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シンラ  作者: 三村恒久
第1話「社会人はじめました」
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シンラ第1話part.7(END part)

 その中は棺桶に思えた。狭く窮屈で、目の前のモニターから外が見えても、それは映像が映し出す偶像。

 警告音が耳を傷めつける。今にでも破裂しそうな程、圧迫してると言うのに、目の前の怪物は平然と待ち構えている。

 二人を助けた後、意気揚々と現れては満身創痍なまでに追い込まれた。それもたかだか、三十分も満たない間での有様だ。

 こちらの戦意が喪失されたかの様に思ったのか、敵は自分のことなど気にもせず高速で走り出す。凄まじい速度は、芝生を切り裂き、脚力で地面はえぐれる。

『空君立て!今君が立たないでどうする!』

 管制からの催促だ。分かっている。けれど身体は疲弊して、立ち上がれない。

 この鎧も、ただの鉄の塊がのしかかっている様だ。圧倒的なまでの実力不足。生きてるのが奇跡みたいだ。

『空ァ!!』

 その声に、腐った根性が吹っ切れる。

 この際だ、どうせ砕かれても構わない。もとい流された末の果て。此処で立ち上がらずして、居場所などあるか。

「チックショオオオオオオオ!!!」

 重い身体を持ち上げる。ゆっくりと、全身に力を込め立ち上がる。肩も息も上がり、体力など無い。

「動け、動けよ! まだ終わってない!」

 その声に呼応する形で、システムは再び目覚める。

 刹那、さっきまでの鉛の身体が嘘みたいに、走り出す。差分を詰めるべく、目の前の敵に注視するカメラは標的を捉え、鷹の如く狙い定める。

 橋を越え、最終防衛ラインであるABS本社前まで行き着いてしまった。河川敷内での撃退が目標であったのに、これではノルマ失敗だ。

 ならば、完遂するまでだ。失敗をカバーするのは行動しか無い。

「止ぉおまれぇえええ!!!」

 敵の背後から、ラグビーのタックルを決める様に飛び込み、腹部を両腕で締め付けて、転倒させる。落下の衝撃が酷く伝わるが、負けじと堪えて、何が何でも離すまいとしがみつく。

 当然に、抜け出そうと抵抗される。身体を大きく揺さぶり、蹴りを入れられ、敵の必死の抵抗に闘争心を駆り立てられ、絶対に諦めない意志を鼓舞する。

「離すかあああああ!!!」

 とは言え、体験したことのない有様だ。涙は出る。怒りも沸く。けれど負けられない。カオスな感情が全面に押し出る。

『耐えろ! あともう少しだ!』

「ああああああああああ!!!!」

 このまま死んだって構わない。せめての繋ぎになるなら、それは良い仕事をしたことになるのだから。所詮は依り代の身。代わりなぞ幾らだって―。

 “Over flow. System shutdown”

 最高潮の時だった。活動臨界点を超える出力の影響で、機能は完全に停止。鉄塊となった鎧は眠り、暗闇に包まれた。

 突然に衝撃が全身を襲い、轟音が響き、身体が宙に浮く感覚を覚える。視界の閉ざされた環境下で自分の状況を知るには、己の感覚の他ならない。

 あぁそうか、蹴り飛ばされたのか。一体どれくらいの高さにいるのだろう。落ちる感覚が無い。だけど落ちてしまったら、今度こそ本当に終わりだ。

 過去が走馬灯の様に流れる。どれも淡く、辛いものばかりだが、愛おしく思えた。そうか、これが死というものなのか。

 けれど不思議だ。まだ生きてる。それどころか、何かに包まれてる様な気分だ。まるで身体の重みが抜け落ちる様に。

「聞こえますか? 聞こえますか?」

 誰かが呼んでいる。助かったのか?

 ゆっくりと落ちて、次第に着地する様な感覚を覚え、地面に身体が触れる。全身の力が、全て地の底へと沈む様なまでの解放感と脱力に、本当に助かったと納得出来た。

 ―でも救ったのは誰?

 ・・・・・

 空中に放たれ、標的目掛けて降下しようとした矢先に、何者かが蹴り飛ばされたのを視認、宙に舞う姿を捉えた。目標変更。救助を優先する。対象に接近して機会を伺う。

「リフトオフ」

 合図と共に背中のバーニアは外れ、地に落ちる。

 タイミング合わせて、落下する人を横に抱きかかえる形で、腕に包む。そのまま地面に着地して、床にそっと身を離す。

 鎧を着てると言えど、僅かながらに身体は動いてるので、意識はあると確認出来た。静かに頷き、目標に視線を移す。

 敵はそれ程の速度でも無い。こちらからしたら、鈍足も同然。深呼吸を繰り返す。

 深呼吸を繰り返す。身体の内側を一本の糸で紡ぎ、雑念を振り払い、全てを目の前の標的に定める。止められるのは唯一人、ならば他の思考は一切不要。断絶する。迷いなど無用。

 この場で鎧を纏うこの姿こそ、俺の覚悟の表れだ。月光に照らされ、白銀に輝く戦士は、風を切り抜け、今、宿命に立ち向かう。

 了





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