なんとも言えないが、たまに君のこと想う
はじめて書いてみました。よろしくお願いします!
すごく眩しい日差しに嫌気がさしながら今日も目覚めた。気づいたらもう二十五歳、大学を卒業して二年近く経つ。自分の中の時間の流れと世間の時間の流れにすごく差がある。浩輝は今日も朝がきてしまったのかと思いながら、ぼーっとしていた。
「もうええって、また1日始まったやん、しんどっ」
思わず一人でしゃべっていた、重い体を起こして部屋から出ようとした時、テレビの後ろに何か落ちてるのが目に入った。ホコリまみれで取ろうか迷ったがなぜか気になったので、狭いところに手を伸ばして腕がつりそうになりながら取ってみた。それは大学時代の写真だった。そこに写ってる自分の顔はむかつくほどすべってる変顔だった。そして女の子は一人も写っていなかった。
「めっちゃおもんないなこの顔。恥かし」
なんでこんなおもんないもん朝から見なあかんねんと思いながらも、少し大学時代のことを思い出してしまった。
俺は男子校出身で、ものすごくキャンパスライフに憧れを持って大学に行くことを決めた。高校から友達の剛も一緒の大学だった。
剛「俺らのキャンパスライフ始まるで、浩輝!サークルとか入って合コンとかしまくって彼女できほうだいちゃん?」
浩輝「せやな、さすがに俺らでもエンジョイできるやろな。でも俺おもっきり人見知りやで」
剛「あほか、そんなん関係ないぐらい女の子おるから人見知りでも勝手に仲良くなってるわ」
浩輝「大学ってそんなもんなん?」
剛「そんなもんらしいで!俺の先輩が言うてたわ」
浩輝「でも俺ら男子校上がりやから女の免疫ないぞ」
剛「まあいけるって!楽しもや!」
男二人で妄想を膨らませながら入学式へ向かった。入学式で眠たくなるような話をがんばって聞いた後、大学の授業の取り方や単位の説明の為に各学部違う部屋に分けられた。その部屋で見たものは俺たちが描いていたものとは掛け離れていた。
浩輝「ちょ待って、女子は?」
剛「男ばっかやん、勘弁してくれよ」
浩輝「え?これ男子校状態やん。終わりやん」
剛「まじかー、また男ばっかり生活始まるんかよ」
この日の夜俺たちは、大学の編入の仕方を必死に調べていた。でも結局お金がかかるのであきらめるしかなかった。
通い出して分かったのだが、他の学部にちらほら女子がいた。そして俺たちの学部にも4人だけ女子はいた。
剛「ゼミのクラス決まったな。お前どんな感じ?」
浩輝「俺留学生の子たちと女子二人やで」
剛「は?え?お前女子二人も一緒なん?てか留学生と女子とお前ってどんなクラスやねん!どんな組み合わせやねん。なんなそれ」
浩輝「俺の他にも二人男おるで!お前は?」
剛「俺、男しかおらん」
浩輝「よかったなー笑」
剛「しばくぞ笑」
俺と剛はゼミのクラスが離れた。俺のクラスは俺ともう一人の男と中国からの留学生の子達と女子二人というクラスだった。女子二人は世間的に見ても可愛いらしい子たちだった。その二人のうち一人は見た感じ俺が好きなタイプの子だった。
ゼミのクラスで自己紹介の時間があり、俺はその子の自己紹介を必死に聞いていた。
その子の名前は宮本 葵という名前だけでも可愛いのに、色白で口元にホクロがあった。
浩輝「俺が可愛いって言うてた子おるやん?名前も可愛かったで」
剛「なんちゅう名前なん?」
浩輝「葵ちゃんやって。可愛いでしかないやん」
剛「ほんでしゃべったん?その葵ちゃんと」
浩輝「いや、しゃべってないで」
剛「は?早よしゃべれや」
浩輝「そんな簡単なことちゃうねん俺からしたら!なんでこんな学校来たんやろ?」
剛「俺らと一緒でこんな学校って知らんかったんやろ!てかそんなことよりも見てみ、他の学部のやつら女子とめっちゃ楽しそうに楽しんでるで」
浩輝「あれがリア充ってやつなん?皆自分らのグループみたいなんできてきてるな」
剛「それに比べて俺らやばいやつやん、休憩時間いっつも男二人で喫煙所て」
