初等部編19
「コックラはいるかしら?」
厨房の扉を開けて料理長を呼べば、副料理長のコックリがやって来た。
「コックラは奥でお菓子作りをしております。呼んで参りますのでお待ちいただけますか?」
「いえ、作ってる最中なら来てもらうのは悪いわ。私が厨房に入っても大丈夫かしら?」
コックリが了承してくれたので厨房の中へと入る。ポテトチップスの時から割りと頻繁に出入りするようになったので今では勝手知ったる場所だ。
コックリの後をついて歩けばシェフ達が挨拶をしてくれる。
「アリア様こんちは!
聞いてくださいよ、コックラ兄ちゃんがラスクの味を他所のご令嬢が来るのにガーリック味にしようとしてるんすよ!信じられます?いくら美味しくたって臭いも残るし駄目っすよね?」
「こら、コックレ!!言葉遣いに気を付けろっていつも言ってるだろ!それに、仕事中はリーダーって呼ぶ約束だ」
コックラ兄弟は5人兄弟で上からコックラ、コックリ、コックル、コックレ、コッコロと言い、上の四人はシェフとして勤めており、コッコロだけ庭師をしている。
彼らはとても仲が良いが仕事中はリーダー、サブリーダーなどと呼んで公私混同しないように心がけているらしい。
「うふふ。本当に仲が良いのね。
そうね、ガーリック味はとても美味しいけれど臭いが気になるものね」
「アリアお嬢様は甘すぎます。もう少しきつく言って頂かないとコックレが調子にのってしまいます」
コックリは眉間にシワを寄せて険しい顔をしているけど、そこまで気にすることなのかな?
うーん。丁寧に話せればそれに越したことはないと思うけど、私としてはコックレの気さくな感じ結構好きなんだよね。
ここは、曖昧に笑って誤魔化しておこう。
笑っていればコックリは諦めたのか「差し出がましい発言、失礼いたしました」ときれいに一礼をした。
「コックリももう少し気軽に話していいのよ」と言ったが、コックリは困ったように笑うだけで何も言わなかった。
きっと彼にとって口調は譲れないものなのだろう。
「リーダー、アリアお嬢様がいらっしゃいましたよ」
コックリに声をかけられて、コックラが声だけで返事をする。どうやら今はベジタブルチップスを作ってくれているらしい。
少し離れたところで眺めながら待っているとコックリと作業を交代して来てくれた。
「忙しいところごめんなさいね」
「いえいえ、お嬢様ならいつでも大歓迎ですよ!今日と明日の食事とお茶会の軽食とお菓子のことですよね?」
「えぇ、そうなの。今はお茶会の準備かしら?何を作ってくれているの?」
「サンドイッチにチョコレートケーキとチーズケーキ、クッキー、ポテトチップス、ベジタブルチップスあとはラスクを作ろうかと思ってますよ。素揚げは革命ですからね!是非食べてもらいたくって」
確かにどれも美味しいのだが、全体的に重い。もう少し種類と量を減らさないと夕飯に響きそうだ。
どうしたものか……。
「あっ!ゼリーなんてどうかしら?」
うん、名案!口の中がさっぱりするし果物を入れたら豪華だ。
「お嬢様、ゼリーって何ですか?」
……しまった!この世界にはゼリーもないのかー。洋風のジュレなんかが前菜に出てくるから失念してた。
「えっと……。前菜のジュレみたいな感じにジュースをゼラチンで固めたものなんだけど」
それだけ言うとコックラの目がカッと見開かれ奮え始めた。
「その中に果物なんか入れたら更に美味しそうですね。ジュースじゃなくて果汁でもいけるか?いや、まずは今日の午後に間に合わせるんだからジュースからだな……」
後半は独り言となり、まだぶつぶつと呟いている。
「お願いできそうかしら?」
「任せてください。必ずや素敵なゼリーを作ってみせます!」
気合いたっぷりで今すぐゼリーに取りかかろうとしたコックラを慌てて呼び止めてまだ作っていないお菓子を確認し、メニューの数を大幅に減らすことに成功した。もちろん、ガーリック味のラスクの阻止にも。
きっとコックラのことだから色とりどりのゼリーを作ってくれるだろうな。
楽しみー!!
次回はいよいよお茶会です。