初等部編39
皆で談笑をしていると視線を感じた。そちらを向けばノアが捨てられた子犬のような眼差しでこちらを眺めているではないか。
あぁ!ご飯に浮かれて私の天使のことを忘れてた。こんなにも可愛い天使ちゃんのことを忘れるなんて私のバカ、アホ、おたんこなす!!
心の中で自分を叱責しながらも、ノアに笑顔でこっちにおいでと合図を送れば天使の微笑みを浮かべながらリカルド様とこちらへやって来た。
ノアとリカルド様は一緒に修行をするようになってすっかり仲良くなったらしい。うーん、流石ノアだわ。きっとノアなら誰とでもすぐに仲良くなれるわね。天使のような愛らしさだし。
「姉様!!」
嬉しそうに呼んでくるノアをぎゅっと抱き締めたい衝動を我慢して友人達へと紹介をし、きちんと挨拶をするように促す。
「はじめまして。ノア・スコルピウスです。いつも姉がお世話になってます」
無邪気な笑みを浮かべてしっかりと挨拶をしたノアは褒めてと言わんばかりにこちらへチラチラと視線を向けた。
「姉がお世話になってます」って大人びた言い方ができるようになったのね!!と感激していた私は直ぐにノアをべた褒めした。この時、周囲との温度差を物凄く感じたが気にしない。だってノアが可愛すぎるんだもの。さっきまでご飯に意識を持っていかれてノアのことをすっかり忘れてた罪悪感も手伝っていつもより輪をかけて可愛がる私と甘えまくるノア。二人だけの世界を作りかけたその時……
「アリア、リカルドの紹介もしていいかな?」
と控えめに声をかけられた。
「顔を見るのは初めての人もいると思うけど、僕の弟のリカルド。今年の誕生日には社交界にもデビューする予定だから皆仲良くしてあげて欲しいな」
そう言うとレオはリカルド様に挨拶するよう促した。
「俺は第2王子のリカルド・シュテルンビルトだ。まあ、仲良くしてやらないこともーーーグフゥッ」
「皆、ごめん。リカルドったら人前で話すことにまだ慣れてなくて緊張してるみたい。もう一度やり直させてもいい?」
たった今リカルド様を肘で突いて黙らせたことなどなかったかのような爽やかな笑顔でレオは皆の顔を見ながら聞いてきた。
思わず無言であかべこのように何度も頭をコクコク頷かせてしまう。イザベラは口元を扇子で隠してはいるものの動揺しているのか異様に瞬きの回数が多い。イザベラの長い睫毛がバッサバッサなって風でも吹きそうな勢いだ。その他の皆はいつも通りの表情だ。
えっ?なんで?貴族って肘打ち当たり前なの?ポーカーフェイスなだけで皆も驚いてるんだよね!?
「リカルド、きちんとご挨拶できるよね?」
そうレオに言われたリカルド様も何度もコクコクと頷いている。意外なところにあかべこ仲間が誕生していた。
「第2王子のリカルド・シュテルンビルトだ……です。これから仲良くしてくれると嬉しい……だ…………です」
何か言葉が変。本人もそれが分かっているのか若干恥ずかしそうにも見える。
うん。でも、可愛くていいんじゃないかな。とのほほんとした気持ちでいるとこちらを急に睨んできた。なぜ!?
「おい、ノア!!笑うなよ!!」
隣を見ればノアが肩どころか全身を震わせている。どうやら睨まれたのはノアの方だったようだ。
「フハッ…………だ……だっ……て、リカル……ドったら、ことっ言葉っが…………アハハハハハハハハハ」
途中から我慢することすら諦めたのか大きな口を開けて楽しそうに笑っている。笑ってても変わらず超天使……じゃなくて、ノア、今はちょっと笑うのは可哀想なんじゃないかと姉様は思うよ。