浩輝「でも俺らみたいなやつらもおるで、男だけでいっつも喫煙所おるやつら」
剛「そういうやつらだいたい俺らと一緒の学部やで、皆この世の終わりみたいな顔してるわ笑」
俺たちがいっつも喫煙所でしょうもない話をしている内に入学してから2ヶ月ほど経っていた。俺たちの学部は校外学習で遊園地に行くことになった。遊園地ではゼミごとに行動するため、剛とは別々になった。剛と別々になった俺はすさまじく人見知りモードに入った。でも心の中では殻を破ってみんなと仲良くなってやると決意していた。
しかし俺は人見知りモード全開のまま無言でみんなについていくだけだった。そして最大のピンチが訪れた。三人ずつ乗るアトラクションに乗ることになり、並んでいた。
俺は最後に並んでいて、その前には葵ちゃんとその友達、だんだん順番が近づいてくるのだが俺は気づいた。前のやつらは仲良い同士で乗ったりして俺のことなど眼中にない。俺の計算だと前の葵ちゃん達が二人ですと言うと俺は一人ですと言って乗ることになる。やばい、まあ恥ずかしいけどしゃあないかと思い、一人で乗ることを決意した。
葵「三人で!」
すごい綺麗な細い声で聞こえてきた。俺は絶対一人で乗ることになると思っていたのでびっくりした。
葵ちゃんはちらっと俺の方を見て笑顔で会釈した。俺も申し訳なさそうに会釈した。その時気づいた、葵ちゃんにはくっきりえくぼがあり、そのえくぼを見た俺は高校生の時、女子高生のスカートが風でめくれた時くらいラッキーだと思った。
アトラクションの最中、隣では葵ちゃんたちがワーキャー叫んでいるので俺もとりあえず叫んどいた。乗り物酔いでゲロ吐きそうなのを必死にこらえながら。
結局俺はこの日ほぼ言葉を発することなく終わった。
ただこの日一つ気になることがあった。一日中ゼミで行動していたので、いつもより近くで葵ちゃんのことを見ることができたが笑顔の中にどこかしんどそうというか、おもしろくなさそうな感じが俺には伝わってきた気がした。
剛「校外学習どうやった?」
浩輝「あかんかった、誰ともほとんどしゃべってないで」
剛「マジかお前、遊園地でしゃべれやんて相当やな。しゃべれるチャンス山ほどあったやろ?」
浩輝「あったけど、俺には無理でした。ただ葵ちゃんな、なんか笑顔で楽しんでるようやったけど、俺には無理してるというかおもしろくなさそうやなって感じに見えてん」
剛「葵ちゃんも俺らみたいに大学選び失敗したなーって思ってるんちゃん。そりゃこんな男まみれの学部で女子ほとんどおらんしな」
浩輝「まじで仲ええ子もおらんそうやもんな、俺ら意外と葵ちゃんと分かり合えるかもせえへんな」
剛「いやしゃべったこともないのに何言うてん?とりあえず早よしゃべって仲良くなれよ」
浩輝「せやな、がんばるわ!その辺のしょうもない奴らより俺らとおったほうがおもろいやろうし」
剛「めっちゃ強気やん」
次のゼミの授業の日、俺はアレルギー性鼻炎でものすごく鼻水が垂れてくる状態だった。鼻をかみすぎてティッシュを切らした俺はトイレのティッシュペーパーでなんとかしていた。鼻を真っ赤にしながら、いつものようにギリギリの時間にゼミの教室の席に着いた。
その日も先生の将来役にたつのか分からない話をぼーっと聞いていた。眠たくなってきたなと思っているとすごい視線を感じた、視線を感じる先を見ると葵ちゃんだった。
俺たちのゼミのクラスは席が先生を囲むスタイルで俺の席の向かい側が葵ちゃんだった。
結構長い間こっちを見て笑っていたので俺も笑顔で会釈した。
これは葵ちゃんの方からしゃべってくるパターンか?それともアホにされてるのか?どっちなんやろと考えていたら授業が終わった。立ち上がって教室から出ようとしたら葵ちゃんが俺の方を見ながら近寄ってきた。
浩輝「絶対なんか言われるやん、なに言われるんや」
ちょっと怖いなと思いながらも立ち止まった。葵ちゃんは俺の前に来た。
葵ちゃん「浩輝くんっておもしろいね」
