投稿していければと思いますので、続きが気になる作品でしたら良い評価をいただければ作者としては非常に嬉しいです。
これからよろしくお願いします。