初等部編26
「パンケーキと言います。一口ずつナイフで切って上にのっているアイスクリームとソースをつけてお召し上がりください」
ジンスの言葉に私以外の皆が首を傾げる。
「アイスクリームってこの白いものかしら?」
「はい。甘くて冷たい氷菓子というものでございます」
その言葉にお父様はアイスクリームの部分だけ食べて目を丸くした。
「これは!?甘いのに滑らかで冷たい……。このアイスクリームってものだけでも多くのものが買い求める品だ。
ジンス君これはどうやって作られているのだい?」
「それは後程ゆっくりとお答えしたいと思います。アイスクリームは溶けてしまいますので是非先にお召し上がり頂けたら……」
ジンスは父の問いには答えず先に食べるよう促す。溶けてしまうのだから私からすれば当然なのだけどお父様はかなり不満そう。
仕方がない。ここは可愛い娘からも一言言いますか……。
「うーーん!!お父様も早くこのパンケーキとか言うのと一緒に食べてみて下さい。温かいのと冷たいのがお口の中で一緒になって、何とも言えない美味しさですわよ!!」
私の言葉に皆が次々とフォークを口に運ぶ。
食べ始めれば食べ終わるまでの間、誰も話さずに無言でもぐもぐと食べ進め、食後だというのに誰一人残すことなく完食した。
「アイスクリームもだけれど上にかかってる甘酸っぱいソースも美味しかったわ」
「何と言っても、このパンケーキというもののふわふわさ……。癖になりますわね」
「この絶妙な味のコラボレーション……。いくらでも食べれそうな悪魔的美味しさね」
上からお母様、イザベラ、カトリーナと皆がパンケーキを絶賛している。
「それで、このアイスクリームはどうやって作ってるんだ?」
お父様はよっぽど気に入ったのかまた同じことを聞いている。
「牛乳、砂糖、生クリーム、黄卵の4つの材料で作れますよ。果物の果汁や果肉を加えても良いですし、珈琲を加えてもまた甘さ控えめにしたら男性にも好評かもしれませんね」
ジンスは詳しい作り方は言わずに更なる可能性を提示する。
うーん。流石と言うか抜け目ないと言うか……。
「使っているものは分かった。どうやって作るんだい?」
お父様ったら前のめり過ぎて怖いんだけど。わぉ……ストッパーのお母様まで頷いちゃってるし、これは逃げ場なしかな。
「それはですね……企業秘密に決まってるじゃないですか」
にーっこりと効果音が付きそうな程、態とらしくジンスは笑う。
「大変申し訳ないのですが、契約もしていない方には例え公爵様と言えどお教えすることはできません。こちらもこれからの生活がかかっていますので、より良い条件の方と取引したいですしね」
おっふ……。ジンスのメンタルは鋼だわ。この状況で更に自分が有利になるように運ぼうとするなんて。
相手が怒ってしまう可能性もあるのに、それを分かっていて言ってる辺りが大物感あるよなー。
「ふっ……ふふふふふ…………わーははははははははは……。
流石だなジンスくん、いや……ジンスよ。将来商人になってからではなく、今からスコルピウス公爵家は君を最大限支援しよう。
アリアからお米の件の話があった翌日に連絡があったかと思えば、こちらの予定に合わせて学園を休んでまで我が家の厨房を監視のもと使い、自ら毒味までして私達にごはんを試食させた度胸といい、今回の無理難題を余裕の顔でクリアしてみせるそのアイデアといい、君には本当に驚かされる。
これは、とんだ良い拾い物だったな。君に出会えたこと、アリアが入学式の日に君に声をかけたことを私は神に感謝しないとな」
そう言うとサッと手を上げて執事見習いのチャンに羊紙皮と万年筆を持ってこさせ、さらさらと文章を書いた。最後にサインと血版を押してジンスへと渡している。
羊紙皮を使うということはガチの契約だ。これを使うのは余程重要な契約のみ。1000年以上も文字が消えないなんて言われてるものだもの。今は前世のような紙が主流だから私だって本物は初めて見た。それなのに、ジンスはと言えばそれが当然と言わんばかりの余裕の表情をしている。
「ありがたく頂戴致します。これとは別に普通の紙で良いので、今回のパンケーキ、アイスクリーム、ソースとこの後試飲して頂くサングリアはシュタインボックス領と予定通りに提携する旨を書いた契約書もお願いいたします」
「私を信用できないとでも?」
お父様は片眉を上げてジンスを睨むがジンスは全く気にもせず話を続ける。
「いえいえ、念には念を入れよという言葉もございます。それに、先程の契約書はスコルピウス公爵家が私に対しての支援のみのものとなっております。新しい商品に対してはその都度契約をすることで私が他所にも同じものを売らないようにすることができ、互いに利益があると思いますが?」
ジンスがどんどんチートっぽく……。本編にもそのうち書くかもですが、ジンスの前世のお母さんは料理教室の先生という設定もあります。なので、料理関係は強いのです。
 




