初等部編27
暫しの睨み合いの末、お父様が折れた。
「分かった。ジンス、君の提案をのもう。但し、こちらの条件も一つのんでもらおうか」
「条件ですか。内容を伺ってもよろしいですか?」
「君の新しい商品や今回のような案がある場合は一番にスコルピウス家に持ってくること。その時に商談が上手くいかなければ他所に持っていっても良い。勿論、こちらから断ることもあるがね」
「他所の方に最初に注文を受けていた場合はそちらを優先しますが宜しいでしょうか?」
「あぁ、先にうちじゃないところから注文を受けて仕入れるなり作った場合は当然そちらを優先して構わないよ。報告もいらない。君は我が家の商人ではないからね」
二人は頷き合った後に握手を交わした。どうやら商談は成立したらしい。
前世の記憶があるとは言え何とも子供らしくない子供だ。
「ジンスさんがこんなにも遣り手だったとは知らなかったわ」
イザベラが言葉を溢せばカトリーナはハッとした表情でお父様とジンスを見る。
「お話中に申し訳ありません。先程のシュタインボックス領の農産物と畜産物を使用すると言うお話、私にも詳しく教えて頂けないでしょうか?
大変有難いお話ですが、スコルピウス家に旨味があまりないように思うのですが……」
カトリーナの話にお父様が答えようとするがお母様がそれを制した。
「私がお話ししても宜しいかしら。
あなたはジンス君ともっと話したいこともあるでしょうし、本当は今すぐにでももう一つの品を飲みたいのでしょう?」
その言葉にお父様とジンスは別室へと移動することにしたようだ。
去り際にジンスは「フルーツティーの用意もございますので女性の皆様に宜しければ試飲していただければと思います」と声をかけていった。
アルコールだと私達が飲めないからフルーツティーを用意してくれていたようで、些細な気遣いに『こいつモテるな』という場違いな感想を抱く。だが、そう思ったのは私だけではなかったようで……。
「ジンス君は将来女たらしになるわね」
とお母様が確信したかのように言えば、他の二人は深く頷いた。
お父様とジンスが別室へと移動したのを見届けた後、お母様に促されて私達は何故か私の部屋にやって来た。
「さぁ、座ってちょうだい」
部屋の主である私ではなくお母様に促されて私達はそれぞれソファーへと腰を下ろした。
各自にフルーツティーが注がれた後、お母様はゆっくりと匂いを満喫してから一口飲み、少し昔の話を始めた。
それはまだ私が生まれる前、お父様とお母様が恋に落ちた時のこと。
お父様は公爵家、お母様は男爵家の令嬢だった。お父様が間もなく学園を卒業する予定の18歳の時に偶々地方の学園へと行く機会があり出会ったらしい。その時のお母様の年齢は13歳。
ロ●コン……と一瞬思ったが、貴族の中で成人さえしてしまえば5歳差なんてあってないようなものだ。10歳差というのもよく聞く話だしね。
見た目は儚い美少女にお父様は一目惚れ。学園を卒業したら婚約者候補と正式に婚約する予定だったが、全力でお母様を口説きに行ったらしい。地方の学園にいられる期間は一週間。その間に絶対振り向かせると心に誓い毎日会いに行った。
しかし、中々首を縦に振らないどころか地方の学園にいられる最終日に
「いい加減にして下さいませ、あなた様と私では身分が違います。そもそもあなた様はもうすぐ婚約するという話は社交界でも有名ですわよ。
田舎者の私なら知らないとでもお思いになったのかしら。それとも愛人にでもなさるおつもり?」
と怒らせてしまったのだ。




