初等部編 ジンスside2
「あれで小1かよ……」
王子が去っていった馬車を眺めながら呟く。
良く言えば大人っぽいが、俺から言わせれば可愛げがなく子供らしくない。これから国を背負っていく子なのだから頼もしいとは思う。でも、他人に興味などないのではないかと思わせる目が気味が悪かった。
王家は伝統ある商家と取引するので、俺のような者が関わる機会は学園のみとなるだろう。それに、奇跡でも起きて王家御用達の商人になれたとしても全く嬉しくない。各国に行くことが容易にできなくなるなんて、商人になる意味がないのと同じだ。俺が商人になりたいのは色々なところへ行ってみたいからなのだから。
王子が興味深そうな顔をしたのだって俺が馬鹿正直に答えたからだろうし……。
どのみち同じクラスでも子爵家の四男じゃ関わることもそう無いだろうし俺とは関係ない。
なんとなく王子のことが気にかかったが、関係のないことだと無理矢理割りきり、のんびり講堂まで歩く。
歩いていれば何台も馬車が通りすぎて行った。指を指して笑われたり、馬鹿を見るような目で見られたり、馬車の中から罵ってきたりと性格を疑うような人たちが多い。しかし、数は少ないものの心配そうに見ていた人もいた。
通りすぎた馬車の家名と俺に対する反応を忘れないようにメモしながら進んでいるとさそり座の家紋を持つスコルピウス家の馬車が止まった。そして、中から女の子が出てきた。
「こんにちは。もしかして、これから入学式に行かれるのかしら?」
声をかけられたが、あまりの美しさに声を失った。
輝くようなブロンドの髪に少しつり上がったパッチリ二重の赤い瞳、気の強そうな見た目だが話し方や表情で穏やかな性格であることが伺えた。
思わず見とれてしまったのだが、相手も俺のことを凝視していることに気がつき眉間にシワがよった。
何でこんな平凡顔を凝視してるんだ?
将来は絶世の美女になるであろう令嬢にじっと見られているのは居心地が悪い。
そんな俺の様子に気が付いたのか視線は外れたのだが、チラチラとこちらの様子を伺っている。
それでもその目には全く悪意はないので、少し試してみることにした。
「そうだけど。何?ナンパ?
急がないと入学式に間に合わなくなるから、そういうのはもっと暇そうな人見つけてやりなよ」
これで怒らなければ、是非ともお近づきになりたい。もちろん、商人になる者として。
反応を確かめるためにスコルピウス家の令嬢の脇を通り抜けようとしたら腕を捕まれた。予想外の行動に驚いていると、相手の方が焦っていた。
「入学式に行くのなら、一緒に行きましょう?」
そう言った後、やってしまったと言わんばかりの顔をされたので笑うのを必死に我慢する。
それでも我慢しきれずに笑ってしまった顔を見られないように令嬢よりも先に馬車へと近づき乗っても良いか確認をとった。
返事を聞いた後、予想以上の大物が連れた幸運を喜びながらスコルピウス家の馬車へと乗り込んだのだった。