初等部編 ジンスside3
入学して3カ月、軽く話す程度の学友はいるが俺は基本的に一人でいることが多かった。理由は単純に所属したいグループがなかったから。
自分を指差して笑ったやつと仲良くしたいと思うか?俺には無理だ。クラス内にはもちろんそんなことはせず、入学式の日に俺が講堂まで歩いているのを心配そうに見ていた子もいたのだが、何故かその子達は身分を笠にきているような人たちと仲が良かったりする。
だから今日も俺は元気にボッチをしている。
そして、先生を困らせてもいる。
郊外学習のグループを作るように言われたのだが、全力で拒否しているからだ。
だってこれは、今後の俺自身の評価に繋がるやつだぞ?俺は学生時代に行う研究を小・中・高と継続して行いたい。米をこの国での主食の一つにするためにも、研究を通してこの国の貴族たちへ猛アピールをする予定なのだ。
俺の足を引っ張られるのも困るが、手柄を横取りされたら堪ったもんじゃない。米を売ることを商人としての最初の仕事にしようと考えていたのにその野望が果たされなくなってしまう。
唯一、食用の米を取り扱っている商人として知名度を上げて安定した生活を手に入れた後は、各国を廻って米に合う調味料や食料を入手して売るつもりだ。そうすれば、俺は美味しいご飯が食べられるし、あちこち行ってみることもできて、生きていくお金も稼げる。
と言うわけだから、俺の野望のためにも他のやつと俺を組ませようとするのは諦めてくれ。
悪いな、先生。他のことなら嫌なやつともグループを組めるがこれだけはダメなんだ。
心の中で担任に謝罪はするが決して折れない俺に必死になる先生。
うーん、どうやって切り抜けるか……。きっと誰かと組まないと納得してくれないだろうが、俺から声をかけられるグループには正直入りたくない。王子かスコルピウス嬢のいるグループであれば邪魔をされることも成果を横取りされることもないだろうから席をおかせて欲しいが、身分差が大きすぎてこちらからは気軽に話しかけられない。
この状況を打破できるとすれば、多分スコルピウス嬢だけだろうな。かなりお人好しのようだし。問題は彼女の友人達がそれを良しとするかどうか……。
どのみち俺にはこの状況を変えられないので待つことにした。先生が諦めるか、スコルピウス嬢が声をかけてくれることを。
少し待てば「ジンス・フォックスさん、まだ決まっていないのでしたら、私達とご一緒しませんか?」とスコルピウス嬢から声が掛かり、思わず笑ってしまった。
なんてお人好しなんだろう。俺と組んでも旨みなんて何もないというのに。
今の俺には返せるものは何もないが、これから先彼女が困っていたら助けになれるよう努力しよう。そう心の中で誓いながら「よろしく」と彼女にだけ聞こえるように答えた。
結局、王子とフランチェスコとプリオスと組むことにはなったが、それもスコルピウス嬢のお陰だろう。
それにしても俺がスコルピウス嬢と同じグループになるだけで、表面を上手く取り繕っていた王子があんなに表情を変えるなんて。
スコルピウス嬢がいれば彼は大丈夫だろう。でも、スコルピウス嬢の方の様子がおかしい?
その疑問もお米の話題でスコルピウス嬢が引くほど食い付いてきたことで頭の片隅に追いやられてしまった。貴族の彼女が何故こんなにもご飯を食べたがる?
かなり不信に思ったが俺の中でその答えはすぐに出た。
平民ですら食べないお米を食べたがり、手に入ると分かったときの異常なまでの喜びよう、そしてお米を粉砕した米粉を使用することで太りにくいお菓子を作れることを知っている……。
彼女も転生者じゃないだろうか。それも俺と同じ日本人なのでは?確信はないが多分当たりだろう。
もし日本人だったら一緒におにぎりを食べて、前世の話をしよう。彼女のおにぎりを頬張る顔を想像する。きっと喜んでくれるだろう。
そう思った翌日の朝、俺はお弁当を作っていた。作っても今日は予定があるかもしれない、食べてもらえないかもしれない。それでも……。
放課後、少し緊張しながら声をかける。
彼女も俺と同じだろうか?
弁当の入った鞄を握りしめて警戒されないように言葉を選んでいく。できれば、すぐにでも話したいが急いではいけない。それでも「早ければ早いほど助かる」と本音を混ぜれば、快諾してくれた。
違かったら……と恐怖もあるが、答え合わせをしよう。
俺達はサロンへと向かったのだった。




