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初等部編30


「私とデニスはあなたのお母様(パトリシア)にとても救われたわ。だから今度は私達が何か力になりたいの。

 カトリーナさん、お家に帰ったらパトリシア様を説得するの協力お願いね?」

 お母様は茶目っ気たっぷりに笑ったが、その言葉を聞いてみるみる顔色の悪くなっていくカトリーナ。

 

「お父様もお母様もまだこのことを知らないのですか?」

 恐る恐ると言った感じで確認をしている。


「デニスが食事前に手紙を書いてカトリーナさんの王都でのお屋敷に届けるよう使いを出していたから、今頃は知っていると思うわよ?」

 

「ヒッ…………」

 小さく悲鳴をあげて頭を抱えている。顔色は既に青ざめ小刻みに震えている。


「カッ……カトリーナ…………?」

 どうしたの?と聞こうと声をかければギュッと手を握られる。

 指先が氷のように冷たく思わず肩が跳ねた。


「アリア!私が帰る時に一緒に説得に来てちょうだい!!」

 あまりの必死の形相に物凄く断りたくなったが、気合いで頷く。私が頷いたのを確認すると手を握ったままカトリーナはイザベラの方へと顔を向けた。


「いっいっいっ嫌よ!私まだ死にたくないもの!!」

 イザベラは首を横に何度も振って全力で拒否している。そんなイザベラの元へとカトリーナは静かに近づいていき、ガシッと肩を掴んだ。


「私達、お友達よね?」

 能面のように表情が抜け落ちたカトリーナに怯えるイザベラ……と私。

「私達、お友達よね?」

 同じ言葉を繰り返しながら青白い顔をして迫ってくるカトリーナはまるで幽霊のよう。


「おっお友達だけれど、これとそれは話がちが…………フグゥ……」

 話の途中で口を押さえられて言葉を遮られたイザベラはすっかり涙目で怯えきっている。


「私達、お友達よね?」

 イザベラは静かに頷いた。


「それじゃ、説得にはカトリーナさんとアリア、イザベラさん、それにジンス君にも行ってもらいましょうね」

 お母様は場違いな程、明るく言った。


 カトリーナのお母さんってお茶会でチラッと見た時は優しそうな印象だったんだけど……。そんなに怖い人なのかな。

 私以外みんなが怯えているのだから、余程恐ろしい人なのかもしれない。


「カトリーナのお母さんって……」

 どんな人なの?と聞こうとしたら、最後まで言う前にイザベラは「裏ボスよ」とカトリーナ同様に青ざめた顔で答えた。


「パトリシア様は元々かなり裕福な伯爵家の出身よ。シュタインボックス家に嫁いだ今でこそ社交界には必要最低限しか顔を出さなくなったけれど、社交界の花として数多の修羅場をくぐり抜けて来られたのは有名な話ね。

 スコルピウス公爵家の婚約者候補だったから妬まれることも多くて、悪質な嫌がらせや命を狙われることまであったようだけど、その全てをご自身の力ではね除けて相手に二度と歯向かわせなかったらしいわよ。

 表にあまり出てこなくなったけれど、社交界でのパトリシア様の影響は未だに大きいと言われているわ」

 

 そんな人の説得に行かなくちゃいけないの!?

 ことの重大さを今更ながら知り、お母様へと視線を向ければ「命を狙われるわけでもないし大丈夫よ。頑張ってきてね」と笑顔でかわされた。



「さぁ、そろそろ寝る準備をする時間よ。順番にお風呂に入って早めに寝なさいね。

 明日はジンス君のお米の試食と商談にパトリシア様の説得もあるでしょう?忙しくなるわよ」


 お母様はメイド達に就寝の準備に取りかかるよう指示を出すと私の頭を一撫でしてからカトリーナとイザベラに挨拶をして部屋を出ていった。

 そして、私達は不安を抱えながら無言で就寝の準備へと取りかかるのだった。



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