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シンラ  作者: 三村恒久
第1話「社会人はじめました」
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シンラ第1話part.2

 2020年、地方都市「琉戸市」は新資源シンラ試験運用の実験都市として、急成長を遂げていた。

 街と街の間に万代川ましろがわが流れる光景から、 琉戸市は水の街との異名を持つ。川は四本の橋によって繋がっており、四つの区に分けられている。

 東区は住宅街が密集しており、中央区に近い程ビル郡が集う先進的でありながらも、昔の面影を残す区だ。

 対して中央区は、琉戸市で最も発展している都市である。市役所が所在してる事もあり、区の豊かさをアピールしているのかと疑うばかりのビル郡。

 通勤路の河川敷の先に見える摩天楼の数々は、ここ二十年で急激に生えてきた。それまでは目立つ建物と言えば、市役所が混在しているセントラルタワーと、マンションくらいであった。

 中央区の隣に位置する西区は、流通の街として知られている。別地方に移動する為の高速道路が点在している事から、配送センターが数多く拠点を構えており、物資を各区へ運ぶパイプラインの役割を担う。

 中央区、東区、西区に囲まれた形で南に位置する四つ目の区こそ春葉区だ。

 春葉区は、田園風景が広がり他区とは一線を画す情緒溢れる街並みに、都会疲れの市民が時おり訪れたりする。

 20年、たった20年でそれまで地方都市と呼ばれていたこの街は、首都と肩を並べる巨大都市へ成長したのだ。

 その成長に大きく貢献した起爆剤こそ、「新資源シンラ」だ。

 生活のライフラインである各エネルギーを、シンラに代用、活用することで新しい都市のシステムを構築する社会実験を目的とし、政府から特別実証区域として特例を受けた。言うなれば、一大実験都市に変貌したということだ。

 電力、ガスと言った生活資源や天然資源をシンラで補えるとは空想甚だしいが実際問題、こうして街の基盤として運用しているのだから、受け入れざるを得ない。

 とは言っても、未だに検証段階であるのでどこまで活用可能なのかは、全て公表されて無い不透明な存在でもある。

 当然ながらシンラを容認出来ない市民の方々からは、非難の対象として見られてるのも事実。

 そんな魔法の様な奇跡の存在は、いつも海からやって来る。

 琉戸市は川の下流域にある由縁、海に面した港街の様な側面もある。川には時折、小型タンカーが走っている。定刻になると橋の周辺に警報が鳴り進入出来ない様に、バリケードが地面から出現する。

 すると橋からガコンと外れる様な音と共に分断され、双方が天に向かってゆっくりと起き上がる。続いて進行方向に架かる橋も開きながら道を作って行く。

 巨大な鉄骨の塊が意図も容易く変形する様はいつ見ても壮観で、この街ならではの風景だと思う。

 開いた道をタンカーが進む。危険物を運ぶかの様な厳戒体勢でゆっくりと。

 眺めることおよそ十五分、いつも通りの光景に戻る。

 もう廃れた技術だと思っていた可動橋。だが必要を求められた時に日の光を浴びる事になるのだから、何が不要で何が必要なのかてんで分からない。

 この街は、シンラを主資源にした街づくりがなされている。特徴的なのは、電柱や電線が張り巡らされて無いことだ。

 これは電線の代わりに、シンラを家庭に運ぶ伝導線を地中に埋めた方式を採用しているからだそうな。

 別地域と比較しても、これほどまでに近未来化が進む都市は、琉戸市以外存在しない。電柱や電線が無いだけで、開放感と空の広さが一層に際立つのだ。

 自動車もそれまでは定番と呼ばれていたハイブリット仕様すらも、旧世代と揶揄されている。

 シンラが動力源の新世代自動車が公道を走る程、この街は名だたる企業にとって喉から手が出る至高の実験場である。

 そんな未来都市の反面、暗雲忍び寄る事件も少なからず発生している。

 壱斗が通勤路を歩く横でも、バリケードが敷かれ、ブルーシートで覆い隠されてる異様な光景も存在するのだから。

 触らぬ神に祟りなしと流そうとするが、どうも野次馬の様子が違う。

 チラッと横目を入れると、隠れてる筈のシートの隅から、タールの様なドロドロとした粘性のある液体がこぼれていた。

 心なしか、鼻腔を刺す濃くて獣の匂いがした。そこまで時間が経過していないのは分かる。だが、あまりにも異質で、何故か身の毛が立つ感覚を覚えた。

「なんだアレーー」

「血? にしては黒いわよーー」

 野次馬達の不穏な囁きから耳を塞ぐ様に、その場から離れた。何かが心を蝕む。謎の悪感と戦慄。逃げろと身体が叫ぶ。

 何処か、何処かで見た事が有る気がした。


 続

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