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どうしてローファーを履いているんですか?

作者: Utah.N

Enjoy!!

 街を歩くときに気をつけて見てほしい。どれだけの高校生が週末の服装にうまくローファーを取り入れているだろうか。私は会計士だ。ファッション誌の編集者ではないし、服装に気を使う若い女性が何を着ようが自由だと思う。しかし、たまに週末のセンター街を歩く時、レースのブラウスや花柄のワンピースを着ている女の子がローファーを履いているのを見かける。そして、その理由について考える時、私はどうしても混乱してしまう。それはクレープを笑顔で食べる彼女たちのもう一つの顔への扉であり、その奥にあるものはアイドルの日常について想像する以上に複雑なものだった。

 ローファーの少女を見たときに、まず私が検討するのは経済的な理由によるものだ。

 彼女にはどうしてもほしいワンピースがあった。以前、たまたま入ったショップで店員からブロシュア受け取り、その中に載っていたものだ。両親は毎月決まった額の小遣いはくれるが、それだけで買えるものではない。彼女の通う進学校はアルバイトを禁止しているし、校則を犯す気にもなれない。一人の学生にできることといえば支出を減らすことぐらいだ。彼女は自動販売機のジュースを買うことを我慢する。誘われたカラオケを断る。クラスメートから「付き合いが悪い」と言われているのではないかと不安になる。だが、それでもよかった。そのワンピースのためなのだ。それを着て誰とどこへゆくかは関係なかった。

 彼女は数カ月かけて小遣いをため、ついにワンピースを買う。ラメの入った薄いピンク色のバッグを抱きしめて電車に乗る。家に帰って、彼女は気づく。靴のことなんて考えていなかった。自分の靴箱を見ながら考える。このワンピースにふさわしいものはどれだろう。姿見の前に立ち、小一時間考える。でも、どう考えてもそんなものはなかった。強いて挙げるならば、通学に使っているローファーだった――。

 もう一つ、私が検討するのはローファーの消耗のタイミングについてだ。この場合、そのローファーの少女はすでに高校生ではないかもしれない。

 長らく履いていたローファーが消耗し、高校生活最後の十二月にこれ以上履くことができない状態になる。残りの高校生活は実質ニカ月程度のもので、卒業してしまえばローファーは必要なくなる。彼女は母親に残りの通学のために白いコンバースオールスターがほしいという。しかし、母親は娘にローファーで卒業式に出席してほしい。熱心な説得の末、彼女は母親にその両方を買ってもらうことになった。彼女の家庭にとって、それがその論争のもっとも平和的な解決策だった。

 問題は高校を卒業した後だ。まだ足になじんでいない、きれいなこげ茶色のローファーが玄関に残る。それは高校生活のトークンとして取っておくほどのものでもない。しかし、まだまだ使える。結局、彼女はたった二カ月しか履いていないそれを捨てられず、大学生になってからも使うことにする。

 経緯がどうであれ、ローファーの少女の見るときに私が感じる違和感は、しっぽの残ったかえるを見るときのそれとよく似ていた。彼女たちは例外なく流行の洋服を着ていた。メイクのしかたも知っていた。大人と何も変わりないように見えた——足元を見るまでは。先に挙げた二つの例はあくまでも私の想像だ。そして、現実は常にわれわれの想像を超えてくる。それ故に私は混乱する。もしできるならば、週末のセンター街で一人ひとりに聞いて回りたかった。

「あなたはどうしてローファーを履いているんですか?」と。

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