浩輝「え?なにが?」
葵ちゃん「とりあえずおもろい!ほなまたね」
浩輝「あ、うん。ほなね」
記念すべき最初の会話はこれだった。えくぼの笑顔で手を振りながら葵ちゃんは去っていった。
俺はどういうことなんか分からなっかたが、嬉しすぎて笑顔で手を振りかえしていた。
その後俺はトイレに鼻をかみにいった。
トイレに入る時なんとなくぱっと鏡を見ると自分の顔が何か不自然に見えた。
えっ?と思いよく見ると、ゼミの授業の前にトイレで鼻をかんだトイレットペーパーのカスが絶妙に面白い具合に鼻の穴についていた。
鼻息をするたびに、ぴろぴろ〜ってトイレットペーパーのカスが揺れている。ここで葵ちゃんが言ってた意味がわかった。
浩輝「なんでこんなん気づかんねん」
めちゃめちゃ恥ずかしくなった俺は一人で顔が赤くなっていた。すぐさま喫煙所に向かった。
浩輝「ちょ聞いてや、最悪や!」
剛「どないしてん?」
浩輝「俺鼻にトイレットペーパーついてたまんま授業受けてた。ほんでその顔葵ちゃんに見られて笑われてた」
剛「さすがやな浩輝!でもええやん、それで話しやすくなるやろ?おもろい子やなと思ってくれたらこっちのもんやろ」
浩輝「いやおもろいとかちゃうやろ、普通にきしょいやつやろ」
剛「いや絶対いける、とりあえず仲良くはなれる。ここまできたら俺も手伝うし」
浩輝「もっと早よ手伝えよ」
剛「ごめんやん、お前の話聞いてたらおもろかったから、手伝うのはもったいないな思て」
浩輝「なんなよそれ」
とりあえず次のゼミでしゃべろうと決めた俺は、なんてしゃべりかけようか悩んでいたらすぐ一週間経っていた。
少し緊張しながらも、いつものようにギリギリの時間に席に着いた。
浩輝「ん?葵ちゃんおれへんやん」
いつもの席に葵ちゃんの姿はなかった。そういえばこの一週間葵ちゃんの姿を見てないような気がした。体調でも悪いんかなと思い、少し心配になった。でも連絡先も知らないし、まあ来週来てたらまた会えるしと思ったので席に着いた。
すると先生がいつもより少しだけ真剣な表情で喋り出した。
先生「えーっと急なことなんやけど宮本 葵さんが学校辞めることになりました。まあ学校のこととか色々悩んでたみたいで、私とも話し合ったんやけどねー」
浩輝「えーーーーーーーっ、まじですか?ちょ待って、うわ、どないしよ」
予想外すぎて半笑いになりながら、思わず心の声が漏れてしまった。
めずらしく声を発した俺に皆は、びっくりした顔でこっちを見ていた。
授業が終わってすぐにダッシュで喫煙所に向かった。
浩輝「剛!やばいって、葵ちゃん大学辞めてたんやけど」
剛「まじで?やっぱり葵ちゃんも大学楽しめてなかったんちゃう?」
浩輝「そうなんかな、せっかく仲良くなれるチャンスやったのに」
剛「お前がもっと早くしゃべりかけて俺らと仲良くできてたら、葵ちゃんも学校辞めずに済んだかもよ」
浩輝「違った展開になってたんかな」
剛「それは俺らにも分からんけど、まあしゃあないな。非リア充男で楽しもうや」
浩輝「せやな!」
剛「まあ俺今別の大学の女の子と連絡とってんやけどな」
浩輝「しばいていい?」
俺の大学の恋は始まる間も無く終わった。もしあの時あーしとけば、違う展開になってたのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。それは誰にも分からない。
ただ、ほとんどしゃべったことのない俺なんかのことを葵ちゃんが覚えている可能性はほぼない。妄想では何回もしゃべっていたけど。
浩輝「あー眠たいのにアホみたいなこと思い出してしもたわ!やば仕事遅れる。でもこういうパターンって電車で葵ちゃんに運命的な再会とかするんちゃん?」
なんとかギリギリの時間に駅に着いた俺は今日も鼻炎だった。鼻をすすりながらスマホを見た。
浩輝「うわ、嘘やろ?今日日曜やんけ。休みやん、何してんねん俺!」
運命的な再会なんかするわけもなく帰って爆睡した。