幼少期8
「アリア様っっ!!!」
ミモルが駆け寄ってきて、ぎゅうぎゅうとこれでもかって位抱き締められる。
胸が、ミモルの豊満な胸が……
「くっっくるしい…」
私の声を聞いて慌てて腕の力を弱めてくれる。
胸で圧迫死するかと思った…。
腕の力は弱まったもののまだ抱き締めているミモルの背中をさする。
「ごめんなさい」
きっとミモルは階段から落ちた私のことをとても心配してくれていたのだろう。抱き締められていて顔は見えないが、肩が震えているのは伝わってきた。
「なっんで…」
「え?」
「なっんで、危ないから走っちゃいけないっていつも言ってるのに守れないんですか…」
そう言って上げたミモルの顔は濡れていた。
「……ごめんなさい」
もう一度謝るとミモルはハッとした顔をした。
「申し訳ありません。
どんなにしっかりしていてもアリア様はまだ6歳、私がもっと気を付けるべきでした。
……無事でよかった」
本当に心配をかけてしまったようで、心が痛む。
しかも、記憶が蘇った私は前世と合わせて計22年生きておりミモルと同い年なのだ。非常に気まずく感じ、心の中でもう一度謝っておいた。
少しずつミモルの気持ちも落ち着き始め、それからが大変だった。今回のことに責任を感じたミモルは私付きのメイドをやめると言い出したのだ。
どう考えても私が悪いのに、予測して未然に防ぐべきだった。自分は私付きのメイドをやるには未熟だと…。
その引き止めと説得にかれこれ3時間もかかった。
主に説得はお父様がしてくれました。
お父様、ごめん。
私の転落騒動から数日後、実は良かったが一つある。それはミモルとの関係性がぐっと近くなったことだ。
以前から悪いものではなかったが、一線引いたところが無くなった。ミモルが遠慮せず意見を言うようになったのだ。
私からしたら同世代の友達みたいなものだけど、ミモルには年の離れた妹みたいに見えてるらしい。何だか不思議な感じだ。
ふふっ
そんなことを考えていたら思わず笑ってしまった。
「アリア様、ボーッとしてないで早くお手紙の返事を書いてください。史学の先生が待ってますよ」
ミモルの言葉に慌てて手紙の続きを書こうとして、ふっと疑問が浮かんだ。
「そういえば、どうしてミモルは私が階段から落ちた後なかなか会いに来なかったの?」
「……ほらほら、早く書いちゃって下さい」
教えてくれる気はないようだ。諦めてしぶしぶ手紙の続きを書き始める。本当はこんな手紙なんて書きたくもないのだが、公爵令嬢として返事を出さないわけにはいかないので仕方がない。
後からお父様に聞いた話だが、本当はもっと早く私の様子を見に来たがっていたのをミモルが混乱していたため会いに行くのを止めていたらしい。
隠すようなことはないのだが、私に知られたくなかったのかもしれない。そう思い、このことは知らなかったことにしようと心の奥底に閉まった。